CLOCK 〜時間停止ヒーローが引退を決意したけど周りが放っておいてくれない件〜 作:雨 唐衣
5/26
マイフェアレディの説明及び設定イラスト追加
『クロック死亡』 『クロックは雲隠れした腰抜け』 『政府に捕まって解剖された』
『犯罪者になった』 『世間で増えてる事件の影はクロックの仕業』 『世間への復讐を企んでる』
『怪塵事件の増加』 『負傷によるヒーロー不足での治安の乱れ』『ヴァジラントバッターによる声明、ヒーローたちへの過剰な非難はモチベーションが下がると一喝』
『遺族からの裁判準備』 『役立たずの人殺し』 『クロックに正義の心があるなら今すぐ世間に正体を明かせ』
佑駆がヒーローを辞めてから一月が経った。
相変わらずSNSの評価は変わらないが、新しいものはあんまり見当たらなくなった。
精々死亡説が流れてるぐらいで。
「こうやって世間から忘れられていくんだなぁ」
SNSの画面を流しながら声を漏らす。
なんてことのない日常が続いていた。
学校では相変わらず帰宅部だし、
「何を調べてんだろうなー?」
「お前の兄だろ、なんか聞いてないのか?」
「兄貴のやつ、確信出るまで考え込むタイプだからな。死亡フラグっぽいから小出しにしろっていったら日記に書き出すようになったし」
「それはそれで遺書っぽくなるからやめてほしい」
「だよなー」
だからダラダラと海璃と一緒に学校帰りの駅前を歩いている。
駅前から歩いて十分程度の学校の周りは自然っぽくて静かなもんだが、駅前にはビルが幾つも立ち並び、人通りも相応に多い。
通行量も多いからあまり信号の前に立たずに、佑駆は自然と後ろ側で立っていた。
(そういえばクロック辞めてから、岳流とも話す回数が減ったなぁ)
佑駆が能力に気づいたのは中学校に上がってすぐだった。
幼馴染二人と一緒に中学校に登校している最中に出くわしたのだ。
火事に。
一軒家の家の中からいきなり火が噴き出して、それに中学生でスマートフォンを手にしたばかりの岳流が慌てて通報して。
佑駆と海璃はどうしょう、どうしょうと慌てていた。
役立たずだった。
だけど、その時中から声が聞こえた気がして。
その声に必死になって、気づいたら自分が煤だらけの黒焦げになりながら、中に居た二人の子供を抱えて外に飛び出していた。
そうして
後から起こった火事が怪塵現象によって暴走したコンロの火だったとか、助け出した二人以外の両親が先に死んでいたこととか、救急車に運ばれたあの子たちがどうなったのかもわからない。
なにもかも後から知った。
ニュースサイトの情報を見た、小さな小さな記事だけだ。
自分に出来ることなんてただそんなちっぽけなことだけだった。
だけど、それでも。
――後少しだけ立ち上がるのが早かったら、あの子の両親を救えたんじゃないか?
――もう少しだけ覚醒して、練習を積んでいたらもっと被害を減らせたんじゃないか。
そんな事ばかり考えて、佑駆はヒーローを始めた。
安っぽい考えで、だからツケが来たのだ。
『役立たずの人殺し』『居ないほうがマシ』『ヒーローの邪魔をする』
あの事件から救えないものばかりだった自分には相応しい評価だなと思う。
「ま。ヒーロー辞めたんだけどさ」
独り言を呟き、車の青信号が黄色に変わる。
もうすぐ歩行者用の信号が青になる、息を吐き、目を閉じた。
息を吸って。
戸惑うような声が聞こえた。
「なんだ?」
「うん?」
海璃の声に目を開く。見れば、周囲の人混みが一方向に向いていた。
その方角につられて目を向く――チカチカと信号機が赤、青、黄、黄、赤、黄と色を狂ったように点滅していた。
「信号機のトラブルかよ」
「勘弁して欲しいわ」
雑踏が愚痴るように声を上げて、誰かがスマホで撮影しようと手を上げて。
その方角から車が突っ込んできた
「は?」
暴走音を響かせて、異形の自動車が物凄い速度でこちらへと向かってくる。
その形状は歪に膨らみ、金色に輝いていた――怪塵だ。
「全員逃げろ!!」
佑駆が大声を上げて、遅れて人混みから悲鳴が上がった。
だが遅い。
道路から他の車を跳ね飛ばしながら突っ込んでくる
「やばい! 佑駆!」
海璃が佑駆を見た。
佑駆は息を吸った。
「
――
「
能力を発動。
(速度、角度、撥ねられない距離は)
目線だけを動かし、口を開かず、急いで観察。
自己時間にして五秒、酸素はまだある。
検討をつけて、硬い空気に割り込みながら、足を踏み出す。
轢かれるだろう位置にある人の背を押し飛ばし、手で押して、進行方向にいる人間を最小限の接触だけで退けて。
――能力解除――
轟音。
異形の車が誰もいない場所をすり抜けながら、走り抜けていった。
その後姿を佑駆は見送って、スマホを取り出す。
(怪塵だ! ヒーローに通報しねえと)
スマホ画面を立ち上げ、通報用のアプリをタップする。
どのスマホにも基本登録されている怪塵災害に対する情報提供義務。
押しておおよそ五分以内にヒーローが来る。
(あとは任せよう)
佑駆が出来るのはここまでだ。スマートフォンをポケットに放り込んで、荒く息を吐き。
「おい、佑駆」
「なんだ、ちょっと息がきっつ」
「今の車――子供が乗ってなかったか?」
海璃の言葉に、息が止まった。
「!!」
佑駆は振り返った。
走り去っていく暴走車の車両に、そのバックガラスに、小さな影があったのを。
佑駆は見た。
窓ガラスを叩いて、泣きそうな顔を浮かべた子供の顔が見た。
佑駆は足を出した。
前へ。
体が動いていた。
「佑駆!!」
そして、飛び込んできた声と鞄を受け止めて。
彼は走り出した。
『通報連鎖確認!! 怪塵車両、未だ暴走中!』
『信号機の異常止まりません!』
『どうなってんだ!』
『電気系統のトラブルが起きたようです! 現在、検索ルートの道路が混乱を起こしています! 移動に時間が』
「いいから! 怪塵の進路予測だけ出せ! こっちで追いつく!!」
煌めく鉱物で覆われた超電式駆動二輪車輌《エレキ・バイク》が疾走していた。
上下の赤ジャージに、ライダージャケットを羽織り、ヘルメットを被った少女が操っている。
「今日は非番だったっていうのに! あーもぉ!」
ヘルメットの内側で呪いの言葉を吐き出してる彼女の名は<マイフェアレディ>。
日本国内で五指に入るヒーローにして、3分前まで趣味のマイナーカップラーメンにお湯を注いでいた少女。
久しぶりに取れた休みに、ジャージでダルダルしていた哀れな美少女だ。
「ラーメンが伸びる前に終わらせんぞ!!」
『まーたネタ提供しちゃうねえ、マイフェアレディ』
「うっせえわ、<サプライズ>! それよりバックアップちゃんと間に合うか!?」
『こっちも全速力さ。最低限、この市街から逃さないように備えてる』
「移動ルート!!」
『通報アプリで捉えてる、接触まであと1分21秒だ』
アメスの被るヘルメット画面の隅に、投影された地図が表示される。
3D形式に立体化されたマップデータに映る道路に移動する赤い点が写しだされ、その周囲をボツボツとオレンジ色の小さな点が出現する。
赤い光点がターゲット。
そしてオレンジ色の光点が通報アプリでタップを押したスマートフォンの位置情報だ。
現在、世界中のあちこちで発生する怪塵事件に能力を得た超人犯罪。
これに対処するために既存の通報手続きではなく簡略化された標準搭載によるアプリと位置情報の提出。
操作は簡単。
異常な現象だと目撃したらアプリをタップするだけ、連鎖的に周囲端末へアプリからの確認が表示される。
――異常な現象を目撃していますか? Yes or Noのタッチ選択。
その繰り返しだけで範囲がわかるし、Noが続けばそこに異常がないことが判る。
個人情報の流出や人権侵害だと騒がれた声もあったが、危機対処として迅速に進められた法整備。
そのおかげで怪塵、超常現象の通報と検知速度は飛躍的に上がった。
近代文明の恩恵を受けている人類全てが通報装置に等しいのだから。
『監視カメラからの画像を確認。怪塵変異が起きたのは普通自動車、ハイエースと呼ばれる車種だ。どうやら子供を載せているらしい、それが元から乗っていたのか、拉致されたのかわからないけどね。等級は
「ハイエースって風評酷すぎんだろ!?」
『怪塵の行動パターンは単純なようで深いからねえ』
どんな現物も破壊すれば塵となり、その質量の有無に関係なく消滅してしまうからだ。
ただわかっていることとして特徴的なものがある。
――その物体に与えられた
例えばバイクならば速度をどこまでも上げて暴走するし、土木作業機械なら周囲の物体をより深く更地に、回転ドアなら激しく回転し続ける。
コレに加えてその物体に纏わる伝承、伝説、物語などによって役割を演じようとするのが
その上、時間をかければ掛けるほど本来の形と役割から
だからこそ怪塵対処許可認定を受けているヒーローは、遅巧よりも拙速に動く。
ひと月前の事件を覚えているからこそ、アメスは急いだ。
(人間が拉致されてるって、見つけ次第殴り壊すわけにはいかないか。せめて動けるのが他に誰かいれば分担出来るってのに)
「! 見えてきた、あれね!」
信号は未だに狂い、渋滞の隙間をくぐり抜けながら向かう。
クラクションが鳴り響く。
向かい風にギチギチと豊かな胸を震わせながら、アメスは道路の先に見える暴走車を見つけた。
「まずい! かなりでかくなってる!!」
『見えてる、
通報を受けて逃げ出したのだろう持ち主たちの後ろから、車輌を跳ね飛ばしながら二倍強にまでデカくなったハイエースが走っている。
その全身に錆色めいた膨張を繰り返し、まるで装甲車のような形へと代わりつつある。
もはや一刻の猶予もない。
これ以上の被害を出すわけにはいかないと加速しようとして、マイフェアレディは違和感に気づいた。
「まて、他のヒーローが来てるのか?」
『え? いや連絡は受けてないけど』
「じゃあこのスマホの持ち主は誰だ?」
投影された3Dマップを見る。
赤い光点を追跡するように、
「すごい速度! なにこれ、点滅して」
『レディ、12時の方角だ!』
「!!」
彼女は見た。
見たけれど、見えなかった。
渋滞で並ぶ車のボンネットが、音を立てて、跳ねて、跳ねて、揺れて、揺れて、音の波が来る。
空気が揺らぐ。
音が来る。
空気が千切れて。
僅かな影が見える。
断続的な音が響き並ぶ異様な光景。
その光景を、彼女は覚えがあった。
確信があった。
"不可視たる絶対救世主"
「クロック!!!!!!!!」
誰もその正体を知らない。
超速ヒーローの名だった。
――彼は走り出す ――
怪塵・ヴィラン通報アプリ『タッキング』
先進国の90%以上の人間が所持している汎用型携帯端末を異常現象に対する通報及び索敵装置として適応するためのアプリ
一度スイッチが入れば、周囲数百メートルの端末全てに確認のメッセージが出力され、市民の適切な協力の元に速やかに情報共有される。
導入初期はイタズラ目的などでの誤動作も多かったが、繰り返す誤報動作に威力業務妨害罪、悪質であれば国家治安騒乱などが適応されることになった
監視カメラやアプリの連動、それ以外の協力の下精度は年々上昇しており、悪質な能力犯罪者の摘発率も上がっている
【マイフェアレディ】
ランク:
十京専属のヒロイン。
灰を操る灰被り、アクチュエーターを取り込んだ灰水晶装甲によるパワードスーツを用いてヒーローよりもヒーローらしいヒロインとして活躍する舞踏快系ヒロイン。
去年中等部を卒業したばかりの新米JKガール
【挿絵表示】