東方忘現想   作:残響楓

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前回のあらすじ
霊夢が突然連れてきた白玉楼の庭師、魂魄妖夢を師として剣術を教えてもらう想真だったが、博麗神社には巻藁が無いということで迷いの竹林へと向かうが、そこで竹林の案内人。藤原妹紅と再開する。


夜闇にめがけて

あれから数時間が経ち、空が少しづつ茜色に染まってきた頃、想真の斬る竹の断面が始めの時よりだいぶ滑らかになっていた。

「いいですね。だいぶ上達しましたよ」

妖夢がそれを見て腕を組みうんうんと頷いていた。どうやら彼女のお眼鏡には叶った様子。

「い、意外と疲れますね。刀を振るうのって…」

流石にぶっ通しでやっていたのもあって、想真は桜花を置き腕を摩っていた。霊力を腕に込め、桜花に纏わせて竹を斬っていたから腕は疲弊していてもおかしくはない。

「少し休憩しな、ほら水」

妹紅は想真の事を思ってか態々一度家に戻り、周りに落ちていた切りたてホヤホヤの竹で竹筒を作り水を汲んできた。物を加工するにしては対して時間はかけていないのを見ると、彼女の年の功を感じる。昔から物を作っていただけあって慣れているのだろう。

「ありがとうございます」

想真は礼を言い、彼女から竹筒を受け取り水を飲む。竹を斬るだけでも多少汗はかいたのだろう。ゴクゴクと喉越しの良い音が聞こえる。

「霊夢」

彼を遠目で見ていると妖夢に話しかけられる。

「どう?彼は」

「うん。筋は悪くないし、飲み込みも早い。霊力の扱い方も段々と上手くなってるのがわかるよ」

妖夢は想真が斬った更に小さく切った竹の断面の部分を持って言う。

「そう」

「でも、なんで木刀なの?真剣だったら霊力を込めなくても物は斬れるでしょ?」

多分、聞かれるだろうと思っていたことをそのまま聞かれたので、桜花のことを彼女に話した。

「なるほど… まずは霊力の流れやすい霊具を扱わせるってわけね」

「そういうこと」

まあ、実際のところ真剣なんてものを持っていないことは言わないでおく。

「弾幕はもう教えたの?」

「一応ね」

教えはした。しかし、彼の霊力は乏しい。未熟とも言える。量も質も成っていない彼にごっこで使うような弾幕の量、スペルカードは扱えないと思い知識だけ与えた。

「じゃあ、私の弾幕も教えていい?」

「ご自由に」

別に彼が私だけの教える弾幕にこだわる必要は無い。彼の霊力の特性などはまだ分からないが、様々な弾幕を教えることで向き不向きが分かるかもしれない。だとしたら、やらない理由は無い。

その内心思ったことは口に出さず、ただ、好きにしろと伝えただけ。それを聞いて妖夢は妹紅と話している想真の元へ行く。その足取りは軽く、人に自分の剣術を教えることが楽しいのか嬉しいのか知らないが悪くないことは知れた。

その後ろ姿を見て、彼女を想真の師にしたことは正解だったとふと思う。真面目と真面目。相性は悪くないだろうと思ってはいたが、なかなかに適正だったようだ。

師と弟子。その関係性をこの目で見て私にとっての師を思い浮かべると先代博麗の巫女と紫が挙がった。この二人からは巫術や結界の他に様々なことを教わった。先代からは、ただ博麗の巫女としてのあり方を。紫からは妖怪と人間の関係を。妖怪は退治されるもの。人間は退治するもの。これだけはこの幻想郷では絶対に揺るがない約束事。

それは私がスペルカードルールを適用させてからも変わらない。知性の無い妖怪やその事を知らない妖怪には叩き込み、スペルカードルールの内で退治する。

博麗が生業としている幻想郷の均衡の保護。それが私の、博麗の巫女としての生き方。別にそれを嫌と思ったことは無い。それ以外の生き方は知らないし、知りたいと思ったこともない。ただただその生き方を享受している。

先代の頃と「やり方」は違うが、それでも紫は私の考えを間違っているとは言わなかった。新たな幻想郷の秩序。それを彼女は良いと言ってくれた。まるで悩み事を母親に話すような心地で聞いた覚えがある。だからといって紫を母親と思ったことは無いが…

そんな母親擬きから「彼」を託された。訳の分からない説明を受けこちらの質問に耳を傾けず満足したかのように虚空へ消えたやつの姿を思い出す。

「あいつは何を企んでいるんだか…」

考えてもしかたのないことをため息とともに吐き出しながら、教えを受けている少年を見ながら思う。

 

 

「次は斬撃を飛ばす練習をします」

最初にそれを聞いた時はあまり理解が出来なかった。その様子を体で表すように首を傾げると妖夢さんが刀を抜く。

「まあ、言うより見せた方が早いですね」

後ろを振り向き、彼女は刀を脇構えで構える。その瞬間、彼女が纏う雰囲気が鋭くなったのを肌で感じた。彼女の手の刀には霊力が込められており、光沢のある刀身がさらに輝いて見えた。

「はっ!」

その輝きは彼女の一閃と共に白い刃へと姿を変え、離れた所にあった竹を斬り裂いた。

「おぉ…」

その光景を見て思わず僕は感嘆の声を漏らす。

「これが霊力を使った剣術の一つ。|刃桜«はざくら»です」

「刃桜…」

確かにあのように飛んでいく白い霊力の刃は風に吹かれて飛ぶ桜の花びらを彷彿とさせる。この技を編み出した人もきっとそのような考えがあったのだろうとふと思う。

「さあ、早速やってみて下さい」

「は、はい」

妖夢さんに言われ、僕は桜花を構える。とはいってもただ一度見ただけの技をやれと言われ、なかなか無茶な話だと思う。

「あの、コツとかってあります…?」

僕は桜花を振るう前に聞いてみる。すると妖夢さんは少し考え、「刀の霊力を遠くに飛ばすイメージですかね?」と答えた。

「なるほど…」

イメージ……。またしても想像である。とはいっても弾幕の撃ち方すら教えて貰っていない身にはなかなかに難しいと感じてしまう。

僕は深呼吸しながら霊力を桜花に篭める。そして、その状態で妖夢さんと同じように脇構えの体勢に入る。

「はっ!」

その状態から桜花を勢いよく振り抜く。妖夢さんの動きをできる限り真似したつもりだ。僕の想像通りなら同じようにいくはずだったが…

刃桜は無情にも真っ直ぐ飛ぶことはなく、あらぬ方向に飛んだかと思うとそのまま何に当たることも無く宙で霧散した。

「……」

僕は無性にその場から逃げ出したくなるほど恥ずかしくなった。顔が火が出るほど熱くなっているのを感じる。

「ま、まあ、最初はそんなもんですよ…」

「………はい」

そのように声をかけてくれた妖夢さんの優しさがただ有難かった。恥ずかしくて顔を俯かせていると、霊夢さんに肩をポンポンと叩かれる。

「まあ、見ただけで真似できただけでも上出来よ。昨日なんて霊力操作もままならなかったんだから」

「…なら良いのですが」

「ほら、もうすぐ夜になるから帰って夕食でも食べましょ」

空を見ると茜色が薄れ、段々と紫に近い色になっていた。もうすぐそれすらも消え、幻想郷は夜の闇に包まれる。

 

「今日はお二人とも長い間お付き合い頂きありがとうございました」

僕は妖夢さんと妹紅さんにお辞儀をし、感謝の言葉を述べる。妖夢さんには剣術を手取り足取り教えていただいた。妹紅さんに至っては前の案内の恩も返せていないというのにまた借りが出来てしまった。

「気にする必要ははないですよ。私も教えるの楽しかっ たですし」

「私も暇してただけだしな」

妖夢さんと妹紅さんのお二人が顔を見合せて言う。 本当に気にしていない様子に見えた。それ故に、僕の口はその事をさして迷うことなく切り出せた。

「また、鍛錬に付き合ってもらっても大丈夫ですか?」

 

 

妹紅さんたちと別れ、僕達は神社に帰った頃にはもう既に日は落ち、墨で染めたかのような深い闇が拡がっていた。夕餉を取った後の僕は再び霊夢さんに連れられ、星の広がる夜空を飛び昨日と同じように森で妖怪退治を行う。

「っ!」

しかし、周りの闇に取り囲まれた森の中では根に足を捕まれ、桜花は枝などのせいで思うように振れない状態で妖怪と対峙していた。暗くて相手の姿がよく見えないが、恐らくは小柄な猿の妖怪だと思われる。全く周りが見えていない僕とは違い、闇を見通す目を持ち、縦横無尽に木から木へと飛び移っていた。ただ、こちらに攻撃を仕掛けるわけでもなくただそれを繰り返すだけ。しかし、それだけのことで僕は一太刀も入れられないほど惑わされていた。

奴を追いかけ、走ろうとするとでこぼこと隆起した太い根に足をひっかけ転ぶを繰り返していた。

「くそっ…」

ただこのイタズラ好きな猿に遊ばれている気がしてならなかった。こちらを嘲笑うような鳴き声が聞こえ、時折、石を投げられる。完全に舐められている。

「そっちがずっと木の上にいる気なら…」

僕は桜花に霊力を込め、夜闇に慣れた目と研ぎ澄まされた聴覚で奴の場所を把握する。しかし、奴を今斬るつもりは無い。僕はさらに桜花に霊力を注ぎながら、妖夢さんに教えられたことを思い出す。

 

ただ竹を斬る前にした他愛のない会話だった。

「木刀で竹を斬るってそんなこと出来るんですか?」

僕は手に持った桜花を眺めながら聞く。

「霊力で強化した物であれば決して不可能ではないです」

「そうね。こんな風に」

そういうと霊夢さんは手に持ったお祓い棒で近くの竹を叩く。竹に弾かれると思ったその打撃はまるで大槌で思い切り殴ったまたはそれ以上の威力をぶつけられたかのように破砕した。

「わぁ…」

僕はただ何が起こったのか即座に理解出来ず、自身の体の支えがなくなった竹がメキメキと音を立てて倒れる様子を眺めていることしか出来なかった。

「霊力の根幹は魂。精神または心。それを強く保てば霊力は強力な力に変わる。でも逆もまた然り。迷う。または敵に恐れおののいてしまってそれらが揺れると霊力を練ることすら叶わない」

それは昨夜のことでしっかり体験した。夜の闇の中で天敵に追われる恐怖。それ故に、霊力もまともに扱えず背を向け逃げることしか出来ずにいた。

「だから、大切なことは迷いを断ち切ること。怖気づかないこと。戦闘においてそういった負のものを取り除き、純粋な心持ちで挑む。それが霊力の源らしいわ」

「ふーん」

妖夢さんも知らなかったようだ。が、あまり興味は無いように見える。そんな様子を見てか霊夢は一言添える。

「でも、霊力の質を上げるのは想いの強さらしいわ。まあ、私にはよく分からなかったけど」

 

 

僕は心の中の想いを桜花に込めるように霊力を注ぐことにした。さすれば、霊力に宿る力が増すと思ったから。僕には記憶が無いため、過去の記憶から想いを抽出することは出来ない。しかし、今この身にある記憶だけでも想いはしっかりあった。あの方の、霊夢さんの力になる。その一心で僕は桜花を振るう。博麗の巫女の従者として恥じぬよう。

僕は駆けながら周りの木を切り倒す。竹よりもずっと太く、強靭な木を斬るごとに僕の腕に響くように痛みが奔る。それは、斬った時の衝撃か過剰な霊力を扱った故かは分からなかった。猿の妖怪の周りの木を一つ。また一つと切り倒すことで奴の飛び移る木の道は少なくなる。だから、予測もしやすくなった。奴がどこに飛び移るかが。

奴もこんな荒々しい方法を取るとは思わなかったようで焦った様に移動をしていた。しかし、奴が飛び移る木の予測はついていた。だから、僕はそこに攻撃を放つだけでいい。僕は今日習ったことの全てを反芻するように刃桜を撃つ。

今回の太刀筋は上手くいったようで、狙った場所に刃桜は飛んでくれた。木へと移動した後の隙を見せた(けだもの) へと。

「ウキャ!!」

刃桜をまともに喰らった猿の妖怪は木から転げ落ち、胴体から血を流しながら夜の森の地を走り、暗闇へと消えていった。

 

戦闘が終わった森はまるで、何も無かったかのように夜の静けさを取り戻していた。ただ、切り倒された木を除いて。

「随分、乱暴な戦い方ね」

森の木々の隙間から霊夢さんは舞い降りた。どうやらずっと空から見ていた様だ。僕は彼女にそう言われて、少し気恥しい心地になって頭を搔こうとしたが、霊力の扱いすぎか。手に上手く力が入らなかった。

「でも、ビックリしたわ。あなたがもうあんな風に霊力を込められるようになってたなんて」

霊夢さんは近づきながらそう言う。彼女は少し嬉しそうにしていた。彼女が僕の目の前に立つと、僕の肩に手を当て──

ポンッ

「えっ?」

肩に受けた衝撃からして本当に力の込められていない押し方だった。しかし、それでも僕の身体は受け身もまともに取れずに尻を打った。

「っ… これは…?」

身体にまるで力が入らない。僕は倒されて漸く、脱力感が延々と続いていることに気がついた。手からも桜花がこぼれ落ちる。僕は霊夢さんに倒された状態から動けずにいた。

「霊力の使いすぎね」

霊夢さんは手を組みながら端的にその原因を言う。

「元々、あなたは霊力が多い方じゃないの。そこら辺の人と同じかそれ以上程度。そんな身であんな霊力の食う戦い方するからよ」

霊夢さんは叱るようにそう言うと僕のおでこを思いっきり指弾きした。ほんの少しだが、指先に霊力の籠った一撃だった。

「ぐおぉぉぉぉ…」

僕は尻もちついている状態から完全に倒れ、痛みを堪えていた。しかし、先程とは違い身体に力が入るようになっていた。

「少しだけど霊力を分けたわ。これで動けるでしょ?」

それを聞いて手を握っては開くを繰り返し、身体の動きに支障がないことを確認してから立ち上がる。霊力がどういう原理かは知らないが、切れれば人間の身体は動かなくなるが、他の人から分けてもらえれば動けるようになるようだ。霊力という不可思議なものをもう少し理解する必要がありそうだ。

僕は立ち上がり、霊夢の背を追う。彼女は少し歩いた後に立ち止まり、こちらをちらりと見る。

「…まだ妖怪は怖い?」

彼女の言葉を聞いて自分の手を見ると、震えていることに気づいた。僕はその手を握り押し殺すように力を込め、震えを止めた。

「…まだ恐怖心が拭い切れませんね 」

「…そう」

霊力がない状態の僕を気遣って、彼女は暗く足場の悪い森の中を共に歩いてくれた。時折、歩幅を確かめようとチラチラと僕の足運びを見る彼女の優しさがただただ嬉しかった。

星の光が葉にさえぎられ鬱蒼とした森の道は暗くおどろおどろしいと思っていたが、彼女と共に歩くとその道は酷く明るいと思えた。




書いていてテンポが悪いなと感じてきました。(今更)
これからはストーリーを進めていこうかなと思います。
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