東方忘現想   作:残響楓

9 / 10
前回のあらすじ
阿求に茶屋まで案内された想真は無事、目的の茶葉を買うことが出来た。その後、お礼として想真は阿求の友人がいるという鈴奈庵に連れられる。そこで彼女から幻想郷縁起という書物に想真を掲載したいと言われ自身のことを語る際に、縁起に載っていた自身を襲った妖怪を見て彼女らに自身の弱さを晒してしまう。それを見た魔理沙は想真に幻想郷でどう行きたいかを問われる。そこでようやく想真の生き方の道筋を決まった。それを聞いていた霊夢は慧音に話していた何でも屋の為の修練を夜の森に出現する狼で行った。想真は敵を前にした時に恐れを沈める重要さを覚え、その手に携えた木刀に霊力を流す。しかし、その霊力に反応したその木刀はただの武具ではなく桜花という名の霊具であることが判明した。


為すべきこと

日だまりの縁側で空を見上げながらふと、思う。何故、彼は私の従者になりたいと申し出たのだろうかと。たかだか妖怪に食われる寸前を救っただけ。ただ、それだけ。彼にしてあげたことは。 だのに、彼は再びこの神社を訪れ境内の石畳に頭を押し付け懇願した。僕をここに置いてください と。

最初は紫が、彼にそうしろと命じたのかと思った。そもそも、彼をこの幻想郷に導いたのはやつだ。 だが、やつのことを会話のどさくさに紛れて聞いても彼は知らない様子だった。であれば、彼は主のことを知り得ぬ式神ではないかとも思ったがそれも違った。理由は一つ。彼は式神にしては人間的過ぎたからだ。彼が人の(なり)をしているからではない。彼が妖怪を恐れているからでもない。彼が自分で物事を考え行動していると思ったからだ。昨日、鈴奈庵での出来事で彼の言を引き戸と暖簾越しに聞いた。それらの言葉は私が指示して言わせた訳では無い。つまり、彼は誰かに命令されて口にした言葉ではない。彼自身が思い、望んだことだ。彼には自分の意思がある。彼自身の願いがある。

そう思っただけだ。

そのような事を考えながら澄み渡る空にため息をひとつ漏らす。

「ため息なんてらしくないな」

共に縁側に座り、彼の木刀を弄りながら魔理沙はそういう。彼女なりの気遣いかと思ったがこいつがそんな事を思うはずもなくただただ私らしくないと思った故の発言だろう。

「ちょっと考え事をしてただけよ」

「へー、それってあいつのことか?」

彼女はそう言いながら木刀を神社の階段に向けてそう言う。その階段を走り登ってくる彼が視界に入る。彼は苦悶の表情を浮かべ息を切らしていた。

「はい、二十五周目。あと半分よ」

「っ はい!!」

彼は苦しそうにしながらも自分を鼓舞するように声を張り上げて返事をする。どうやらやる気はあるようだ。それに感心しながらお茶を啜っていると魔理沙がなにか問いたいような顔でこちらを見ていた。

「? なによ?」

「いや、なんで想真はずっと神社の階段走らされてるのかな〜って思って」

「弾幕ごっこの基本は霊力と体力。ただの模擬戦闘の遊びとはいえ妖怪の遊びは普通の人間じゃ死にかねない。だから、ああやって走らせて体力をつけさせてるの。じゃなきゃ妖怪の莫大な体力にも着いていけないし何より、霊力を扱うのにも体力をかなり消費するから。霊力は精神に起因するものとはいえそれを発するのは身体だからね」

「ふーん」

魔理沙は普段、魔力を主とした生活しかしてないためか霊力のことに関してはからっきしのようだ。魔力は体力をそこまで消費する力ではないようだ。だから、魔法使いは引きこもりが多いのだ。目の前の彼女を除いては。

「な〜 霊夢〜さっきのやつやってくれよ〜」

魔理沙が木刀を私の前に差し出しまたアレを見せろと訴えかけてくる。

「ん?ああ、はいはい」

私は魔理沙から木刀を受け取り、柄を右手で持ち霊力を送る。すると、木刀の棟区、刃区の部分に白い光で『桜花』と刻まれ刀自らが全体に霊力を漲らせる。これはこの木刀が特殊な素材、または(まじな)いによって創られたことを示していた。これは所謂、霊具やマジックアイテム等にあたる代物だ。かつて大妖怪を退けた伝説の刀や魔の者を封じた壺などのいわく付きのものがそう呼ばれている。

魔理沙は魔力などを駆使した物品などに目がなく、そういったものを集める蒐集癖を持っている。件の木刀もそういったものの類だと思って興味を示している。魔力と霊力ではまるでものが違うのだが。

「やっぱそれ、面白いな〜。なあ?私にくれよ〜」

その事をわかってない様子で彼女は強請ってくる。霊力をまともに使えないからこれを手に入れても何も出来ない癖に。それに

「駄目よ。これは私が想真にあげたものだもの」

 

桜花は元々、神社の蔵の中で埃被っていた。先日、軽く掃除した際に発見した物だ。このまま眠らせておくのもなんだし、参拝客が来たら護身用に持たせてやろうかぐらいで引っ張り出した。だから別にこだわりを持って渡した訳では無い。なんなら、想真が私にそれを見せるまではその特性にも気が付かなかった。しかし、霊力を込めると自動的に刀全体が霊力を帯びるという特性は霊力の少ない想真にはうってつけだと思った。霊力の扱い方を未だによく知らない想真は前回の狼との戦闘で漸く、刀に霊力を付与させることを覚えた。しかし、それはあくまで短時間だけ。長時間の戦闘では刀全体に霊力を走らせ敵を斬る、弾幕を防ぐなどの挙動にも霊力を消費する。それを拙い技術と少ない霊力で行うのは正直言って、無理だ。だからこそ、柄に霊力を送るだけで全体に霊力を帯びるという、特性を持つ桜花は彼にこそふさわしい。しかし、あくまでそれは助長、補助に過ぎない。いつかは、桜花に依存することなく戦えるようにしなければならない。

「まあ、いいか。霊力ってのもよくわからんしな」

桜花のことを諦めたのか、魔理沙は前言を撤回して縁側に仰向けで寝る。

「それでいいのよ」

人にはそれぞれ自分の道がある。私には霊力の道。魔理沙には魔力の道。向き不向きの関係もあるが故、自分に向かないものを取り込んで道に歪みが生じてはならない。しかし、それはあくまで自分の向いた道を見つけられたらの話。私と魔理沙は偶さか初めて歩いた道がそれだっただけ。今、想真には霊力の道を歩ませているがもしかすると別の道もあるのかもしれない。そんな事を思いながら階段を往復する彼を見守る。

 

 

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

春の陽気に似合わぬ汗をかき肩で息をしながら母屋の縁側に座る。まるで肺が誰かに握りしめられているのではないかと思うほど苦しい。その四苦八苦する僕の目の前に手拭いと湯呑みが差し出される。

「お疲れ様でした」

あうんさんが祝福するような笑顔で手渡してくれた。彼女の厚意に心の底から感謝する。

「はぁ…はぁ… あ、ありがとうございます」

それらを受け取り、汗を拭き取り湯呑みの中の水を飲み干す。乾ききった喉に潤いが齎されたことで、呼吸が幾分か楽になった。

呼吸が整い始めて漸く周りに意識が向いた。

「…霊夢さんと魔理沙さんは?」

「さっき、人を呼んでくるって言って飛んでいきましたけど」

あうんさんはそう言い、青空を指し示す。

「…そうですか」

彼女らがいない間に掃除でも済ませておこうと思い、居間へ向かうとちゃぶ台の上に木刀 桜花があった。何故こんなところに置いてあっただろうか? そう思いつつそれを手に取る。微かに霊力の残った刃を見て昨夜のことを思い出す。妖怪ですらない狼を前に恐れおののきながら逃げていた。自分の弱さを噛み締めた。 だからこそ、その噛み締めたものを飲み込み、喰らう強さを得なければならない。無意識に柄を握る力が強くなる。

「…弱さを克服しなくちゃ」

そう独り言を残し、桜花を刀袋を仕舞う。

 

暫くして霊夢さんが戻ってきた。一人の女性を連れて。その女性の髪は白く、どこか人間味の薄い雰囲気を帯びていた。その女性の背には柄に花の装飾の施された太刀にしては少し長すぎる刀と脇差の二振りがあった。

「戻ったわよ」

「おかえりなさい。霊夢さん。そのお方は?」

「まあ、あんたの師匠よ」

「はい? 」

僕は再び女性の方を見て、心の内で「またこの人は…」と自分勝手に物事を決める霊夢さんへの愚痴を漏らし女性の方へ向き直る。

「ぼ」

「はじめまして!私の名前は魂魄妖夢です。白玉楼で幽々子様の剣術指南役兼庭師をしています。霊夢に頼まれて貴方に剣術を指導することになりました。よろしくお願いします!」

僕は自己紹介をしようとする前に彼女が僕以上の声量で圧倒し、快活にして丁寧に自己紹介をしてみせた。

「そ、想真です…よろしくお願いします…」

その勢いに押され萎縮しながら自身の名を語った。我ながら情けない有様である。その様子を縁側で見ていた霊夢さんと魔理沙さんはこうなると分かりきっていた様子で笑っていた。

 

その後、僕は彼女から剣術の基本である、型を習っていた。真っ向切りや袈裟斬り、一文字斬りなどの基本的な動作を行い、それから霊力を用いた剣術になるのだが、

「霊夢、巻藁とかってないの?」

妖夢さんは縁側で呑気にお茶を啜る霊夢さんに向けてそう問う。

「ないわよそんなの」

霊夢さんは刀など扱わないのでそういった修練の代物は持っていないようだ。

「むむむ、参りましたね。これでは刀で物を斬る修練ができません」

どうやら妖夢さんは今教えた斬り方の精度を高める為に斬っても問題ない物が欲しかった様だ。それがないと知ると妖夢さんは顎に手を添え、小さく唸りながら代替案を考えている様子を見せた。

「でも、巻藁の代わりがいくらでもある場所なら知ってるわよ」

「その場所は」

僕がその場所を尋ねると霊夢さんは煎餅を齧りながら答える。

「迷いの竹林」

 

 

 

 

日が高くなり、一日の半分が過ぎた頃に鬱蒼とした竹林の中に佇む我が家の中で考え事に耽っていた。壁を背にし、私がこの身体になってから数百年経った内に身に染み付いた浅い眠り方と同じ体勢で、ただ漠然と曖昧なことを脳裏に巡らせていた。

いつもなら輝夜のところに殺し合いをしに行くような時間帯だが、生憎今はそんな気分じゃない。ただ頭の中のモヤを振り払いたい気分だったが今、殺し合いしたとすればただモヤを払ったのではなく血で埋めつくような感じがしたのでやめた。なので、私は適当に竹林の中を散策することにした。気分転換には丁度いいだろう幾年も歩き続けて、飽くほどの悪路も今は悪くないとすら感じる。竹林を吹き抜ける風。その風に乗って奇妙な音が運ばれてきた。

「ん?」

私はその音がした方向へ顔を向ける。視界を遮る竹々の奥のそう遠くない場所から聞こえるのは──

「竹を切る音?」

竹林の入口付近であれば特に違和感を覚えないかもしれないが、ここはその奥地。竹を切って持ち帰るには全くと言っていいほど向いていない。そのような辺鄙な場所で竹を切る輩がいるとは思わなかった。私は物珍しさが勝ってその方向へ進む。しかし、もしかすると竹を切る奇妙な妖怪かもしれないので警戒しながら近づく。

音の場所まで、あと六丈程(約18メートル)のところまで来ると周りの竹が上半身にいくかいかないかの高さ程で切り開かれた場所にて立っている人物を認める。その後ろ姿を見ると先程までに私に帯びていた警戒心は糸が解れるかのように緩やかに消えた。その赤いリボンの後ろ姿を間違えるはずがなかった。 私は軽くなった足取りで近づき、その後ろ姿に声をかける。

「また迷ったか?博麗の巫女さま?」

私の声に反応し、少女はこちらに振り向き、ため息をつく。人の顔を見てため息をつくという生意気な態度をとるのが博麗の巫女。博麗霊夢である。

「別に迷ってなんかないわよ」

「そうか」

彼女の端的な返しに特に私は言うことも無く、周りの様子を眺める。彼女の周りの竹は刀か何かで袈裟斬りやら輪切りやらが為された竹の節が見受けられる。

「巫女さまが竹炭の商売を始めたか?」

私は冗談交じりの問いを彼女に投げかける。

「神社でこんなもの売っても誰も買わないわよ」

霊夢は切り捨てられた竹の上部をカランと一蹴りしながら言う。どうやら商売目的では無い様子。そんな会話をしていると竹が切られている軌跡が続いている方から再び竹を切る音が竹林に響く。そもそも切っていたのは霊夢ではなかったようだ。

「そもそも誰が切っているんだ?」

てっきり、霊夢一人だけかと思っていたものだと思っていたから少々意外と思い辺りを見渡す。

「あれよ」

霊夢はぶっきらぼうに言い放ち、音の方向へと指を指す。

「ん?」

切られずに視界を遮っていた竹を避け、指の指された方向を見るとそこには二人の後ろ姿が見えた。一人は真剣を持ち、目立つ髪色であったため誰かは直ぐに冥界の庭師だとわかった。神社の宴会に顔を出していると自然と参加者の顔も覚えるものだなとふと思う。

しかし、見慣れぬのはもう一人の後ろ姿。霊夢と同じような色合いの上下の服を身にまとった少し小柄な男。その手には木刀は霊力を帯びており振るわれたそれは竹を容易く斬り裂いた。

妖夢がその斬られた竹の断面を手で触れ、撫でる。その感触に納得がいかなかったのか、顔をほんの少しだけ顰める。

「まだガタツキがありますね。もう少し霊力を刃のように研ぎ澄ませてください」

「わかりました」

彼女の教えを素直に聞き入れ再び、木刀を構える横顔には見覚えがあった。そう。それこそ、この場所迷いの竹林にて出会った。

「おい!霊夢!あの子、お前が永遠亭まで私に押し付けた外来人じゃないか!なんでここにいるんだ!」

てっきり彼は、霊夢が外の世界に帰したものと思っていた私は、霊夢にその事を問い詰める。

「別に。わたしがあいつを従者にしただけよ」

「従者ぁ?!」

なんてことだ。驚きの連発だ。きっと私は今、とんでもないマヌケ面を晒しているだろう。輝夜がそれを見れば抱腹するだろう。私は落ち着きを取り戻した後、霊夢と共に彼の修練を見守ることにした。

「彼の名前は?」

霊夢の方に顔を向けることもなく、今日の天気を聞くような口振りで聞く。

「想真」

「想真か」

私は霊夢が言ったそれを復唱する。それを聞いた時、酷く安心した気がした。

「いい名前だな」

これは世辞でもなんでもなくただ私が心から思ったことだ。

「当たり前でしょ?私が名付けたんだから」

霊夢は手を組み、誇るように笑顔を浮かべていた。実際、誇ってはいるが。その後、彼の人物像やあの後の経緯を話した後に、再び彼の修練の様子を見ながら横にいる霊夢にも聞かれないような小声で呟く。

「…よかった」

この口から漏れた一言は純然に、私の心の様子を表していた。胸の中の燻りが消えた故の安心感であった。

 

 

 

想真を神社まで案内した後、昼飯を食う訳も食わずに私は永遠亭に戻り殺し合いをする訳でもなくただ永琳、輝夜と茶を啜っていた。

「例の子はちゃんと送ってあげたんでしょうね?」

「当たり前だろ?誰に向かって言ってるんだ?」

普段、竹林で案内をしている私に対してよくそんな言葉が吐けたものである。輝夜もそれを知ってか納得した様子で、「そう」と言った後に茶を啜る。

「うーん」

湯のみを机の上に置き、永琳は腕を組み一人考え込んでいる。

「永琳、どうしたの?考え込むなんであなたらしくないじゃない」

確かに、永琳がなにかに考え込むなんて滅多なことがない限り見られない。月の頭脳である彼女が頭を悩ませるなんてことは正体不明な病が流行ってもあるかどうかだ。

「いや 彼のこと、本当に博麗神社に送ってよかったのかと思ってね」

「どうして?」

そう聞いたのは、輝夜ではなく私だった。彼を神社まで案内したのは、私であるが故にその疑問が深くまで刺さった。

「彼、自分の記憶を失ってたじゃない?」

「うん」

私は湯のみを彼女と同じように机に置き、永琳の話に相槌をうつ。その様子を見てか輝夜も湯のみを置き、話を聞く。

「幻想郷は外の世界より危険じゃない?」

「うん」

「当然よね」

そりゃ、妖怪が彷徨いてる幻想郷よりか平和ボケした外の世界のほうが安全に決まってる。

「だから、霊夢は外来人のために無理やりにでも送り返そうな気がするのよね」

「うん」

「そうね」

それには確かにあると思う。実際、霊夢は他人には無関心な態度を示すが、実際のところは情が厚い。それ故に、彼女を慕う者は人間、妖怪問わず多い。

「でも、自分のことも帰るところと分からない彼をそのまま帰していいとは思えないじゃない?」

「うん」

「間違えないわ」

私たちが頷くと、永琳は一度お茶を啜って再び話し出す。

「違って欲しいけど、彼が幻想郷に来た理由が事故じゃなくて忘れられたと考えたらね」

彼女は自身が思う最悪の予想を口にする。仮にそうだとしたら、彼は誰かに拾われない限り誰の手も借りないまま、一人で生きていかなければならない。

「…彼、野垂れ死にするんじゃない?」

「輝夜、言うな」

私は一番聞きたくなかった言葉を言ったやつをきっと睨みつける。輝夜は珍しく肩を縮こませてしょんぼりとしている。その姿には私との殺し合いの時の覇気も形もない。完全に失言したと思っているのだろう。

私はそんなやつの姿を鼻息一つして目をそらす。考えたくなかったそんなことが彼のような人間に起こることなど。

対して長い時間を共にした訳では無い。なんなら、永遠亭から博麗神社の階段までだ。時間にしてはとても短い。しかし、その短い時間の中ですらも彼は善人であると私の中で思うことが出来た。だからこそ、彼にはような人間が何故そのようなことにならなくてはならないのか。私は無意識のうちに歯噛みしていた。こんな事なら記憶が戻るまででも私の家に住まわせてやるべきだったか、と思ってしまうほどに後悔は募る。

「まあ、彼がもう外の世界に行ってしまったのだとしたら、私たちに出来ることは彼の無事を願うことだけね」

永琳は少し顔を顰めてそう言う。人を助ける医者である彼女が、そう口にするだけでも相当悔しいだろう。私も心の中で彼の無事を願った。

 

 

 

僕は妖夢さんから教わった剣術を自分の技術にするため修練に励んでいた。しかし、霊力を桜花に乗せて振るうということに慣れておらず、切り込みを入れるか良くて断面が不格好に斬れるかのどちらかだった。

「うむむ…」

僕はたった今斬った竹の断面をジーッと見つめる。周りの竹同様、それはやはり歪んでいた。

「なかなか上手く斬れませんね」

「そりゃそうですよ、初めてなんですから。斬れるだけまだ上々です」

僕がそう零すと、妖夢さんは当然といった風に言う。確かに、初めての僕がそうそう上手くいくとは思うまい。実際、昨日の夜に狼を桜花で斬った時もただ切り傷を負わせた程度。その時点で剣術の天性の才能が無いことはわかっている。だから今、僕がすべきことは──

「…フンッ!」

先程と同じように竹を斬りつける。一太刀で斬ることは出来たが、やはり切り口が粗い。しかし、最初に比べれば幾分かマシな方だ。これを妖夢さんの手本のように正していく。何度も何度も。

そう、僕がすべきことは地道な努力である。近道なんてものはないのだから一歩一歩進むしかない。だから、今は桜花に霊力を込め、ただ技術を磨く。強さを得る為に。

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