CLOCK  〜時間停止ヒーローが引退を決意したけど周りが放っておいてくれない件〜   作:雨 唐衣

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たくさんの感想ありがとうございます。
忙しく返信が出来ていませんが、全て確認させていただいております

これからも頑張ります


セットアップ(3)/アキレスは追いつけない

 

 

 火車。

 化車(かしゃ)とも描き、罪を積み重ねた果てに死んだ死者の亡骸を連れ去る妖怪。

 借金などの重ねで、生活苦に苦しむものの生活を火の車というように責め苦を与える。

 その正体は魔性と化した猫とも、地獄の獄卒が引く牛車とも、死体を貪る怪物とも、多く語られる。

 多くの伝承があり、その全てが火車と名付けられる。

 

 人の最後の尊厳を(サヨナラを言うことすらも)奪う伝承。

 

 三十年前、失われた数十億の命。

 その中の死体がどれだけ食われたのすらも未だ数え切れない。

 全ては喧騒の中に埋没した。

 


 

――伝承級(フォークロア)怪塵(アクター)――

 

――暫定名<誘怪火車> ――

 


 

 

 時速50キロから70キロへと加速。

 法定速度を超過し、誘怪火車を追うのは二人のヒーロー。

 

「食われる前に助け出すぞ!!」

 

「当たり前だ!」

 

 異音を立てて、見上げるほどの大きさに膨れ上がっていく誘怪火車の偉容。

 マフラーから噴き出す煙は黒い煙と炎を混じらせ、火山雷のように火花を発し、排気音はどことなく不気味な笑い声へと変じ始めている。

 

『注目度が高い! 想定よりもフェティッシュ値が上昇している、進化が進む前に仕留めろ!! 確認出来る特徴も、3つを超えてい――』

 

 火のついた車輪がアスファルトを焦がす。

 悲鳴めいた轟音を奏でて、誘怪火車の軌跡から火柱が上がった。

 

「妨害のつもりかよ! 息止めてろよ!」

 

 普段のスーツならばともかくダサ芋ジャージ(生活感丸出し)に耐火性能はない。

 マイフェアレディは指を鳴らし、剥離した装甲を再び灰へと戻す。

 

「Action!」

 

 動作を提示(シューティング)

 時速七十キロ超過の風圧も無視して、硝子灰が主演女優(マイフェアレディ)の横を並走する。

 

「<暖炉の灰をすくい取る(シンデレラ・スケール)>!」

 

 腕をぐんっと横薙ぎに、大きな胸をぶるんと揺らし、膨大な灰が前へ飛び出した。クロックは後ろで目を丸くしていた。

 火の海の中に灰が放り込まれ、燃え盛る炎の渦が、掻き分けられる。

 

 灰はもはや燃えない。

 ――燃え尽きているから。

 

 火は灰に導かれる。

 ――灰は火を誘導する性質を持つ。

 

 火の海に灰で蓋をしながら、息を止めた走甲単車が駆け抜ける。

 速度は上がり続ける。

 誘怪火車との相対距離は30メートルを切った。

 

「クロック、少しでいい。回り込むための撹乱は出来るか!」

 

 接触まであと十数秒。

 

「何秒稼げばいい?」

 

 相対距離は20メートル。

 速度は80キロを超えて。

 

「切り札を切る――完全フリーで5秒くれ」

 

 装備も、環境も何もかも不利。

 マイフェアレディのフルポテンシャルを100%とするなら、今は20%も出せない。

 使える灰も不足し、戦うだけならなんとでもしてみせるが、救出なども含めると圧倒的に足りない。

 だから切り札を切る。

 

「わかった」

 

 相対距離は10メートル。

 速度は90キロを超えて。

 

 二人は見た。

 1キロ先には大型道路の合流点、どちらに逃げ込まれるにしても大量の被害が出る。

 

「えーと時速90キロで、5秒進むと……まあ100メートルも進まんだろ」

 

 クロックは眼帯に指を当てて。

 

「100メートル進んだ先で食い止めろ」

 

「25メートルオーバーしてんぞ」

 

「え。そんな進むぅ?」

 

 時速90キロで1秒間に進む距離は25メートル前後だ。

 マイフェアレディは大型二輪の運転免許を特例で所持している。

 クロックは運転免許を所持していなかった。

 

「――」

 

「――」

 

 宝石のように貴重な一秒がたっぷり過ぎ去った。

 

「いくぞォ!」

 

「お前大丈夫だろうな!?」

 

 マイフェアレディを激しく不安にさせながら、クロックは跳び出した。

 

 

Cut(カット)・」  In(イン)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――黄金時間(GO・REDN・TIME)――

 

Cut(カット)・」  In(イン)

 

 割り込み開始(カット・イン)・すなわち時間停止。

 

 周囲の時間が停止する。

 雲は流れることをやめ、風は凍り付き、疾走する誘怪火車も、後ろで声援を送ってくれたマイフェアレディも、何もかもが微動だにせず止まる。

 

 時間停止世界(黄金時間)には幾つかの法則が存在する。

 その全ての性質を、時間停止能力を持つクロック――佑駆にさえも理解し切っていない。

 その中で分かっている性質が4つある。

 

 1つ。この時間停止は完全な時間停止ではない。()()()()()()()()()()()()

 緩やかに進む光は、佑駆――クロックの目には輝いて、砂金のように映っている。

 自分だけが早い【超速】に入り込み、相対的に周りが減速している。

 だから()()時間停止と仮定する。

 

 2つ。光以外、精密には光ほどの速度を捉えきれないだけでほぼ全ての物質が停止している。

 それは生物も、物体も、風も、雲も、水も、空気も。

 その全てが鉛のように重く、固い。だから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 クロックが即座に使えるのは肺の中に溜め込んだ空気のみだ。

 クロックだけは動ける、生存出来る、血流も止まらないし、思考も止まらない。

 

 3つ。時間停止しているものは、クロックが触れればゆっくりと動き出すこと。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だからこうして踏み出す空気も氷が水へと変じるように柔らかくなってるし、後ろにいるマイフェアレディでも抱きしめれば停止が解除されるだろう。

 触れた部位ごとに加速が緩むというルール。

 さらに検証の結果、非生物よりも生物のほうが停止解除速度が早い。

 

 そして、4つ目。

 この時間停止状態の維持に必要なのはクロックの体力だ。

 停止状態でなら息を吸い込んだ状態で最大1分前後。大体20秒前後ぐらいが安定。皮膚呼吸が使えないからそれだけしか持たない。

 動き、歩くことを考えれば、さらに縮まり安定して5~10秒ぐらい。

 連続で使うことも考えればその程度を目安にコントロールしている。

 

 ――なんていうか薄い本の時間停止おじさんみてえな能力だな。

 ――触った相手だけ時間停止が解けるとか、触った箇所だけ動かせるとか、それっぽい。

 

 時間停止能力(アクト)に自覚して、検証実験をしていた時の幼馴染の呆れたような感想を思い出す――!

 

(クソ久しぶりのどうでもいいトラウマぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!)

 

 を思い出(フラッシュバック)しながら、斜め先へと飛び降りる。

 時間停止状態であっても重力は動いている。

 だからただ上に跳んでも落ちるだけだし、前に飛び込んでも解除されてない空気の壁に押し返されるだけ。

 アスファルトの大地は固い。凍結時間の中で大地の反発は受けられない、まるで鋼鉄のように固い。

 停止解除の法則があっても自由自在に解除されるわけがないし、急いで進めば空気の壁に押し返される。

 だから。

 

 空気の隙間を圧し開く。

 

 クロックは固まりきっていない風の道へと身体を滑り込ませる。

 要は人混みの流れと同じだ。

 混み合ってる場所にも歩くべき流れがあり、風の流れは砂金のように流れる光で見えている。

 時間停止を行えば、全ての風は停止し、暴風の中でもなければ大気の密度もばらばらだ。

 どうしても避けきれない場所だけ猫の手で固めた手で接触し、凍結解除に合わせるように圧して退ける。

 長年の能力の検証と実践で、一々考えなくても風の流れ、それの開く方、叩き方は体得している。

 

(昔は五メートル進むのにも10秒ほど使ったもんだ)

 

 鉛の空気の中を泳ぐように進みながら、ゴーグルの時計を見る。

 左目の時計の秒針は停止している――電波時計対応の現実時間。

 逆に左手のスマートウォッチのデジタル表示は【07】の表示を示している。

 身につけているものだから短時間だけネットとの接続が切れるが、タイムウォッチ機能は生きている。

 自分の流れる時間と周りとの時間の誤差を修正してくれる幼馴染の作ってくれたサポート装備。

 

(戻ったら礼と、心配をかけたお詫びをしないとな。あと鞄)

 

 【11】

 今クロックが頭に付けている眼帯と帽子は、あの時走り出した自分に投げ渡された海璃の鞄に入っていたものだ。

 だから、時間停止して、上着だけを脱ぎ、鞄の中にあった時計眼帯(ゴーグル)と帽子を被って変装している。

 

 クロックを辞めたっていうのに、なにかあったら動き出すだろう自分のために持ち歩いてくれてたんだろう。

 

(まったく、理解されてんなあ、俺も!)

 

 【13】

 たっぷり13秒を使って、相対距離10メートルの距離を追いついた。

 蹴り上げるように怪塵までの道の空気を押し上げて、そのルーフの上へと跳び載る。

 音もしない。

 硬い、頑丈な誘怪火車の上に乗り、吸うための息を吐き出しながら、クロックは全力で体重を下へと踏みつけた。

 放つは鍛錬と健康体操の太極拳で覚えた――震脚。

 

 ――能力解除――

 

 

 轟音。

 誘怪火車の車体が、圧壊音と共に傾く。

 

「マジかよ」

 

 マイフェアレディは見た。

 瞬間移動したクロックが、火車の上に飛び乗ったと同時にその車体を傾かせたのを。

 

(あいつの瞬間移動、どうなってんだ? 重くなるとかじゃねえよな)

 

「と、おいクロック! 後ろだ!!」

 

 火車の纏う黒煙から異形の腕が生える。

 分厚く巨大な人間大の大きさ。

 乗り込んだクロックに反応し、それを引きずり落とそうと出したのだろう。

 それが後ろからクロックを掴まんと、襲いかかり――

 

 ――黄金時間(ゴー・ルデン・タイム)――

 

 五センチほど跳躍してから、時間停止。

 

(あ、後ろから来てるじゃん。避けてっと)

 

 静かに着地してからポジションを移動し、爪を伸ばしてくる腕を観察し、スマートウォッチをタップ。

 海璃から送られたメール内容――火車に関するマルチペディアの内容の貼り付けを確認。

 

(ふぅん、雲から足とか出てたり、腕が出ることもあるのか。風も起こすことがあると)

 

 内容をざっと読み、既読返信をする。

 そして、ごつい腕の指関節をめがけて、回し蹴りを打ち込んだ。

 

 ――能力解除――

 

 クロックの姿がかき消えて、腕を回避。

 カウンターのように回し蹴りを叩き込んでいた。

 

 だがあくまでも逸しただけ、怪物の腕のように見えるが金属製で。

 

 ――黄金時間(ゴー・ルデン・タイム)――

 

(かてえな、金属製か)

 

 たっぷり三秒観察し、壊し方を試算する。

 丸く口に入れた空気を飲み込んで、蹴り押して伸び切った腕へと飛び乗って着地。

 そして、そのまま上へと飛んで、着地。

 上へと跳んで、着地。

 上へと跳んで、着地。

 上へと跳んで、着地。

 そして、そろそろ限界だろうと元の場所へと飛び移ってしがみつく。

 時間凍結の度に、慣性も

 

 ――能力解除――

 

 

 異形の腕が地面へと押し付けられた。

 まるで上からハンマーで叩かれたようにくの字にめり込む。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なんっ!?」

 

 自分から急ブレーキを駆けたような形になり、反作用で誘怪火車が跳ね上がる。

 当然その上に乗っていたクロックも跳ね上がるが、その姿勢は崩れていない。

 減速した誘怪火車とすれ違い、その横をすり抜けるクロックを見た。

 アイツは当然のような顔をしている。

 

 そして、アイツが腕を上げて。

 

 ――黄金時間(ゴー・ルデン・タイム)――

 

 空中で停止。

 全力で時間を停止、思考時間だけを稼ぐ。

 

「かく」

 

 動かずに、傾いた窓ガラスから中を見る。

 

「にん」

 

 子供が泣きそうな顔をして見上げていた。女の子だ。

 

「おれが」

 

 ドアのロックを確認、当然変形していて開かない。

 

「つか」

 

 シートベルトが触手のように絡みついている、だから出られない。

 

「んで」

 

 外側からぶち破って、開けるしかない。

 

「まもる」

 

 外側の破壊と中身を護るように砕くことなんて。

 

「たの」

 

 マイフェアレディなら。

 

「むぞ」

 

 出来るに決まっている!

 

 

 ――能力解除――

 

 

「確認。オレが・掴んで・護る・頼むぞ!」

 

「任せろ!!」

 

『――準備完了。注目度は上げた、スピーカー、告知の許可が降りた』

 

 準備は終わった。

 フルスロットルで加速し、誘怪火車との距離を稼ぐ。

 

『歌え、マイフェアレディ!!』

 

 息を吸う。

 マイフェアレディが、喉を鳴らし、ヘルメットを剥ぎ取る。

 

 

「愛されて育ったわ」

 

 赤い髪をなびかせながら歌い出す。

 

「私の生まれは愛に包まれ、暖かく温もりを覚えている。

 燃えて、燃えて、焼かれて、いつしか灰になってしまった」

 

 バイクの振動音にも負けぬ高らかな声で。

 

「火が付かない、灰に火が付かない、赤くなく白くざらついて崩れるばかり。

 手に触れれば白くなるでしょう。

 薄汚れたズタ袋も覆い隠せる、息を吐き、咳を吐き、叩かれ、溢れるのは灰ばかり」

 

 走り抜ける街頭モニタのスピーカーが声を響かせる。

 

「私に夢はなく、全て白く覆われてしまった。

 夢に描くのは幸せの階段、裸足で登れない高い高い段差の先に。

 まるで山の向こう」

 

 それは彼女の歌。

 走り抜ける異形と煌めく装甲に、赤い髪の少女を人々は連想し。

 

「私は泣き崩れるばかり、その先の向こうへ努力する資格もない。

 そう思っていた、あの日、現れた奇跡のような魔法の先に。

 都合のいい奇跡が訪れ、私は幸せになっていいのか、叫んで問う」

 

 それが歌う言葉を理解し、注目する。

 

「私は言われる、問われる、刻み続ける針の問いかけを。

 魔法は終わる、奇跡は終わる、叶えるのは終わる時までに叶える歩みだけ。

 この血まみれの靴を履いて、踊り抜け――と」

 

 そして、条件はクリアされる。

 

「オレは試される!!!」

 

 

 ――私の寓話(マイソロジー) 灰被りの基準(シンデレラ・スケール)――

 

 

 

 マイフェアレディだけの物語を奉創開始(ブロードキャスト)する!

 

 

 





俳優
演劇・映画などに出演することを生業にしたもの。役者。神に奉じる祭りを行う者。

俳優(アクトレス)
自身に与えられたモチーフに則り、超常的な力(アクト)を起こす超人。
多種多様な性質と人間の創作力に用いて存在しえる可能性を保有するとされる存在。
ただしその力はあくまでもモチーフに則り、逸脱することはない。
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