暗雲立ちこめる空、その下では軍用機が空を飛びさらに下の地上では
怒号、叫び声、唸り声、泣き声、人間の負の感情の文言にもならない声が銃声とともに飛び交う。
その中で仲間と共に行動し、生存の限りに尽くそうとするものがあった 。彼は、二十二年式村田連発銃に弾を込め戦闘の準備をしていた。
その慣れた手つきから幾度も戦地に赴いていることが見て取れる。弾を込め終えると同時に仲間のひとりが「敵だァ!!」と叫んだ。
彼が岩陰から覗くと複数の敵兵が走っているのを目視し銃口を向け、慎重に決して外さないように狙い撃つ。硝煙の香りが漂うと同時に敵兵の1人の首元から血潮が吹き出し倒れた。仲間も銃撃していたため走っていた敵兵たちを壊滅させることが出来た。
彼は一息ついていると、どこからか花火が上がるような音が聞こえた。何の音だと思い、空を見上げると軍用機が上空にあり何かを落としていた。彼は反射的に岩陰に身をかがめ、生き残るべき行動をしていたが仲間は反応に遅れ落下物の爆発に巻き込まれた。
容赦のない絨毯爆撃だった。身をかがめていた彼だったが、爆風に巻き込まれ負傷した。仲間の方を見ると既に物言わぬ肉塊と化していた。
おそらく敵の爆撃だったと思われるが、なんと非情なことに自軍の兵士を巻き込んでの爆撃だったらしい。完全に荒野となった場所に敵兵士の骸も見られた。
彼自身も負傷が思ったより酷かったらしく、出血が止まらない。もはやここまでか、と辞世の句を述べるように意外にも穏やかな心境だった。
薄れゆく意識の中、唐突に病死した母のことを思い出した。
「……だめだ」
青年は呟く。咎めるように
「俺は……まだ……死ねない…そんなの……母さんは…望まない…」
目前まで迫っていた死を拒絶し、まるで百足のように地面を這いずる。
向かおうと思うべき場所もなく、ただ惨めに。ただ哀れに。
それでも生きる。今までもそうしてきた。この程度で死ぬなんて許さない。俺が許せない。
仲間の骸の横を這いずり近くにあった岩を背にし、空を眺める。灰色の雲の空から雨が降り出した。その雨が自身の血を洗い流す。寒気を感じ始めた。確実に死はそこまで来ている。為す術はないのか、そんなことを考えていると突然、目の前の空間が裂けたような気がした。
瞬きをし、目の前を改めると傘を指し大きなリボンの着いた帽子を被った金髪の女性がいた。 彼女の顔を見るとまるで慈しむ聖母のようなそれでいて欲しかった物を見つけた子供のような眼差しをしていた。
彼がその眼差しをみると、病死する直前の母を想起させた。 すると身体が安心したからように力が抜け地面に横になる。視界が暗転した。
残った金髪の女性は、扇をあおぎながら骸になりつつある肉体へと呟いた。
「人は花のように儚く咲き誇り散る。 貴方も春に咲く桜のようにまた咲き誇りなさい」
そう言うと扇をパチンと音を鳴らし閉じ、空間を撫でた。その撫でた空間が瞳が開くように裂け、彼の骸を吸い込んだ。
鳥のさえずる音が聞こえる。木々の青々とした匂いがする。日の朗らかな光が瞼を閉じた瞳を刺激する。 まるで長い眠りから目覚めたような心地で少年は眼を開く。
「ここは…?」
自分の身の回りの状況を確認する。周りには木々が生えており、森の中だとわかる。近くに川があるのか水のせせらぎが聞こえる。空を見上げると、絵に書いたような快晴が広がっていた。
彼が立ち上がると木にとまっていた鳥が羽ばたく。
「どこだろう?」
そう呟き、自分の状況を理解する為に自分がしていたことを思い出そうとする。しかし、思い出せない。 自分が何をしていたのか。どこから来たのか。
「僕は…… 誰…?」
自分が誰なのかすら。
自分のした誰かに聞いたわけでもない親に質問する子供のような幼稚じみた問いはは虚空へと消え去った。
「とりあえず移動するかな」
そう独り言を呟くと、彼は移動を始める。近くに川があると分かったのでまずそこへ向かう。
水はそこそこ深い川底が透き通って見えるほど綺麗だった。彼は水を両手ですくい、口へ運ぶ。 冷たい。喉から体全体へとその冷たさが伝わる。
喉の渇きを潤すと、川を下ることにした。理由は単純で下流の方に何かあるかもしれないという適当なほどの勘だった。
しばらく川を下っていると、空に黒い玉のようなものが飛来しているのが見えた。あれはなんだろうと疑問に思っていると近くにそれが着陸した。それを首を傾げながら見ていると、黒い玉が消え、中から金髪の少女が出てきた。
彼はさらに疑問に思った。何故中から女の子が出てきたのだろう?と
少女は川の水を彼と同じように手ですくい飲んでいた。
ぷはっ と美味しそうに飲み終えた少女は、こちらを見て初めて少年がそこにいることを認識したようだ。彼女は少し驚きの表情を見せたが、すぐにもとの表情に戻る。
「こんなところに人間? 」
そう言うと彼女はこちらに向き直した。改めて、少女をみると光沢のある金色の髪に赤いリボンのような布を付けており、全体的に黒い服を着てきた。
「あ、あの…」
「あなた、変わった格好をしてるのね」
質問しようとするが少女に遮られた。気がつけば、目の前に彼女は来ていた。瞬きをした瞬間、彼女はすぐそばまで寄っていた。
「あなた、変わった格好をしてるのね」
少女に言われて自分の格好を見てみると緑のズボンを履き、白い服を着ていて首の後ろに頭巾のようなものが着いていた。
「あなた、外の世界の人間かなぁ?」
彼女が少し口角を上げながら言うと少年は寒気がして直感的に少女から逃げ出す。その場に少女一人が残される。しかし、少女はけしてその逃げる少年から目を離していなかった。
「じゃあ、食べてもいい人類だぁ」
少女は逃げる少年の背中を見ながら言い、再び黒い玉を身にまとい少年を追いかける。
なんだあれ!?なんだアレ!?なんだあれ!?!?
少年は、彼女は何者かということを考えながら全速力で黒い玉に身を包んだ少女から逃げ出す。逃げる場所は決めていないが、とりあえず先程のように川を下って逃げる事にした。
少し走り続けると森を抜け、桟道らしき所に出た。周りをみると石の階段が見えたのでそこをすぐさま駆け上がる。
もうすぐ階段の上に着くと思って少し安心しながら駆け上がる。その時だった。突然、足に痛みを感じこけてしまった。仰向けになり確認すると足が少し抉れていた。それでも立ち上がり、駆け上がることを再開しようとすると黒い玉に突き飛ばされた。
その衝撃で頭を打ち、意識が朦朧としだす。その時に黒い玉から顔を出した少女の顔が眼前に迫る。
「それじゃいただきまーす」
彼女がそう言うと口を大きく開けた。少年はここまでかと心の中で思っていると、突然眼前にいたはずの少女が吹き飛ばされた。
「全く、朝から人食いなんて良くないわね。ルーミア」
少年が階段の上に目を向けると、そこには赤と白を基調にした巫女服を着た大きな赤いリボンが特徴的な女性が立っていた。朦朧とした意識で女性を見ているととても美しく見え、思わず「女神…さ…ま…」と口に出て、気を失った。
女性が気絶した少年のそばに行き、「ちょっと、貴方大丈夫?」と声をかけるが返事がない。まるで安心したかのように眠っている。そんな少年の顔を見ながらフーっとため息を漏らし、彼という存在について言われたことを思い出す。
朝の境内、博麗神社は朝日に照らされていた。そこで博麗霊夢が朝の日課である境内の掃除をしていると背後から違和感を感じた。
「ちょっと、霊夢いいかしら?」
誰もいなかったはずの背後から声をかけられる。そんな芸当が出来るものは一人。彼女にとって嫌な相手である。霊夢はため息を漏らしながら後ろを振り返る。すると、そこには赤く細いリボンの巻かれた白い帽子、太極図を描いた中華風の服を身につけた長い金髪の女性がいた。
彼女は八雲紫。この幻想郷を管理する妖怪だ。そして、大体の面倒事の主犯といっても差し支えない存在。
「なに、朝っぱらからあんたのめんどくさい話聞きたくないんだけど」
もちろん、そんな相手に朝の気分のあがらない状態でコミュニケーションなど取りたくもない。私は嫌々そいつと会話をする。
「冷たいわァ〜、霊夢 私と貴方の仲でしょう?」
どうやらそんな私の様子を察してかそんなことを言われるが察してくれたのであれば早々立ち去っていただきたいと私は心の中で思う。が、帰って欲しいとは思うので冷たい態度を取り続ける。
「ええそうね、退治される妖怪と退治する博麗の巫女の仲ね」
私は懐からお祓い棒を取り出し、紫に向ける。もちろん、彼女はその程度でビビるはずもなく余裕の笑みを口元を扇子で隠して状態で浮かべる。
「んもう…まあ、いいわぁ 話を戻すわね」
「さっさとしなさいよ」
私は話が終わればとっとと帰るだろうと思い、彼女の話を聞くことにした。だが、彼女の話は大体が胡散臭く信用に足らない話ばかりなのでいつも頭の片隅に置いておく程度だ。だが、今回ばかりは無視できない内容だった。
「私の意思で外の世界から1人の人間を幻想郷に迎えたわ」
私はその言葉を聞くと勢いよく紫の方へ振り返り、彼女を睨みつけ言葉を投げかける。
「あんた!また勝手に!」
当然だ。またこいつの気まぐれで面倒事が起こるのだから。いつもなにかの原因は
「まあまあ、話は最後まで聞きなさいな」
紫は私を宥めるように扇子をこちらに振りながらそう言う。私はその様子を見て子ども扱いをされた気分で悪態をつく。
「チッ」
朝からこんな面倒なことに巻き込まれて舌打ちのひとつでもつきたくなるのは仕方の無いことだろう。
「ほんとに冷たいんだからぁ 、まあその1人の人間の世話をね。霊夢、あなたにして欲しいのよ」
「はぁ!なんで私なんかがそんな明らかに面倒くさそうな事を!」
ふざけるなと私はこの目の前にいる妖に一喝したい。なぜ勝手にそんな事をしたのか。なぜ自分で面倒を見ないのか。なぜ私に任せるのか。不満を吐き出せばキリがない。
「まあまあ、お礼はしっかりするからお金もお酒もちゃんとあげるわよ」
だが、そこは大妖怪。相手と交渉する時相手の好むものを報酬とする。そして相手にその任務を任す。昔から式神などを使役してきただけあってその手は慣れているようだった。
「フンッ、まあいいわ 受けてあげる。あんたが直々に連れてきたってことはただの奴じゃないんでしょ?」
私は条件が条件なだけあって断りずらくなり相手の要求を飲む。仕方の無いことだ。好きなものは好き。目がないものを提示されれば断るのは困難だ。一応、仕事をするためその内容を聞く。そんな私の様子を見て紫は扇子の奥でニヤニヤと笑う感じがした。嫌な気分だ。
「さすがは霊夢、話が早いわぁ その通り 彼は特別よ」
「彼?男なの?」
面倒な事を持ち込んでくることはよくあるがその面倒な事の対象が男であることは初めてだった。まあ、だからといって私はその例のやつへの態度を優しくするつもりはない。なんなら男なら強く当たってやる。
「そうよ、貴方と同じぐらいの男の子よぉ 」
その事を聞いて少し驚いた。面倒を見ろと言われたので紫は外の世界から霊力を多く持つまたはそれなりの能力を持った子どもでも連れてきて私に教育をさせようとしたのだと思った。なら寺子屋に通わせる必要は無いかと心の中で思う。
「ふんっ、生意気だったらしめてやるわよ 」
私ぐらいの歳の男。逆に生意気でない方が不思議だが、それならば私は自分の力を見せつけ、そいつにいうことをきかせることが適切だと考えた。
「んもう、霊夢ったら まあいいわ それくらいの方が丁度いいかもね」
「? それってどういうこと?」
紫の言い分からすると相当凶暴な奴なのだろうか。だが、それならば紫自身がそんな猟奇的なやつを調教してしまえばいいのに。それくらい慣れっこだろう。面倒な事に巻き込まないで欲しいという感情を含んだ視線を彼女に向ける。
「彼は本当に特別なの、幻想郷を真実の幻想への切り札になりうる存在。だから、はやく強くなって成長して欲しいしね」
そう言うと、紫はようやく扇子をピシャっと閉じ、私に口元をあらわにした。相変わらずニヤニヤとした口元だった。考えが読めないそのニヤつきが私は嫌いだった。
「真実の幻想?それってどういう」
その憎たらしい表情を伺いながら私はその彼女の述べた気になった単語について質問する。
「まあ、細かいことは会えばわかるわ それじゃあね」
そんな私の質問にまともな返答もせず、彼女は空間を裂きまるでもともといなかったかのように虚空へと消える。
「あ ちょっと!、もう!肝心なところで適当なんだから」
1人になった境内にて霊夢がボヤく。その独り言は紫と同じように虚空へと消えるがこの言葉が彼女の元へ往くことは無いだろう。
「真実の幻想ねぇ…」
「こんなやつがそんなものの切り札になるわけぇ?」
紫に言われたその気になる部分を思い出しながら階段で倒れている少年を見下ろす。紫の意図が読めない霊夢は気絶した彼に、愚痴を零すように言う。
「まあ、いいわ。 怪我してるみたいだし永遠亭にでも連れていきましょうかね」
そう言うと少年を背負い宙を浮かぶ。
「元気になったらせいぜい従者として扱ってやろうかしらねぇ。フフ」
そう笑いながら言い迷いの竹林の方へ飛ぶのであった
いかがだったでしょうか?
初めてにしては長く書いたと自分では思いますが、何か見にくい所やこういう所は直した方がいいよ〜などの事があればコメントなど宜しくお願いします。
ちなみに更新は不定期です。