ありふれた職業で世界最強~破壊の意思~   作:山上真

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5話

「まさか、『神結晶』なんてお宝をこの目で見ることになるとはな……。世間一般では既に遺失物として認識されている、正に伝説の鉱物だ。

 こいつから溢れている液体は『神水』と呼ばれていて――流石に四肢の欠損などを癒す力こそないものの――これを飲めばどんな怪我や病気も治ると言われている。飲み続ける限りは寿命も尽きない『不死の霊薬』ともな……。

 自分で言っておいて何だが、この目で見ても未だに信じられん。まあ、鉱物鑑定で神結晶と表示された以上は間違いないんだろうが……」

 

 拠点の拡大にかかったハジメが偶然発見した物がそれだった。広げている途中で鉱物系探査に引っ掛かり、ついでとばかりに手を伸ばしてみたのである。

 そうして見つけたのが、青白く発光するバスケットボールほどの大きさの鉱石だった。神秘的で美しく、何故か知らないが水滴を滴らせている。

 鑑定しても――

 

『神結晶。――大地の魔力溜まりが長い時間をかけて結晶化した物。内包する魔力が飽和状態になると液体となって溢れ出す』

 

 としか分からない。

 図鑑でもこの鉱石の絵は見たことがなく、説明を呼んだ限りでは『レアそう』という感想しか抱けなかった。錬成の材料を欲していたのは確かだが、こんな如何にもな代物にいきなり手を付ける気にもなれなかったハジメは、ダメ元でラピスに確認してみたのである。

 その結果が、上記の反応だったわけだ。基本的には冷静沈着を絵に描いたようなラピスが驚愕を露わにするほどの『レア物』だったのである。

 その言葉を受けて、ハジメは回収の際に手についた液体を舐めてみた。直後、己が身でその効果を実感する。

 

「凄いですね、これ……。手についたのを舐めただけなのに、魔力の回復量が十分過ぎる。市販されている魔力回復役なんて比較になりませんよ……」

 

 驚きを露わに、素直な感想を述べる。

 

「どうやらその様だな。その表情が効果を十全に語っている。

 となれば、溢れるままにしておくのは流石に勿体ない。如何な神結晶とて、いずれは内包する魔力も枯渇するのが必然だ。悪いが、そうなる前に水筒やらに移し替えてほしい」

「あ、確かにそうですね。分かりました、早速取り掛かります!」

 

 まあ、そうは言っても神結晶に蛇口やらが付いているわけでもない。ヘタな事をして神水をムダにしても勿体ないので、壁を錬成して安置箇所を作成、その下に水筒を置いて自然に溜まるのを待つことにした。当然、そのことは香織と恵里にも周知する。

 ハジメがしたのはそれだけではなかった。回収ヶ所の下には、今までに溢れた分が水溜まりを作っている。それを放置するのも勿体ないので、試験管程度の容器を作ってはそれを汲んでいく。そのままでは持ち運びに不都合なので、そのためのケースを用意するのも忘れない。

 今、この瞬間、ハジメはトータスにやって来てからこれ以上ないほどに気分が高鳴っていた。そもそもがオタク気質なハジメである。神結晶と神水の実態を知れば、琴線に刺さらないわけがないのだ。

 なにせ、汲んでいるのは不死の霊薬と言われる代物である。ゲームで言えば『エリクサー』とか『エリクシール』とかの名前で登場する万能の回復役だ。ゲームならば『勿体ないから』と使わずにクリアする者も少なくはないだろうが、如何せんこれは現実である。そんな悠長なことは言っていられない。

 

「……そう。異世界に召喚されて、そこには魔法があって、ステータスなんてものが見れて、こんな終盤で訪れる様なダンジョンに落ちて、不死の霊薬なんて手に入れて。――それでも、これは現実なんだよな……」

 

 ゲームの様でゲームではないのだ。万能の回復役なんて物を手に入れてしまったからこそ、ひとときの熱が冷めれば、ハジメは逆に冷静さを取り戻した。そして、それを用いることによる攻略スピードの向上も考えついた。――考えついてしまった。

 だから、ハジメは思い至った考えを皆に告げることにした。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「今、なんて言った?」

「魔物の肉を食べる。そう言いました。……ラピスさんを信じていないわけじゃありません。いずれは必ずここを攻略は出来るでしょう。けど、それには年単位を見込む必要があると思います。

 僕はそんなに待てないんです。ここを出て終わりじゃない。元の世界に帰る必要がある。いや、帰りたい。元より教会の言うことなんてアテにならないし、帰るのにどれだけかかるか分からない以上、打てる手はすべて打つ。

 幸いにして神水なんていう不死の霊薬を手に入れることが出来ました。これならば魔物の肉を食ったところで死ぬことはないと思います。死ぬような目にはあうかもしれませんが、それでも、魔物の肉が食えるようになれば食糧事情はだいぶ変わります。

 どうせ、どこかで大なり小なりリスクを負う必要はあるんです。僕は生き抜くために、帰るために、神水を信じて魔物を食らうことに決めました。……それが僕の破壊の意思です!」

 

 ラピスの放つ威圧にも負けず、ハジメは言い切った。

 

「ハッハッハッ、良いじゃないか! 南雲君、その意見、私も乗ったよ! 神の加護があろうが、法が整備されていようが、結局のところ『弱肉強食』なのがこの世の中だ。魔物が私たちを殺して食らおうというのであれば、逆に私たちが食らってやるのも一興だ!

 毒がある? 神水が本物なら死にはしないだろう? これで死ぬようならエヒトも程度が知れるというものだ。なにせ『エヒトが人々を救うために用いた水は、魔物の毒素すら消せない』ということになるんだからさ。仮定の話、もしも私たちが死んだら神結晶とセットにして教会に持っていけばいいよ。そして大々的に認められたところで魔物の肉と一緒に食わせてみればいい。狂信者連中は面白いようにくたばってくれるだろうよ。

 ああ、話がずれた。まあ、生き残れたらそれで良し。死んだらさっき言ったようにすればいい。……正直、生き残る算段が強いとは思っているけどね。物語に語られてるってことは、それだけ広まりやすいってことだ。だからこそ、エヒトの本音がどうであれその効果には期待が出来る。周知の事実と逆のことが起こったら疑心が生じるからね。仮にも『神』の一字を冠しているんだから尚更だ」

 

 次いで恵里が、呵々大笑して言い放った。

 

「驚きましたけど、私も賛成に回ります。正直に言えば怖いです。……けど、私、ハジメ君が好きなんです。こんな状況なんだから、死ぬのも生きるのも一緒が良いんです。この恋を貫き通すのが私の抱く破壊の意思です」

 

 それはラピスに言っているようで、ハジメに向けた言葉だった。

 そうまで言われて、その意味を理解出来ないハジメではなかった。

 

「白崎さん……。ああもう! 聞いてくれ、白崎さん。僕は自分に自信がなかった。趣味のために色々と切り捨てている自覚があるからこそ、これを言い訳にしていろんなことから目を背けてたんだ。君に対してもそうだ。あんなに話しかけてくるんだ。普通なら理由を訊いてもおかしくはない。けど、自分に自信がないからこそ、周囲の目を気にして、勝手に自己完結して、君と向き合うのを避けていたんだ。

 だけどトータスに召喚されて、天野さんや中村さんと言葉を交わして、僕は漸く当たり前のことに気付くことが出来た。『自己評価は必ずしも周囲からの評価とは一致しない』ということに。……同好の士以外とは深くコミュニケーションを取ることを避けていた弊害だろうね。こんな単純なことに、僕は気付いていなかったんだ。

 僕が気付いていなかっただけで、気付こうとしなかっただけで、僕を認めてくれる人は思いの外多いのかもしれない。……だから、僕もそろそろ自信を持とうと思う。変わろうと思う」

 

 そこで一端言葉を切り、ハジメは瞑目した。

 そして目を開き――

 

「香織、俺はまだ君の想いに応えることは出来ない。自分でも、君への想いを理解しきれていないからだ。こんな胡乱な状態で付き合うのは、君にとっても失礼だと思う。

 それでも、俺にとって香織は大切な人だ。……香織だけじゃない。恵里も、ラピスさんも、俺にとっては大切な――輪の内側の相手だ。これからも一緒にいたいと思える相手だ。

 調子のいい言葉だとは思うが、今はこれで納得してほしい」

「……うん。今はそれで十分。いずれ、きちんと振り向かせてみせるから」

 

 ハジメと香織が互いの瞳を見つめ合う。

 

「やれやれ。魔物を食うだのといった話から、何だってこんな空気になるんだか……」

「恋する少女は強いってことなんだろうさ」

 

 少しばかり覚悟を試すつもりで威圧を放っただけなのに、それでこんなことになってしまったのだからラピスとしても呆れるしかない。

 とは言え、いつまでも放置してはいられない。青春を善きものだと思う感性はあるが、そういった相手のいないラピスとしては正直勘弁してほしいのだ。意中の相手はいたが、気付いた時には他の男とくっついていた悲しい過去を思い出してしまう。

 

「おら、そこの少年少女、話はまだ終わっていないぞ」

 

 なので、多少語気が荒くなってしまっても仕方ないだろう。

 二人の世界を作っていたヤツらも、それで正気を取り戻した。すみません、と頭を下げる。

 

「話を戻すと、だ。自暴自棄になったわけじゃないならそれで良い。俺の威圧にも怯まなかったし、生き残る確証はなくとも勝算はあるみたいだしな。だから、お前たちが魔物を食らうというのなら止めはしない。……と言うか、お前たちが食うなら俺も食う。

 それはそれとして、魔物を食う前にハジメと香織には『魔力操作』を覚えてもらう。どれだけ効果があるかは分からんが、魔物を食う前に覚えておいて損はないだろう」

「魔力操作……ですか? 『魔力を直接操作することは出来ない』って習いましたけど、そんなこと可能なんですか?」

「可能だ。実際、俺はその技能を持っている。……お前も持っているだろう、エリ?」

「ま、流石に分かるか」

 

 ラピスに問い質された恵里は、遠巻きに認めた。

 

「ドグマにおいて魔力操作は必要不可欠だ。そして比較対象が空間魔法だけしかないから断言は出来んが、神代魔法はドグマである可能性が高い。

 そもそも、『詠唱すれば魔法陣に体内の魔力が流れ込み、魔法陣に組み込まれた式通りの魔法が発動する』とは言うが、詠唱を介するとはいえ外付けで可能な事を自発的に行えない方がおかしいじゃないか。

 ドグマの場合、魔力を操作し、世界に存在する元素である『オド』へと干渉することで、構築した式の結果=ドグマが発生する、というプロセスなわけだが、現在では情報の遺失により――或いは意図的なものかもしれないが――オドのことは伝わっておらず、最も基礎たる魔力の操作も同様だ。むしろ、オドと魔力が一緒くたになっていたり、本来ならば意図的に行わなければならない部分まで魔法陣の式に組み込んでいる有り様だ。……『現代魔法は神代魔法の劣化版』というのも頷ける話だな。

 だが、それは裏を返せば『本人の才覚にもよるだろうが、きちんと学べば魔力の操作は可能である』ことを示している。

 これらを補強する材料として『ライセン大峡谷』の存在がある。こっちに帰ってから訪れたことはないので推測でしかないが、おそらく彼の地は極端にオドが少ないのだろう。だから放出魔法は軒並み霧散してしまうのだと思われる。

 術者の力量にもよるが、簡単な魔法はそれだけオドへの干渉力も弱い。逆に強力な魔法はそれだけ干渉力も強いから、辛うじて発動出来るというわけだ。強化魔法が発動出来るのも同様の理由だな。オドが元素である以上、俺たちは生きている上で自然とそれを取り込んでいるんだ。言ってみれば、強化魔法とは体内に蓄積してあるオドへと干渉して発動しているのさ。

 ああ、『魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる』のも同様の理由だな。俺たちの身体には生まれつき魔力の通り道が備わっているわけだが、そこを流れる魔力が取り込んだオドに干渉して内側から頑丈にしているんだ。誰しも病弱よりは健康でいたいものだろう? その無意識的な思いが式と化しているのさ。ただ、根本的な部分が伝わっていないのに加えて、そんな漠然とした意思によるものだから自ずと補強率も低くなる。魔力操作を覚えれば、意識して身体の隅々まで魔力を行き渡らせるのが可能となり、必然的に補強率も上昇する」

 

 すらすらとラピスは語った。ところどころ推測交じりだが、説得力は高かった。増してラピスと恵里、二人のステータスプレートの技能欄に魔力操作の名前を確認してしまったから、ハジメとしても香織としても否定はし難い。

 

「今の世の中、こんな技能を覚えていることを知られれば面倒事間違いなしなんでな。今まで言及しなかったことについては理解してくれ」

 

 それはハジメたちを思ってのことでもあったろうし、自分のためでもあったろう。要は一種の線引きだ。

 だが、ハジメの口から出てきた言葉によって、ラピスもまた更に歩み寄ることにしたのである。

 ラピスの言葉と態度から、ハジメと香織はなんとなくそのことを察した。

 だから、二人はただ――

 

「魔力操作の方法を教えてください」

 

 と頭を下げるのであった。

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