唯依たちが基地から出撃し、京都に向けて進行するブリタニア軍と接敵する少し前、健一は森の中に隠していた武御雷へと向かっていた。彼は技術チートの
「まさかブリタニアの進軍速度がここまで早いとは思ってもなかったな。よりによってこんな形で初実戦を行うことになるなんてな…!」
そうつぶやきながらも彼は腕に装着しているある装置を起動させる。すると彼の体に専用のバトルスーツ“ARS”が装着される。このARSは彼の前世でやっていたゲーム“VANQUISH”の主人公が装着していたバトルスーツだ。
そのバトルスーツを秘密裏に開発し、衛士強化装備兼用彼専用に作ったのだ。そのバトルスーツを装着して武御雷を起動させ、各種武装とパラメーターを確認した後に跳躍ユニットのエンジンを吹かして最前線に向かうのだった。
最前線に向かう際に街が既に火の手が上がっていた。ブリタニアのKMFを街に入らせまいと撃震の部隊が迎撃する。しかしグラスゴーの中には大型の盾持ちがいて、戦術機の攻撃を自分に引き寄せるように防ぎつつもその背後にいる大型キャノン装備のグラスゴーが攻撃する。ブリタニアの攻守の連携により敵を迎撃できずにいる日本軍。
「クソッ!ブリタニアめ、首都には絶対に入れさせないぞ!……ぐあぁぁぁッ!!」
撃震が敵KMFを迎撃しているときにその隙をついて別のKMFが死角から銀色のランスで撃震を屠る。
「――バイパー1から各機、被害報告」
「バイパー2、異状なし」
「バイパー3、問題なし」
「バイパー4、ありません」
「――上出来だ。味方を包囲中の敵部隊を端から狩るぞ。ついてこい」
「「「Yes,My lord!――」」」
そうして再び行動するブリタニアのKMF部隊。ブリタニアの物量差に徐々に日本軍は追い詰められ、防衛線が破られようとしていた。
「くそっ!!このままじゃ……」
「全機怯むな!!ブリタニアを絶対防衛線に入れてはならない!!絶対に死守しろ!!」
数体の撃震に搭乗している日本軍の一人の衛士がブリタニアの侵攻を止めることができないのかと口にすると、部隊長であろう衛士が喝を入れてなんとしても止めようと必死になる。しかしブリタニアの勢いは止まることなく、次々とブリタニアのKMFに取り囲まれ、分断されてしまった部隊の仲間達がやられていく。
さすがの部隊長も「このままでは……」と諦めかけていた時、一体のランスを持ったグラスゴーがランスで突撃してきた。部隊長の撃震は攻撃に対し左手に装備していた“92式多目的追加装甲”で辛うじて防御できたが、攻撃の衝撃で機体のバランスを崩して転倒してしまった。
そしてさらなる追撃をしようと他のランス持ちのグラスゴーがランスでトドメの一撃を加えようとしていた。
網膜投影システムで目の前に自分を殺そうとしているグラスゴーの姿に、部隊長は「もうダメだ……」と諦めかけた瞬間だった。
「散れ、文化なき猿……がぁっ!?」
グラスゴー上空に弾幕が降り注ぎ、大破してグラスゴーのパイロットが脱出する。部隊長は生き残った仲間が援護してくれたのかと思っていると、大破したグラスゴーの上に蒼い戦術機がこちらを見下ろしていた。
「なっ、あれは……武御雷か……?」
目の前にいる武御雷は複眼を光らせ別の方向を向くと、跳躍ユニットで何処かへ飛び去っていってしまった。
「あの戦術機……一体どこの部隊だ?」
「隊長!ご無事でしたか!?」
「お前達、無事だったのか……!?」
部隊長はレーダーに映る生き残った仲間の信号に安堵しながらも、彼らの通信を聞きながら撃震を起こして周囲を見渡すと、武御雷が次々と敵を撃破していく光景を目にした。
「な…なんてやつだ……」
部隊長の目に入ったのは、あれだけ大量にいた敵KMFを長刀と跳躍ユニットの運動性だけで撃破しているのだ。もはや無双と言っても差し違えのないほどの強さだった。無論、ブリタニアでも武御雷の戦闘力の高さに戦評する者もいれば恐怖を抱く者、そして武御雷を討たんと挑む者がいた。
「隊長、あの戦術機はどういたしますか?」
「……後退だ。悔しいが、今はあの戦術機に任せて我々は残存部隊を引き連れて第八ラインまで後退し、補給に戻るぞ!ブリタニアの後続部隊のことを考慮する必要があるからな」
「「「了解ッ!!」」」
九死に一生を得た部隊長は「あの戦術機の衛士は何者だったのか」と考えつつも、一度補給の為に戻ると指示を出して、命令を受けた数機の撃震はブリタニアの長距離ミサイル攻撃に注意しつつも跳躍ユニットを起動させて後方の補給基地に向けて撤退していった。
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一方の唯依たちは嵐山防衛線で中隊長を務める如月の指示の下、12機が敵KMF部隊を迎撃していた。しかし、物量で攻めてくるブリタニア。そして実戦経験が浅い彼女たちは徐々に追い詰められていた。その戦闘で志摩子は高度を高くとってしまってミサイルの餌食となり、安芸は敵KMF相手に不意を突かれてランスで貫かれて戦死した。
他にも唯依たち以外の訓練兵も一部戦死してしまい、如月を含めて残った8機で敵のKMFを迎撃していたのだが、ここで最悪なことにブリタニアの後続部隊が到着してしまった。それも新型のKMFでだ。
そのKMFこそ第五世代の量産機である“先行量産型サザーランド”。
本来の史実なら配備されるのは3〜5年後である。しかし、一人の日本人によって生み出された戦術機の存在があってか兵器開発技術の進歩に危機感を覚えたブリタニア帝国第二皇子“シュナイゼル・エル・ブリタニア”は5年前からすでに開発中のグラスゴーでは戦術機太刀打ちできないかも知れないと考え、極秘にグラスゴーより高性能なサザーランドとグロースターの研究を開始し、グロースターの開発は間に合わなかったものの、サザーランドの開発は無事に成功し、完成した。
先行量産型サザーランドは主に上官や腕利きのパイロットに任命されており、唯依たちにとって苦戦が強いられる相手でもあった。これを危惧した如月は補給基地に連絡を入れるが、既に補給基地はブリタニアの特殊部隊によって制圧されていた。
「…もはや、ここを堅持する意味もなしか。全小隊に告ぐ!直ちにこの戦域を離脱、第八ラインまで後退せよ!殿は私が務める!」
もはやここを防衛するのは無意味であると悟った後に唯依たちを第八防衛ラインまで後退するよう指示を出す。その時に如月は唯依たちが後退するまで殿を務めるのだった。
「中隊長、それは…!」
「案ずるな。引き際はわきまえている……篁、お前が部隊の指揮を引き継げ!急ぎ第八ラインまで後退させろ!時間がない、急げ!」
「ッ!……了解!」
そうして唯依は生き残った仲間と共に第八ラインまで後退する。そして残った如月は突撃砲の残弾数を確認した後に迫りくるブリタニア軍のKMF部隊を相手にするのだった。
「大尉……申し訳ありません。どうやら、私はここまでの様です。……後は頼みます」
そうして如月は意を決してブリタニアの軍勢に向かって特攻するのだった。突撃砲の残弾が全て尽きるまで……
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唯依たちは第八ラインまで後退していたのだが、嵐山での迎撃を止めて撤退したためにブリタニアの長距離ミサイルの射角が開けてしまい唯依、和泉、上総以外の訓練兵がミサイルの餌食となった。
それでも何とか第八ラインまでいかずとも第三ラインまで後退することに成功した唯依たち。しかしそこに味方の機影は存在しないどころか、通信回線が砂嵐状態で味方と通信できずにいた。
「こちら嵐山第二小隊、誰か応答してください!第三ラインで孤立しています!」
「みんな殺されるのよ……」
「殺される…?」
「前に座学で聞いたでしょ?ブリタニアは捕虜なんか取らず、真っ先に相手を殺すのよ!私達もどうせ…!」
和泉の精神が既に限界に近づいていた。その際に唯依が和泉に喝を入れる。
「和泉、しっかりして!私たちはこの戦いで生き延びたのよ!だったら、次にやることは何?」
「――仇を……討ちたい。中隊長の……みんなの……!」
「できるわよ。みんなの分まで生き延びて、ブリタニアと戦うの!」
唯依の喝により和泉の精神を立て直したその時、動体センサーが反応を検知した。
「…っ!動体センサーに反応!」
これにいち早く気付いた上総。唯依たちも警戒するも、敵が何処に出てくるのかわからずにいた。
その時に右のビルからランス持ちのサザーランドが不意打ちに唯依の瑞鶴に突き刺そうとする。咄嗟に気付いた唯依は回避行動をとったが途中で躓いてしまい、転倒してしまう。
「しまった…!?」
「もらったぞ、日本人め!」
サザーランドは転倒した唯依の瑞鶴にランスを突き刺して止めを刺そうとした。しかし唯依はそのランスの先端を掴んで串刺しになるのを防いだ。しかし、それもいつまで持つか分からなかった。上総は87式突撃砲に120㎜滑空砲ユニットの代わりにロングバレルユニットを取り付けて有効射程をのばした狙撃用装備“87式支援突撃砲”でサザーランドを狙うも、距離的に近すぎる為に唯依に誤射してしまうこともあって撃てずにいた。
「くっ!近すぎる!」
「和泉、撃て!」
「――え?あっうん!」
唯依は誤射覚悟で和泉に撃つよう指示を出す。和泉が突撃砲で撃とうとしたその時、別方角から砲撃がサザーランドに直撃。サザーランドのパイロットは運悪くもコックピットに直撃して絶命し、唯依はサザーランドが爆発する前に突き放し、危機を脱するのだった。
「和泉?」
「わ…私じゃないよ!?」
唯依は最初は和泉の支援で助かったと思っていたが、実際は違っていた。するとレーダーに反応があった。そのレーダーが反応する方角に向けるとそこには日本軍第三世代戦術機不知火の改修機である不知火壱型丙の姿があった。
「94式……壱型丙?」
その不知火は長期の戦闘で左腕が欠損していた。すると不知火から通信が入る。
「おお、お前たち。無事だったんだな?生き延びてなによりだ」
通信してきた不知火の衛士の声に唯依たちは聞き覚えがあった。それは嵐山補給基地を後にした武田正利であった。
「教官…!」
「ここでは大尉と呼んでくれ」
「……失礼しました、大尉!」
「撤退の途中でお前たちのコールサインを見つけたもんでな。お前たち以外の訓練兵や如月中尉がいないとなると、やはり……」
正利は唯依と和泉、上総しかいないことに何かを悟ったようだ。唯依は悟った正利にありのままを報告するのだった。
「……甲斐志摩子、石見安芸、その他訓練兵は私たちを除き全員戦死。如月中隊長は私たちを第八ラインまで後退させるために殿を。おそらくはもう……」
「そうか……如月のヤツ、俺より先に逝きやがってからに……」
そう正利が嘆く中、ブリタニアが京都に攻め込んできた。しかも相手はブリタニア帝国第二皇女“コーネリア・リ・ブリタニア”が赤紫に染めた先行量産型サザーランドで先頭に立ち、その後方で左右には専属の将軍“アンドレアス・ダールトン”とコーネリアの専属騎士“ギルバード・G・P・ギルフォード”が他のKMF部隊を引き連れて迫って来ていた。
「将軍、ここは私に」
「フッ…帝国の先槍とて、手柄は譲らんぞ」
「ダールトン、ギルフォード。相手は手負いとはいえ油断はするな。相手が手負いであろうとも我々の喉元に食らいついてくるぞ。それを忘れるな」
「「Yes,your Highness!」」
コーネリアの部隊を見た正利は厄介な相手に目を付けられたことにため息を吐きながらも唯依たちに集積所の場所を知らせる。
「やれやれ……悲しむ時間すらないとはな。しかも相手はブリタニアの魔女ときたか。…だったらやることは一つだな。お前たち、此処の殿は俺が務める。お前たちは第八ライン上の京都駅に迎え。そこが集積所になっている」
「……あっ!」
その時に唯依たちは不知火の背面コックピット部分が一部破損している部分を発見する。破損具合からして中の衛士が負傷するくらいの損傷だった。
「上手くすれば、補給を受けられるかもしれん」
「…しかし!」
「上官の命令に逆らっている場合か?それに、今のお前たちの機体じゃ足を引っ張ってしまうのがオチだ」
「「「……っ」」」
「…そういう訳だ。分かったら行け、命令だ!」
唯依たちは正利の覚悟を無碍にすることができず、言われた通り京都駅まで撤退するのだった。
そして残った正利は迫りくるコーネリアの部隊に対して足止めをする為に右手と74式可動兵装担架システムに装備している突撃砲を構えて迎え撃つ。
「…いっつ!なんだかんだでカッコつけてる場合じゃなかったとはいえ、大見え張って新兵たちを逃がしたんだ。……だったら、あいつらの教官たる俺が最後まで粘んなきゃ、カッコ付かねえもんだな!」
この時の正利は既に腹部に切傷を追っており、出血から大分時間が経っている。どのみち助からないと自分で理解しながらもコーネリアの部隊と戦うことに決めたのだ。そうしてコーネリアの部隊が射程圏内に来るまで待っていると、何処から現れたのか第三世代戦術機である武御雷がやって来た。するとその武御雷から通信が入る。いったい誰の通信なのかわからぬまま通信を開くと……
「親父ッ!」
「なっ!?お前、健一か?なんで戦術機なんかに……」
まさか自分の息子が戦術機に乗ってこの戦場に出ているなんて予想だにしなかったのだ。
「そんなことはどうでもいい。親父、今すぐ戦術機から降りろ!怪我をしてるんだろ!」
「んなこと出来たらとっくに降りてるっての!それよりもだ、お前が何でここにいるのかはあえて聞かないが、最後に頼みたいことがある。さっき第八ライン上の京都駅に向かった新兵たちの様子を確認しに行ってくれ!こいつらは俺が足止めしておく」
「だが親父、今の機体と体の状態じゃあ……」
「いいから早くいけ、バカ息子!お前だって俺の状態が助からない域まで行っちまっていることくらい知ってるんだろ?だったら俺よりも新兵たちを守ってやれ!」
「くっ……親父!」
「行け!……とっとと行くんだ!!」
健一は正利の言われた通り京都駅に向かった唯依たちの後を追うのだった。その際に健一は正利に一言だけ告げる。
「親父………死ぬなよ」
その一言だけ残して唯依たちを追いかける健一。健一が行ったのを見送った後に正利は既に来ていたであろうコーネリアに通信を入れる。
「――少し意外だったな?俺と息子の別れを待ってくれるなんて思いもしなかったぞ?」
「私とて人の子だ。親が子に最後の別れに水を差すほど無粋ではない」
「ああそうかい。まっ、ブリタニアの中にもアンタみたいなヤツがいるってわかっただけでも良しとするか。……さて、こっから先は」
「言葉は不要だな。ダールトン、ギルフォード。手出しはするな、こやつの相手は私がする!」
「「Yes,your Highness!」」
そうして正利とコーネリア。それぞれ武器を構えて一騎討ちに入るのだった。コーネリアは試作型対KMF大型ランスを手に正利に向け、正利は突撃砲をコーネリアに向ける。そして互いの機体は真正面からぶつかるのだった。
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正利と別れて健一は京都駅に向かった新兵を守るよう言われて京都駅に向かっていた。その際にブリタニア軍と接敵した際に接近戦を主眼にした武御雷の格闘戦と機動力を生かして敵KMFを翻弄させ、撃破した。そして最後の敵を倒した後に再び京都駅に向かおうとした時に京都駅二階へとつながっているビルの屋上に山吹色の瑞鶴が倒れていた。まさかあれが新兵が乗っていた機体と思い近づいてみると、生体反応があった。どうやら運悪くもここに墜落したみたいだが、いったい何が原因で墜落したのかわからなかった。
健一は他にも生存者がいるのかもしれないと思って山吹色の瑞鶴近くに着地した後に武御雷の起動キーを外して医療キットを取り出してから降り、ARSのフェイスメットを展開した後にThe Batllefielde Logic Adaptable Electronic Weapons System、通称“BLADEシステム”を起動させてアサルトライフルを展開した後にビル内に生前者がいないか調べに向かうのだった。
ビルを下りつつも生存者がいないか周囲を警戒しながらも進んでいく。階段を下ると二つの生体反応が検知した。
しかし、その二つは微弱な反応だった。一つはまだ反応が強いものの少しずつ弱まりつつある。そしてもう一つはわずかながらも反応が出ていたが、いつ消えてもおかしくなかった。幸いにもその反応は階段を降りてすぐだったのですぐに階段を下り、その反応の場所に向かう。するとそこにはまだ15にも満たない少女が、今にも死にそうな状態だった。健一はその少女の下に掛けつける。
「おい、大丈夫か!しっかりしろ!」
その時に彼は少女の顔に見覚えがあった。それは能登和泉だ。おそらく正利が言っていた新兵の一人であると判断した。しかし彼女の容態はひどいものだった。衛士強化装備に所々穴が空いていて、そこから血が流れていたのだ。どうやら彼女は運悪くもブリタニアの兵士に見つかって撃たれたのだろう。出血量からして既に大量の血が流れてしまっていて応急処置しても助からないのだ。
すると和泉は意識が戻ったのか健一を見て、何かを伝えようとしていた。
「……ねが……い……」
「何っ?おい、意識があるんだな?しっかりしろ!」
「お願い……山城さん…を……助…け……て……」
「山城?まだ生き残りがいるのか?」
徐々に和泉のバイタルが低下しつつあり、最早長くはもたないことを彼女自身知っていた。せめて最後の力を振り絞って上総のことを健一に伝えようとした。
「お願い……助けて……」
「わかった。絶対に探し出して、助け出す。だからもう喋るな」
「――アァ……良か……た……」
その言葉を皮切りに和泉の命は消えた。健一は死した和泉の目を閉じさせ、手を組ませて優しく寝かせるのだった。そして彼は死んだ和泉を残して彼女の願いを叶えるために上総の捜索するのだった。
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京都市街地のとあるビルの屋上……山吹色の瑞鶴F型のコクピット内で唯依は目を覚ました。唯依は京都駅に向かう際に途中でエンジンがエンストを起こしてビル屋上に墜落したのだ。その際に唯依が最後に見たのは和泉たちの瑞鶴がブリタニアのKMFの待ち伏せによって跳躍ユニットを破壊され、墜落する光景だった。目を覚ました唯依の視界には自機の機体ステータスが表示されており、機体全体が赤く表示され完全に機能停止に陥っていた。
「……よくもってくれたな…」
瑞鶴のコクピットハッチを強制排除して背部コックピットから飛び降りた唯依は戦場を共に戦い抜いた戦術機という名の甲冑に感謝を述べる。その時、愛機の隣にいる第三世代の戦術機が膝を付いて停止していたのに気付いた。
「…ッ!……武……御雷……」
何故第三世代戦術機の武御雷がここにあるのか謎だった。しかし、それ以前に唯依は和泉たちの安否が気になった。唯依は非常時用のハンドガンを手にビル内に入るのだった。
ビル内を進み、階段を下りながらも下を確認するとそこには誰かに介錯してもらった和泉の姿があった。既にバイタルの反応がなく、死亡していたことに唯依はこみ上げる悲しみを必死でおさえ、体を硬くして気配をころす。まだ生きているかもしれない上総を探して更に下へと下る。
そして多少暗がりだが正面に白い人型の物体が見え、その機体が白い瑞鶴であることが確認できた。しかしそこにはブリタニア軍の歩兵部隊と数体のKMFに囲まれていた。するとインカムから微弱な声が聞こえた。
「……たかむら………さん…………」
「…!山城さん、大丈夫!?」
それは上総の瑞鶴からの通信だった。今の上総の状態は墜落の衝撃で負傷しており、まともに動ける状態ではなかった。するとグラスゴーは瑞鶴の中にパイロットが生きていないかと思ったのか背部コックピットのハッチをこじ開けた。
「隊長、戦術機のパイロットの生き残りを発見しました。ただ負傷しているようですが、いかがいたしましょう?」
「引きずり出せ。せめて自分の愛機を見せた後に楽に殺してやれ」
「Yes,My lord! 」
そうしてグラスゴーは負傷している上総を瑞鶴から引きずりだす。その際にも上総は唯依に何を求めていた。
「撃って…おねがい…私を…早く…」
「くっ、やっ、山城さん…」
するとブリタニアの歩兵部隊が上総の視線に気づいたのか上総が向いている方に目を向けるとそこには唯依がいた。
「…誰だ!」
「っ!しまった!」
「おねがい……私を…撃って…」
彼女が何を求めているのか直感的に感じ取ってしまった唯依は、手にしたハンドガンをブリタニアに向けることなく上総に向けて構えた。だが、訓練生だった頃に互いに競い合い、笑い合い、苦楽を共にした仲間をこの手で殺めなければならない…という現実を受け入れられず、唯依の手が震え構えている拳銃の狙いを鈍らせてしまう。
それを悟ったブリタニア軍は唯依たちの行動を見世物の様にあざ笑いながらも見物していた。果たして撃てるのか、撃てないのかを見ていた。
そして上総は唯依の姿を見据えて覚悟を決めたのか、はたまた頭の中で何かが切れたのか大声で叫んだ。
「撃ってよぉぉぉぉっ!!コイツらに殺される前にぃぃぃっ!!唯依ィィィィッ!!」
「くぅっ!!」
声は裏返り半狂乱で叫ぶ上総に、唯依は手にしていた銃のトリガーに手を掛け、力を込め……ようとしたその時だった。
「やめろおぉぉぉっ!!」
3時の方向から声がしたと同時に小銃の弾幕がブリタニアの歩兵部隊に襲い掛かる。一瞬の出来事であったためにブリタニアの歩兵部隊の隊長を除く隊員がその弾幕をよけられず、そのまま撃ち抜かれて絶命する。残った隊長や他のKMFは一体なにが起こったのかわからなかった。するとその弾幕の張本人らしき白い装甲を纏う人型のなにかが隊長の目の前に現れ、アサルトライフルから大型拳銃に変形……いや、表現的に正しくない。正確には姿形を変えたというべきだろう。その大型拳銃を向けられたと分かった瞬間、その男は大型拳銃の引き金を引いて隊長の胴体に風穴が空いて絶命した。それと同時にその男は何かしらの起動キーのスイッチを押した。
その時にKMFが歩兵部隊の仇を討たんばかりに白い装甲服の男にアサルトライフルを向けるが、上空に9時の方角から敵の反応を検知した。その方角に向けると、そこには第三世代戦術機の一機である武御雷の姿があった。
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唯依が上総を見つけるほんの少し前、健一はもう一つの生体反応の方に近づいていた。
「反応が正しければ、この近くに生存者がいるはず。問題は、その生存者が山城であるかどうかだな」
そう考えながらも周囲を警戒しつつも生体反応がする方角に進む。すると、その生体反応に異常を検知する。もともと生体反応は一つだったのに、急に数が増したのだ。彼は最悪な事態を想定し、急いで生体反応がする場所に向かう。
健一が急いで駆け付けてみたらそこにはブリタニアの歩兵部隊とKMF部隊が日本残存部隊を掃討するために徘徊していた。
そして彼の想定していた最悪な事態が実現してしまう。彼が来たルートとは別ルートでやってきた唯依が上総の瑞鶴とブリタニア軍を見つけてしまう。そしてブリタニア側も瑞鶴に上総がまだ乗っていることに気付いたのか上総を瑞鶴から引きずり出す。
完全に上総を人質に取られた状態になってしまい、下手に突入することがままならずにいた。上総は唯依にせめて介錯してもらう為に撃ってほしいと頼むが唯依はまだその覚悟ができておらず、撃つのをためらってしまう。状況が状況なだけに健一でもどうしようもないと諦めかけていたその時……
撃ってよぉぉぉぉっ!!コイツらに殺される前にぃぃぃっ!!唯依ィィィィッ!!
上総の悲痛な叫びに彼の内にある何かが弾けた。そして……
「やめろおぉぉぉっ!!」
気づいた時には彼はARSの両腰に搭載された高機動スラスターで突撃しながらもアサルトライフルでブリタニア歩兵部隊の隊長やKMFを除く隊員を撃ち殺す。
BLADEシステムでアサルトライフルからアンチアーマーピストルに切り替え、そのまま隊長に向けて発砲する。隊長はアンチアーマーピストルの攻撃力に耐えられるわけもなく胴体に風穴が空く。
歩兵部隊の一掃を終えた後に彼は起動キーを押し、戦術機を呼び出す。KMFは一時健一を狙ったが、その前に彼が乗っていた武御雷が現れたことに敵KMFは混乱が生じていた。その隙に彼は負傷している上総を回収して唯依の所に向かい、上総を唯依に任せるように彼女を下ろした。
「山城さん!大丈夫!?」
「…篁さん……」
「怪我をしているな。……医療キットを使え。しばらくの間ここで待っていろ、すぐ片付けてくる」
そう言い残して医療キットを唯依に渡し、武御雷の方に向かおうとした時に唯依に呼び止められる。
「あ…あの!貴方はいったい?」
「それは奴らを片付け終わるまで待っててくれ。それまでの間、お前たちを守る」
健一が唯依にそう告げた後に今度こそ武御雷へと向かう。敵KMFは彼を戦術機に乗せるのは拙いと判断したのか真っ先に彼を狙い始めた。乗る前に
起動させたと同時に74式可動兵装担架システムに装備させている74式接近戦闘長刀を抜刀し、そのまま武御雷の得意とする格闘戦で敵KMFを次々と撃破する。
最後の二機となったグラスゴーはスタントンファで武御雷に打ち込もうとするが、武御雷の高い運動性に翻弄されて長刀で右腕を切断され、止めに武御雷の両腕前腕部に装備されている収納式ブレード“00式近接戦闘用短刀”で真正面から突き刺し、背部コックピット部分まで貫通させパイロットの息の根を止める。
残り一機となったグラスゴーはアサルトライフルで応戦するも武御雷の運動性能に追いつけるわけもなく、アサルトライフルでは迎撃するのは困難だった。長引くのも厄介だと判断したのか武御雷は一気に勝負に出た。そのままグラスゴーに接近し、長刀でアサルトライフルを破壊し、つかさずグラスゴーの右腕と頭部を長刀で切断、そして最後に縦から真っ二つにするのだった。
「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ………」
最後の敵を倒した後、健一は息を荒げていた。彼の何かが弾けている間は一種の覚醒状態だった為か初実戦の際に彼は初めて人を殺したという認識が薄かった。そして戦闘が終えた今、改めて彼は人を殺したということに罪悪感を覚え、その後に嘔吐してしまいそうだったが何とかこらえて今生き残っている彼女たちの所に戻り、彼女たちを戦術機で運びだす。そして日本軍の集積所に到着した後に唯依たちを集積所にある野戦病院に送り出した後、日本軍が来る前にここを立ち去るのだった。
皇歴2010年 9月9日
日本軍近畿地方防衛線で、京都はブリタニアの進行によって蹂躙され、壊滅した。この時に京都で出現した所属不明の戦術機こと健一が乗っていた武御雷の捜索を日本政府は進めたかったが、ブリタニアの予想以上の進軍速度に武御雷の捜索をしている場合ではなかった。この京都防衛戦で多数の戦死者がでた。その中には健一の父親である正利もそのリストに載っていた。正利はコーネリアとの一騎討ちで真正面からランスを受け、コックピット諸共貫かれて死亡したとのことだった
「親父………どっちがバカなんだよ。死ぬなよっていったのに…………この大馬鹿野郎………」
日本軍とブリタニア軍の捜索から振り切り、彼はノートPCで日本軍の戦死者リストをハッキングして正利の名前があるかないかを確認していた。そして案の定、正利の名前と写真があってリストには“K.I.A.”と表示されていた。
父親の死を知りつつも彼の生まれ故郷である日本を守るという誓いを立て、ブリタニアという圧倒的な力に抗う為に彼は戦術機で各戦場で戦い抜くことを決意するのだった。