日本の食文化を守るために変態技術を駆使しまくった結果   作:(´鋼`)

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食文化もそうだが不当な扱いから人を守るのも必要

 

 

 

 『大将』と呼ばれる彼は日本の食文化を愛してやまない。世界的に見ても独自の発展を遂げてきたその背景には人の手で長きに渡り培ってきた技術あって、ようやく現代に生きる日本人は安全に食べることが出来るようになった。その歴史の重みと研鑽の上に自分は成り立っていることを転生前からも理解し、そして新たな生を授かってその価値観はますます強まっていった。人が食材を、技術を用いて調理して始めて料理という至高の芸術品が完成するのだと、周囲の人間がドン引きするぐらいに熱弁するほど愛してやまないのだ。

 

 食材と人と技術、どれも欠けてはならぬファクターであることを理解しているからこそ、その延長線上で彼は人間性を重要視する傾向にある。その人間性が歪なものであれば見かけ上は芸術品たる料理でもその美味さを真に発揮することは叶わないと考えている。語弊を恐れずに言うならば、愛なき料理に美味さは宿らないという思考の持ち主であるのだ。そして必然的に愛ある者が不当に扱われることを嫌っている、その不当な扱いは愛ある者にとって侮辱に等しいと考えているために。

 

 

 閑話休題。

 

 

 話は変わるが、バタフライエフェクトというものをご存知だろうか。ある事象の変化が初期条件に極めて依存する場合に見られる予測不可能な挙動のたとえだが、早い話が過去の選択によって結果が変化するといった内容のそれだ。そして本来流れる筈だった時間軸が、この青年の介入により変化していったことで別の結果を生み出した。青年がこの事を思い知るのは、ほんの些細な出来事からであった。

 

 

 

*─────*

 

 

 

 最初はただの偶然かと思った。自分はただ今から昼飯として牛丼チェーン店に行こうと考えてトライクに乗り込み、たまたまいつもの道が混んでいたため別の道を使用し、たまたま橋の近くを通っていただけだった。まさかそこで飛び降り自殺でもしかねないような面持ちで欄干をよじ登っている子どもを見かけて、慌てて止めに入った子どもの正体が────

 

 

「ほぁ…………!」

 

 

 紅月カレン(原作キャラ)の幼少時代とは誰が想像つくよ。跳ね癖のある赤い髪に日本人離れした顔付きに加えて、自分を目にした途端キラキラと目が輝き始めて自己紹介し始めたんだもの。原作の知識が中途半端にしかないとはいえ、主要キャラの名前とビジュアルは多少覚えていたから内心動揺している。とはいえ、原作の紅月カレンが成り立つのはブリタニアの侵攻が成功して日本が支配下に置かれたからであって、この世界では全く違う道を進んでいるのは既に周知していた筈だったが……そういやスザク君とは前に何度か会ったことあるのに、ルルーシュ(原作主人公)は全然見かけてないな。

 

 それはともかくとして、現在小学校高学年ぐらいの時期だろうか。今の時期だと夏休みにはまだ早いし、時間帯的にも昼休みの時間が終わりそうな頃だし、ランドセルもなしに着の身着のままといった具合で何かあったなと予想できる。そんな時間帯に出くわしたのだから腹の虫がカレンの方から聞こえてくるのも必然で、色々と悩んだ結果惣菜パンなどを購入して河川敷で昼食を取る事にして何故こんな時間に居るのか聞いてみることにした。

 

 ただまぁ、用意してくれた惣菜パンは食べてくれるもののなぜ1人で橋の欄干を上っていたのかは教えてくれなかった。なのでアプローチを変えて暴いてみるとしよう、ちょっと倫理的にあれだがナノマシンを彼女の体内に潜行させて心理的影響による身体情報の変化をリアルタイムで確認できるようにして推理してみよう。

 

 とはいえ何となく想像は付いている。学校に戻らない様子からして戻りたくない要因があるのは確実だろうし、それが何なのかと考えれば容姿などの違いからくる虐めが該当する。学校で嫌なことでもあったか、といった風に聞いてみれば惣菜パンを運ぶ手を止めて食事を中断してしまいそれから会話を試みようとしたが何も話さなくなってしまった。ふーむ、こういう時って自分も似たようなことされた経験話すのが良いのかもしれないけど同情するなとか言われたら打つ手がなくなるしなぁ。まあダメでもともとだし言ってみるか。

 

 

 

 

 

§─────§

 

 

 

 

 

 およそ8年前のこと。当時青年は後々起こる悲劇に対する策を練り、そのための活動を行っていた。その上で出席日数に不備が無いように普通に学校にも通っていたが特定の男子グループからイジメにあっていると認識していた、とはいえ自分に向けられる奇異の視線や子どもというには大人び過ぎた態度が“調子に乗っている”と思われることに関しては至極どうでもよかった。相手はまだ何も知らない子どもであったから、それらが人を傷つけかねないと知らない無知な人間からは自分から遠ざかっていた。それだけで事足りたのだ。

 

 しかしある時、同クラスに居たその男子グループが嫌がらせのつもりだったのかクラス全員が食べるはずだった汁物に虫を混入させる事件が起きた。クラス内の生徒や担任から非難されることになった彼らだが、非難を浴びせられることよりも恐ろしい目にあってしまった。淡々と青年が割り当てられた食器にその汁物を注ぎ、嫌がらせをした男子グループのリーダー格に休む暇を与えず虫入り汁物を飲ませまくったのである。逃げようとした場合は急所である腹部を蹴って動けなくして、口を無理やり開かせるために顎を殴って無理やり開かせて流し込んだ。

 

 とまぁ、ここまでの事をすると様々な人間が関わってくるのは必然であった。過去にやられたイジメのことを伝えれば教育委員会や役所の人間が関わり問題解決に尽力したのだ。そこで改めて彼は気付いた、そういえば解決できない問題に人を頼ったのだからイジメ問題に対しても人に頼れば良かったということに。そうすれば無駄に長引くような事態にはならなかったということに2度目の人生で今更気付かされたのであった。

 

 ここまで話し終えて彼はパンを1口食べ、青年はカレンの問題を解決したい意志を伝える。ただしあくまで2人は他人であり青年から直接何かすることは出来ないと前提を述べて、彼は人に頼ることを選んでみるのはどうかと告げた。少なくとも彼女の問題を解決することに誰も迷惑だとは思う事はないし、それを解決するために動きたい人間は居ると言ってナノマシンで強化させた視力で見つけた、こちらにやってくる人物を見やった。

 

 彼女のクラスの担任教師が探しに来ていたのだ。少なくとも1人は君を助けたがっていると認識させて、彼女の身体情報に揺らぎが生じ泣きそうになっていることを確認すると彼女の中にあるナノマシンを消化物と混合されるようにして機能を停止させた。彼女の担任教師と合流すると、カレンは助けてと一言だけ発した。その後、詳しい話を聞くために学校の相談室で話をすることが決定した。

 

 後のことは話を聞いた担任教師が役員に話を通して問題解決に取り組むだけ。他人である自分に出来るのはここまでと判断した青年は最後に彼女に名刺を1枚差し出して別れを告げた。

 

 余談だが、後日何やら政府の人間が慌ただしかったらしい。おそらくこの1件とは何の関係もないだろう、多分。

 

 

 

連載に変えるべきか、短編のままで良いか

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