迷子AGEのハンター日誌   作:Sillver

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番外編 ハウンドの面々

「あいつはまだ見つからねぇのか!くそっ……」

 

 苛立ちのまま、イルダの執務室にある大きな机に拳を叩きつける。

 

「落ち着いて、ユウゴ。私も伝手のあるミナトにそれとなく情報がないか確認しているわ。もちろん、アインさんもね」

「……ああ」

「……悪かった。イルダ、アイン」

 

 イルダの声に、自分がかなり余裕を失っていることに気が付く。大きく息を吸って、冷静になるべく一度ため息をする。忽然と姿を消した幼馴染であり、大切な仲間のシルバー・ペニーウォート。無茶な作戦だって、あいつが横でサポートしてくれたからやってこれた。

 仲間の中でも、キーパーソンになりがちなあいつが姿を消して早3日が過ぎた。灰域の中を超長距離で航行出来る対抗適応型装甲の事業が進みだし、俺達ハウンドの夢である『皆の夢を叶えるミナト』の一号建設地も決まりかけていた矢先だった。

 イルダはビジネスパートナーであり、俺らが間借りしている灰域(かいいき)踏破船「クリサンセマム」のオーナーだ。正直、イルダが俺達をペニーウォートから買ってくれなかったら今のハウンドは無かった。保守的に動いているかと思いきや、賭けに乗ってくれたりと本当にいい奴だ。

 アインは元々はミナト『ダスティーミラー』のオーナーだった。が、その正体はこの灰域を発生させたと言われる災厄の3賢者の1人、ソーマ・シックザールだ。よくよく話を聞くと、アインに責任はないんだがな。元々はフェンリル極東支部の『独立支援組織クレイドル』の人間で、極東に帰るために対抗適応型装甲を開発し、その為に必要な灰嵐(かいらん)種を狩れる俺達と行動を共にしている。長くミナトを開けることになるため、ダスティーミラーのオーナーを退き、ハウンドへと移籍を進めている。

 

「私も、何度も船内の監視カメラを確認しているんですが、夜に皆さんと解散して女性乗組員室へと戻られた所までは映っていました。その後、生体反応が夜中に消失していますね」

 

 オペレーターで、船内のあらゆる履歴などを管理しているエイミーも困り顔でタブレットを見ながら報告を入れる。それ自体は初日にも言っていたことだが、何度も確認を取ることで少しでも情報を得ようとしているようだ。

 

「先輩が普段から使ってるラモーレチェコから、使わないのにアインさんの神機がかっこいいからって作ったイーブルワンも全部、神機保管庫に残ってる。つまり、先輩は丸腰で誘拐されたことになる。いくら、体術が出来るって言ってもアラガミに襲われたら……」

「キース、お前なぁ。フィムが泣きそうになってんぞ」

 

 俺たちの神機をメンテナンスしてくれているキースはあいつがアラガミに襲われることを心配しているようだが、どうにも違和感が拭えない。あいつは感応能力が桁違いに強い。そのせいか、気配感知にも優れている。そんな奴が誘拐されるだろうか。そもそも、船内には監視カメラがある。それに映らずには不可能だ。キースを窘めたジークはキースの兄で、もう一人弟のニールがいる。ゲームではズルをしてばかりだが、悩みながらも本質を掴んでいく強さを持っている。3兄弟の立派な長兄だ。

 

「ごめん、フィム。兄ちゃんも」

「おかあさん、しんじゃう?」

「フィム、大丈夫だ。お前のお母さんは強い。そう簡単にくたばったりしないさ」

 

 あいつを母と慕うフィムは、キースの発言で大きな赤い瞳を潤ませている。いつもあいつについて回っているフィムは幼女の姿をしたヒト型アラガミだ。俺たちAGEはヒト型アラガミの細胞から作られたP73ーc偏食因子を投与されて作られている。まあ、フィムの細胞から作られたわけではないのだが。灰域が始まる前後からヒト型アラガミはちょくちょく遺骸として発見例がある。

 フィムは、元々グレイプニルで実験体としてクリサンセマムのコンテナに入れられ運ばれていた。灰域種は、ヒト型アラガミを執拗に狙う習性があり、フィムも例外ではなかった。コンテナが襲われ、自由意思を奪われていたフィムは逃げることも出来ず、捕食されそうになった時、あいつが身を挺して庇った。それから、フィムはあいつを『おかあさん』と慕うようになった。

 

「しかし、誘拐されたのでもない。本人の意志で出ていったのでもない、となるとまるで御伽噺のチェンジリングにでもあったようなものだな」

「そうね……。にわかには信じられないけれど。実際、そうとしか思えない」

「随分とロマンチストなんだな、ルル。だが、俺もだ。ま、チェンジリングよりも『神隠し』というのが正しいと思うがな」

「研究者がそんなこと言っていいのか、アイン」

 

 ルルは今の状況から、妖精に連れ去られ、代わりに妖精がこちらに来るチェンジリングを連想し、アインは神に連れ去られる極東の言い方である神隠しを思い浮かべたようだ。茶化しちゃいるが、正直俺もそう思う。

 

「とにかく、紅煉灰域(ぐれんかいいき)を含めて痕跡を探すしかないとおじさん思うなぁ。あの子は濃い灰域でも平気だし、よくわからん事を引き起こせる新種のアラガミがいるとしたらあそこくらいしか思いつかない」

 

 紅煉灰域。喰灰(しょくかい)は海の海流のように流れがある。各地の灰域の流れは『灰流(かいりゅう)』となりぶつかり合い、様々な灰域異常を起こしている。そのせいか、普通は目に見えないはずの喰灰が赤く見える領域でもある。灰域濃度もそんじょそこらの灰域よりも高いせいか、紅煉灰域だけでみられる灰煉種(かいれんしゅ)というアラガミもいる。

 

「リカルド、いくらあいつでもそんなところに丸腰ではいかないと思うし、仮にそうなった場合は抵抗すると思うぞ」

「だよねぇ。変なことを言ってすまなかった」

 

 リカルドはいつもは思慮深いのに、珍しく軽率な発言をしている。冷静な所やあえてお道化ている所を見ていたから、新鮮な気分だ。……もっとも、そういった一面はもっと平和な時に見たかったが。

 

「では、今日はどこを探しましょうか。もし、ケガをしていたら手当しないといけませんし、私も捜索隊に入りたいです」

「そうだな……。クレアのファーストエイドは正直捜索隊に欲しいが、あまり高い灰域濃度だとヤバいだろ?」

「それはそうだけど」

「なら、こうしましょう。暫くはクリサンセマムのミナト周辺を徹底的に探して。それでも見つからなければ次は旧ペニーウォート、ダスティーミラー、フェンリル本部、旧朱の女王拠点。最後に紅煉灰域。それでいいわね?」

 

 一番の権利者であるイルダの提案で捜索する場所と順番が決まった。それに、この順番ならばAGEではなく正規のゴッドイーターであるクレアとリカルドも捜索に関われる。万が一、あいつがケガをしていたらクレアの医官としての知識は助けになる。もちろん、俺たちにとっても。ミッション中に些細なケガをしても、喰灰は入り込んでくる。そうすると、除去に長い時間がかかり、仕事にも支障を来す。最初はツンツンしていたが、本当に丸くなったもんだ。

 

「では、捜索をミッションとして幾つか登録しておきますね。感応レーダーにも中型や大型のアラガミの反応がありますので……」

「分かってるさ、エイミー。この船の安全確保も俺たちハウンドの仕事だ」

 

 本当に、あいつはどこに行ったんだ。元々、目を離すとすぐに迷子になってはいたが、ここまでの規模はそうそうなかった。マップデータをちゃんと見ていても迷うさまは、はたから見ていたら面白かったが、それは目が届いていたからだと痛感する。焦燥を抱えながら、受けていた依頼をこなしていく。そして、一時的に新規の依頼を受けないように調整をする。せっかく、軌道に乗ってきたところだが背に腹は代えられない。再開の目途はひとまずひと月とした。

 

「ほんと、お前は迷子属性高いよな。探す方の身にもなれっての」

「ま、あいつもそれくらいの弱点とかあった方が人間味があっていいんじゃねぇの?」

 

 一日の終わり。ミッションから帰投し、船に乗る前に空を見上げて呟く。俺の呟きは、たまたま傍にいたキースに聞かれていたらしい。キースはその後特に何かを言うまでもなく船に乗り込んだ。俺もその後を追うように乗る。夜、捜索と依頼に疲れ切ってベッドに横になると俺は、あいつを含めた仲間たち皆で食事をする夢を見るのだった。




2022/12/25 少し改稿しました。大筋に変更はありません。
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