ありふれた職業で世界最強~破壊の意思~   作:山上真

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10話

「うん。まあ、これだけ用意すれば十分じゃないかな……」

 

 幾つかのケースにズラリと並べられたアクセサリーの数々。首飾りであったり指輪であったりと形状は様々だが、この全てはアーティファクトだ。その数はちょうど百。王国と教会に献上するための物で、ハジメが錬成で用意した素体に香織、恵里、ユエが生成魔法で回復魔法や防御魔法を込めてある。

 献上することを考えれば数は少なく感じるが、現代社会においてアーティファクトは基本的に希少だ。ステータスプレートが例外なだけである。全てを手作業で用意したことを加味すれば、十分に多いと言えた。

 

「ああ、問題はないだろう。さて、後はコレがきちんと機能してくれればいいが……」

 

 それを見ながら、ラピスはその手に嵌めている、宝石のついた指輪へと目を落とした。

 

「夢幻の果実にて眠るがいい」

 

 ラピスが詠唱すると、刻まれた魔法陣の効果が発動した。ある種壮観だったアクセサリーの数々が、ケースごとその姿を消したのである。……無くなったわけではない。指輪へと収納されたのだ。

 宝物庫――ではない。その機能は宝物庫に似ているが、それよりは明確に劣る。何せ時間経過による劣化までは防げないのだから。生成魔法と空間魔法を用いて、これまたハジメの作成した素体を基にして作ったアーティファクトである。

 だが、収納容量に限度はあれど、そして経年劣化までは防げぬものの、物品を一度に、しかも簡単に持ち運べることを鑑みれば十分過ぎる代物だった。

 

「収納は上手くいったか。では、次は取り出しだな。……夢幻の果実より目覚めるがいい」

 

 ラピスが詠唱すると、今度は収納されたアクセサリーが姿を現した。それもごちゃごちゃしているわけではなく、収納したとき同様、ケース内に整然と並んでいる。

 

「取り出しも上手くいったな。じゃあ、すまんが皆も収納を手伝ってくれ。王国と教会で丁度半々になるようにな」

「あいよ。面倒だが、まあ仕方ねえか……」

 

 詠唱すると一度の収納と取り出しが可能だが、数や範囲の細かな指定が出来ないのだ。魔力操作を用いれば細かな指定が可能なものの、それが逆に面倒くさい。……長所と短所が物の見事に分かれていた。

 だがまあ、数えやすいよう元から調整していたので、その実それほど面倒なわけでもない。むしろケースに入れていくときの方がよっぽど面倒くさかった。

 なので、王国献上分と教会献上分、どちらもそう時間を経たずに収納を終えた。

 

「これで良し。……こっちは俺たちが使う分だ。共有アイテム用とプライベート用に分けてある。指輪が共有アイテム、首飾りがプライベート用だ。宝物庫と合わせて使い分けていこう」

 

 指輪と首飾りを受け取った面々は、各々が使っていた部屋へと戻っていく。

 先を考えた上での諸々の準備が終わり、長らく籠っていた隠れ家からもいよいよ出立する時が来たのだ。今は、言わば出立前の最後の準備である。

 先日、アマリから連絡が来た際に近況と今後の行動予定は伝えてあった。

 親友との、面と向かっての再会。それが叶う日が着実に近付いていることに、香織と恵里は喜びを隠しきれずにいる。それを示すかのように、部屋へと向かう二人の歩みは心なし弾んでいた。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「暗いな。夜目の技能があるから何とか分かるが……」

 

 オスカーの部屋に設置された魔法陣から抜け出た先は、真っ暗な洞窟の中だった。僅かな光すら差さず、虫の這いずる音すらもない。洞窟の中ということを思えば、前者はともかく後者は実に奇妙な事だった。

 

「取り敢えず、明かりを点けるね?」

 

 香織が光の魔法を使う。『光球』という初歩の神聖魔法で、光る球を浮かべる魔法だ。専ら明かり代わりに使われるが、微弱ながら魔物除けの効果もある。

 魔法の光に照らされたそこは完全な密室だった。見かけは天然自然の洞窟だが、地面に刻まれた魔法陣と、行く手を遮る壁に描かれた印が、人の手が入っていることを証明していた。また、その壁には、自然に出来たとは思えない真っ直ぐ綺麗な縦線が刻まれている。

 印は手の平大の七角形で、それぞれの頂点には異なる紋様が描かれていた。

 

「そっか、そりゃそうだよな……。秘密の隠れ家への直通の通路だもんな。隠されているのが普通だよな……」 

 

 グルリと密室内を見渡して、力なく呟いたのはハジメだった。

 

「長らくお天道様の光を浴びていないんだ。気が逸っても無理はないさ」

 

 ハジメの心中を察したかのように恵里がフォローする。

 恵里の言う通り、彼らは数ヶ月も迷宮内にいたのだ。ユエに至っては桁が更に上がる。

 最下層のオルクスの隠れ家では人工の明かりによって昼夜の別が付いていたが、やはり自然のそれではない。出口と言われて地上の景色を思い浮かべても無理はないだろう。

 

「フォローありがとよ」

「この七つの紋様。内の二つはオルクスとグリューエンの紋章だな。残りの五つは分からんが、順当に考えれば他の解放者の紋章だろうな」

 

 ハジメが恵里に礼を言う横で、七角形の印を確認していたラピスが言った。

 その言葉を耳にした面々が印を確認すると、確かにここ最近でよく見知った紋章が描かれていた。

 

「だとすると、これで……」

 

 オルクスの指輪を印にかざすと、轟音を立てて壁が縦線から左右に開いていく。その奥には外へと通じるだろう通路が一つ。

 オルクス大迷宮攻略の証でもある、このオルクスの指輪。元々はオルクスの遺体が身に着けていた物だが、なんと全員が所持している。手始めにラピスが生成魔法継承の後に――冒涜的だと思いながらも――遺体から頂戴したわけだが、その状態で継承していない者が魔法陣に乗ると、まるで示し合わせたかのように再び遺体に指輪が装着されたのだ。

 攻略者全員に証を渡すため、予めその様に式を用意してあったのだろう。こうしておけば、グループ単位での攻略でも最低一つは手に入るし、後続が現れた際にも渡すことが出来る。

 その気遣いを尊重し、ありがたく全員が頂戴した次第である。

 

「証が必要となるのがここだけとは限らない。外に出るまでは身に着けておいた方が良いだろう」

 

 ラピスの指示に従い、全員がオルクスの指輪を着ける。

 その判断は間違ってはなかったようで、道中のトラップも封印された扉も、反応したオルクスの指輪が勝手に解除してくれた。

 そうして順調に洞窟内を進んで行き、とうとう光を見つけた。外から差し込む、太陽の光だ。

 その瞬間、ハジメも、香織も、恵里も、ユエも――早い話ラピスを除く全員が光へ向かって駆けだした。

 

「いや、気持ちは分からんでもないが、最低限の警戒はしろよ」

 

 呆れ気味に零し、ラピスもまた駆け出した。距離が開きすぎてはフォローもし難いのだ。

 まあ、かく言うラピスも、実際に外に出れば久方振りの太陽光と風が運んでくる自然の匂いに感一杯となってしまったのだが。

 

「地球にいた頃、『空気が旨い』ってのを文章で読んだり話に聞いたりしたことはあるが、我が身で実感するのは流石に初めてだ。こいつは何とも筆舌に尽くしがたいな」

「それには同感だ。……さて、ザっと見た感じ、ここはどこかの崖底と言ったところかな。『人目を秘す』という点で考えれば、おかしくもないだろうね。

 問題は『ここが何処なのか』という点だが……崖上までは優に一キロを超え、横幅も広く、オマケにオドが極端に少ない。以上を踏まえれば、十中八九『ライセン大峡谷』だろう。所謂『天然の処刑場』だね」

「たしか、西のグリューエン大砂漠から東のハルツィナ樹海まで、大陸を南北に分断してるんだっけ? それは逆に困ったね。範囲が広すぎて位置の絞り込みが出来ないよ」

「どの道、いつまでも崖底にいるわけにはいかない。どこかに昇降口くらいあるだろうし、だいたいの位置はそこで分かる」

「まあ、それが妥当か。登ろうと思えばこの断崖を登れなくもないが、そこまでする理由もないしな。……だが、どちらへ向かう? どうやら、ここはオドが少ないだけでなく磁場も狂っている様だ。コンパスが役に立たん」

 

 感極まりつつも、一行は冷静に状況を分析する。

 それで分かったのは『現在地がライセン大峡谷のどこか』ということだけだ。オマケにラピスの言葉通り、コンパスが用をなしていない。迷宮を脱出した先がここだっただけなので、方角の目途も付かない。道のどっちかが西で、反対側が東ということくらいしか分からないのである。現在位置からでは樹海の『じの字』も砂漠の『さの字』も見当たらないので尚更だ。

 なので、どちらに向かうか相談するのは当然だろう。……まあ、どちらでも良いと言えばどちらでも良いのだが、目下の目的地はホルアドだ。出来る限り近い方へと向かいたいのが本音であった。

 だが、一行の推測通り、ここはライセン大峡谷だ。天然の処刑場の呼び名は伊達ではない。こんな風に悠長に話していれば、魔物に囲まれるのは当然であった。

 自分たちを取り囲む魔物の群れ。種雑多な唸り声が響く。

 

「まあ推測通りだが、ドグマも使いづらいな。オドが少なすぎるため、基本的なドグマを使うのにも普段の数倍以上の魔力を以て干渉する必要がある。……全く以て面倒な」

「魔法も同じ。初級魔法を放つのに上級魔法くらいの魔力消費が必要そう」

 

 そんな状況下、一行は慌てふためることもなく、揃って溜息を吐いた。

 なるほど。普段通りの魔法行使が出来ないのは確かに痛い。――だが、それがどうした。

 

「俺たちの故郷にはよ、こういう言葉があるんだ。……『レベルを上げて物理で殴ればいい』ってなぁッ!」

 

 言いつつ、ハジメが魔物の一体へと殴りかかった。型も何もない、素手による単純な力任せの一撃だ。状況を鑑みれば破れかぶれの一撃と見る者も少なくあるまい。

 しかし――

 

「ガァアアア!!」

 

 ハジメの拳を受けた魔物は物の見事に倒れ伏した。単純にそれだけの能力差があったのだ。

 仮にこの魔物の体力と耐性が五百あったとしよう。対する一行は――主にヒュドラ肉のおかげで――各能力が一万を超えている。そして王国騎士団長のメルドですら、ハジメたちが召喚された当初はレベルが62でステータス平均が三百前後だったのだ。

 つまり、世間一般的な目で見れば凶悪な魔物に違いあるまいが、一行にとってはザコでしかないのである。各能力値にこれだけの開きがあれば、魔法使用の有無など誤差にもならない。そんなわけで、一行が取り囲む魔物を駆逐するのにそれほど時間は掛からなかった。

 とは言え、それが素材と肉を剥ぎ取らない理由にはならない。繰り返すが、世間一般的には凶悪な魔物だからだ。ギルドに持っていった場合、換金額に十分な期待が持てる。……後はまぁ、食べることで、もしかしたら技能が得られるかもしれないからだ。弱すぎて期待は出来ないが、試すだけ試しても損はない。

 

「邪魔が入ったが、どっちに向かう?」

「そう言われてもな……」

 

 ラピスの問いかけに、ハジメは頭を悩ませた。どちらに向かうにせよ、これといった決め手もないのだ。

 グルリ辺りを見渡したハジメの目に、香織の姿が止める。――正確には、彼女の持っている杖だ。

 

「面倒だし、決め手もねえし、香織の杖の倒れた方角で良いんじゃね?」

 

 結局、誰からの反対もなく、そういうことになった。

 

「んじゃ、そうと決まったならコイツの出番だな」

 

 言って、ハジメがプライベートボックス――と言う名のラピス作成アーティファクト――から取り出したのは一台の車だった。見た目はキャンピングカーである。トータスにあるまじき代物だ。他者の目を引くことは間違いないだろうし、町に入る際だって門番から詰問される可能性は否めない。

 しかし、ハジメの立場と天職が、その疑問を封じ込める。何せハジメは神の使徒――世間一般では『勇者の仲間』と認識されている――の一人だ。上位世界から召喚されたことは民衆に周知されているので、一言『そこで使われている馬車みたいな物』とでも言えば事は済む。たとえ門番が南雲ハジメという個人を知らなくとも、キャンピングカーの異様さも手伝って、それを事実だと認めざるを得なくなるのだ。

 

「人数が人数だし、バイクとかにして雨に打たれても嫌だし、旅路の寝泊りも安定して確保したいし……と、そう考えてくとキャンピングカーにすんのが一番だって思えてな。ちなみに『玄武』と命名した。

 仕込んだ錬成機構で整地しながら走るため、どんな悪路も走破可能。装甲にはシュタル鉱石を用いているため、並大抵ではビクともしない頑健性を誇る。……とまあ、こんな感じで色々と盛ってるが、走行の際はそれだけ魔力消費が激しいんだ。なんで、悪いとは思うが同乗者による魔力支援が前提の代物でもある。車内各所に宝石を設置してるから、供給支援の際はそれに触ってくれ」

 

 最初は自慢げに、次いで申し訳なさげに言うハジメだった。

 とは言え、他の面々にとってはそれほど気にすることでもない。実際に乗り込んで、その乗り心地や利便性を確認すれば尚更だ。

 そうして、一行を乗せた玄武は一路杖の倒れた方へと向かうのであった。

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