日本の食文化を守るために変態技術を駆使しまくった結果   作:(´鋼`)

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 定例会の最中に突然首相からの連絡を受け取った『大将』たる青年は、かつてブリタニアが送り込んできた人質の少年と会って話し合いをしてほしいと頼まれ、“遂に動いたか”と内心そう思いながら了承し、様々な予定の隙間を縫って話し合いの時間を見繕う。その正体を既に2つの意味で知っている青年は、今の少年がどのような決断を下し、何ゆえにそうすることを選んだのかを問わねばならない。ブリタニアに対する戦力としても子どもとはいえ十二分なものではあるが、青年は“答えによっては協力体制を取らない”とも思考している事も視野に入れている。それが何を意味するのかは、これから起きることを見た方が早いだろう。

 

 

 

*─────*

 

 

 

 現在青年は京都六家が使用する会議用の建物内に居て、そこの女中にある一室へと案内されているところであった。この場所に青年は何度か訪れたこともあり、こうして会談や密談を行うことは稀にあれどこの屋敷に招いた相手があのブリタニアからの人質の少年であることに関しては初めてだろう。そしてわざわざ外交官などではなく彼を呼び寄せたという事実も同様に。

 

 

「こちらでございます」

 

 

 目的の部屋前で止まり、女中が襖を開けた場所へと入っていく。上座側にて座って待っていた1人の少年、この少年のことを青年は一方的とはいえ知っている。この世界に来る前も、この世界で過ごした人生の中でも。この名前は忘れようがないだろう。女中が一言伝えて襖を閉めて、部屋に2人きりになったところで少年が言う。

 

 

「初めまして、P.S.S.代表取締役社長殿──いえ、『大将』とお呼びした方がよろしいか?」

 

「お好きな名でお呼び頂いても構いませんよ、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア殿下。本日は自分のような一介の平民をお呼び頂き、疑義の念を抱きながらもお伺いしました。此度はどのようなご用件で自分をお呼び致したのでしょう?」

 

 

 あくまで青年は、初めての相手と相対する場合に行う丁寧な口上でそう問うた。この少年、原作通りの展開では主人公として活躍する筈のルルーシュが、今何を求めているのかに関しては多少の予想が出来る。言ってしまうのなら、これは単なるテンプレートのような答え方というやつであった。

 

 

「おや、それは可笑しいですね。貴方は既に知っている筈では?」

 

「ふふっ、失礼しました。ご挨拶のつもりでしたが、お気に召さなかった御様子。どうか無礼をお許しください」

 

「構いません。どうぞ、そちらに」

 

「有り難いお言葉感謝します」

 

 

 ルルーシュが自身の前、部屋全体からすれば下座の方にある座布団を示し青年は畳縁を踏まないように歩いて、その座布団へと座った。身長差による視線の高低差はあれど、ルルーシュの表情は冷静に青年を見定めているよう。当の本人は取り繕ったような笑顔をしたまま、逸る気持ちというものを全く読み取れなくしている。早速、今回の対談の目的をルルーシュから提示した。

 

 

「率直に頼みます。私の父、現ブリタニア皇帝であるシャルル・ジ・ブリタニアを皇帝の座から降ろしてほしいのです」

 

 

 シュナイゼルの帰国前、ルルーシュとその当人は再度会っていて青年の性格の一端を聞き及んでいた。シュナイゼルからの評価は“己の欲を満たす為に全てを利用する人物”であり、“真っ向から予想通りにならない行動を取る例外”と。これらの評価がシュナイゼルからのものであるが故、ルルーシュは思考を重ねてありとあらゆる問答をシミュレートしてきた。

 

 しかし今こうして相対している今も、予想通りにならない例外という評価によって未だにどのような返答や問いかけがこようと最適解を出すために思考を続けている。そんな状態である中、青年は口を開き言った。

 

 

「構いません。自分のような人間の微力であれば何時でも」

 

 

 そう一言だけ告げて、少しの静寂が部屋全体を占めた。時間にして5秒ほど経っただろうか、一向に条件について何も言わないのでまたルルーシュから始まるのであった。

 

 

「……今その対価として差し出せるものは私の手元にはありません、そのため事が終わり次第になるのて協力の対価はそちらの一存で決めて頂いて構いません」

 

「そうですか」

 

 

 また青年は一言だけで終わらせたため、同様に部屋は少しの間だけ静寂に支配された。他にも何か言うことはあるだろうに、これで話を終わらせるつもりかと少し苛立ちながらもルルーシュは問うた。

 

 

「肯定だけされるのがお得意のようですね」

 

「実は否定も得意だったりしますよ。ただ、殿下の仰った内容に関しては特に自分からは何も言うことがありませんので……ああ、ですが自分からも幾つか質問をしてもよろしいでしょうか?」

 

「どうぞ」

 

 

 ちょっと投げやりになり始めたルルーシュ、幾ら皇族としての教育を施されたとはいえ中身はまだまだ青い子ども。どこか人を煽るような態度で接している青年に対して苦手意識が芽生え始めているが、そんな事は露も知らない青年はルルーシュに対して問うた。

 

 

「では失礼して。殿下、貴方の欲はどのようなものですか?」

 

「……欲?」

 

 

 唐突な質問であった。今この場で行われているのは協力を取り付けるための話し合い、たった今すぐに終わった事だったとしても意味を見出しにくいその質問に対し、ルルーシュは考えながら青年の言葉に耳を傾ける。

 

 

「自分の率いる鬼神兵団の面々や、会社の新入社員にも問うている事でして。これらの内容を聞いて色々と判断してきましたので、是非とも殿下の欲をお聞きしたいと思った次第です」

 

「──私は、私の欲は、妹を守ることです」

 

「ああ、ナナリー・ヴィ・ブリタニア様を」

 

「ええ。ナナリーの平穏と安全のためなら、どのような苦難をも受け入れるつもりです」

 

「良き兄妹愛です。とても貴いものなのでしょう……そこでルルーシュに無礼を承知でお聞きしますが」

 

 

 その言葉のあと、青年は取り繕ったような笑みを消してルルーシュの目を見る。何かが来ると身構え、その何かを聞いた途端ルルーシュは目を見開く。

 

 

「貴方は自身の愛する者に、今のこの世界を全て包み隠さずお伝えできますか?」

 

「……はっ?」

 

「非情で無常な現実を伝えることが、彼女を──ナナリー様を守ることになるとしたら、貴方はそれを受け入れられますか?」

 

 

 

 ルルーシュの頭の中は、なぜ今このような事を問うてきたのかという疑問よりも先に自分の妹に、今この世界で起きている現実を全て包み隠さず言えるのかという事に思考を取られている。だが答えは、とっくに決まっていた。

 

 

「ナナリーは……ナナリーには、この世界で今何が起こっているのかを伝えるべきではない。伝えてはならない……!」

 

「────そうですか」

 

 

 その答えを聞いた青年は、それだけを言って立ち上がり先程入ってきた側の襖へと向かい始めた。

 

 

「?! ま、待て! なぜ帰ろうと」

 

「──明日、またこの時間に来ます。次に来た時、少しはマシな答えを待っていますよ殿下……場合によっては、貴方がたに付く意味も無くなりそうですが」

 

「どういう意味だ……?!」

 

 

 青年は冷徹と表現するべき表情をルルーシュに見せ、背を向けながら顔だけ振り返って言った。

 

 

「今の貴方の答えで、貴方は目的のために自身の1番大切なものを賭けることの出来ない臆病者であることが分かりましたので」

 

「何だと……」

 

「自分、貴方のことを子どもとか皇族の人間とかで見てません。あくまで目的を為そうとする1個人として接し、質問の返答内容の結果あなたに与する理由が無くなりかけております。……あと2回、あと2回の猶予は与えましょう。それまでに良き返事を期待しております」

 

 

 こうしてあと2回、この話し合いの場が設けられることになったのだが結果はあまりにもよろしくない方向へと進んでいこうとしていたのであった。

 

 

 


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