日本の食文化を守るために変態技術を駆使しまくった結果 作:(´鋼`)
亡命したウィルバー・ミルビル博士を中心とした技術者集団12名は用意された国籍を受け取ったあと『大将』たる青年が主導する鬼神兵団の開発メンバーに参入し、より一層の技術発展が見込めることとなる。とりわけ博士が持っていた空戦型KMFに関する研究資料によって新たな機体案や鬼神兵団のサポートメカなどのアイディアが生み出され早速と言わんばかりに作業に取り掛かったという。ついでに国に配備されるKMFにも空戦型KMFの技術を取り入れることが決定しており、後に出来上がったKMFは全世界で“変態”と呼称されることになるがそれはまた先の話。
それはそれとして、救出作戦時に出くわしたあの海賊についての調査も行って分かったことがあった。キャスターの解析によって中東やアフリカ方面などに居る顔つきであったことが判明し、どこの国からの者らであったのか捜査していたのだ。調べた結果、海賊などの荒事に関係した国の候補としてある一国が最有力候補に挙がるが真相へと至るまでにはならず、少なくとも警戒しておかなければならない相手が出来たことと、ブリタニアの誰が海賊を差し向けたのかという疑問が発生したのであった。
ここねぇ……有り得なくはないのがまた。そうじゃなくても絶対誰かに雇われたっぽいのが拍車をかけてるというか、博士と研究資料が目的で殺害は最終手段みたいだったことも踏まえると怪しさ満点満漢全席って感じだねぇ。
「なんでそこで満漢全席が出てくるのよ」
何か出てきたんだよ。あ、でも2〜3日かけて食うのはちょっと面倒だな。ねーおねえちゃん。
「奢りなら行くけど」
奢り前提で話進めないで、奢りはするけどさ。まぁそれもこれもさておき、博士たちはどう? 何度か気にかけてるけど馴染めてそうだった?
「馴染むどころか順応してたわよあの変態どもに、もしくは毒されてると言えば良いのかしらね。男……というかアイツらね、本当に馬鹿ばっかりよ彼処」
それは重畳、寧ろ良い傾向だことで。
「どこがよ」
日本への協力体制が確立してるのと同意義だしね。裏切られることなくウチとの共同作業で軍事的にも充実する、まだブリタニア側も諦めた訳では無いだろうし備えあれば憂いなしってヤツよ。
「本音は?」
日本食文化を徐々に浸透させて日本食でしか美味さを感じられなくなるように洗脳してやるのだあ!
「食キチ」
いやいやいや、洗脳なんて古今東西如何なる場所でもいーっぱいやって来たじゃないのよ。今更自分らが日本食文化の洗礼もとい洗脳をやったって誰も知らぬ歴史に刻まれるだけだもーん! ん? 何か通知来て……あ?
「何よ?」
……ちょっと面倒な事になった。前来日してたラウンズに渡したアドレスが使用されてる、しかもメッセージ内容のところに別のアドレスが添付されてるし。
「それ、かなりヤバいんじゃないの?」
ヤバいと言えばヤバい、とはいえヤバくないと言えばヤバくない。正味しくじったらその程度だったかぐらいなもん、とはいえブリタニア皇帝潰せる機会の1つが減ったのは痛い。そんなもんなんだけど……どうしよ、この添付アドレス。消すにしてもリスクが無いとは言いきれないし、クリックしたら情報漏洩しそうだし。ふーむ……とはいえ出た方が良いのかもしれない、なんかあればキャスターが偽の情報送るだろうし。うん、押してみるわ。
添付されているアドレスを多少迷いながらもクリックすると、別の画面へと移行される。何かしらの罠かとも思ったがそれは杞憂に終わったらしい、なぜなら映し出された画面を見ればオンラインで会話を行う際によく見るものであったため。しかし画面には相手の顔は映ることはなく、よく見る人のシルエットが映し出された灰色の絵面。画面の向こう側で青年が参加してきた途端、早々に話を切り出してきた。
『来ると思っていたよ、Mr.』
「行かざるを得なかっただけだ」
『それは嘘だ、君は彼女を切り捨てる選択肢を取っても良かったのだから』
かなり痛い所を突いてくる。たった一度の会話で通話相手が只者では無いと感じながら青年の頭の中にはある予想が浮かび上がっていた、確信にも近い予想を投げかける。
「アンタか、あの客船に居る博士を連れていくように海賊に指示したのは」
『正解だ』
「ついでに言うと、アンタはブリタニア皇族の人間だろ」
『駆け引きも何も無いのだな君は……何故そう思う?』
「先ず第1に自分の所に送られてきたアドレス、あれを渡したのはたった1人だけでね。普通は誰にも教えることの無い物だが、このアドレスを知ってるって事は2通りのパターンが考えられる。これを渡した人間が裏切ったか……このアドレスを使用した形跡を見つけたか。とはいえ前者は人間性を鑑みても有り得ないと判断したから必然的に後者となる、そしてこのアドレスを知ってるって事は少なくとも博士と関係のあるそいつを態と泳がせて監視していた。そんでもって態と博士たちを泳がせていたな?」
『それで?』
「次に海賊騒ぎだ。あの海賊共が狙っていたのは身代金だとかじゃなく明確に博士と研究資料だけ、あれは誰かに依頼されてそうしたとしか言えない動きだった。最悪研究内容が無事なら良いと仮定した場合、それを依頼したのは軍部かそれよりも上の人物。アンタみたいにな」
『……他には? それだけで皇族の人間だと判別できる訳では無いだろう?』
「まぁ、な。ただ……」
『ただ?』
「この予想が当たってたら、アンタは自分らのファンって事になりそうでな」
『ほぉ……』
しばしの沈黙。離れた場所で会話しているとはいえ、ラクシャータと青年の居る部屋の空気は妙に重苦しいものが漂っているように感じた。
「アンタ、自分らが救出することを織り込み済みで海賊共を差し向けたな? 自分らの実力を測るために態と」
『何故、その考えに?』
「そも軍部の人間なら日本に亡命する技術者をそのまま逃すわけが無い、空戦型KMFの技術者であるなら尚更な。ブリタニアの領海域か排他的経済水域、または領土内で即効で捕まえて軍事的強化を図るのが目に見えてるし海賊に頼む必要も無い。なら態々泳がせておいてEU側に突入してから襲わせたのは目的の中に自分らが入っていた事になる。そうなると益々軍部がする蛮行に思えない。これを計画していたのなら根回しの量は馬鹿にならんが、それでも易々とやってのける人間になると皇族ぐらいしか居ないんでな」
また沈黙が流れる。1秒の感覚がとても長く感じられるような鈍重な空気が流れている中、画面の向こう側に居る人物は少し空気のこもったような響き方の出る拍手をしていた。
『中々の推理力だな君は……そうだ、君の言う通り私は皇族の人間だ。君を含めた鬼神兵団の実力もテストしていた、結果は予想以上だったがね』
「その口振りから察するに、博士は連れて帰られようが亡命になろうがどうでも良かったな? あーやだやだ気に食わない奴だこと。ついでに気に食わないアンタの正体も大方予想が付いてるんで耳かっぽじって聞きな」
『ほほぉ……』
「馬鹿にならない根回し、自分らの実力の計測、泳がせておいた反乱分子。こんな回りくどい事をして最後に自分に接触することが可能な人物、アンタにしか出来やしないだろうな。