日本の食文化を守るために変態技術を駆使しまくった結果   作:(´鋼`)

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昨日の敵は今日の飯友、明日の被害者

 

 

 

 とある日に青年は民間警備会社社長として電話を取った。電話の相手は枢木ゲンブ首相その人であり、今回は仕事の依頼を彼に頼みたいとのこと。仕事内容はブリタニア側から派遣される特使の護衛、国交の修復といった目的で外交官同士の対談や日本文化に触れるという試みとして京都観光、そして現在開発生産中の日本製KMFの視察が行われるという。運行ルートや訪れる予定の店などのリスト、今回の護衛対象である外交官のリストは明日送付するされることを確認したが電話が切られる前に枢木首相は青年も参加するようにと告げられる。

 

 何故と問うた青年にブリタニア側から『大将』の参加を要請する意見が出たのだとだけしか伝えられず、大将の名を知っているとしても今や世界がその名を認知しているため誰が要請したのか検討がつかない。その要請をした者の名前を確認すると『ノネット・エニアグラム』と呼ばれるブリタニアの貴族ということらしいが、一先ず明日届く書類を確認して派遣する人員の相談をすることにして通話を終える。そして翌日、届いた書類から護衛対象となる人物を確認していくと、何故か覚えのある顔の人物が確認できた。──あの時の色付きグラスゴーに乗ってたパイロットだった。

 

 

 

*─────*

 

 

 

 …………はぁ。

 

 

「たi……失礼、社長。溜息が多いようですが」

 

 

 溜息出たくもなるよそりゃ。何であの時のグラスゴーに乗ってたパイロットがよりにもよって外交官に抜擢されたのかとか、実はブリタニアでもかなり地位の高い貴族様でしたとか訳分からん事ばっかで速攻で疲れちゃったのよ。で、あろうことか捕虜として捕まえたの自分だしどんな顔すれば良いのよこういう時さ。

 

 

「笑顔でいればよろしいかと」

 

 

 簡単に言ってくれるねキミ、まぁ実際そんな対応でやるしかないんだろうけどさ。……気晴らしに音楽かけていい?

 

 

「通信には出られるようにしておいて下さいよ」

 

 

 はーい。んーと……マキシマムザ○ルモンと打首○門同好会どっちにしようかな。

 

 

「大将せめて別のでお願いします」

 

 

 えー、じゃあ○名林檎にしよ。……って、こんな時に何の通信? んッん゙、はいこちら『やあやあ大将殿! 改めて息災かな?』……どのようなご用件でしょうか、エニアグラム卿。一介の民間警備会社の代表取締役に貴女様の興味を惹かれる話題は御提供できかねますが。

 

 

『連れないなぁ、私と君の仲じゃないか。ああ、あの時の事は別に気にしてないから安心してくれ。あれも戦場の常、まさか自分がとは露にも思って無かったがなったものは致し方ない。代わりに良い経験もさせてもらったしな』

 

 

 勿体なきお言葉感謝致します。して、再度お聞きしますが私のような一介の平民に何用でございましょう?

 

 

『平民? 君がか? すぐにでもラウンズに組み込まれても可笑しくないのにか……まぁその事は良いとしよう。用といっても大した事じゃない、私にこの国の食文化を教えてもらいたい』

 

 

 ……本日のご予定に京都の名所案内がございます、そちらの方で伝統的な日本食文化も味わうことが出来ますので私の解説などは不必要かと思われますが。

 

 

『では言い方を変えよう。君と2人きりで食事をしたい』

 

 

 何か電話の向こうが騒がしく聞こえておられるようですが申し訳ありません、そのご要望は引き受けられません。御身に危険が生じれば国際問題に発展しかねませんので。

 

 

『何かあっても君が守ってくれるだろう? それとも、私1人も満足に守れない人間なのか君は?』

 

 

 ……でしたら他の方々に許可を得てからにしてください。許可さえ取ってもらえば何なりと何処へなりと御付き合いさせていただいても構いません。

 

 

『許可だな? 分かった、約束は守ってくれよ?』

 

 

 P.S.S.代表取締役として二言はありません。

 

 

『ふふん、なら期待して待っていると良い』

 

 

 通信がきれた……ふゔゔゔゔゔゔゔゔゔゔん゙ん゙ん゙ん゙ん゙???!!! ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぱぁあああん!

 

 

「大将が壊れた……あ、大将目をかっぴらいたままこっちににじり寄らないで下さい。ちょ、キモイです大将。いやこっち来んなこっち見んな」

 

 

 

 

 

§─────§

 

 

 

 

 

 結局、どのように許可を出したのか定かではないがノネット・エニアグラムと青年は2人きりの晩食会をすることが決まった。彼女の方は既に夕食は済ませていたが、今回のために少し量を控えたらしい。青年は心因性の胃痛が発生しかけたがナノマシンで無理矢理健康状態に戻された上に彼女に連行されたのでどう足掻いても行かざるを得ない状況になってしまった。こうなったらヤケだと思い立った青年はまず目的地に向かう車の中で自分の顔と彼女の顔を、人工知能キャスターの統治下にあるナノマシンによって()()()()()()()()()。青年や鬼神兵団の面々はこれを“カバーサーフェイス”と呼んでいる。そうして顔を変えた青年は目的地が近付いている事を確認すると、まずは訊ねた。

 

 

「して、エニアグラム卿」

 

「今はノネットさんで良いぞ。ああでも別人だから同名はマズイか……何か良いのないか?」

 

「でしたらエネリアと呼ばせていただきます。私もイツキとお呼びいただければ」

 

「ふむ、諸々了解した。してイツキ、今はどこに向かっているのだ?」

 

「その前に質問してもよろしいでしょうか。エネリア様は日本食についての知識は」

 

「それなりに調べさせてもらった。スシ、テンプラ、タコヤキ、オコノミヤキ、マッチャ」

 

「では今回は初めて知る日本食になりますね」

 

 

 目的地前に到着した車の運転手が後部座席左側のドアを開け、2人は外に出た。シンプルながらも清潔感のある漆喰壁に横開きの扉、扉前にかけられた暖簾に“おでん”の3文字。店の中へと入っていくと出汁と様々な具材の香りが鼻腔をくすぐり青年の食欲が活性化し別腹が作られた。「らっしゃい」と厨房に立つ店主の声のあと予約していた2人だと伝えるとカウンター席に案内される。客といえる人物は今この2人だけとなっているため、この2人が喋らなければ厨房から聞こえる調理音が風情を感じられるだろう。

 

 

「イツキ、ここは?」

 

「日本食文化の1つ、おでん屋です」

 

「オデンヤ?」

 

「“おでん”という日本の煮込み料理を味わえる店です。基本は鰹節と昆布で取った出汁に様々な具材を長時間煮込ませたものになっております。予約のさい、店主のオススメを頼んでいるので少々お待ちを」

 

 

 従業員から出されたお冷とは別に青年は緑茶を、彼女には日本酒を頼みそれらが来たところでグラスを軽くぶつけ合った。

 

 

「「乾杯」」

 

 

 グラスを傾けて1口飲むと、ちょうどよく店主が注文した品を2人に出した。深めの器の中には大根、ちくわ、はんぺん、味噌蒟蒻、ゆで卵、筍、牛スジ、ミニトマトが突き刺さった串が所狭しと入っている。静かに両手を合わせ、いただきますと彼は言う。

 

 

「日本の食前の挨拶だったな。いただきます」

 

「因みにですが、どれから手をつけても構いませんよ。あと串をそのまま持って食べていただくのが基本となります」

 

「ほう、このまま」

 

 

 青年は迷いなく我先にと、はんぺんから食していく。次いで彼女は少し悩んだところで大根の串を取り、口元へと運んでいき1口食した。瞬間、口の中で旨みの洪水が溢れ出す。熱い、熱いのは確かだがそれ以上に美味いと確かに実感した。優しいながらも鰹節の味がほんのり僅かに分かるように調整された出汁の割合をもっと味わうべくまた1口、また1口と串を持つ手と食す為の口を動かしていく。ほとんど無我夢中だった彼女の手にある串に大根は気がつけば無かった。そしてただ一言、彼女は「美味い……」とそう呟く。それを聞いた青年はニヤリと微笑む、まだまだ落としがいがあると考えて。

 

 次に彼女が手に取ったのはトマト串だった。出汁の本流を味わった彼女だがミニトマトとこの出汁が合うのか予想が付かなかった、しかしあの旨味を今舌が求めている。ここで食わずして何時食うと言わんばかりにミニトマトを食した。そして口内がまたも蹂躙されていく。トマトの甘みが出汁によって引き立てられ、驚きのあまりか彼女は目を更に開いた。そして意識が現実に引き戻された途端に彼女はトマトを求めた、そして気付けば全て無くなっていた悲しさに出会した。

 

 

「それがおでん、出汁が溢れることで我々の味覚を蹂躙し尽くす日本が誇る料理の1つです」

 

「これが……おでん」

 

「ええ、そしてこうした専門店でなくとも大衆が気軽に味わえる料理でもあります」

 

「なにっ?!」

 

 

 青年もまた食す度にその表情を綻ばせ、串に手を伸ばしていく。手に取ったのは味噌蒟蒻、しかし串を持つ手を一旦止めて彼女にそれを見せつけながら彼は口を開く。

 

 

「日本人にとって、おでんといえば蒟蒻というぐらいにこれは親しまれてます。ですが蒟蒻は有毒植物を元に加工された食材となっております、諸外国では蒟蒻は悪魔の舌なんて呼ばれ方をされているようですが我々はこれを何の恐れもなく食してきた。何故か?」

 

 

 別の意味で驚いた彼女を尻目に味噌蒟蒻を迷いなく口に運び、それを食した後に彼は続けて言った。

 

 

「我々の先祖が、これを食いたいとそう望んだ時から探求し続けたのです。そうして安全に食べられる方法が見つかり、我々は死の恐怖に怯えずとも有毒植物を材料にしたこれを食せることが出来た。つまり積み重ねられた歴史の裏打ちによるもの、そしてこれが自分が愛する日本食の素晴らしさ、その一端。

 

ブリタニアに負け、文化圏が陵辱されればこの歴史が無かったことにされる……自分にはそれが我慢ならなかった。故に戦い勝利をもぎとった、この国の食文化のために! どの国も真似しようとは思わない食への執念を否定させてなるものかと!」

 

 

 一人称が変わり、語気が荒くなるほどに熱弁した青年は呼吸を置いて自らを落ち着かせ、急に叫んでしまったことを謝罪しつつまた串に手を伸ばしていく。だがそのおかげか彼女はその思いの大きさを図り知ることが出来た、彼にとってそれが戦争に参加する理由たりえるのだと。あの時相対した以上にそれを実感したのだった。

 

 

 

連載に変えるべきか、短編のままで良いか

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