迷子AGEのハンター日誌   作:Sillver

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第1章 AGEからハンターへ
1頭目 迷子属性が高いとこうなる


 何かが迫り来る。強大で畏ろしくも哀しく、狂おしく『何か』を探して。呼び声がする。酷く、切々と。その様子はまさに荒ぶる神そのもので、いつも私が神機で倒しているアラガミとは違う『ナニカ』だった。不意に目が合った、と思ったら語られたその言葉が何だか分からないまま、目を覚ました。

「『私達を鎮めよ』」

 

「んー??ここは何処??寝てたのに普通の服??こんなに自然豊かな所って大渓谷くらいしか知らないけれど……。はて??」

 

 目を覚ましたら見知らぬ自然豊かな場所にいました。なんてバガラリーくらいしかないと思ってた時期が私にもありました。いやいや、訳分からんよ?なんでこんな所に?というか、腕輪どこ行った?そんでもって、普段の出撃時の格好なのなんで?

 

「腕輪、綺麗さっぱり無くなってるなぁ。かと言って話に聞くアラガミ化の兆候は無し。どーなってるんだか」

 

 綺麗に腕輪の所だけ日焼けしてない。なんてこった。めっちゃ目立つ。腕輪は無くなったのに、メガネやら通信機器やらは無くなってないのも謎だし。そもそもクリサンセマムの乗組員室で寝てたのになんでこんな所にいるのかというのもある。

 

「とりあえず、アラガミ化した時はもーしゃーないから諦めるとして。大渓谷にしてはなんか可笑しい。灰域濃度が低い感じがする。というより、喰灰がない??」

 

 元々、根無し草みたいなものだ。理不尽には慣れてる。ただ、こんな訳の分からない現象に巻き込まれている以上、他の皆が無事である保証は無いかもしれない。内心、そんな覚悟を固めた。

 嫌な覚悟を固めた心とは裏腹に空は澄み渡っている。遠くに見える灰嵐の様子もない。何より、肌を突き刺すようなビリビリとしたものがない。

 本当に現在位置が分からないまま、一先ず通信を試みる。が、頼みの綱の通信は繋がらなかった。

 

「デスヨネー。うん、知ってた。物語では大抵こういう時に通信機器持ってても繋がらないもの」

 

 とりあえず、辺りを探索する。その結果、どうやらここは滅んだ人里らしいことが分かった。昔の極東地域で見られた『寺』や『神社』と言ったものが無数に建造されていた場所らしい。

 

「んー、けどミョーなんだよなぁ。なーんか、まだここ人がウロウロしてるっぽい。鋭利な刃物で切られた跡があるし」

 

 鋭利な刃物で切られたらしい草が点在している。切り口はとてもきれいで、あえて一株だけ残すというような形だ。これは明らかに全滅させないための工夫だった。

 そのまま、人の痕跡を辿っていくとツタの生えた崖を見つけた。近くにはパッと見綺麗な水の流れる川もある。

 それなりに太陽が移動するくらいには時間が経ち、喉が渇いていた。ドキドキしながら水を掬って口に含む。どうやら、見た目通り綺麗な水のようで、そのまま勢い良く渇きが癒えるまで飲む。

 暫くして、ひと心地が着いたところで目の前の崖のツタを眺めた。そして、引っ張ってみる。存外、丈夫なものらしく体重をかけても大丈夫そうだ。

 

「バースト状態での2段ジャンプとかダイブでも上には届かないだろーし。そもそも、神機ないし。アラガミの気配もないし。覚悟決めて登りますかー」

 

 よっこらせとツタに手をかけた瞬間、ゾクッとする。この感覚は――殺気。弾かれたように振り返る。そして、無意識のうちに神機を構えようとしてないのに気が付く。歯噛みしながら警戒を解かないまま索敵する。そして視界の端に動くものをとらえた時。

 

「動かないでくれるかな?」

 

 穏やかな声に似合わず、物騒なモノを突き付けられる。そのひやりとした感触に、首へと刃物が突きつけられている事を悟る。

 焦りを隠しつつ何もしないことをアピールするために両手を上に上げた。というか、見知らぬ場所なのに言葉が分かる事に安堵した。極東地域ならば、言語が違う可能性もあったし。

 

「君は何者かな?見たことの無い服を着ているけれど。ここになんの用かな?」

「何の用、と言うと何も無く。ただの迷子です」

「ただの迷子、ねぇ。ここいらには危険なモンスターがウロウロしているのに、丸腰で?」

「ええ。どうやら彷徨っているうちに何処かへ落としたようで」

 

 刃物を突きつけられたままの応酬。モンスターがなんなのか分からないまま応える。世界にアラガミは居ても、『モンスター』などは空想の産物だった。……そんなのよりもアラガミは恐ろしいのだから。ずっと腕を上げているのにも疲れたなと思いつつ、とりあえず振り返ることにした。

 急に動いたから、向こうが刃を引くのが間に合わず首が少し切れる。ちょっとした痛みと出血にポーチを探る。が、案の定回復錠はなかった。

 向こうは私が急に振り返りポーチを探ったからかとても驚いていた。まあ、首が切れるのも構わず振り返ったりポーチをゴソゴソする奴はあんまりいないだろうしね。てか、私良く斬られなかったな。なんでだ。斬られると思ってたのに。

 振り返った先の人物は、忍者のような格好で顔に傷跡のある人物だった。普段は優しい表情をしているのだろうが、今は厳しい顔だ。

 

「ずーっとさっきの体勢というのもどうかなって思ったもので。あと、切れて痛かったから傷薬を探していたの。まあ、そのへんも落としたようなんですが。ごめんなさいね」

「……とりあえず、これを」

「これは?」

「回復薬だよ。その程度の傷ならそれで治る」

「おや、ありがとうございます」

 

 脅して誰何してきた割に回復薬をくれる優しさ。別に傷をつけたい訳じゃなかったようで安心した。多少の毒には慣れているから液体タイプのそれを躊躇せず飲み干した。なんなら、今の私は丸腰だ。手にした双剣で切り伏せることも可能なのだから毒を渡す必要も無いという考えもあった。

 

「……青汁みたいな味だー」

「余裕そうだね」

「まあ、刃物突きつけられるような人間ではないと思ってますから」

 

 のほほんとしていると、痛みが消える。手で触ると無事に傷が塞がったようだ。……F制式士官服、襟の内側が黒くて良かった。でないと、赤くなっていただろうから。

 少し考え込むような素振りを見せている御仁に問いかける。私の処遇で悩んでるんだろうけれども、迷子なので道は教えて欲しいところだ。

 

「……」

「どーしました?」

「そこでじっとしてて」

 

 そう言って、双剣をひき指笛を鳴らしたかと思うと何やら動物が飛んできた。とても可愛らしい。旧世界には居たとされるフクロウだろうか。御仁はそのフクロウに何やら持たせると飛ばした。この場所での通信方法だろうか。

 暫く、無言で見つめ合う。双剣の御仁は私の服やら耳に着けたヘッドセットなんかが気になるらしく、結構じーっと見ていた。いい加減、名前も知らないのはどうかと思って名乗ってみた。

 

「……不毛な探り合いは嫌なので、とりあえず名乗りますね。私はシルバー・ペニーウォートと言います。ミナト・クリサンセマム所属の対抗適応型ゴッドイーター、通称AGEです」

 

 すると、どうしたことか双剣の御仁は首を傾げた。なんでだ。エルヴァスティの奇跡って結構あちこちで話題になってなかったっけか??

 それともあれか。私は知らぬ間にクリサンセマムの守護神だのハウンドの鬼神だの言われて天狗になってたんだろうか?

 

「……よく分からない言葉が多くてね。俺はカムラの里のウツシだ」

「……例えば、どの言葉でしょうか?」

 

 どうしよう。本格的にどうしよう。カムラの里という地名に心当たりがない。なんだかんだローカルデータベースしか閲覧出来ず旧フェンリルの巨大ネットワークに繋がらないと言っても世界地図くらいはあった。

 これでもしも__。

 

「申し訳ないが、『みなと・くりさんせまむ』や『対抗適応型ごっどいーたー』とは何かを教えて貰えないだろうか。聞いたことがないんだ」

 

 嫌な予感というものは、ことごとく的中するものらしい。そして、この出会いが私の今後の人生に大きく関わるとは思いもしなかったんだ。




2022/07/30 表記ぶれを修正しました。

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