皇歴2011年 1月22日
ブリタニアが日本に宣戦布告してから約半年が経った。京都が陥落してから既に約四ヶ月が経った。健一はこの四ヶ月で技術チートの裏技を使ってブリタニアの進行を遅らせていた。
……前回のことで技術チートの裏技について説明し忘れたが、技術チートは何も科学技術のチートではない。厳密には
どういう意味なのかと言うと健一が京都で旅行している時にふと思いついたことが始まりだった。神から押し付けられた技術チートは果たして科学技術だけのものなのか?と。それを思って健一は試しにハッキングに関する知識をノートPCで検索し、調べてみた。すると健一の脳に再び情報が送られてきた。この感覚に覚えがあった健一は一時的な頭痛が襲ったがほんの数秒で収まった。
その時に健一は技術チートの裏技を覚えた。その裏技は使用者が知りえない知識を知りたいという意識を強く持ちながらも調べると知識や技術が脳に情報として送られるという事だ。何故このような裏技を早く発見できなかったのかと健一は思ったが、ここである仮説を思いつく。
健一が元々転生者であり、精神が成熟した人間でもあった。その際に技術チートは“科学技術チート”という概念に縛られていた。しかし、京都で技術チートを疑問に思ったことで技術チート=科学技術チートではないという概念的思考が新たに生まれた。その結果が技術チートは科学技術チートではなく〇〇技術チートという複合的なチートと化したのだ。
それ以来は技術チートの抜け道こと裏技を駆使し、健一はノートPCを使ってハッキング技術でブリタニアの動向を探っていた。調べた結果、ブリタニアは9月7日の時点で既に九州地方や中国・四国地方を占領した。それが京都防衛線で健一が介入した理由だった。
それ以降の彼は半年間の間に技術チートの裏技を使い戦闘技術や技術戦略を知識として入手し、それらを駆使してこの半年間、ブリタニアの進行を妨害しつつも日本を守るために戦い続けた。
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健一が戦い続けているその一方で京都防衛戦で生き延びた唯依と上総は日本首都防衛の為に横浜基地にいた。京都防衛線で負傷した上総は健一が渡した医療キットで一命を取り留めて生き延びることが出来た。だが負傷に関しては数ヶ所の骨折があったために病院で入院せざるを得ない状態だった。唯依は日本軍上層部からの命令で横浜基地に転属となり、そこで来るブリタニア軍に備えて戦闘訓練や準備を行っていた。
そして上総が退院できたのが丁度一ヶ月前であり、無事に唯依と同じ部隊に配属されることとなった。唯依と同じ部隊となった上総。入院中の間に戦術機の腕が落ちていないかと訓練を行いつつも戦いの勘を取り戻していった。
それから約一ヶ月が経った皇歴2011年 2月9日
日本軍の偵察部隊からの連絡で明日の夜にブリタニア軍が攻めてくるとの情報を得た。日本軍はブリタニアの首都進攻部隊を迎え撃つべく防衛線を構築するのだった。ブリタニアがまず最初に攻めてくる場所が横浜基地だった。この横浜基地を足掛かりに徐々に制圧面を広げていき日本を制圧するつもりなのだろう。
かくして横浜基地はブリタニアを迎え撃つために戦闘準備を行うのだった。しかし、日本は既に西日本をブリタニアに奪われており戦術機の生産数が追い付かなかった。
現在日本の主戦力である戦術機は残存する第一、第二世代戦術機を含めると既に二千を下回っていた。特に戦術機の開発、生産を請け負っていた光菱重工、河崎重工は既にブリタニアの侵攻で壊滅しており、残された富嶽重工と遠田技研工業だけでは日本全体に戦術機の再生産が追い付かないのだ。その結果、日本政府と日本軍は苦肉の策として富嶽重工と遠田技研工業に戦術機の機動力の要である跳躍ユニットを取り付けずに拠点防衛用として配備すると同時に拠点防衛用の戦術機専用の武器開発・生産を富嶽重工と遠田技研工業に依頼した。
これにより戦術機の生産性は向上したものの、戦術機の持ち味である跳躍ユニットによる機動力を失われたために一種の砲台変わりとなり、ブリタニアのKMFの優位性を失った。しかし、それはあくまでも一部の第一世代戦術機であって第二、第三世代は対KMF戦闘において機動力を損なわせないために跳躍ユニットの生産を続けるに変わりがなかった。そして武器開発において富嶽重工と遠田技研工業が共同開発した30×173mm弾を使用する拠点防衛用戦術機兵装“30mm速射機関砲”を開発。
この30㎜速射機関砲は毎分800発という発射レートを誇り、その攻撃力は伊達ではない。しかし、この兵器には欠点がある。それは弾の消費が激しいのだ。弾切れになる時間が早いために改善しようにも時期が時期だった為にを改善する時間もなく、その欠点を補うために戦術機三機編成での円陣防御で互いの背をカバーすることで補うことになった。
それと重なって30㎜速射機関砲は少数しか生産されず、最前線となる横浜基地の防衛の為に速射機関砲が優先的に配備されることとなり、30mm速射機関砲は跳躍ユニットを取り付けられていない一部の撃震に装備されることとなった。
現在の横浜基地の戦術機は150機と格納されているが、その第一世代の戦術機である撃震は跳躍ユニットが装着されていない状態で配備されていた。その撃震たちの手には30mm速射機関砲を装備しており、跳躍ユニット取り付け部分には跳躍ユニットの代わりに30mm速射機関砲用につながるベルト給弾式の弾が入った弾薬コンテナを装備している。
唯依たちが乗っていた瑞鶴は準第二世代戦術機にカテゴライズされるために跳躍ユニットはまだ装着されている。唯依たちの役割は
そんな唯依たちは横浜基地の大隊長である“御船 重蔵”の指示で衛士全員格納庫に集まっていた。そして御船が集まった衛士たちに演説を始める。
「いいかよく聞け!ブリタニア軍のブリキ野郎どもが明日の夜に来る!私の性分を知っている者もいれば知らぬ者もいるだろう。だからこの際ズバリ言うぞ。この戦いで多くの者が死ぬだろう。誰でも死ぬ時は死ぬんだ。だがどうせなら、あのブリキ野郎どもに命をくれてやるくらいなら……」
「――俺たち日本人を敵に回したことをブリキの連中どもに思い知らせてやれ!!」
「「「おおおぉぉぉーーーッ!!!」」」
御船の激動の演説で衛士たちの士気は高まった。その一方で上総は御船の狂奔を理解できなかった。そして唯依は……
「これは……もはや狂気としか言いようがないわ。篁さん、貴女は大丈夫?」
「………」
「……篁さん?」
「……え?あっ…山城さん。大丈夫よ。私なら大丈夫……」
唯依は大丈夫と上総に言うが、唯依の目は憎しみに取りつかれた者の目をしていて死んでいった仲間たちの仇を取るためなら手段を問わない様子だった。そんな様子を見た上総は唯依が暴走しないよう唯依を見守ると同時に唯依のフォローに回るのだった。
御船の演説が終わった後に唯依は横浜基地の自室で体を休んでいた。その自室にはまだ訓練生だった頃の写真があった。写真は訓練生だった頃の唯依たちの集合写真だった。
志摩子、安芸、和泉、正利教官の四人は京都防衛戦で戦死し、生き残ったのは唯依と上総だけだった。唯依はその写真を手に懐かしみながらももう会えないという悲しみを一時抱きながらももう二度と泣かないとの誓いとともに、京都の戦いで唯依は滅びへの拒絶を胸に刻み込んだのだ。
かくして翌日が経った2月10日の夜。ブリタニア軍が横浜基地に向けて侵攻を開始した。そのブリタニア軍を撃退するために横浜の戦術機は戦闘配置につく、そしてCPから全衛士に敵が接近しているとの通告が入る。
《CPより各員へ、敵の第一陣が迫ってきている。敵KMFが400でブリタニアの航空機が200。そして不確定な情報だが、ブリタニアの精鋭部隊である“ナイトオブラウンズ”がこの戦場に出るとのことだ。十分に警戒せよ。敵との接敵まで約300秒》
CPからの通信でより警戒が増す日本軍。そして御船の乗る撃震は跳躍ユニットを付けず30mm速射機関砲を装備し、74式可動兵装担架システムに87式突撃砲を二門装備していた。唯依と上総は突撃砲を手に、長刀を可動兵装担架システムに装備させている。他の衛士たちは拠点防衛の為に突撃砲を持ちながらも敵の攻撃を防ぐために92式多目的追加装甲を装備していた。そしてレーダーに敵の反応を多数検知した。これはブリタニアの第一陣なのだろう。
「――よぉし、構えろぉ!」
御船の指示で全戦術機が突撃砲、30㎜速射機関砲を構える。そしてブリタニアの第一陣を目視で確認した瞬間……
「祖国を守れぇッ!」
御船の言葉を皮切りに30㎜速射機関砲の引き金を引いて攻撃。それに続いて他の戦術機たちも攻撃を開始する。
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ブリタニア軍は日本占領の為に西日本を制圧し、次は東日本である横浜基地に向けて進行していた。この約半年でブリタニアは日本の西側をようやく制圧できたものだった。ここでそのまま首都を占領するためにその足掛かりとして横浜基地の制圧が急務だった。しかし、ブリタニアもこの半年で何もしていないわけではない。
開発中だった第五世代KMFである“グロースター”が完成し、その先行量産型はこの戦いに参加しているコーネリア達とナイトオブラウンズのナイトオブナイン“ノネット・エニアグラム”と配備されるのだった。このグロースターは対KMF戦を想定して近接格闘戦の要素が強く取り入れられており試作型対KMF大型ランスを発展させ、開発した“対ナイトメア戦用大型ランス”を標準装備している。他にもアサルトライフルや大型キャノンなどのKMFの武装も使える為、戦闘力としては申し分ない。
更にサザーランドの量産が追い付くようになり、全てではないがグラスゴーからサザーランドへと機種が変更されるのだった。
しかし、その攻略すべき横浜基地は既にブリタニアの動きを把握していたのか防衛網を構築していた。しかも日本の新型武装である30㎜速射機関砲を導入したことで横浜基地から30×173mm弾の弾幕の嵐が襲ってきた。先行していたKMFはその弾幕を避けきれず数体が撃破される。残りの部隊は撃破された友軍機を見てすぐに乱数回避行動をとった。
「な…なんだ、あの弾幕は!?」
「回避しろ!あの弾幕の厚さは異常だ!」
それぞれのKMFは回避行動をとりつつも横浜基地の攻撃は止めなかった。ブリタニアの空軍部隊によるミサイル攻撃と爆撃を行った。しかし戦術機と対空砲による対空迎撃でミサイルと爆弾を迎撃する。
そして前衛に出撃した唯依たちも敵KMFを迎撃に出ていた。唯依の駆る瑞鶴の手には長刀が装備されており、近接戦でKMFを次々と撃破していた。
「覚悟しろ、ブリタニアども!生きて日本を……出られると思うな!」
唯依の心境は最早憎しみに囚われており、少し危うい状態だ。唯依の背後を守るように上総が援護射撃を行う。
「篁さん!前に出すぎよ!」
「分かっている!でも敵が待ってはくれない!」
唯依たち瑞鶴の部隊は前衛で戦いながらも敵陣をかき乱しながらも迎撃していた。しかし、ブリタニアの物量に圧倒されていることには変わりはなかった。
御船が指揮する部隊もブリタニアの物量に押されつつもあるが30㎜速射機関砲を巧みに駆使してブリタニア軍と対等に戦っていた。30㎜速射機関砲の弾が切れた際には74式可動兵装担架システムに装備している87式突撃砲を前に展開して前面を防御するように弾幕を張りつつも30㎜速射機関砲の弾薬を補充する。
補充し終えた後に再び攻撃を再開する。ブリタニアの攻撃は苛烈を増していた。
「左を守れ!敵を通すな!」
「うぉぉぁぁああーーっ!!」
一人の部下が30㎜速射機関砲で応戦するが、わずかな隙を突かれKMFのランスによって貫かれる。
「浜口!…ぬぅっ!」
部下がやられたことを御船が確認したと同時に部下をやったであろうKMFを30㎜速射機関砲で撃破する。地上と空中、両方から攻められて防戦一方の日本軍。ここが陥落するのも時間の問題だった。
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一方の健一は今回の戦闘では武御雷ではなく不知火・弐型で出撃し、横浜基地防衛に参加する形で介入していた。武御雷はこの半年で長らく戦闘を行っていた為に整備が出来なかったので機体全体にガタがきていた。武御雷の代替機として健一は不知火・弐型で出撃しているのだ。不知火・弐型には87式突撃砲と長刀を一つずつ手にし、74式可動兵装担架システムには87式突撃砲2門装備している。
健一が駆る不知火・弐型を見たブリタニア軍も第三世代戦術機の不知火の改修機であると理解しながらも迎撃する。しかし、不知火の改修機だけあってその機動力は並ではない。追い詰めようにも不知火の反応速度に翻弄されながら不知火に決定打を与えられず逆に撃墜される。
「…たく、ブリタニアはいったいどれだけの戦力を導入したんだ?今更だが数が多すぎるだろ」
そう愚痴りながらも次々とブリタニアのKMFを屠る健一。するとレーダーに新たな敵の反応を探知した。それはブリタニアの新型であるグロースターだった。それもコーネリアとその親衛隊のグロースターの部隊だった。
「あれは……敵の新型か?だとすると厄介な相手だな」
健一が警戒する中、コーネリアが駆るグロースターが不知火・弐型を捕捉した。
「ほう……シラヌイの改修機か。面白い、相手にとって不足はない」
「殿下、お下がりください」
ギルフォードは敵戦術機の改修機とはいえ油断はできない為にギルフォードが前に出るつもりだったが……
「ギルフォード、私をそこらの女と一緒にするなよ…」
「コーネリア殿下!?」
コーネリアは先行して不知火・弐型に向けて対ナイトメア戦用大型ランスを突こうとする。
「……!?ヤバい!」
健一は咄嗟の反応でグロースターを飛び越える形でコーネリアのランスの攻撃を躱す。そして姿勢を戻して再びグロースターの方を見る。隊長機らしきグロースターが一機とその部下のグロースターが三機もいた。
恐らくは親衛隊か何かの部隊であることを健一は悟り、この状況で上手く撒くことができないと判断した。
「面倒な奴らに目を付けられたな。こっちが逃げようとすれば向こうも追撃してくるだろうし、たとえ撒いたとしてもこいつらの所為で日本軍の被害が増えるのは確実だ。……はっ、とんだ災難だなこれは……」
そう言って健一は手にしていた突撃砲を放棄し、前腕部にあるナイフシースに格納されている“65式近接戦闘短刀”を手にして長刀と短刀の二刀流で構える。
「フ…武器を変えたか。しかし!」
「…さて、不知火。こっから先は俺のわがままに付き合ってもらうぞ!」
健一は自機にそう言い聞かせてそのまま突っ込んでくるコーネリアの大型ランスを真正面から長刀で受け止め、鍔迫り合いになる。KMFのランドスピナーによる走破性。戦術機の跳躍ユニットによる加速力。単純なパワーなら戦術機の方が上だった。大型ランスとつば税合いながらもそのパワーを生かして押し返す。しかしコーネリアの巧みな操縦技術が健一よりも上回っていた。押し返されたコーネリアのグロースターは腰に担架していたアサルトライフルで牽制射撃を行う。健一はその牽制射撃を巧みに回避する。
操縦技術に劣っていることは健一も重々承知だ。それを補うように彼の不知火には専用のOSに改良が施されていた。より機敏かつ大胆な操縦を可能としながらもラグを感じさせないくらいの改良されたOSで健一の足りない戦闘技術を補っていた。
「くっ……地上戦じゃあ向こうが一枚上手か!」
健一は距離を取りながらも空中に退避しようとした。しかし……
「脆弱者が!」
コーネリアがそれを許さないと言わんばかりにスラッシュハーケンを不知火に向けて射出する。健一は短刀を投擲してスラッシュハーケンを打ち落とすものの、残り一機を長刀で切り払うことが間に合わず不知火の左腕に直撃する。そしてスラッシュハーケンを巻き取り、至近距離まで不知火に接近する。
「これで終わりだ!!」
「…それはどうかな!」
コーネリアが大型ランスで健一に止めを刺そうとするが、それよりも早く彼は相手のスラッシュハーケンによって破損した左腕をパージし、残った右腕でグロースターを抱き着くように掴み、固定する。
「くっ…こいつ!?」
「一応言っておくが、対G訓練はしているか!」
通信しているわけでもないのに相手にそう言って健一は跳躍ユニットのエンジンを全開にし、グロースター諸共強力なGを受けながらも加速して戦闘エリア外まで飛んで行った。
「何っ!?ぐうぅぅっ!?」
「ぐおぉぉぉっ!?」
「コ……コーネリア様ぁぁーーっ!!」
ギルフォードはコーネリアが不知火に連れ去られたことに驚きながらも急ぎコーネリアの下へ急行する。コーネリアの部下たちもギルフォードの後を追うように続くのだった。
健一は未だに暴れるグロースターを離さぬようしっかりと掴み、ランダム起動で中のパイロットを気絶させる戦法を取った。しかしコーネリアは急激な加速によって発生するGに何とか耐えながらも
大型ランスで不知火に突き刺そうとする。
相手の大型ランスに突かれぬようランダム起動で攻撃どころではない状況を作っていたが、ここで問題が発生する。跳躍ユニットのエンジンが過度な負荷に耐え切れずエンストを起こしてしまう。
「何!?…くそっ、エンジンが!?うわあぁぁーーっ!!」
そしてそのまま不知火とグロースターは戦闘エリア外に墜落するのだった。
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一方の横浜基地ではブリタニアの物量により陥落寸前だった。横浜基地の司令は多くの兵士を生かすために生き残った部隊をまとめて東京まで後退の指示を出した。その指示を受けた唯依たちは生き残った部隊をまとめつつもブリタニア軍を迎撃しながらも残存部隊を東京まで撤退するまで戦い続けた。そして御船も自分以外の者は全滅し、大破した味方戦術機から30㎜速射機関砲を手にし、両手で30㎜速射機関砲を撃ちまくっていた。
「…っ!くそ、弾切れか…!」
しかしここで片方の30㎜速射機関砲の残弾が尽きてしまう。その隙をついて敵KMF部隊が御船の撃震に向かってランスを突こうとしていた。御船は74式可動兵装担架システムに装備している87式突撃砲を前に向けて迎撃しようとしたその時に、そのKMFは別方向からの銃撃によって大破する。
御船は自分以外の味方は全滅したと思っていた。いったい誰なのかと考えていると、5時の方向から味方の瑞鶴が二機向かってきた。一機は山吹色。もう一機は白色の機体だった。
「御船隊長!ご無事ですか!」
「唯依か?どうやら生き残っていたようだな。戦況はどうなっている?」
「既に横浜基地は敵が侵入し、陥落するのも時間の問題です。司令部から東京まで後退するよう指示が出ています。隊長も急いで!」
上総が御船にそう説得するが、御船はそれを断った。
「そうしたいが無理だ。俺の機体には跳躍ユニットが取り付けられておらん。どうせならお前たちが逃げろ。俺が時間を稼ぐ」
「しかし!」
「ダメよ、山城さん」
「篁さん…」
「隊長の覚悟をここで無駄にしてはいけないわ。隊長の言う通り私たちは東京まで後退する」
「そう言う事だ嬢ちゃんども、だから行け!」
そう言って今も迫りくるブリタニアに対して30㎜速射機関砲を構える御船の撃震。すると三人の視界に妙なものが映り込む。それは不知火・弐型が敵の新型KMFを抱えて跳躍ユニットで加速しながらも暴れ馬の様に飛び回っていた。
「なんだあいつは?あのバカKMFを抱えてめちゃくちゃに飛びやがって!」
「それよりもあの機体の跳躍ユニットがもう危険域に達しています!」
上総の言う通り、味方戦術機である不知火・弐型の機体ステータスが既に一部赤表示になっていた。そこに追い打ちをかけるように更なる問題が発生した。その不知火の跳躍ユニットから黒い煙が出ていた。どうやらエンジンに無理を掛けたことでエンストを起こしたようだ。そして不知火はそのまま戦闘エリア外に墜落するのだった。
「ちっ!よりによって面倒ごとが増えたな!お前たちはあのバカの回収に迎え!機体さえ無事なら衛士も無事だろう」
「わかりました。それと御船隊長、これを」
御船の指示を受けた唯依は了承と同時に30㎜速射機関砲の弾を手渡した。それを受け取った御船は直ぐに30㎜速射機関砲の装填を行った。
「よし、俺が道を作る!道を作ったらお前たちはそのままあのバカの方に迎え!」
「「了解!」」
そうして御船は30㎜速射機関砲で敵を撃破しつつも唯依たちの道を作った。そして唯依たちは戦闘エリア外へと向かった。そして残った御船は二挺の30㎜速射機関砲で弾幕を張り、敵が唯依たちの所に向かわせないよう注意を退くのだった。それが御船の唯依たちの最後の別れであった。
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健一が墜落した場所は住宅地で健一の家の近くだった。その時に健一は落下の衝撃で気を失いはしなかったが、機体のコンディションは赤く表示されていた。先ほどの落下の衝撃で機体ダメージが限界に近づいていた。幸いにもまだ機体が動けるようだ。
「いつつ……爆散はせずまだ動けるなんて、本当奇跡だな」
そう言いつつも健一は不知火・弐型を動かし、一緒に墜落したグロースターの方を見る。グロースターは既に大破寸前でパイロットも無事なのかどうかわからなかった。この時に健一はグロースターのパイロットが気になったのか一応安否確認を行う為に機体から降り、ARSを展開してからグロースターのコックピットブロックに近づき、確認してみるとコックピット・ハッチがひしゃげていて開きそうになかった。
このまま見殺しにしては個人にとって後味の良くないものを残すことになる。そう判断した健一はひしゃげたコックピット・ハッチをARSのパワー・アシストでこじ開け、パイロットが無事かどうか確認する。そのパイロットは見覚えがあった。ブリタニア帝国第二皇女のコーネリア・リ・ブリタニア本人だった。
今のコーネリアは落下の衝撃で気を失っており、更には頭部を負傷したのか頭から血が流れていた。相手が皇女であったことに驚きつつも健一は一旦不知火に戻り、コックピット内に収納している医療キットを回収してコーネリアの元に戻り、コーネリアをコックピットから出した後に簡易的だが治療を行うのだった。
コーネリアは未だに気を失っていて目を覚ます様子がなかった。健一はここから先どうするかと考えていた。彼の家の地下格納庫は既にもぬけの殻であり、武御雷や戦術人形たちが眠っているカプセルは新宿にある秘密の隠れ家に移しているため何もない。行き先が不安に満ちていたその時に彼に幸運と不幸の二つが降りかかる。先ず幸運の方は山吹色と白色の瑞鶴が偶然にもここに来たのだ。
《不知火の衛士、聞こえますか?こちら横浜基地所属第二小隊の篁 唯依曹長です。応答を願います》
「唯依……だと?……篁、聞こえるか!俺だ、武田 健一だ!」
《え?武田さん?》
《篁さん、そっちにいました?……っ!あの白い装甲服は……!》
「そっちは山城か?どうやら京都の傷が治ったようだな」
《まさか……あなたが私を助けてくれた……》
その瑞鶴の衛士は偶然にも唯依たちだったのだ。まさかの再会に健一も誤算としか言いようがなかった。そんな中、偶然の再会に水が入るように唯依たちのレーダーに敵KMFの反応を一つ探知する。
《!?新たな敵?》
唯依がレーダーに反応があった方角に向けると、そこにはブリタニアのグロースターが向かってきている。唯依たちが突撃砲を構えるがここで健一が待ったをかけた。
「待て、もしかしたらあのKMFはある重要人物の救出に来ただけなのかもしれない」
《重要人物?いったい何処に……》
「実は、そこの不知火の横で倒れている新型ナイトメアのパイロットが重要人物なんだ」
そう健一が言っている間にグロースターが唯依たちの前で停止し、通信を入れてくる。その人物はブリタニア帝国最強の精鋭部隊ナイトオブラウンズの一人ナイトオブナインのノネット・エニアグラムだった。
《そこの日本人。私はブリタニアのナイトオブナインのノネット・エニアグラムだ。すまないがここに皇女殿下がいないか?》
《皇女……殿下……!》
《ラウンズが何故ここに?まさか、重要人物っていうのは…!》
唯依たちはまさか重要人物がブリタニアの皇女であることに気が付かなかった。そんな唯依たちを置いて健一がノネットの問いに答える。
「ナイトオブナインのノネット・エニアグラム卿……だったか?あんたが探している人物は今負傷していて気を失っている。こっちで簡易的な治療を済ませたが、他の傷は病院で治療させる必要がある」
《何?確かか?》
「あぁ。向こうのKMFの近くにいる。確認してほしい」
そうしてノネットの駆るグロースターは大破したコーネリア機のグロースターの近くで寝かされているコーネリアを見つけ、コックピットからノネットが降りて来てコーネリアを抱えてグロースターに乗せるのだった。その時にノネットはコーネリアを治療してくれたであろう健一に目を合わせ、礼を言った。
「感謝するよ。まさか敵国の者に助けられるとは思っていもいなかったが」
「こっちとしてはここで死なれては後味の良くないものを残してしまうからそれを避けるために助けただけだ」
「まぁ、そういう事にしておくよ。それとお前、名前は?」
ノネットから名前を聞かれた健一。健一はブリタニアにマークされる訳にはいかず、名前を言えなかった。
「……すまないが、ブリタニアに狙われる原因を作りたくないので言えない」
「フ……冗談さ。お前とは、また何処かで会えそうな気がするな」
そう言ってノネットはコーネリアを連れてこの場を離れた。何とか乗り切ったと思った矢先、これからのことをどうするか考えいている途中だったことを忘れていた。
「拙いな。不知火は既に大破寸前だし、跳躍ユニットも既に片方が壊れてるときた。面倒な状況だなこれは……」
そう考えている時に唯依たちが瑞鶴から降りてきた。
「武田さん……何故あなたが戦術機に乗っているのですか?」
「本来なら戦術機は日本軍に保有されている筈です。その点の説明をしてくださるかしら?」
「あー……そういえば忘れていた。……面倒なことになったものだ」
そうして唯依たちに説明する健一であった。その時の唯依たちの表情は笑みだったが、目が笑っていなかったそうだった。
皇歴2011年 2月11日
横浜基地防衛でブリタニアによって攻略され、首都攻撃への足掛かりを作ってしまった日本。しかし、そこに更なる追い打ちが日本に襲い掛かる。それは日本国首相である枢木 玄武が
日本政府は首相である枢木 玄武が亡くなられたことで日本はブリタニアとの戦争継続が困難となりブリタニアに降伏し、敗北した。そして日本は自由と伝統、権利と誇り、そして……名前を奪われた。
“エリア11”
それがブリタニアに付けられた日本の新たな名であり、日本人は“イレブン”と呼称されるのだった。