日本の食文化を守るために変態技術を駆使しまくった結果   作:(´鋼`)

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【幕間】食に全てを捧げ続ける男

 

 

 

 〜この恨みはらさでおくべきか〜

 

 

 

 むかーしむかし、ブリタニアが侵攻作戦を開始するおよそ3年前のことであった。当時はまだ『大将』ではなく『社長』と呼ばれていた日のこと、事件が起きたのは民間警備会社P.S.S.の地下で様々な準備に勤しんでいた頃の一コマ。シミュレータ終わりに休憩室でスポーツドリンクを飲む2人の人物が居た、後に鬼神兵団として活躍することになる『南波(なんば)』と『(ひいらぎ)』という名の両名はお互いのシミュレーション結果について語り合っていた。

 

 

「難易度何やったよ?」

 

「裏の1」

 

「はっ?! おまっ、もう行ったのかよそこまで!」

 

「クリア判定は出なかったけどなー。なんだよあの難易度、高威力レーザー3連射に加えて再装填時間0.12って。バカじゃねーのあれ」

 

「え、どんぐらい生き残ったのよ?」

 

「最長で12秒」

 

「短っ! いやガチでムズいとは聞いてたけどよ、そんなに?!」

 

「いやもう無理、勝てねぇわあれ。まぁ完全に心へし折る為の難易度だし仕方ないわなとも思うがよ、開始そうそうタイトルコールで『歓迎しよう、盛大にな!』 だぞ? 」

 

「うっはぁ、クリア出来るもんならクリアしてみろってヤツじゃん。クリアさせる気無いじゃん」

 

「しかもよ、怖ぇことにまだ先があるみたいなんだよ」

 

「技術者のお巫山戯が過ぎる……、でも社長が言うにはそこまで行けば大抵の奴等には勝てるって言ってたよな。入れる必要あったのかよあれ」

 

「無いな、無い無い。でも悔しいからまだやるつもり」

 

「うっへぇ、よくやるなぁ」

 

「負けたままだとムシャクシャするんだよシミュレーションでも」

 

 

 と、そんな他愛もない会話をしていると何処からともなく重い何かが近付いているような音が聞こえ始めてきた。

 

 

「ん?」

 

「どした?」

 

「や、何か変な音してないか?」

 

「変な音……あ、聞こえてきた。あと唸り声みたいなのも聞こえてる」

 

 

 柊の言った唸り声はどんどん2人の方にも聞こえてきて、その重い何かの音は扉の前で止まった直後休憩室の扉が勢いよく蹴破られた。

 

 

「うぇええええ?!」

 

「なになになになに?!」

 

 

 扉を蹴破ったものの正体は、なんと社長であった。しかもその背には大の大人が5人ほど背負われているが、それでもなお歩みを止めなかった。息をめちゃくちゃ荒くして何かを探し回っているようにも思える社長の背に乗るムキムキマッチョマンの『永谷(ながたに)』がなりふり構わず言い始める。

 

 

「お前ら手を貸せ! 社長を止めてくれぇええ!」

 

「ちょ、一体どうしたんすか社長!? 何でこんな事になってるんですか?!」

 

「ラクシャータ女史を捜してるんだ! 冷蔵庫に入れてたプリンが無くなってたから彼女が食べたと思い込んでいる!」

 

「「あー……」」

 

 

 正直彼らはなんと言っていいのか分からなかった。この時から彼の食キチ具合は周知の事実となっており、かつてラクシャータが彼が自分用に取っておいた本わらび粉100%のわらび餅を全て食べた途端、普段の温厚さは身を潜め修羅のような形相で彼女を追いかけまわした事例があるのだ。

 

 

「イッコォ……センエンンンンンン……! サイゴノォ……イッコォオオオ!」

 

「社長、確かにお気持ちはお察ししますがどうか暫しお待ち下さい! 彼女も悪気があって食べた訳じゃないでしょうし!」

 

「そうですよ社長! 気軽に言えるような事ではありませんがどうか気を鎮めて!」

 

「コノウラミハラサデオクベキカァアアアア!!!!」

 

「社長! 祟り神にならないで下さい社長!」

 

 

 このあと帰ってきたラクシャータが食べてしまったものと同じ名前のプリンを買って謝ったことで何とか丸く収まったとか。

 

 

 

 〜社員食堂の秘密〜

 

 

 

 P.S.S.の社員食堂のメニューは、その全てが社長である『大将』自らが考案したものである。彼はブリタニアの侵攻が開始されるまでの間、時間を見つけては旬のものや全国うまいもの博や現地に向かうなどして日本の食文化を食べ尽くしてきた。だからなのだろうか、彼の味覚や嗅覚は人よりも数段上に発達し様々な味や匂いの判別が可能になっていた。その食材の産地や鮮度、使用された調味料やその割合、調理時間に至るまで判明できるほど “食”に特化している。以前、ある社員が彼の舌や嗅覚を騙せるか実験としてフェイク料理を出してみたが1発で使用された食材や使用された調味料の割合までも当てたので、その場にいた全員がドン引きした事もあった。

 

 そんな社長が考案するメニューなのだから、さぞかし良いものを使っているんだろうと予想される社員が多く居たが意外にも普通の食材を使っていることが判明するや否やなぜそうなのか問うてくる者も居た。そんな社員たちには基本このように返している。

 

 

「や、確かに美味しさには煩いけど食材に拘りがある訳じゃないよ。この食材を使ってなきゃ美味くならないなんて思ってないし、聞くけど高級な鶏肉使った唐揚げ出されても君ら分からないじゃん? だったら高級食材使うより、美味しいと思う味付けを重視して考えるのは普通じゃん」

 

 

 にべも無く言ってのける社長の顔は、“これ当たり前のことじゃないのか?”と逆に社員たちに問うてくるものであったという。そして続けて社長はこうも言ってのけた。

 

 

「それに、本当に美味しい料理ってのはどれだけ愛を込めたかによって変わるものだと自分は思ってるのよ。食材に対する情熱とも言い換えていいね、それが無いとどんなに美味しくても()()()()()()()()()()()。それは本当の美味しさじゃないと思うんだ」

 

 

 社員全員から食キチとまで言わしめる社長だが、その本質はきっと食に対する愛や情熱の矢印がとても大きいからこそ、彼をそうたらしめる要因なのではないかと会話して思ったという。

 

 

 

 〜食に全てを捧げ続ける男〜

 

 

 

 『大将』たる青年はこの世に生まれ落ちた時から前の記憶を所持した転生者である。しかし同時にこの世界に生まれ落ちたことを知るや否や日本食文化の危機であることを察知し、日本食文化の為にその人生を捧げ続けている真っ最中の男である。だからこそ日本食文化が消えてなくなる未来を想像してしまうことがままあった。しかしそれが反逆のための強固な意志へと昇華するほどに日本食文化を愛している。

 

 おにぎりが食べられなくなる。それは絶対に嫌だ。

 刺身が食べられなくなる。それは絶対に嫌だ。

 ふぐ料理全般が食べられなくなる。それは絶対に嫌だ。

 蒟蒻が食べられなくなる。豆腐が食べられなくなる。味噌が失われる。醤油が消え去ってしまう。本わさびが育てられなくなってしまう。生卵を食うことが出来なくなってしまう。卵かけご飯が食べられなくなってしまう。

 

 それだけは絶対に無理だと思い続け、そして抗うための力を得た。食に対する執念が狂気の沙汰に昇華され鬼神兵は造り上げられた。愛する日本食文化が消えてなくなるというのなら、それを守るために()()()()()()()()()()()()と言ってのけた男の思いは、かくして己自身を鬼へと変化させていった。その証左として鬼神兵を駆り守り通した。掲げる主義や思想の違う仲間とともに。

 

 しかし人間を辞めた代償は、とても大きい。その人生が全て理想のために殉ずることになる覚悟はとうに出来ているだろう。願わくば、この世界に生まれ落ちた彼がどうか在り続けられることを望む。

 

 

 

連載に変えるべきか、短編のままで良いか

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