日本の食文化を守るために変態技術を駆使しまくった結果 作:Haganed
ひとまずの協力体制が整い現皇帝シャルル・ジ・ブリタニアの失脚準備に1歩前進した現在、『大将』たる青年はその日久しぶりに訪れる店へと向かっていた。ご高齢の女性が切り盛りしているだけあってか素朴な味付けが楽しめる皆の憩いの場というような雰囲気が、人と人の輪を繋ぐのに相応しい場所であることを示しているその店には色々と世話になっているのだ。主に人間関係の面で。ここ最近は色々と忙しくなった為に行ける機会も少なくなっていたのだが、今日は世話になった御礼の品物を持って感謝を伝えるのだという。しかしこの日、青年は意外な出会いをするのだが……どうなることやら。
んっふっふっ〜。ひっさしぶりーの【ゆきや】ー、喜んでくれるかねぇプレゼント。ここ最近色々ありすぎて全然行けてなかったし、今日はちょうど特に何も無かったからプレゼントも買えたし、あとはおばちゃんにこれ渡して食べて飲んで……あ゙ぁぁ、かぼちゃの煮っ転がし食べてぇなあ。美味いんだよなホントに。おっと、考えてたらもうすぐ着く距離だ。今日が開店日なのは調べたし居るよな、灯りも点いてる。
おーばちゃーん、居るー?
「あら。あらあら、久しぶりね社長さん。元気だった?」
元気元気、おかげさまで……あ、ごめん違うわ。色々あったから疲れは溜まってるかな、久々にここに来たくなっちゃって。あ、おばちゃんこれプレゼント。
「あらまぁ態々、ありがとうね。ささ、座って座って」
はいはーい。にしても今日は早く来すぎた? 自分以外にお客さん居ないね。
「まぁまだ8時だもの、良かったね。今は貸し切りだよ」
いぇーい、ひっとりじめー。
「それより、あの綺麗な彼女さんとは来てないのね」
おばちゃん、彼女じゃないってだから。どっちかって言うとラクシャータは姉みたいなもんだし。
「あら良いじゃないの、姉さん女房の方が貴方は上手く行きそうだもの」
だーかーらー、ちーがうっておばちゃん。それにそんな浮ついた話が出てくるような間柄でもないんだって。
「あら、彼女さんのことは女としてみてないのかい?」
そうは言ってないじゃん。そりゃ魅力的だよとっても、性格は人を選ぶけど。
「なら良いじゃないの、お互いが気を許すぐらいの仲の方が結婚には向いてるわよ。それにあんな美人、放っておく男なんてどこの世界探しても居やしないよ。取られちゃっても知らないよ?」
あー良いの良いの、自分以外に仲睦まじく楽しめる相手だったら祝福するよ。つまるところ自分以上に気の合う仲の誰かが出来たら……まぁ、ちょっと失恋気味にはなるけど祝福ぐらいはする。
「頑固ねぇ、貴方も」
色々ありましたからなぁ。あ、おばちゃん注文頼んでいい?
「はいはい。今日は何にする?」
えーっとじゃあねぇ……
刻一刻と時間は過ぎていき9時半に差し迫る中、居酒屋ゆきやの小さな店内に客が入ってくる。少しだけ忙しなくなりそうだと思っていた矢先、同じことを考えていたであろう店主の女性はこの家屋の2階に向けて声をかけた。
「美咲ちゃーん、厨房お願いできるかしらー?」
「今行くー」
白飯、かぼちゃの煮っ転がし、鯛の煮付け、ほうれん草の胡麻和えと1杯の麦焼酎を頼み、それら全てを楽しんだあとの青年は店主の女性に質問を聞く前に「この声なんか聞き覚えがあるな」とお冷を飲みながら考える。何だったろうかと考えが纏まる前にその答えは自ら階段を降りて現れ、その容姿に青年は飲んでいたお冷の中身をまたコップに戻す羽目になってしまった。
団子に纏められた長い緑髪と先程の声という時点で既に階段から降りて現れた女性の正体に気付いたが、まさかこのような場所に居るとは思わなかったのか珍しくただ呆然と彼女を見ていた。その視線に気づいた、美咲と呼ばれた女性はこちらの方を見て青年に訊ねた。
「何だ? 珍しく思われるのは違いないが、そこまで女をじっと見つめるのは宜しくないのではないか?」
「……あー、そうだな。悪い」
「じゃあ美咲ちゃん、よろしくお願いしても良いかしら?」
「任せておけ」
この女性のことを青年は知っている。美咲、というのもこの店で通している偽名であるのは違いない。そもそもの名は
「あー、おばちゃん。いつの間に従業員雇ってたのさ?」
「あぁ、美咲ちゃん? ちょっと昔の知り合いに“最近腰が辛くて立ちっぱなしの作業がキツい”って愚痴ってたら、じゃあウチの姪っ子に頼んでみようかって。調理師希望だったから試しに雇ってみたら凄いのよー美咲ちゃん! 料理も美味しいし手際も良いし何より若いから凄く助かってるの!」
「お、おぅ……そうなんだ」
確実に嘘である。そんな確証が持てるぐらい店主は堂々と言ってのけた、ここで迷いなく嘘のように思えそうにない嘘をつく店主に苦笑いが隠せない。しかもちゃっかり話題を変えようとしている辺り手馴れているので更にタチが悪い、とはいえC.C.の境遇などを考えると嘘をつかなければならない事態であるのは否めない。寧ろ本当のことを言っても色々と面倒なだけであるし何より誰も信じようとしないだろう、C.C.のことを知っている人間でない限り。
そしてC.C.自身も現状おそらく狙われている真っ最中だろう。面倒な輩が来る可能性は大いにあるものの、今この場で彼女の保護を優先的にしたとしても一体なぜ連行されなければならないのか、といった整合性が無い。今のところ問題という問題は起きていないようだが、起きる可能性は十二分にあるため定期的に来る必要が出てきたのであった。
「あー、おばちゃんご馳走様。お勘定お願い」
「はいよ。1580円ね」
「ほいほい」
料金を支払って、さて帰ろうかと思っていた矢先ふとC.C.と視線が合った。すぐにC.C.の方は調理に視線を戻し、青年もまた出入口の方へと視線を向けてそちらの方へ歩いていく。引き戸を開けて暖簾をくぐろうとした所で、店主に向かって「また来るわー」とだけ告げて外へと出て扉を閉めた。
「……さて、これから定期的に通わざるを得なくなったな。どうしよ、ひとまずナノマシンを入れて位置情報を確認しておくか? あとは何しよう、ひとまずウチの奴らにも……いやいやそれもどうか────」
そんな小さな独り言を呟きながら、ゆっくりとした歩みで帰路へと着き、その途中でドラッグストアにて安いお菓子類を買っていったという。