ありふれた職業で世界最強~破壊の意思~   作:山上真

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頂いた感想をもとに吶喊で書き上げたため不備が目立つかもです。


5.5話

 ハジメたちがラピスと合流し、奈落の一階層目で攻略に向けて色々と勤しんでいる頃。

 幸か不幸かハジメたちを見送るハメになってしまった生徒たちは、メルド等に促されるまま王国へと戻ってきていた。

 しかし、当然ながら極一部を除き、その士気は最底辺に落ち込んでいる。何をすることもないままに、数日という時間が過ぎ去っていた。

 その例外たる一部――『勇者』天之河光輝とその親友たる『拳士』坂上龍太郎は、もう一人の幼馴染である『剣士』八重樫雫へと詰め寄っていた。

 

「何故だ、雫!? 南雲は奈落の底へと落ちて行き、香織と恵里までそれを追って行ってしまった……。俺だってアイツらが死んだとは思いたくない。けど! だからこそ! 一刻も早く実力を上げて助けに行くべきじゃないのか!?

 凄腕の冒険者が三人の救出依頼を引き受けたそうだが、結局はこの世界の住人だ。どこまでアテになるか分かったもんじゃない。なら、俺たちがやるしかないだろう!?」

「そうだぜ、雫。治癒師の香織さえ無事なら、他の二人だってそう簡単に死ぬことはねえだろう。だが、それと同時に俺たちがベヒモスに手も足も出なかったのも確かな事実だ。更に下の階層に落ちて行った以上、生きていたとしてもいつまで無事でいられるか分かったもんじゃない。……分かるだろう? 時間はねえんだ」

 

 二人は、一刻も早くホルアドへ戻り、迷宮で実力を上げて落ちて行った面子を助けに行くべきだと主張している。

 それは、ある意味では非常に前向きな事だ。生存を信じていなければ、口に出来ることではない。

 

「二人の言いたいことは分かるわ。……けど、ごめんなさい。南雲君だけじゃなく香織と恵里まで奈落に落ちて……。生存を信じてはいるけど、こんな状態で剣を握れるほど、私は強くないの。

 そもそも、剣だって好きで習っていたわけじゃなかった。ただ、家族の悲しむ顔が見たくないから、半ば惰性で学んでいただけなのよ。そうして学んだ剣は、ベヒモス相手に何の役にも立たなかった。

 今の私じゃ、二人について行ったところで戦闘では役に立たないと思うわ。……だから、ごめん」

 

 対する雫は、心痛な表情を更に歪め、申し訳なさそうに答えた。

 それもまた、無理からぬことだ。実際、生徒の大半は同じように意気消沈している。

 

「……そうか。分かったよ、雫。無理は言えない。気力の残っている者たちを募って助けに向かうことにする。

 けど、これだけは忘れないでくれ。香織たちの生存を信じるのと同じように、雫が剣を捨てることはないと信じている。気力を取り戻したら、俺たちに合流してくれ」

「ええ、ありがとう。ごめんなさいね」

 

 軽く頭を下げ、雫は二人が去っていくのを見送った。

 

(ええ、本当にごめんなさいね、光輝、龍太郎。香織たちが生存しているのを黙っていて……)

 

 だから、雫の表情の本当の意味を、二人が知ることはなかった。

 とは言え、雫の言ったことに嘘はない。

 好きで剣を学んでいたわけじゃないのは本当だし、ベヒモス相手に歯が立たなかったのも本当だ。

 落ちて行った面々――特に香織の生死が定かならぬ状態では、たとえ生存を信じていても剣を握れるとは思えない。

 そして、教会の言うこと以上に帰還の確率が高い方法を聞いてしまっては、王国や教会の言うがままに戦うことなど出来そうにない。

 二人に言ったことに嘘はないが、敢えて言わなかったことがあるのもまた確か。

 だから、二人に対して申し訳なく思っているのも間違いではない。

 暫くすると、再び部屋のドアがノックされた。

 

「はい」

「やっほ。お邪魔するね、シズシズ」

 

 ドアを開けると、そこに立っていたのは谷口鈴だった。恵里の親友たる『結界師』の少女である。

 軽い言葉とは裏腹に、彼女もまた、どこか申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

 

「ええ、どうぞ」

 

 鈴を部屋へと招き入れた雫は、即座に鍵をかけた。

 雫が鍵をかけたのを確認した鈴は、その上で結界を展開した。

 結界とは、何も防御だけを指すものではない。『内』と『外』を隔てるモノは、何であれ結界と評してもいいのだ。雫が部屋に鍵をかけたのだって、一種の結界である。つまり、雫の部屋は、現在二重の結界で覆われていることになる。

 鈴が展開したのは遮音結界――特に内の音を外に漏らさぬことを重視したタイプ――だ。

 これにより、二人の会話が部屋の外に漏れることはまず無いといっていい。

 

「さっき光輝君たちが鈴の部屋に訪ねて来たんだけどさ。やっぱりシズシズの部屋にも来た?」

「ええ、来たわよ。一刻も早く迷宮に戻って香織たちを助けに行くべきだ……ってね」

「あ~、やっぱりそんな感じだったんだ。言いたいことは分かるけど、それを光輝君が言っちゃあダメだよね。光輝君は勇者で、鈴たちクラスメイトを扇動した張本人なんだからさ。仲間を助けに向かうよりも先に、王国や教会の役に立ってみせる必要があるでしょ。人々の希望である勇者が脱線しちゃったら、その分がこっちに押しかかってくるって分からないのかなぁ~」

 

 鈴の口から出たのは光輝に対する愚痴だった。普段の人懐っこい彼女からは、到底考えられないような内容である。

 だが、実のところ『クラスのムードメーカー』という役割こそが、人付き合いを円滑に熟すべく鈴が着けた仮面であった。本来の彼女は仮面とは裏腹に冷めきっている。

 鈴の素顔を知る者は少ない。現在、僅かながら雫相手に仮面を外しているが、全てを外したことはない。

 ただ、これから先を考える上で、いつまでも仮面を着けっぱなしでは流石に疲れる。

 そこで、機会と相手、上手いこと双方が重なったことにより、鈴は僅かに仮面を外すことにしたのである。

 なにせ、親友たる恵里が奈落の底へと落ちて――正確には飛び降りて――行ったのだ。そんな場面を目撃してしまえば、少しばかり普段と人が変わったところで、周りから変に思われることはない。たとえ変に思ったところで、『あんなことがあったら仕方ないか』と勝手に納得してくれる。

 

「幼馴染として返す言葉もないわ。適宜修正は試みたんだけどね、結局は徒労に終わってばかりだったから、いつしか諦めちゃってたわ。アイツは『人として正しいこと』と『自分のしたいこと』の区別がついていないのよ」

 

 それに対し、雫は驚くこともなく謝罪を返した。

 本来、雫が謝ることではないのだが、彼女は必要以上に責任感が強いため、幼馴染として謝らずにはいられなかったのだ。

 光輝の言いたいことは分かる。

 けれど、彼は――その自覚があるかは分からないが――勇者として振る舞うことを教会に承諾した。『地球に帰る』という目的のため、クラスメイトにも『勇者の仲間』たることを強要したのだ。異世界人が相手とはいえ、殺人を犯すことに同意し、同意させたのだ。

 ならば、光輝はどこまでも勇者として振る舞わなければならない。その必要があるのだ。『人々の希望』たる動きに沿うのならまだしも、そうでないのなら『仲間を助けに行く』というのは個人的な我儘以外の何でもない。勇者がそんな真似をしようものならば、その分の働きを仲間に求められるのは至極当然だ。

 とは言え、現状の光輝はまだまだ弱いのも確かな事実。ステータスだけなら騎士団長たるメルドに負けず劣らずだが、『一騎当千』には程遠い。更なる実力の向上は教会としても望むところであり、ホルアドへ戻るのは簡単に許可が下りるだろう。

 

「シズシズが謝ることでもないけどね。……問題は、鈴たちがこれからどう動くかだよねぇ~。教会や王国の言うことに従うのはごめんだけど、役には立ってみせないといけないし。アマリンに良い考えがあるといいんだけどな~」

「そうね……」

 

 勇者の仲間である雫と鈴は、個人の意思で自由に動くことが出来ない。教会も王国も、そんな真似を許さない。それほどまでに人間族は切羽詰まっており、それと同時に神の意思が重要視されている。

 個人として見ればトータス人とかけ離れた能力を誇る雫と鈴だが、それでも教会という一大勢力や、王国という一つの国家に敵うほどではない。

 だからこそ、動くには相応の建前というものが必要になってくる。

 しかし、雫も鈴も、所詮は一般的な女子高生に過ぎないのだ。そんなホイホイと名案が浮かぶ筈もない。

 故に、二人はこの場にいないもう一人のクラスメイトに期待する。鈴曰くのアマリンこと天野亜真里に。

 亜真里は年上のクラスメイトであり、そもそもは転校生だ。こちらに召喚されてから知ったことだが、彼女ともう一人の転校生である葵伊織は、かつて他の世界に召喚されたらしい。……まあ、そのせいで留年を余儀なくされてしまったそうだが。

 ともあれ、そこもトータスと同じように魔法があり、エンデという知恵の神を信奉していたとか。ついでに言えば、トータスと違って巨大な人型ロボットも存在していたそうだ。

 詳細には語ってくれなかったが、そこで亜真里は藍柱石の術士、アマリ・アクアマリンとして、そして伊織は菫青石の術士、イオリ・アイオライトとして戦っていたらしい。

 そんな経験をしているためか、亜真里は高校生らしからぬ落ち着きと実力を持っている。その思考も冷静だ。付け加えれば、彼女のおかげで雫と鈴は香織たちの生存を知ることが出来た。

 メルド騎士団長の息子にして、金ランクの冒険者、ラピス・ロギンス。

 彼はメルドとホルアドの冒険者ギルド支部長から、奈落に落ちた三人の救出依頼を引き受けた。そのための情報収集の際に、雫たちも顔を合わせている。

 そんなラピスだが、驚くことに亜真里たちと同じ異世界に召喚されたことがあり、青金石の術士、ラピス・ラズライトとしてたたかっていたそうだ。

 それもあり、亜真里とラピスは互いに面識を持っていたのだ。彼は迷宮に潜る前に、件の異世界由縁の技術で作られた通信機の予備を亜真里に渡していったのである。

 そしてその日の夜に、生存を知らせる通信が届いたのだ。音声だけの通信ではなく映像付きで、雫も鈴も己が耳目で香織たちの無事を確認することが出来たのである。

 その事実は喜ばしいことではあるが、おいそれと口に出来ることでもなかった。通信機など、この世界ではオーパーツに等しい代物だ。教会や王国に知られた場合、面倒事が起こるのは想像に難くない。

 雫も鈴もその程度の分別は付く。よって、自発的に黙っていることを亜真里に告げたのだ。以来、三人は密かな協力関係にある。

 これからの行動について、二人が頭を悩ませていると、またもや扉がノックされた。即座に鈴は結界を解除する。

 何食わぬ顔で雫が扉を開けると、そこに立っていたのは社会科の教師である畑山愛子だった。

 彼女は『作農師』という、戦闘には向かないが食糧事情の改善にはもってこいの天職だったため、ホルアドに赴くことなく近場の農村地を回っていたのだ。

 

「先生……」

「お邪魔してもよろしいですか?」

 

 想定外の姿に言葉の弱まった雫に対し、愛子は強張った笑顔で訊ねるのだった。 

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