CLOCK  〜時間停止ヒーローが引退を決意したけど周りが放っておいてくれない件〜   作:雨 唐衣

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おまたせしました

次回も早めに投下予定


悩みのとき/悩みながらも時間は進み

 

 

 

「うぅ~~ん」

 

 休日の昼下がり。

 佑駆はバスに乗り、外出していた。

 頑丈なリュックサック、腹に巻かないウエストポーチを肩に下げて、100円で買ったサングラス。

 どこにでも販売してるノーブランドのジャージ上下と合わせて、久々に着る外出着だった。

 

(どうしょうっかな)

 

 バスの中は混み合っていて、リュックを胸に抱えながら座っている。

 座席に座りながら、横の人にぶつからないようにポーチから取り出したカラー用紙を取り出す。

 これは岳流に渡された地図だった。

 

 ――計画的なヒーロー妨害行為が行われているのかもしれない。

 

 そんな前置きと一緒に調べたことを説明されて、その上で「これでどう動くか佑駆に任せる。決まったらいつも通りのチャンネルで連絡しろ」である。

 

(どうしろってんだ)

 

 投げっぱなしである。

 休日前の学校帰りに言われた内容で、未だにどうすればいいのか悩んでいる。迷っている。うろたえている。

 せめて休日前じゃなければ学校で話せたのに、なんてタイミングで切り出してくれやがったんだ。

 

(いやそれも言い訳だ)

 

 岳流たちは近所の幼なじみで、話をしようと思えば歩いていける距離だ。

 付き合いも長いし、学校の後にでも電話なりいくらでもチャンスはあった。

 ただそうしなかったのは佑駆が迷っているからだ。

 

 何を迷っている? 決まっている、自分の中途半端な在り方だ。

 

 超速ヒーロークロックは辞めた。

 引退した。もう出ない。ヒーローなんてうんざり。他称ヒーロー、自称ヴィジランテ、なんていらないだろう。世間はそう弾劾してる。追放されろとたくさん()()()

 だったらもうなにもしないのが一番だ。

 

 だというのにこの間は思わず体が動いてしまった。

 

 目の先で電車に巻き込まれそうになった子供に。

 ――目の前で突っ込んでくる車に。

 ――――目の先で攫われた子供を助けに。

 

 さすがに目の前で見殺しにするべきだったなんて思わない。

 頭がどうかしている以前に、人としてどうかしている。やるならもっとバレないように気を使うべきだった。

 いや違う。また思考がそれている。

 大事なのは、自覚するべきなのは。

 

(また目の前でなんかあったら絶対俺動くんだよなぁ)

 

 自分の悪癖だった。

 自覚はしている。言われたこともある。

 その度に毎度こういっていたのだ。

 

 だってしょうがないだろ? 助けないといけなかったんだから。

 

 何度も何度もそういった。

 リュックを抱えて、地図を見ながら、軽く口の中で呟く。

 なんといってもこの社会が悪い。世界が悪い。世間が悪い。

 人が死にやすいんだ。

 

(変わらなけりゃあいいのに)

 

 バスに揺られて、混み合っている車内を見ながらそう思う。

 息苦しいし、みんなスマホや、ワイヤレスのヘッドホンを付けて、目を合わせようともしないが、それでも人は生きている。

 悲鳴は聞こえない。

 窓の外を見る。

 そこにあるのはいつもの十京(とうきょう)の景色。整えられた道路、街並み、真新しい建物。

 

 そして、それから外れた場所に廃墟すら残らない更地。

 まるで虫食いされたパンケーキのような光景。

 日本中どこにいっても似たような景色が広がっている。

 佑駆が生まれる前に人類は激減した。半分以上死んだ。

 数十億の人間が死んで、建物が壊れて、生物が死んで、戦争が起きた。

 人間同士の戦争じゃない。空想の存在との存在証明、幻想彩臨(リブート・イマジネーション)であらゆるものが失われたという。

 昔は20を超える区画があったといわれるこの首都圏も、十の都市に整理されて、住む場所を移された。

 京都に住んでる祖父母は未だに昔の家に戻れないとぼやいていたことがあった。

 

 昔に戻りたいという声も大人が言う事があるが、佑駆にはその気持ちはわからない。

 今の時代が当たり前だったから。

 そして、そんな時代からもっとよくしていこうとどいつも知り合ったヒーローは言っていたのを知っている。

 だからそれでいい。

 それだけで十分だっていうのに。

 

 バスの停車表示が切り替わった。

 停車ボタンを押そうとして、その前にポーンという音、色が切り替わる。

 差し伸ばした手を空中で止めて引っ込める時のなんとも言えない気持ちを味わいながら、バスを降りる。

 ぞろぞろと降りる。たくさんの人だかりに混じって歩いて行く。

 目的地に関してはこの人混みと一緒に歩いていけば問題なさそうだ。

 グッズとかまではさすがに買うつもりもないので入場さえ出来れば。

 

 片耳にワイヤレスのイヤホンを嵌めていると着信。海璃からだ。

 

「もしもし」

 

『うっす。今大丈夫か? なんかがやってるけどよ』

 

「大丈夫大丈夫、いま外いっから。どうした?」

 

『あー兄貴からあたしも色々聞いたんだけどさ。無理すんなよ』

 

 そう言い切って、訂正するように海璃の言葉が続いた。

 

『あ、無理すんなってのは辞めろってことだけじゃねえから』

 

「なんだそりゃあ?」

 

『ヒーローなんて勧めたくないけど、それを絶対にするななんて止めたりはしないよ。大事なのは佑駆がやりたいことだろうし』

 

 幼なじみの言葉は続く。

 

『ヒーローをやる気がないならやめていいから。でもさ、自分の心にだけは嘘をつかないで』

 

 佑駆が息を呑む。

 

『お前そんな器用な人間じゃないだろ』

 

 一呼吸分の間をおいて答える。

 

「いや大丈夫だって。ちゃんとヒーロー辞めたっていったじゃん」

 

『はいはい、そうだねー』

 

「信じておられない??」

 

『ていうかお前今どこよ、なんかめっちゃざわざわうるせえし。位置アプリ、オンしてないみたいだけど駅か?』

 

「ん、ああ?」

 

 周りを見渡す。

 長い行列に並んで、チケットなどを取り出す準備をしている周りの人混みを見て。

 

「今、ライブ会場並んでるとこ」

 

『は? ――なんていった?』

 

「並んでんだ。カトルカールのライブに」

 

 特典版のCDジャケットから取り出した握手券を見ながら、佑駆はそういった。

 

 

 

『あ゛?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴキゴキと体が鳴る。

 カロリーだけは高いプロテインバーを三本汚さないように噛み砕き、数千円する栄養ドリンクで流し込む。

 メイクを落さないようにストローで飲み干して、それから歯磨きガムを口に放り込む。

 

「んーもぉ、あまりエナドリに頼るようになったらお終いなんだけどさ」

 

 糖分とカロリーとカフェイン類が体に回り、口を動かして脳に着火させる作業。

 

 

「カトルカール。やはり中止にしたほうが……」

 

 

「ダメだ」

 

 控室のドア横に立つマネージャーの言葉に、彼女――カトルカールは鏡を見つめている。

 

「チケットは大売れ。ぼくがドタキャンなんてしたらどんなに大変か分かってんだろ?」

 

 カトルカールは()()をつぶっている。

 

「それに。迷惑がかかるのはボクたちだけじゃないし」

 

 カトルカールは()()をつぶっている。

 

「なによりもファンに迷惑がかかってしまうから。な」

 

 両目を開き、両手を右・左・右・左と順序立てて握り開く。

 

「平常通り。日常通り。平然とやっていくのが一番っていうじゃん」

 

「しかし、カトルカール。最近の情勢は……」

 

 コンコンとドアがノックされる。

 

「!」

 

 マネージャーがドアの横、控室へと持ち込んだ人間大のギターケースの前へと音を立てずに移動する。懐に手を差し入れている。

 

「はーい」

 

 カトルカールはドアの正面から外れた鏡台の前に座ったまま返事をする。

 

「スタンバイ終わりましたー! カトルカールさん、準備出来てますか?」

 

「はーい、すぐいきまーす」

 

 タ・ダンと安全靴特有の重い足音を響かせて、彼女は立ち上がる。

 マネージャーがドアを開けて、通路を確認するのを見届けてから、彼女は鏡を見る。

 

「外見、よし。どう? 問題なし、可愛いぞ。動作、どう? キレてる? キレてるぞ、ばっちりだ。ここでターン、可愛い? グー!」

 

 歌うように呟き、パンと手を叩く。

 

「ライト」

 

 気合を入れるルーティーン。

 

私の善(RIGHT)

 

 最後に机に置いた小さな人形を握りしめる。

 

お前の光(Light)

 

 彼女のヒーローを指でなぞって

 

私は輝くよ(ライト・アップ)

 

 左側は苦笑いを、右側は微笑む。

 左右非対称の笑みを浮かべて、ポケットへといれた。

 

 

 自分が魅せる光を信じて、曲がらないと示すために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ時間か」

 

 カチ。

 カチ、カチ。

 石が鳴る、打ち合わされる石が火花を散らす。

 

「揃ったわね」

 

 衣擦れの音。

 ズルズルとしみだらけのシーツを引きずる音が響く。 

 

「一人、足りないようだが?」

 

 石を打ち鳴らしていた誰かが言った。

 遠くから響くのは歓声、賑やかに興奮に飲まれた声。

 くだらない遊戯に騒ぐバカどもの声。

 

「髪女なら来てない。ドタキャンかしらねぇ」

 

 両手、両足にシーツを巻き付けた人影がいう。

 

「おいおい、そんなんで大丈夫なのかよ」

 

「所詮下位互換だし、いてもいなくても大差はないわ」

 

 やれやれとため息を漏らすのは女の声。

 石を持っていた男は肩をすくめて、最後の一人を見る。

 

 そこには帽子を深く被り、独り言を漏らす人影。

 

「とん、とん、とん」

 

 呟く。

 独り言のように誰かが同じ単語を繰り返している。

 

「やれやれ。相変わらずやべえやつだ。こっちまで斬らないでくれよ?」

 

「とっと、と」

 

「会話になってねえよ。こえーわ」

 

 意味をなさない返事に、引いて。

 

「だがまあイカれてるやつなんてこれぐらいでちょうどいいものだ」

 

 嗤う。

 歪んだ笑みを。

 軽薄で、刃物のように歪んだ笑みを浮かべて、それは笑った。

 

 

「そんじゃ悪役(ヴィラン)のお仕事を始めるとするか」

 

 

 邪悪共が嘲笑った。

 

 

 

 





アクターの階級には4つの分類がなされている

フォークロア(伝承)
都市伝説、地方伝承などのマイナーな寓話

メルヘン(童話)
世界的な認知、創作からなる童話の物語

レジェンド(伝説)
伝承、誰もが知る英雄、摩訶不思議な御伽噺


ミソロジー(神話)
神話と呼ばれるもの
三十年前においてのみ唯一現れた全ての災厄
聖書に描かれる黙示録の予言からなる騎士たちは、人類の多くを4つの結末へと導き、封じられた
人類はその恐怖を未だに拭いきれていない
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