日本の食文化を守るために変態技術を駆使しまくった結果   作:(´鋼`)

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そんなにカッカしないで飯食って落ち着こうや

 

 

 

 ラウンジ方面に突入する前に佐倉と秀川の2人は監視カメラをジャックし自らの視界に映しながら状況を確認する。人質は1箇所に集められておりその周囲にアサルトライフルを所持した海賊が3人ほど居て見張りを行っている。だが少しの違和感を感じラウンジを映す監視カメラの映像を何度か切り替えていると先程確認した時よりも2人少ない、また保護対象であるウィルバー・ミルビル博士も見当たる様子はない。面倒なことになっている可能性があるものの、まずはこのラウンジを制圧してから他の技術者に事情を問う。そのように決断した。

 

 まずは一時的に武装を解除しナノマシンを潜入させ出入口近くに立つ2名の海賊の体内に潜伏させ合図と同時に肉体を制御、わざと倒れるように操り注意を引き付けたところで増強された身体能力と積み重ねた身体操作技術を駆使し即座に突入開始。姿は隠せていても音を消すまでには至らず、されど見えぬ何かが足音を立たせてまっすぐ自身の元に向かってくる。これにより相手は一時的にパニックに陥ること間違いなし、恐怖と同時に隙が生まれた海賊たちはあっという間に制圧された。発動していたミラージュを解除し姿を現すと先ずは海賊たちの武装解除と拘束を行い、二手に別れて乗客への呼びかけを佐倉が、保護対象の接触を秀川が行うことになった。

 

 保護対象である技術者の面々に自身の身分を明かしつつ、ウィルバー・ミルビル博士の所在と安否を訊ねるとさらに面倒なことになっていた事が判明した。なんでも2人の海賊が彼だけ連れ去っていたらしく、恐らくは彼の研究内容の資料を見つけ出すために連れて行ったのではないかと思われるとのこと。泊まっていた客室番号が308号室であることを確認するとすぐに佐倉と『大将』たる青年にナノマシンを介して情報共有し、佐倉の方は乗客に断りを入れてすぐに客室方面へ足を運んでいく。青年の方もどうやら仕事は済ませたようですぐに向かうと伝え通信を終えた。そこから秀川は乗客への対応に勤しむのであった。

 

 

 

*─────*

 

 

 

 308……308……お、佐倉速いな。

 

 

「大将、話は聞いてるかもしれませんが」

 

 

 研究資料の捜索にウィルバー・ミルビル氏の連行、どうもきな臭いな。始末が目的じゃないってところか。

 

 

「みたいっすね──大将、ここです」

 

 

 あいよ、ってもぬけの殻だ。捜したあとだけがある。緊急脱出艇の方に連れて行かれたかもしれないな。船の側面にそれぞれあったからそのどちらかだな。自分はここから遠い方に向かう、佐倉は近い方の脱出艇を調べてきて。

 

 

「了解」

 

 

 さて、少し急ぐか。出力0.025から0.65に上昇、なるはやで行かせてもらう。……にしても毎度のことながらこの走力、この客船1周するのに早々時間は掛からないし本当に人間辞めたなぁとしみじみ、っととこうして考えてる間に到着しちゃったよ。しかも居たよ今から降りようとしてる最中だし! くそっ、出力5%!

 

 自重で落下していくタイプの救命艇の降下よりも速く移動して、ギリギリのところで救命艇の端っこ掴んで止めたはいいけど……これっ、キツいっ! 掴んでる所がデカすぎて力の調整が、あっ指がめり込んじゃった。……まま、結果的にこっちの方が掴みやすくなったし持ち上げやすくなったのは怪我の功名なのでヨシ! あ、出てきた海賊と目が合っちゃった。

 

 

「だ、誰だテメェ!?」

 

 

 あ、お構いなく。ちょっとこれ持ち上げるんで舌噛まないでねー。ぃよいしょぉオオッ!

 

 

「うおおおおっ?!」

 

「な、何が起きてる!?」

 

 

 ふんぬぅううううう! ふぃー、一先ずこれでよし。この物音で2人のどっちか来るでしょ、両方かもしんない。……あれ、1人少ない? もしかしてさっきの持ち上げで落ちちゃった? あーっと佐倉、さっき自分の担当だった救命艇のある場所の確認してもらっていい? 多分海賊の1人落としちゃったかもしれない。うん、うんそう多分。場合によっては下の階層に運良く避難できたかもしれないからそっちもお願いね。

 

 お、保護対象出てきた。おっとヤバっ!

 

 

 

 

 

§─────§

 

 

 

 

 

 ナノマシンにより殺気というものを察知しやすくなっていた青年は出てきた保護対象の後ろに回り込んで覆いかぶさり、ウィルバー・ミルビルを狙って撃ったであろう3発の銃弾が青年に当たった。そう、当たったのだが銃弾が当たった音にしては何やら硬い金属にぶつかったような音が響いたのだった。それは海賊と保護対象の2人が呆気にとられる位には変なことであり、青年にとっては別に気にすることの無い機能が発動しただけである。保護対象を守れたことによる安堵か青年は一息つき、未だに救命艇の中に居る海賊の方へと歩き出した。

 

 海賊は銃の残弾を全て出さんとする勢いで青年に向けて発砲するも、青年の肉体に銃弾がぶつかって出た音は金属のようであった。そして全ての銃弾を出し切ったところで海賊の銃を手に取り青年はゆっくりと握力を強めていくと、銃の方からヒビの入るような音がした直後銃はバラバラに砕け散ったのだった。海賊からは暗くて見えづらいが青年は少しだけ妖艶に微笑み、救命艇内にあるアサルトライフルを持って同じようにゆっくりと壊しながら言い始める。

 

 

「便利でしょ、これ。あらゆる衝撃に対して一瞬で硬化するように出来てるのよ、とはいえまだ世の中に出す気はないテクノロジーなんだけどね」

 

 

 銃身、銃床、マガジン、グリップ。大体の箇所を壊してバラバラにしたあと海賊はヤケになったのかコンバットナイフを取り出し、青年の顔に向けて突き刺した。しかしまたしても金属にぶつかったような音だけが聞こえてくる、青年はナイフの刀身をがっしりと掴むとまた握力を強めていき最後にはコンバットナイフの刀身を折った。

 

 

「ば……バケモノッ……!」

 

「そうだねぇ、自分ら人間辞めたしバケモノであってるね。あ、ほいっと」

 

 

 海賊の首根っこを掴みそこから電流を流して気絶させ、まだ少しピリピリするのか腕を振って痺れを取ろうとしながら保護対象であるウィルバー・ミルビル博士に近付き視線を合わせるためにしゃがんだ。

 

 

「ウィルバー・ミルビル博士で間違いないですね。私はあなた方の亡命依頼を承りましたP.S.S.の者です」

 

「君らが、だが今のは一体……」

 

「それについては後々ご説明させていただきます。今は安全にイギリスに辿り着き日本へ亡命することが先決、一先ずは陸に戻るまで船の旅と洒落込みましょう。……ところでそちらが研究資料でお間違いないですか?」

 

「あ、あぁ。そうだ」

 

 

 氏の抱えんで大事そうに持っているジュラルミンケースが研究資料であることを確認し保護対象と乗客、乗組員の全員を救出することに成功したのも束の間、陸に着いたところでいそいそと準備していた輸送車両に乗り込んですぐさまその場から脱出。空港に到着し飛行機に乗っておよそ12時間以上ほど経過し、12名の技術者たちは無事日本への亡命を成したのであった。余談ではあるが、飛行機の食事が不味かったせいで青年は暫く意気消沈していたらしい。

 

 

 


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