CLOCK  〜時間停止ヒーローが引退を決意したけど周りが放っておいてくれない件〜   作:雨 唐衣

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あとがき設定を追加しました

指摘された誤字なども直しました


お楽しみ/このカツ丼はおごりだってさ

 

 

 

 

 薄暗い室内の中でジッターこと佑駆は追い詰められていた。

 

「やあ、カツ丼食うかい?」

 

「ヤメロ―! 俺は喰わない! 何も知らないんだ!!」

 

「安心してほしい、これは奢りだ」

 

「賄賂だろそれ!」

 

「いいからいいから」

 

「ヤメローヤメロー! いや熱! ちょっと熱い! これは虐待だぞー!!」

 

 グイグイ押し付けられる熱々の丼に悶えていたらパッと明かりがついた。

 

 

「なにしてるの、あんたたち?」

 

 

「事情聴取」

 

「尋問じゃなくて!?」

 

「意見は統一しなさいよ」

 

 片腕を包帯で吊り下げて少女――カトル・カールは呆れながら言った。

 

 どうしてこうなって、こんなところにいるのか。

 それは少しだけ遡ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから。

 何故かジッターは車に乗せられていた。

 それもバスのように大きく、広々とした車体。

 政府が自動車メーカーと契約してそれぞれのヒーロー用に提供している告知装甲車(ハードカバー)

 

 抗生機動隊が使っている装甲車(トータス)のカスタム品であり、佑駆(たすく)もテレビや外からみたり、何度か車体の上に乗ったことがあるやつだ。

 

 多少の怪塵(アクター)の攻撃なら防ぐし、巨大な怪塵の突撃でふっ飛ばされても車体が潰れなかったことがあるぐらい頑丈なもはや護送車とか現金輸送車の同類だろな代物である。

 そんな中に連れ込まれたジッターは隙を見て逃げるつもりだったが、未だに逃げられていなかった。

 さすがにこの車両を破壊するにしても、時間停止をフルに使って凹ませてから、解体に、自分が抜け出る場所を作り出すのに三度のフル発動がいる。

 車両から外を覗けるガラスはマジックミラー仕様だし、防弾ガラスの上に、耐久性と偏光効果――色や映像などで攻撃してくる(アクト)対策に、薄っすらと光景を変えるフィルムが張られていて下手なナイフとかでも切り込みを入れるのが難しい。

 その上。

 

(なんでこんなにくっついてるんですかねぇ!?)

 

 カトルカールがジッターの腕を組んでいるが、それも抱き寄せるように掴んでいる。

 幸い(残念ながら)、その胸は大きくないため感触はあまりしないが、いや、意識するな、するとなんかしてるきがするし、さりげなく持ち上げられたニット帽の防護がないせいで甘い匂いがする。

 カトルカールの片腕が、今は車両を運転してるマネージャーさんの応急処置だけで、まだ折れたままなのもあって乱暴に引きはがすことも出来ない。

 どうなってんだ。

 いや、マジでどうなってんの?

 俺こんなにモテ期とかハニトラされるようなことしたかなぁ!?

 

 ジッターはワタワタしていた。

 

 だからぎゅっと彼の腕を抱えているカトルカールが、頬を紅潮させて赤い靴先を小刻みに震わせていたのに気づいてなかった。

 少年少女が揃ってワタワタしていた。

 

「着きましたよ。カトルカール」

 

「あ、病院ついた?」

 

(今だ!)

 

 外から開けられるドア。

 それに合わせて腰を深く沈める。

 引かれていた腕を押し込んで――柔らかい感触を錯覚だと思い込む。

 

「ふぁ!?」

 

 悲鳴が上がって、カトルカールが抱えていた手から僅かな隙間が開く。

 

 許してセクハラだけど!

 

(いざ自由へ!)

 

 その隙間を逃さずにドアから飛び出そうとして、見た。

 

 

「よぉ、クロック☆」

 

 

 日本最輝のヒロインが水晶ガントレットが拳を打ち鳴らして立っていた。

 

「……マイ・フェア・レディさん?」

 

「おう」

 

 芋ジャージ姿の日本で知らないものがいない人物が立っていた。

 奥を見上げる。

 そこはこじんまりとした三階建てのビルだった。

 周りには対塵仕様らしき重警棒と銃器で武装した警備員が車両を囲んでいた。

 

「ここどこ?」

 

「うちの事務所だよ」

 

 はい、どう見ても病院じゃなくて、ヒーローの事務所です。

 本当にありがとうございました。

 

 

 

 離脱は失敗した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから。

 ジッターはズルズルと車から引きずり出され、事務所に連れ込まれた。

 

 時間停止には接触してる人間には無効になる性質がバレていたから、詰んでいた。

 

 カトルカールに改めて腕組みされてから半ば諦めた。

 

「もう煮るなり焼くなりしろ! どうせ俺はヴィランなんだ、いつものように人権停止されて射殺されるんだ!」

 

 ヴィラン。

 (アクト)を活用して明確な犯罪行為を犯した俳優(アクトレス)に対する名称だが、これに認定された人間はもれなく各種公共機関の利用権限と戸籍を初めとした人権が停止、怪塵と同様の抹消対象に認定される。

 これは日本だけじゃなくて全世界で定められた22の絶対法則(トウェンティツー・ルール)の一つだ。

 これに対する例外は殆どない。

 ヴィジランテなんてやっていたからこそ覚悟はしていたが、それでも声は上ずるし、今さながらに恐怖は覚える。

 

「いやいやいや、それさせるわけねーだろ。さすがに寝覚めが悪すぎるわ」

 

「そうそう、弁護士の伝手もあるし、ボクたちは政府公認のヒーローだよ?」

 

「ほんとぉ?」

 

 二人の慌てた声に、少しだけジッターは安堵するが。

 

(いやでもめっちゃいまバッシングされてるし、無理じゃね? 俺)

 

 ふと思い出す今の自分の世間評価に頭を振る。

 

 慣れた手付きでマイフェアレディが二重エントランスのドアにパスキーを打ち込んでるのを見ながら、深々と息を吐いて。

 

 

「いやはや、まさか本当に捕まえてくるなんてとんだサプライズだ」

 

 

 パチパチと手を叩く音。

 

 そこに目を向ければ金髪の小柄な少女が手を叩いていた。

 どこか白味のかかったブロンドに、肩からつま先までを覆う長いコート、薄い革製の手袋に、切れ長の琥珀色(アンバーカラー)の瞳。

 

「……どちら様?」

 

「ああ、お初にお目にかかるよ。超速ヒーロー、クロック。」

 

 

「わたしはサプライズ。<小人の靴屋>の俳優さ」

 

 

 パンと手を叩いて、サプライズと名乗った少女は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シトリ・ベリール。あっちのマイ・フェア・レディはアメス・ベリール。名字でわかるように、姉妹なのさ」

 

 そう自分が小人の靴屋と名乗ったシトリ(サプライズ)は肩をすくめた。

 赤い髪と金髪の姉妹、複雑な家庭事情がありそうだとジッターこと佑駆は空気を読んだ。

 

 だがその配慮に気づいたのか、ぺちんとサプライズは手を叩いた。

 

「きちんと血の繋がった実の姉妹だよ、俳優の関係上見た目がカラフルな違いが出るのも珍しくないからね」

 

「なるほど」

 

「まあ私たちは父が赤毛で、母がブロンド美女だっただけだが」

 

「おい」

 

「ちなみに自分が姉だ」

 

「妹でーす」

 

「えっ」

 

 やれやれと首を振る小柄な金髪美少女(サプライズ)と、芋ジャージを着てVサインする美少女というには美女が似合うほう(マイ・フェア・レディ)

 ちなみにサプライズの身長は、横にいるカトルカールとまあまあ大差なかった。

 凸と凹で。

 

「ぐほへ!」

 

「何を比べた?」

 

「いやなんでもないです、はい、ほんとうです。ちょっと美少女率たけえな―と思ったぐらいで、はい」

 

「では入り給え。美少女のお宅訪問なんて素敵なサプライズだろう?」

 

「なんか市場に連れて行かれる子牛気分なんですけど!」

 

 そうして佑駆は武闘派ヒロイン二人に引きずられて行った。

 

 それを見届けていた警備員たちは何故か敬礼をしていた。

 

 そうして現在に至る。

 

 なんで事務所に取調室みたいなのがあるのか考えたら怖かったが(後から聞いたら、ただの物置の中を突貫で片付けただけだったらしい)

 

 事務机と普通の事務椅子に座らされて、なんで取り調べを受けているのか。

 しかもレンジでチンしただけらしいカツ丼まで食わされそうになってる。

 

「え? 男の子ならこういうのが好きなんじゃないのかい?」

 

「男の子ってこういうので喜ぶんだよね、とかいって唐揚げ山盛り皿もってきそうなノリで出すんじゃねえ! 好きだよ!」

 

「やだ、熱烈?」

 

「そっちの好きじゃないんですけど?!」

 

「なにしてんだ、このチビ姉」

 

 佑駆がカツ丼片手にサプライズ相手に惑わされているのをみながら、カトルカールが呆れた声を上げた。

 ホットパンツにキャミソールだけというラフな格好だった。

 折れた腕にはどこか古めかしい布を包帯のように巻きつけて吊り下げている。

 

「やあ、カトルカール。腕の調子は?」

 

「んー腕の骨折ならあと2~3時間ぐらいで治るんじゃないかな。悪いね、『ガラスの中の布(グラス・イン・シーツ)』使わせてもらって」

 

「大丈夫大丈夫、うちの子はそんな怪我しないからね。ストックも余裕あるからさ」

 

「攻防一体の(アクト)持ちはそういうところが羨ましいや」

 

「グラス・イン・シーツ?」

 

「覆った箇所の傷があっという間に治る魔法の布さ。ま、難点はガラスケースにいれておかないと保存出来ないから使い捨てなんだよね」

 

「なにそれスゴイ」

 

 ヒーローってのはさすがに違うな。

 そういえば一度足とか折れてたり、死にそうだった重傷だったやつも、気がついたら復帰していて次の日元気に活動してたのはそういう理屈だったんだろう。

 

 幻想彩臨以降、この世に俳優(アクトレス)灰塵(アクター)が誕生したようにそれ以前まではなかったものが現れた。

 それは新種の植物だったり、まったく未知の特性を持った金属や、既に絶滅していたはずの動物の復活だったり、入るだけで傷が治ったり、若返りの作用がある泉の発見だったり。

 現実にフィクションが現れて、当時の人間による作り話だと考えられていたようなお伽噺、神話の時代への回帰。

 だから幻想彩臨(リブート・イマジネーション)と呼ばれるのだが。

 

「ま、作れるのが一人の手作業だから数に制限があるんだけど、なにか質問ある? ないなら話の続きをしよう」

 

「話の続きっていわれても……自己紹介しろってのはわかるよ? 国際人類番号(ISHN)とか、名前とか、まあ名乗ったわけだし」

 

 ここまで抵抗しても無意味だと佑駆は自分の本名と自分が高校生だということは伝えた。

 戸籍登録にも使われているISHNだから自分の身元もバレるだろう。

 ヴィランによる事件で死亡した両親の代わりに生活費を出してくれている祖父母には迷惑をかけるが、最低でも海璃と岳流の二人に害が及ばなければいい。

 この二人のことに関しては絶対に黙る。

 最悪、力を使えば何も言わずに死ぬぐらいは出来る。

 

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「だけどそれ以外、不満とか、欲しい給料とかってなに? ヒーローにでも勧誘したいのかよ」

 

「え」

 

「えっ」

 

「えってなにさ」

 

 二人の反応に、佑駆のほうが首を傾げた。

 

「いや、前から何度かスカウトの声はかけてたじゃん」

 

「公務員ヒーローはいいよ、給料も安定してるし。バックアップはめっちゃ手厚いし、ちょっとハードだけど」

 

「そうそう、慣れればいいさ。企業のと違って国がバックだからね、給料は安定してるし、仲間もいるよ! ちょっと忙しい時は忙しいけど、アットホームな職場さ」

 

「ブラック企業の代名詞じゃねえか!」

 

 イヤ過ぎる。

 佑駆とて無知ではない、これまでの自称ヒーロー活動で死んだ目になりながら活動している政府ヒーローやヒロインは何人も見ていた。

 バックアップが豊富というのは大事にされているのは間違いないが、それは逆説的に言えば死なせないぞ?というやつだ。

 

 たまに企業に雇われている俳優が「政府はクソっすね! あんなのバカがやる仕事だよ、バカが! 週休一日も確保出来ない業務なんてやってられるか! もうブラック企業になんて戻らんぞ!」 と死んだ目で怒り猛っていたのは有名だ。

 あれは確か俳優になるまではブラック企業の社畜だったとかいうプロフィールだったか。

 

 そう考えると勧誘してくる二人はさながら地獄に引きずり込むカンダタの亡者共か。

 

「はっはっは、まあ三割冗談として」

 

 七割本気!?

 

「一応そちらの言い分とか聞いておかないと、弁護士のほうにも準備があるからね。少しでも弁護で有利な心証用意しておかないと」

 

「弁護士? え、なんで? 俺もう逮捕されてんだろ、今から弁護人よんでくれるとか?」

 

 刑事ドラマでの知識を思い浮かべながら喋る佑駆に、サプライズは「ああ」 と手を叩いて。

 

「まだ君逮捕されてないよ。政府のほうには内緒にしてるからね」

 

「情報はここで止めてるよ。抗正のほうにも貴方のことは現地協力者としか言ってないもん」

 

 ねー、とロリ系な美少女二人が揃ってポーズを取る。

 これはもしかしなくても自分がここにいることは殆ど誰も知らないのかも知れない。

 そう考えると何故か佑駆は冷や汗が噴き出してくるのを自覚した。

 

(これって下手しなくても監禁コースとかそういうやつ? 言うこと聞かないと生きて戻れないとかそういうあれな)

 

 どんどん膨れ上がる不安に、サプライズは改めて佑駆の前の椅子に腰掛ける。

 

「超速ヒーロークロック……今はジッターと名乗ってるようだけど、改めていうよ。君の能力とこれまでの活動、功績をわたしたちは高く評価してる」

 

 佑駆の目を真正面から琥珀色の目が見据えた。

 

 

 

「君はヒーローになるべきだ。そのほうがよりもっと多くの人間を助けることが出来る」

 

 

 

 静かに言い聞かせるように告げられた言葉は本当なのだろう。

 事実、佑駆――クロックとて、何度か冗談交じりに、あるいは真剣味を帯びてスカウトされたことはある。

 その度に曖昧に返答し、あるいは無視して、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それが今は真剣に、逃げ場もなく、勧誘されている。

 承認欲求が満ちるのがわかる。

 こんなチャンス多くはないと思う。

 

 だがしかし、今は。

 

 

 

「いや無理だろ。俺嫌われてんだぜ?」

 

 

 

 だから不可能だとクロック――佑駆は首を振った。

 そんな明確な真実に、何故か二人は眉をひそめた。

 

 

 

「「は?                (そんなのだれがいったんだよ)」」

 

 

 

 





【ヴィランの人権】
明確な重犯罪行為が確認された俳優はヴィラン認定が執行される。
これは本人がモチーフに飲まれた状態と認定され、同時にISHMを通してあらゆる公共機関の使用停止、資産凍結、人権が凍結処理される。
これは広義としての怪塵と同じ扱いになり、銃火器などを用いた無条件での射殺許可が降りる。
その支配的な対応に人権団体による抗議や、俳優遇主義者などによる反発も大きく、国によって難しい舵取りが迫られている。。


国家によって多少の差異はあるものの国連によって認められた国際的絶対法律として周知されている22の絶対法則の1つ。


【22の絶対法則(トウェンティツー・ルール)】
幻想再臨以後、社会生活を保つために定められた国連による22の法則。国連社会に所属する人類国家は全てこれに基づいて法律の修正や削除、追加を行った。
その製作には政治家、法律学者、神学者、劇作家、映画監督など多くの人員が秘密裏に集められて定められたと噂されている。
その大規模な変革に幾つかの国や団体は反対、宗教団体においては反発する姿勢を掲げているが、その過半数が怪塵とヴィランによる事件が絶えない。


【ISHM】
 International Standard Human Numberの略語
 30年前の幻想再臨から全人類に対する共通規格として番号表記が定められた
 出身国家、人種、性別、など検索と管理のために与えられたユニークコード
 日本においてはマイナンバーカードなどに記載されている。
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