10頭目 特産品探しと迷子の本領発揮
「特産品探し、ですか」
それは、天気が良いうららかな午後の事だった。午前中、もう少し太刀の扱いに慣れるべく修練場に籠っていた私は、空腹を感じて茶屋でうさ団子を食べていたヒノエさんと同席して食事を摂っていた。その時に、ヒノエさんから初クエストに特産品探しはどうかと提案されたのだ。
「そう、カムラの里近辺でしか採れないモノがあるんです。それを求めてハンターズギルドへ依頼を出される方もいるんですよ。やはり、いくらか安全な道や場所といえど、大型モンスターと出会ってしまうと一般の方では危険ですから」
「確かに。なるほど、ハンターはそういった依頼もやるんですね」
「ええ。そして、比較的簡単なので、新米ハンターさんが受けられることが多いですよ。今日おすすめしたクエストは大社跡ですし、肩慣らしには最適です」
白雲にお代わりを渡しつつ、白雪の口を拭くように促す。戦闘慣れしていると言えど、こちらでは実績のない新米ハンターだ。ダークトーメントを使えるようになるためにも、コツコツと評価を上げておくのは悪くない。私は食事を終えてお茶を飲み、ヒノエさんに言った。
「午後からはその依頼をやることにします」
「では、こちらをどうぞ」
「これは?」
「カムラの里周辺にある狩場の地図です。ハンターの皆さんは地図をもって採取ポイントや自分にとって必要な情報を書き留められるんです」
ヒノエさんから5枚ほど地図を受け取って確認する。一番上にある大社跡の他はまだ行ったことのない場所だ。他の場所の名前は、寒冷群島、水没林、砂原、溶岩洞となっている。まだ見ぬ場所に想いを馳せそうになるが、これからクエストだ。
「ありがとうございます。これから準備して出発しますね」
「はい。無事のお帰りをお待ちしておりますよ」
一度、水車小屋へ戻り大社跡以外の地図をしまう。そして、各種携行品の確認をする。問題がないことを確認した後に出発した。
大社跡は、最初に来た時に思った通り、滅んだ人里だった。ギリギリのところで滅びゆく大社跡から逃れた人の手記からそういった記述があった。昔は八百万の神に祈りを捧げ、豊かさを享受していたものの、人は驕り高ぶり腐敗した。そして、今はその痕跡だけが残り、大型モンスターが闊歩する地となった。
「どこの世界でも、人が滅ぶ工程っていうのは同じなんだね」
「旦那さん、どうかしたかニャ?」
「ううん、何でもないよ」
なんとなく、言いようのない感情がよぎった気がしたが、それを振り払って地図を確認する。今は、クエストに集中しないと。地図を見ながらベースキャンプから出る。途中に薬草があったので地図に目印をいれて回収。今日の目的は特産である火玉ホオズキと特産キノコを指定量回収すること。数はそれぞれ8個。群生地を荒らしてしまうわけにはいかないから、幾つか自生している場所を見つけないと。依頼主はそれぞれ別だが、両方とも同じ場所で採れるモノなので一気に受けた。
「さて、と。とりあえずはこの間の訓練で来た辺りまで行ってみようか。白雲、乗せてもらえる?」
「ワン!」
白雲に乗せてもらって道中にある採取物や環境生物たちの事を調べながら進んでいく。地図もちょくちょく確認しながら進んでいた。が。
「さて、ここはどこだろうね。大社跡の中なのはあってるんだけども」
「旦那さん、地図見ていても真逆の方向に行ったり環境生物を追いかけてそもそもの道から外れたのニャ。現在地が分からなくなっても不思議じゃないのニャ」
「あ、あはは……」
「笑い事じゃないのニャ!!僕、何度も声をかけたのに自分の世界に入り込んでいたのか気付かなかったのニャ!」
どうやら、良くない癖が出ていたらしい。何かに集中すると周りが見えなくなってしまう。向こうでは、ユウゴがこれを上手くコントロールしてくれていたのと、感応レーダーによりはぐれても皆と合流できていた。こちらでは感応レーダーなんていう便利な物はない。気を付けないと。
「ごめんね、白雪。今後、こういう感じになりそうだったら肩とか叩いてもらえる?そうしたら集中も切れて反応するから」
「……集中は旦那さんの特徴だもんニャ。仕方ないのニャー。今日の晩御飯を魚にするので手を打つニャ」
「OK。魚屋のカジカさんがいいのあるって言ってたから、買って帰ろうか」
「ニャ。けど、それとお説教は別なのニャ。そこになおれニャー!!正座するニャー!!」
「はいぃぃぃぃぃ!」
「旦那さんのその高い集中力は確かにいい所ニャ。けど、僕の声までシャットアウトするってどういう了見ニャ!!警告にも気付かなくてケガしたらどうするニャー!!!!!!!応急手当が得意な僕でも限度があるニャー!!!!!」
ひとしきり、白雪に怒られた後、地図と周辺を見比べる。心なしか、白雲も呆れている気がしなくもないがスルーする。……魚は、今日のクエストの依頼料で買える範囲で1番いいものをカジカさんに頼もう。白雪の怒りは思ったより怖かった。妙な迫力があって、ちょっとアインさんを思い出した。口数は白雪の方が多いけれど。
私よりも慣れている白雪によると、どうやら中央部にある参道入り口から上ってきたところらしい。偶然の産物と言えど、高いところに来たので景色を眺める。
天を衝かんばかりの山々。その合間合間に流れる川。空を行く鳥たち。地に目をやれば、苔むした祈りの痕跡。物悲しくも、とても綺麗だ。
「地図によれば、上にまだ道が続いてて行けるみたい。行ってみようか」
「旦那さんからすればどこも初めて見る場所だから探検したくなるのニャ?」
「そういうこと。だから、迷子も悪いものじゃないと思うんだよね」
「…………すっごく屁理屈なのニャ」
「わふ」
「2人とも、今日の晩御飯少なくしようか?」
ちょっぴり、意地悪な気分になった。白雪はそうでもないけれど、白雲はわりと食べるのでちょっとした脅しになった。流石にご飯を本当に減らしたりはしないが、やっぱり面白くはない。どうにかして、この世界にも感応レーダーに似たものを作れないだろうか。そうしたら、迷子になってもどうにかなりそうなものなのに。
途中で見かける特産キノコの群生地と火玉ホオズキを回収していく。もちろん、全滅させないようにあちらこちらから少しずつ。迷子になる前と合わせて、指定量が回収できた。そして、日も暮れた時に大社跡の頂上に着いた。
「ん-ん。やっぱり、灰域がないと空ってこんなにもきれいなんだね。月なんか、手を伸ばせば届きそうなくらい」
「旦那さんの故郷では、見にくかったのニャ?」
「うん。それに、月が緑化しててね。こっちとは違って緑色に光るんだ」
「月にも、誰かいるニャ?」
「それは、分からない。ある日突然、緑色になったそうだから」
のんびりと話していると、くぁ〜というような声が聞こえた。白雲があくびしたのかと振り向くと、そこには白い狐がいた。割と気配に鋭い私が簡単に背後を取られたことで、小型のモンスターなのかと思い武器を構えようとした。
「待つニャ!!この狐さんは『ハクメンコンモウ』ニャ!そんなに殺気だたなくていいのニャ!」
白雪の声に、武器から手を放して観察する。殺気に驚いたのか、少し震えている。悪いことをしたなと思いつつ、手のひらになんとなく持ってきた干し果物を乗せて差し出す。
「ごめんなさい、驚かせて。てっきり、小型モンスターかと思ったの。これで、許してもらえる?」
手のひらに乗せたままではきっと受け取ってもらえないだろう。そう考えて、腕1本分を開けて干し果物を置き、距離を取る。私が何もしないことを分かってもらえたのか、距離を開けると干し果物に近付き、匂いを嗅いだ。好みのものだったのだろうか。匂いを嗅いだあとはあっという間に食べつくしてしまった。そして、こちらに近寄ってくると座ってじっと見つめてくる。もしかして、もっと欲しいのだろうか。だが、残念ながらもう品切れである。どうしたものだろうか。
「もっと欲しいの?」
「コン!」
甘いものが好きなのだろうか。とても期待した目でこちらを見ている。何かあっただろうか。とくには思い当たらない。
「の、ようだニャ」
「うーん、あいにくこれ以上の甘いものは持ってなくて。ごめんなさいね」
すると、白雲が私のポーチを鼻先でつついてくる。何かあっただろうか。突いている辺りを探すと、ハチミツが出てきた。これは、ウツシさんと初めて会った時に貰ってそのままポーチにしまいこんでいたものと、迷子になっている時に採取したものだ。ウツシさんから貰ったほうは落ち着いたら食べようと思っていて、すっかりそのまま忘れてしまっていたらしい。
ポーチから今日、採取したハチミツのビンを取り出し、ふたを開けてハクメンコンモウの前に置く。すると、感謝するかのように頭をぺこりと下げると、勢いよく舐めつくした。流石に、これ以上強請られても何も渡せない。
が、杞憂だったようで、舐めつくした後は伸びをすると月を眺め出した。私も月を眺める。大きく、柔らかな乳白色の光が3匹と1人を照らす。月が出ているというのに、星々の輝きも美しい。
「あ、流れ星」
空を見上げていたら、流れ星があった。流れ星に願い事をすると叶うというのはどこで読んだのだっただろうか。そんな事を思いながら、無事に元の世界へ帰れるように願う。
「さて、もう帰ろうか。大社跡のマップも分かったし。お腹もすいたしね」
「ワン!わふわふ!」
「やっとなのニャ~」
「ほら、迷子も悪くなかったでしょう?」
「屁理屈、と思うニャ。けど、今だけは分かるのニャ」
横を見れば、ハクメンコンモウはまだいた。綺麗な狐だ。また会えるだろうか。私が見つめていると、ぱたりと尻尾を振った。別れの挨拶なのだろうか。
「ふふ、またね」
「またなのニャ」
「ワォーン!」
私達は、ハクメンコンモウに別れを告げて大社跡を後にしたのだった。
カムラの里に着いたら、里の入り口に誰かが立っていた。気配やシルエットで、ウツシさんとヒノエさんのようだ。
「遅くなってすみません。お二方とも、どうしました?」
「まさに、シルバーさんのお帰りが遅いので探しに行こうかという話をしていたんですよ。特産品探しはそんなに時間のかかるものではありませんから、てっきり夕暮れには戻られると思っていましたので」
そういえば、これは初心者ハンターが最初に受けるくらい簡単な物だった。そりゃあ、ここまで遅くなったりしないか。これはだいぶ怒られるのではないだろうか。
「愛弟子、遅くなった理由は?ケガはしてないかい?」
案の定、ウツシさんはいつになく険しい顔をしている。初めて会った時ほどの顔ではないが、修行中では見なかったような顔だ。心配をかけてしまった。言い分としては、とても言い訳じみているが事実を伝えよう。
「迷子になってしまったのと、ハクメンコンモウと月を眺めたりしてました」
「…………そういえば、愛弟子は訓練中にもふと目を離すとすぐはぐれていたね」
「至って真面目に地図を見て周囲も見て歩いているのに、不思議な事です」
「…………ソウダネ」
「困ったものだニャ」
事実を伝えると、がっくりとした表情で、ウツシさんと白雪は頭を抱えてしまった。2人は気があうらしい。いや、本当に申し訳ないとは思っている。思ってはいるのだが、何故か気が付いたらはぐれてしまう。これは本当に早急に感応レーダーもどきを作れないか考えないといけない。
「まあ、とにかく。無事のお帰りで何よりです」
ヒノエさんが、この何とも言えない空気を断ち切るかのように手を叩きながら、私の無事を祝ってくれた。そして、そのまま私はヒノエさんに取ってきた依頼品を納品する。
「火玉ホオズキ8個、特産キノコ8個。確かに受け取りました。これにてクエスト完了です。お疲れ様でした」
「いえ、遅くなって本当にすみませんでした」
そして、ひとしきり挨拶を交わした後、もう夜も遅いので解散となった。私も2人に再度心配をかけたことを謝罪して水車小屋へと戻った。魚を買う約束をしていたが、夜も更けてしまっていたので別の機会にする。晩御飯は、ひとまず白雲と白雪の分を用意して私は眠った。里に帰ってきて、疲れが出たのかとても眠かったのだ。
翌日、起きて今日もクエストを受けようとヒノエさんの方へ行こうとしたとき、フゲンさんに呼び止められた。昨日の件でお説教を受けるのだろうか。
「朝から精が出るな、シルバー」
「はい、おかげさまで。無事にハンターに認められましたし、精進しようと思います」
「だが、お前はかなりの方向音痴らしいな」
「そうなんです。割と困ってます」
怒られるかと思いきや、そんな気配はなく。なんとなく事実確認をされているだけの様な雰囲気だ。かといって、私の方向音痴は生来のもので直そうとしてもどうにも直し方が分からない。
「そんなオマエに、フクズクをやろう。本当に迷って帰れない時や、帰れるが遅くなる時はコイツに文を持たせて飛ばせ。そうすれば、ウツシや手の空いているものが迎えに行くだろう」
フクズク。里ではペットや伝書鳩のように扱われている鳥だ。初めてここに来た時にも、ウツシさんが先に飛ばして知らせていた。
「でも、いいんですか?」
「里長の俺が渡し、良いと言っているのだ。気にせず受け取れ!」
そういうと、すぐ近くに居た茶色のフクズクを渡してくれる。くりくりとした目やふかふかの羽毛が、白雲や白雪とは違った魅力を持っている。
「そいつは訓練が終わったところでな。まだ名前がない。オマエが名前をつけてやってくれ」
「わかりました」
「フクズクは指笛を鳴らせば来る。賢いぞ」
もらったばかりのフクズクを眺めつつ、同時に渡された餌を与える。餌を食べ終えると、フクズクは飛び立ったので、その様子を見て思いついた。指笛を鳴らして呼ぶ。
「遊んでたのにごめんね。君の名前を決めたよ。『木ノ葉』」
自由に飛んで、そしてすうっと降り立つ姿が木の葉の様だったから木ノ葉だ。我ながら、だいぶ安直だが、本人は気に入ったのかすり寄ってくれた。
「これからよろしくね。木ノ葉」
新たな仲間を得て、私は今日も元気にクエストをこなしていく。