ありふれた職業で世界最強~破壊の意思~   作:山上真

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1話

「はぁ……。流石に参った。この状況、先達として何かいい案はない、アマリ?」

 

 豪奢な室内の中、テーブルに突っ伏した高校生の少女、中村恵里は大きな溜息を吐いて体面に座る年上の同級生、天野亜真里こと『藍柱石の術士』アマリ・アクアマリンに問いかけた。

 

「う~ん、流石に厳しいですね」

 

 アマリは年齢に見合わず鉄火場の場数を踏んでいる。彼女は以前にも別世界に召喚されたことがあるのだ。その際には記憶を改竄され、精神を制御され、その世界『アル・ワース』における法と秩序の守り手『魔従教団』の尖兵と化していた。後に自由意思を取り戻したものの、それは一大戦乱の最中であり、否応なく戦乱へと飛び込む形となった。

 そんな経験をしているからこそ、アマリはこのような状況になっても冷静に思考を働かせることができ、先行き明るくない未来まで想像がついてしまった。

 極一般的な日本の高校に通っていた彼女たちは、ほぼクラス丸ごと異世界に召喚されてしまったのだ。異世界――つまりは今いる世界の名を『トータス』という。召喚したのはこの世界で創造神と謳われるエヒト。

 この世界には人間以外にも種族がいるのであるが、内の一つ、魔人族とは対立関係にあるそうだ。そして昨今、エヒトとは異なる神を崇める魔人族が強力な魔物を使役し始めたらしく、人間族は押され気味らしい。

 召喚の場にいた、エヒトを崇める『聖教教会』の教皇、イシュタル・ランゴバルドの言によれば、人間族を見守るエヒトがこの状況を打開すべく勇者一行を召喚したとのことである。地球はトータスの上位世界であるらしく、それだけでこの世界の住人とは比較にならない能力を発揮するらしい。

 美辞麗句を取っ払って手早く言えば『戦争に参加して魔人族を叩き潰せ。そうすれば地球に帰れるかもしれない(・・・・・・)』ということだ。

 本音を言えば戦争への参加など真っ平御免であるが、一方的に召喚された彼女たちには自力で地球に帰る術もなければ生活基盤もない。オマケにクラスのリーダーである天之河光輝が賛同を表明してしまった。

 

「光輝君もさぁ~、正義感が強いのは立派だけどもう少し考えてほしいよね。まあ、アマリたちに会うまで彼に熱を上げてた私が言えることじゃないんだろうけど……」

 

 言葉通り、少し前まで恵里は光輝に想いを寄せていた。それは執着と言っても過言ではないほどで、彼こそが『白馬の王子様』だと入れ込んでいた。

 幼い頃に父親が自分を庇って交通事故で他界。それを機に母親が豹変、虐待を受ける。優しい母に戻ってくれるのを信じて耐えていたが、想い虚しく母は男を連れ込んだ。そしてその男は恵里に襲いかかってくる始末。近所の人が警察を呼んでくれたおかげで無事だったし男も逮捕されたが、『自分から男を奪った』と母は激怒。耐えきれず自殺しようとしたところで光輝に救われ、以降想いを寄せていたのだ。

 その想いに自分で疑問を抱いたのはアマリともう一人、葵伊織こと『菫青石の術師』イオリ・アイオライトが自分たちのクラスに転校してきたことに端を発する。

 一つのクラスに二人も転校生が来るなど珍しいとは思ったが、恵里が抱いたのは精々がその程度だった。しかし、向こうから『時間を作ってほしい』と声を掛けられる。表向き丁重に断ろうとした彼女を止めたのは、二人の口から出てきた父の名にある。数多の疑問を覚えながらも恵里は了承。そして考えられない経験をすることになった。

 イオリとアマリの手によって、恵里は異世界アル・ワースへと連れて行かれたのだ。そして、亡くなった筈の父親――いくらか老け込んではいたが――と再会したのである。アル・ワースに召喚される異界人の中には、元の世界で死亡した後に召喚・蘇生されるパターンがあるそうで、恵里の父親もそれに該当したらしい。……なお一言に『異界人』と言っても地球だけで何パターンもあるらしく、イオリたちの世界と恵里の世界が同じだったのは全くの偶然である。

 何やかんやと説明を受け、毎回とは言わぬまでも休みの日にはアル・ワースに連れてきてもらい父親との時間を過ごすうちに、恵里の精神は次第と安らいでいった。そして穏やかな精神を取り戻せば、今までとは色々と違って見えるようになったのである。

 自分の行いは豹変した母親と同じではないか? 光輝君はそれほどに良い男か? むしろ色々と薄っぺらくはないか? 

 次から次へと浮かぶ疑問。それらに答えを出していくうち、一つの想いに行き当たった。すなわち『幸せな家族生活を送りたい』。恵里が光輝に執着したのは『俺が守ってやる』と言ってくれた彼に父親の影を追い求めたからだと結論付けた。

 そうは言っても、母親に求めるのは既に不可能。けれど、父親にならばまだ可能性はある。

 将来的にアル・ワースに定住することは可能かを確認し、『不可能ではない』との返事を貰えば、『今の内から出来ることを』と恵里はドグマを学び始めた。人手が減った魔従教団としても恵里の申し出は渡りに船だったこともありこれを拒まなかった。

 意思が定まった故か、恵里は次々とドグマを修めていった。その習得速度は尋常ではなく、先日には『方解石の術士』の二つ名を賜る程である。

 そんな折にこの出来事だ。全く以てやってられない。

 

「ただ、こうなってくるとイオリ君がいないのは逆に幸いかもしれないですね」

 

 アマリの言葉通り、イオリは巻き込まれていなかった。召喚された丁度その時、飲み物を買いに教室を出ていたのだ。

 

「どういうこと? 私としては戦力ダウンで不幸にしか思えないんだけど?」

「見方によってはそうですが、そもそもにして私たちの本領はオート・ウォーロックがあってこそです。地球には持ち込めませんでしたが、ここにならその限りではありません。

 また、階位こそ法師ではありますが、イオリ君は教主足り得る実力を有しています。そして、私が自由を阻むモノに容赦をしないように、イオリ君は己が正義のために力を振るうことを厭いません。

 ここで恵里さんに質問です。大半のクラスメイトと同僚のあなた、彼女の私が拉致されたイオリ君はどうすると思いますか?」

 

 ニッコリ笑顔でアマリは恵里に問いかける。

 かつてアル・ワースで起こった戦乱については恵里も聞いている。それを踏まえて考えると――

 

「ゼルガードで乗り込んでくる?」

 

 それしか思い浮かばなかった。自信なさげに恵里は答える。

 

「まず間違いなく。場合によってはホープスも付いてくるかもしれませんね。流石にすぐとはいかないでしょうが、私やあなたというマーカーがある以上、位置情報についても問題ありません。時間が掛かっても必ず来ます」

「その後のことまでは……流石に分からないか」

 

 如何せん、現時点では情報が足りなさすぎるのだ。判断を下すにも指針となるべきものがない。

 

「取り敢えずは流れに任せるしかないでしょうね。可能であれば自分たちで各地を巡って情報を得たいところですが、クラスの皆さんを放っておくわけにもいきませんし」

「戦争、だもんね」

「はい。生命のやり取りです。……術士となった以上、恵里さんも覚悟はしておいてください」

「人の命を奪う、だよね?」

「はい」

「……分かった。ごめん、今日はもう寝るよ」

「分かりました。では、部屋に戻りますね。また明日」

「うん、また明日」

 

 初日の夜はこうして終わった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 翌日から早速訓練と座学が開始となった。

 まず配られたのは銀色のプレート。騎士団長メルド・ロギンスによると『ステータスプレート』といって自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるらしい。また最も信頼性のある身分証明書でもあるそうだ。アーティファクト――つまりは魔道具の一種とのこと。

 説明に従い、刻まれている魔法陣に血を垂らす。すると驚くことにプレートが銀から透き通るような色に変わってしまった。かと言って実際に反対側が見えるわけではないが。

 驚く一同に更なる説明が加わる。

 

「魔力ってのは誰しもが持ってるもんだが、その色は千差万別でな。細かい仕組みは分からんが、このプレートには登録者の魔力色に染まる性質があるらしい。プレートの色と魔力色の一致を以て身分証明と成すってな寸法だ」

 

 なるほど、と恵里は頷いた。透明とでも言うべきか。これが自分の魔力色らしい。

 

「恵里さんは透明色ですか……。純粋な方解石(カルサイト)は透明か白と言われてますが、これは偶然の一致で片付けてもいいものでしょうか?」

 

 恵里のプレートを見ながら言ってきたのはアマリだった。難しい顔をしながら彼女が見せてきたプレートは青系統に染まっている。

 

「アマリは藍柱石(アクアマリン)の色かな? まあ、実物のアクアマリンなんて見たことないからあくまで知識でしかないけどさ」

 

 トータスで判明した魔力色とアル・ワースで与えられた二つ名から連想される色。これらの奇妙な一致に気付き、応じる恵里の声は心なし震えていた。

 

「珍しいのは分かるが、肝心のステータスを確認してくれよ?」

 

 ざわつく生徒たちに、苦笑しながらメルドが言う。

 それにより気を取り戻した二人は疑問を後回しにして内容を確認することにした。

 名前、年齢、性別、レベル、天職、職業、称号、筋力、体力、耐性、敏捷、魔力、魔耐、技能の項目が載っている。恵里の場合、数値としては魔力が最も高く、次いで魔耐が高い。それ以外はどっこいだ。

 これだけならばよくあるRPGの様だが、所々おかしかった。天職が道化師なのはまだいい――自分の過去を思い起こせば、『道化』と笑われても否定は出来ないだろう――として、まず名前が二つ載っている。中村恵里という名の下に『エリ・カルサイト』というアル・ワースで用いる名前まで載っているのだ。職業は『魔従教団術士』だし、称号欄には『方解石の術士』ともある。技能欄には『ドグマ』まで載っている。

 本名はまだ分かる。しかし、どうしてトータスで用いる身分証明書にアル・ワースでの情報まで載っているのか?

 

「ねえ、アマリはどうだっ――」

 

 気になってアマリのステータスを確認した恵里だが、言葉は最後まで続かなかった。

 天職:術士はまだ良いが、それ以外が異常だった。レベルは60以上。称号は『藍柱石の術士』の他に『神殺し』、『自由の探究者』というものまである。職業は『魔従教団法師』。数値は低い項目でも数百を超え、魔力になると5千オーバー。技能の数もまた多く、数十はある。恵里を軽く上回る勢いだ。

 

「やはりアル・ワースと共通する部分があるみたいですね。名称こそ技能に変わってますけど、向こうで覚えたスキルがそのままですし。数値は……どうなんでしょうね、これは?」

「ああ、そう言えばそうだったね。忘れていたけど、君は紛れもない『英雄』なんだった」

 

 微笑を浮かべてステータスプレートを見せてくるアマリに対し、恵里は頭を押さえてそう言った。

 全員が自分のプレートを確認した頃合いを見計らってメルドによる説明が続いた。それによると、やはりアマリのステータスは異常らしい。しかし、称号や職業について触れることなく説明は終わってしまった。

 この時点で恵里の背中に嫌な汗が流れるが、流石に訊かないわけにはいかないだろう。

 

「すみません。私とアマリのプレートには称号と職業の項目があるんですが、これについて教えてもらってもいいですか?」

「なに? 称号はともかく、召喚直後で職業まで載っているのか? まあいい、詳しくは後で確認させてもらう。

 称号は何かしらの功績を成し遂げた者につけられるもので、周囲からの評価があって初めて記載される。職業は世間一般で認められている職業に就いた際に記載されるものだ」

「……だってさ」

「そうなると、流石に妙ですね。自己の認識によるものならば分からなくもなかったのですが……」

 

 考え込んでいる内にそれまでとは異なるざわめきが起こった。見れば、檜山大介を始めとするクラスの不良どもが南雲ハジメを囃し立てていた。どうやらハジメのステータスはトータスの一般人と大差がなかったようである。

 だが、恵里やアマリとしてはハジメの天職を聞いて逆に喜んだ。適当に聞き流してはいたが、クラスの大半が戦闘系の天職である。実際に戦う者も大事だが、バックアップも必要不可欠。初期能力が低くとも、自力で装備の用意や調整が出来るとなればその価値は計り知れない。

 

「南雲には目を掛けとこう」

「そうですね。しかし、檜山君たちは不愉快です」

 

 基本的には優しいアマリだが、檜山たちには厳しい視線を向けていた。  

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