日本の食文化を守るために変態技術を駆使しまくった結果 作:Haganed
食文化とはなんぞや。というように、このような○○とは何なのかといった問いには多くの人間が自らに、或いは他人に問い続けてきた。実に様々な答えが出されていったがしかし殆どが在り来り、似たような答えだけが出されていく。答えを出すことは出来ても当人の本質を表したような答えは存在するものだろうか、不意にそんな事を機内に居るシュナイゼルは考える。今回はお忍び査察というていで日本に向かっているため、普段皇宮で着ている衣服ではなく変装として水色の長袖Tシャツに薄香色の長ズボン、黒の革靴を履いてサングラスを掛けている。それでも滲み出るイケメンオーラが出ているため機内のCAの間で噂になっているが。
シュナイゼルは『大将』たる青年が持つ日本の食文化への異常なまでの執着というものをナイト・オブ・ナイン、ノネット・エニアグラムから聞き及んでいた。まるで別人のように豹変し、その異質さと歴史の積み重ねを嬉々として語り尽くすというではないか。悪い人間ではないが類を見ない程の食への執念が実体化したような人物というのが彼女の評価だがその本質が一体どういったものなのかを知る必要がある。故に問わねばならない、青年にとって食文化とは何なのかと。
で、査察という名目で色々と見て回ったわけですが。我が国が開発したKMF……正直あれをそう呼んでも良いのかはさておいてですが、ともあれそれら含めて日本文化の幾つかとこの国に居られる御親族の方々にもお会いしたわけですがね、はい。今日の夕食をまさか自分が決めることになるとは思わなんだって話なんですよ。
「君のことはエニアグラム卿から聞き及んでいたからね。君の舌が認める料理が食べられるのなら、どこでも選んでいいと言っただけだよ」
それ結局、不味いものとかゲテモノとか出したら容赦しないってことじゃないですかヤダー! ふぐの卵巣の糠漬け食わせて笑ってやろうって作戦が意味なくなったじゃないですかヤダー!
「先の発言は不敬にあたりますよ」
「まぁまぁ落ち着いてくれカノン、そうやって公言してる時は別に何もしないと思うが。それに確か、そもそもふぐの卵巣の糠漬けは毒がほぼ消えてるんだろう?」
まぁ確かにこうしてベラベラ喋ってる時点でその気はありませんよ、シュナイゼル殿下。あとふぐの卵巣の糠漬けに関しては毒は殆ど消えてますよ、何故なのか原理は全く分かってないですけど。
「社長、こちらの肝が冷えるので控えていただければありがたいのですが」
……しーらんぺったんごーりら。
「社長ォ! もうバカッ!」
「大変だね君も。ユーキ・カザマ、だったか。かなり手を焼いているようだ」
「こんなのでも変に人望はあるのが厄介なんですよ社長は」
それ褒めてんの? 貶してんの? どっち?
「ご自身の胸に聞いてみてください」
オッケー貶してもいるのね、ここで発狂してやる。ぷぅうううゔん゙! ぽぽぽぽぉおお゙お゙ん゙!
「あーもうバカ! ただのバカになってますよね社長! というか仮にもブリタニアの第2皇子相手なんですよ、発狂しないでくれません!?」
やー、だって1回本性見せたし別に良いかなって。あの時の会話なんてこれ以上にヤバいこと喋っちゃったし、今更この第2皇子からの評価が地に落ちてもどうでも良いかなって。
「マジで何やらかしたんですか社長!? 怒らないから後で言ってくださいよ社長!」
それ怒る奴の常套句じゃん絶対言わないもんねー。
「『自分らは時代に颯爽と現れたイレギュラー、自分含めたイカレ野郎どもをそう簡単に操れるわけがねぇんだよこのバーカ』とか言ってたな、そう言えば」
「なっ?!」
あっ、テメッ!
「何やってんだ大将ォ!?」
いやぁ、ちょっとヒートアップしちゃって……てひっ。
「……帰ったら説教しますからね」
えー!
「文句言える立場じゃないでしょうが!」
いーやー!
「はっはっはっ、皇宮には無い騒がしさも偶にはありかもしれないな」
「殿下、これはそういったものではないでしょう」
紆余曲折ありながらも今晩の夕食のための店へと辿り着いた一行、入口にある小さな看板に漢字で【天麩羅:菊一】と書かれてある店に入っていく。店内に進んでいくと幾人かの客がカウンターやテーブルに座っているが、4人は店員の案内で掘りごたつ席に案内されていく。一先ず飲み物を頼み、少し待って頼んだ飲み物とコース料理内の先付けが配られていく。
「これは?」
「一般的に日本で“お通し”なんて呼ばれてるものです。この場合は“先付け”と言いますが、基本的に酒と一緒につまめる料理として提供されますね」
「ほぉ……にしても君、口調が直ったようで」
「料理の前では真摯な態度で、あんな状態で食事が楽しめるとは思ってないので」
「成程。で、これは一体?」
「椎茸の寒天寄せ、というものです。出汁の味が含まれた寒天の中に甘く仕上げた椎茸を入れています、酒のお供にはピッタリかと」
「成程、では──」
早速先付けを何故習得しているのか分からない
「これは中々、考えられたものだな」
「日本では米によって味の無いものと味のあるものを交互に食す、口内調理という食事方法が発達してきましたからね。何かに合わせた料理、というのは我が国では基本中の基本です」
「成程。無味なものと濃い味のものを掛け合わせる、それぞれに味が確立したものでは、この美味さは生まれることは無いというわけか」
「その通りで。さ、この先付けで満足するのはまだ早いですよ、これからまだまだ来ますから」
先付けの後に来たのは、メインたる天麩羅と白ご飯、味噌汁。天麩羅はシンプルに大きめのエビが二尾、かぼちゃ、なす、玉ねぎ、大葉、レンコンなどの様々な彩り野菜の天麩羅、そして穴子と鱧の天麩羅が盛り付けられていた。小皿には塩、小さめの深皿には天つゆが入れられており、何もつけずに食べて良し、どちらの調味料につけても良しというスタイルで出迎えのであった。
シュナイゼルは兎も角、お付のカノン・マルディーニの方は先付けと天麩羅の美味さにどっぷりハマったらしく、食べる度に小さく「美味しい」とだけ呟いて食す手を止めない。やがてデザートとして提供された、りんごと柿の天ぷらも食し全ての料理が無くなると大体腹六~七分目ほどに満たされていく。
「では皆さん、お腹も膨れたでしょうが少々お待ちを。最後の〆を堪能していただきたく」
「シメ?」
青年は店員を呼ぶと、店主に裏を4つ用意してほしいと頼みつける。注文は無事通ったようで店主は作業を始めていくところで、青年は2人に問うた。
「御二方、今回の天麩羅料理はご堪能頂けましたようで何よりに存じます」
「ああ、とても楽しめたよ。カノンも美味しそうに食べていたし、君が選ぶ店は確かに当たりだな」
「それは何より。自分もこの店を選んだかいがありました……とはいえまだ最後に楽しんで欲しいものはありますがね。暫しお待ちくださいな」
「では待ち時間のあいだに1つ、君に質問をしても良いだろうか?」
「自分でよろしければ、なんなりと」
「君にとってこの国の食文化とは一体何なのか、是非とも聞きたい」
ふむ、と一言呟き少し青年は思考し始める。頭の中で様々な考えが浮び上がる中、強いて言うなればこれというものはある。だがシュナイゼルの問いの本質はそれでは満足しないのだろうと考え、そしてもう1つの答えを見つけた。
「自分にとってこの国の食文化とは、この命を掛けてでも守り通すべきものであると思っております」
「その為ならば、命は惜しくないと?」
「いいえ。命はあった方が良い、この国の食文化を楽しめなくなるのなら生きる選択肢も取ります。ですが自分の命がその礎となれるのなら、この命を差し出す覚悟は当に出来ております」
「では、食文化と命の両方が危ぶまれた時はその命を差し出すと?」
「状況にもよります。その命を差し出して食文化が救えるなら差し出しますが、そうでは無い場合是が非でも生きて守り抜きますよ」
「食文化と命、どちらかしか選べない状況だとしたら……君はどうする?」
「第3の選択肢を生み出して全部選べるようにします」
「……自由なのだな、君は」
そう言うシュナイゼルの言葉にはどこか落胆したような声色を帯びているような雰囲気があった。今この時までは。
「お待たせしました、裏にございます」
頼んでおいた料理が運ばれてきた。小さめの鍋に蓋がされてあり中身は見るまで何かは分からないようになっているが、蒸気穴から湯気が空へと昇っているため熱々の一品であることに間違いはない。1つずつ運ばれていく中、青年は口を開いた。
「この店、実はよく行く場所でして。店主から裏メニューを頼めるぐらいには常連なんです」
「初めて聞きましたよ社長。行き過ぎじゃないですか」
「まあまあ。ともかくその裏メニュー、天麩羅以上にシンプル且つ日本の食文化が築き上げた技術が詰まった1品となっておりますので、ご堪能頂ければ幸いです」
全員分並べられ、店員が去っていったところで青年は迷いなく蓋を布巾越しに掴んでその料理の姿を現した。大量の湯気のあと現れたのは何やらフワフワとしたものに三葉が載せられたもの、しかし出汁の香りが鼻腔を擽るそれを躊躇なくレンゲを深く突っ込ませ、下にあった出汁ごと掬いあげた。
「是非食してみて下さいな。食べた後、その料理名をお教え致します」
シュナイゼルとカノン、青年の隣にいた風間も同じように掬いあげ口へと運んでいった。
瞬間、シュナイゼルの口内に感じたことの無い味わいが広がっていく。ただ出汁の味が広がるかと思えばそうではなく、このフワフワからまろやかな味が伝わり出汁との組み合わせにより、とても食べやすく仕上げられている。
「そちらの料理名は『たまごふわふわ』、材料には卵と出汁、飾り付けとして三葉が使用されています」
「……待て、卵と出汁だけなのか?」
「ええ。卵の白身をメレンゲ状にしてから黄身と混ぜ合わせ、出汁の上に混ぜ合わせたものを乗せて蒸しただけの料理となっております」
「なんと……!」
シュナイゼルはまた口へと運ぶ。しかしそのペースは天麩羅を食していた時よりも速く、熱々で口が火傷しそうになる筈なのに舌がこれを求めて仕方ないように見える。まるで何かに取り憑かれたかのように無心に
「ご堪能頂けたようで何よりです。……して、話は戻るのですが自分にとって食文化とは何ぞやと、その問いに答えさせていただくとすれば──時を繋ぐ架け橋、と自分は思います」
「架け橋……?」
「ええ。食文化とは即ち、架け橋であると思います。過去に積み重ねた人々と食材の歴史が、今こうして我々の元で味わうことが出来、そして次に新たな料理を未来に生み出していく。そう考えております」
1呼吸おいて、青年は目の前のたまごふわふわを食べて言葉を続けた。
「この食文化を守ることというのは、言ってしまえばこの繋がりを守ると同意義に思います。過去と現在、そして未来を繋ぐ架け橋の1つが食文化であり、歴史によって紡がれゆく未来を守ることに値します。まあ、自分が言うのもなんですが──少なくとも私は、食文化を守ることが明日への発展に繋がるのなら、この命は惜しくありません。それほどまでに愛しておりますから」
「……どうやら、私は君を2度も見誤っていたらしい。いつの間にか私の目は曇っていたようだ」
他の3人が食べ終えて、会計を済ませ店から出ていくとシュナイゼルは改めて青年に向き合った。
「改めて君に頼みたい。私と協力し、あの皇帝を玉座から引きずり下ろしてほしい。……君を敵には回したくないのでね」
「謹んでお受け致しましょう、シュナイゼル・エル・ブリタニア殿。ですがあくまで、自分はこの国の食文化のために動かせていただきます」
「それで構わない……私も、毒されてしまったようだしな」
今ここに、改めて現皇帝シャルル・ジ・ブリタニアを打倒するための協力戦線が築かれたのであった。余談ではあるが、青年は風間と2人きりになった途端みっちりと説教されたらしい。