日本の食文化を守るために変態技術を駆使しまくった結果   作:(´鋼`)

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 1度目の出会いは、散々な結果だったとしか言いようがないものになってしまった。無理もない、と言ってしまったらそれまでなのだが、そう上手くいかないのが人と人が仕合わす事なのだろう。『大将』たる青年とルルーシュは本質的に反り合うことのない人物だった、その事実だけが分かったに過ぎない出会いであったことしか分からなかった。この時はまだ、その程度の事しか知りえない。

 

 

 

*─────*

 

 

 

 翌日。京都で一泊することを関係者各位に伝えて会社の方を風間に任せ、また京都六家が使用する会合場所まで赴いていた。とはいえ当人の表情はどこか虚無感に包まれたような、そんな顔をしていた。とはいえ青年は自身の見立てが甘かったのやもとも考えた、相手はまだ10代の子どもであり本来であればこれから色々と学んでいく歳であって強大な1国を、父親である皇帝と戦うために青年が求めた覚悟を持つ事に関しても早すぎるのだから。だが青年はこれを含めて後2回、まだ少年であるルルーシュと話し合わねばならない。

 

 青年は正直な所、自身が求めている答えやそれに類する行動言動のヒントを出したくはない。彼は1人の人間が自らの欲望や己の思う答えを臆することなく、理不尽な現実を受け入れながらも、それを打ち壊し己の持つ欲望を形にする“理想の叶え方”を言い切って欲しい。それが青年が求めている覚悟、相手に押し付けるには高すぎる理想の人間の有り様であった。

 

 しかし現状は、この通り。2度目の対談であってもルルーシュからの答えは物凄く在り来りで、青年の気が削がれるような何とも腑抜けた答えだった。それは仕方ないと片付けられる現状であったならば渋々ながらも青年は協力しただろう、だが今のルルーシュはブリタニアへ反旗を翻す選択を取ろうとしている反逆者なのだ。並大抵の覚悟は既に持っているのだろうが、それ以上の狂気を持ってもらわねば困るのだ。

 

 

「…………殿下、貴方の仰りたいことは分からない訳じゃありません。寧ろ大切なものや人を賭けることの恐ろしさ、自分にも理解はあります。負けた時の事を考えると安全な方へと走りたくなるのもよく存じ上げます。決して誰の介入もない場所に避難させておきたい事にも」

 

 

 何はともあれ、前置きは要る。前置きなしに物を言ってしまうのは道理に合わないと考えているだけだが、意見の肯定から入るというのは案外重要なことである。

 

 

「しかしながら殿下、貴方は父君であるシャルル・ジ・ブリタニアと戦う選択肢を選んだ。その選択に伴う賭け金を貴方は()()()()しなければなりません。いえ、そうせざるを得ないのです。断言しましょう、貴方が大切にしているものを全てベットしなければ真の意味での勝利には至れない。貴方が望むものが手に入ることは無いに等しいのです。その全てを賭け、貴方は挑まねばならない」

 

 

 表情が変わる様子はなく、青年はただ淡々とそう告げていく。それに対しルルーシュは思考する。兄であるシュナイゼルからの評価通りの人物であった事を改めて実感したことで、青年が求めている答えがどんな物であるのかを理解はしているのだ。けれど、それをするにはまだルルーシュは幼かった。たとえ嘘でも大切な妹を巻き込むようなことだけは避けたいと願っている、故にただ押し黙る選択肢しか無いような状態に陥っていた。

 

 が、その様子を見兼ねた青年は長く息を吐いて目を瞑り暫く考えるような素振りを見せたと思いきや、青年は口を開いた。

 

 

「……分かりました。そこまで妹様のことを思うのであれば、貴方は別の選択肢を選んだ方が良いのでしょう。その方が貴方にとっても都合がいい、何も知らず何も知らせず蝶よ花よと愛でて、貴方を落ち着かせる()()()()にすれば」

 

「…………!? お前ッ」

 

「おや、何か間違ったことを申し上げましたか?ナナリー様は貴方の愛玩人形として」

 

「それ以上その言葉を口にするな下郎!」

 

 

 それを皮切りにルルーシュの纏う気配が表情とともに変化する。当然のことだ、自身が愛する妹のことを愛玩人形などと呼ばれて激昂しない人間など居ない。当たり前のことである、しかしその当たり前は自らの本質を隠していく事に今この時は気付いていない。

 

 

「お前に何が分かる!? ナナリーが何を味わってきたと思ってる!? 母さんの死でショックを受けて目は見えなくなり、足も動かなくなって、挙句の果てには死んだことにさせられかけて……俺の事はどうとでも言えばいい! だがナナリーにこれ以上苦しみを味わってほしくない、だから守らなければならないんだ! それをお前は……!」

 

「お言葉ですが」

 

 

 青年はルルーシュの発言を遮り、ヌルりと彼の目の前に顔を近付け頭部の左右を両手を使って覆うように掴み押し倒す。そしてルルーシュは青年の目を見た、見てしまった。ギラギラと目の奥が鋭利的に狂気的に、そう光っているようにも思える恐ろしい視線を。

 

 

「その貴方の惰弱な発想こそ、ナナリー様を愛玩人形にしてしまうのでは無いのですか?」

 

「どういう意味だ……!?」

 

「確かに苦しみを味わって欲しくない、ええそれは至極当然の思いでしょう。ですが考えても見てください、ただただ都合のいい情報を与え、現実の苦しみから意識をそらせ、夢想に浸らせる……これは人間としてあるべき姿なのでしょうか? いいや違う筈、違う筈だルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。それは人間が受けるべきものでは無い、そのような形で生きてきた人間の末路は傀儡や人形のそれだ。お前はお前自身の手で妹を人形にしているのさ、それが本質だ」

 

「違う、俺は……!」

 

「何が違う!? ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア!」

 

 

 この対談で初めて、青年は怒号を発した。まるで、その現実や本質から目を逸らすなと憤っているように。

 

 

「妹を人形扱いするな? だったら先ずお前が妹に現実を教えてみせろ! お前がしようとしている事も、今お前たちがどんな状況に置かれているのかということも、全て! 課せられた現実を見せ、その上でお前自身が何をしようとしてるのか、妹に自分はどうしたいのかを聞いてみろ! そうすればお前は願いの先に進める! 妹は人形ではなく人間として生きられる! それさえ出来ない人間に、願いを叶える資格も何かを兎や角言う資格など微塵も無い!」

 

「言わせておけばぁッ!」

 

 

 鈍い音が両者の間で鳴った。ルルーシュの頭突きに合わせて青年は首を動かし標的を鼻っ柱ではなく額に変えたことで鳴ったものであり、その結果ルルーシュは額を痛めてその箇所を抑えたが青年は痛みはあるものの特に表情の変化は見られず、そのままルルーシュから離れた。赤く腫れているであろう箇所を抑えもせず、痛がりもせず。

 

 

「あと1回だ。今度は1週間後、それまでに自分が納得できる答えが出なければお前との協力は破棄させてもらう。その意思と無関係にお前と妹をブリタニア本国へと送り返す手筈を整えよう、その事を努努忘れるな」

 

 

 それだけ言い残して部屋から退出していく最中、ルルーシュから小さく啜り泣く声が聞こえたが青年は気にせずそのまま帰っていった。

 

 次に行われるのは1週間後に決定した最後の対談だが、今はどんな現実よりもルルーシュはただナナリーのことを痛む頭で考えていたのであった。

 

 

 


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