迷子AGEのハンター日誌   作:Sillver

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11頭目 ハチミツと熊と甘党

 迷子事件から5日たち。あの日貰った地図に従って他のエリアにも出かけ、迷子になっても初日のように遅くはならなくなった。白雲や白雪も案内しようとはしてくれるのだが、どうしても生活に必要な素材や諸々を集めながらとなるとしんどい。

 そこで、フゲンさんから貰った木ノ葉が役に立った。呼ぶと、キャンプやサブキャンプまでの道を教えてくれたり、狩猟対象のモンスターの位置を教えてくれる。もちろん、最初の数日間は元の伝書フクズクとしても役に立ってくれた。砂原と溶岩洞は、本気で迷い過ぎて帰れないんじゃないかと思った。けど、悪いことばかりではなかった。

キングトリスやゴクエンチョウという珍しい生物にも会えた。彼らはすごく人懐っこいみたいで、挨拶をすると返してくれたし、迷子になっていることを伝えると私のわかる道まで案内してくれた。どこの世界に、希少な生物に道案内させるハンターがいるんだろうね。

 その話をすると、里の面々は頭を抱えていたけれど。うん、本当に申し訳ない。いや、私の迷子属性が高すぎるからいけないんだけど、どうにも迷うのだから仕方ない。徐々に慣れてくださいといったやり取りをしたここ数日を思い返しながらクエストを物色していた。

 その中に、可愛らしい熊が蜂の巣を抱えた絵があった。元の世界でも、熊はハチミツを採って食べる習性があると、ローカルデータベースに残っていた。それを思い出して、少しほっこりする。

 

「ヒノエさん、このクエストを受けようと思います」

 

 うさ団子を食べながら、私がクエストを選び終わるのを待っていてくれたヒノエさんから詳細を聞く。クエストの依頼者は里で一番の釣り名人と呼ばれているツイバさんからで、どうやら、アオアシラが付近の川魚を皆食べてしまうせいで、里に持ち帰る分が取れなくなってしまっているらしい。このままでは、生態系も崩れてしまうであろうことから依頼が受理されたようだ。

 

「アオアシラ一頭の狩猟ですね。シルバーさんならそこまで心配はいらないでしょうが、迷子にだけはならないように気をつけてくださいね?」

「あはは。まあ、何かあったら木ノ葉が迎えに来て欲しいっていうのを伝えに行きますから。その時は、申し訳ないですがお願いします。では、行ってきます」

「おかえりをお待ちしております」

 

 ヒノエさんに見送ってもらって、クエストへ出掛ける。今回のフィールドは大社跡だから、ヒナミさんのいる門を通って里を出る。里を出たところで、白雲に乗せてもらって私は大社跡メインキャンプへと向かった。

 

「お疲れ様、白雲。メインキャンプに着いたし、暫く休憩がてらお団子を食べようか。ヒノエさんの所に行く前に、ヨモギちゃんに包んでもらっておいたんだ。白雪も食べるでしょう?」

「食べるニャー!ヨモギちゃんのお団子は美味しいのニャ」

「わん!」

 

 二人の食べるという答えに私は笑ってうなづいて配膳をしていく。お団子には武器や防具なんかと同じくスキルがあり、食べることで発動される。元の世界でも、オラクル細胞由来の食品なんかには一時的に体力を強化したり、傷の治癒速度を早めたり、はたまたアラガミの気を引きやすくするなどといった効果があった。ここにオラクル細胞は居ないはずだが、モンスターという不思議な生物がいる以上、食事にもそういった不思議な力が宿るレシピがあるのだ。そういったモノを見つけ出し、研究していくのもまた里守の務めでもあるのだとか。死ぬことなく任務を完遂し、生きて帰れる確立が上がるならなんでも使う。ハンターとゴッドイーターはそういったところがよく似ている。

 

「さて、お団子も食べたし、そろそろ行こうか。白雲、毎回悪いけど頼んだよ」

「わん!!」

「白雪は索敵を。私もやるけれど、見落としがあるといけないから」

「了解ニャ」

 

 辺りをたむろしている小型モンスター達を横目に、メインキャンプ近くから大社跡の西側を流れる川を遡って行く。依頼のアオアシラはエサとなる魚が取れる川辺で多く目撃されている。それを事前に聞いておいた私はその近辺を白雲に乗って走っていく。途中で、ハチミツがあるのを見つけた。以前、ウツシさんから貰った分はもうすでに消費してしまっていたので丁度いい。有難く貰っていくことにした。とても大きい蜂の巣だったから、ビン3つ分ほど得ることが出来た。

 

「これで、暫く回復薬グレートや普通に甘味として消費する分に困らないね」

「また、パンケーキ作って欲しいニャ!」

「いいよー。結構たくさん取れたし。それよりも、今は依頼を達成しないと」

 

 ハチミツを見つけて緩んだ気分を引き締める。下流域を探し回るが、依頼のアオアシラが見つからない。その代わりに、薬草なんかを入手できた。

 

「中々見つからないなぁ」

「上流の方かもしれないニャ」

「そうだね」

 

 暫く遡り、上流を超えて源流近くまで来た時、探していたその姿を見つけることが出来た。鋭い爪、特徴的な青い背中の毛。幾度も川面に手を叩きつけては魚を捕まえて食べてを繰り返している。

 

「さて、今はこちらに気付いていないようだけれど。どうしようかな」

 

 様子を見ていると、どうやらどれほど食べても満たされることがないようだ。だとすると、それはどれだけ苦しいのだろうか。

 

「決めた。今回は捕獲ではなく討伐しよう。ずっと飢えた感覚があるのはどんな生物もきついからね。二人はいつものように補助をお願い。メインで戦うのは私ね」

 

 さっといつもの打ち合わせをする。私は白雲と白雪が離れたのを確認すると一気に走り寄る。途中で気が付いたアオアシラが威嚇の咆哮を上げるが、遅い。

 

「はあ!!」

 

 咆哮の風圧で飛ばされないように見切った私は、腕に一太刀を浴びせる。アオアシラは痛みで唸りつつも鋭い爪をこちらに向けて振るってくる。回避しようにもかなり密着してしまっている私は武器でガードしつつも吹っ飛ばされてしまう。

 

「んぐっ」

 

 飛ばされている最中に、翔蟲を出して受け身を取る。急制動で息が詰まるが、今はそれどころではないので無視する。なおも腕を振り回しているアオアシラの背後を取り、何度か斬りつける。

 

「背中が柔いのは知ってるのさ」

 

 くるくるとアオアシラの動きに合わせて背後を取るように動く。時折、攻撃を受けて吹っ飛ばされたり手傷を負いつつ、相手にも同じかそれ以上のダメージを与える。

 

「助かった、白雲!」

 

 アオアシラがタックルを仕掛けていたけれど、私は桜花鉄蟲気刃斬を出したばかりで動けなかった。そこを、白雲が攻撃して気を引いてくれたおかげで事なきを得る。そうして、体勢を整えてもう一度攻撃しようとしたときにそれは起こった。

 

「へ??」

 

 なんと、アオアシラが私が採取していたハチミツを奪い取ってきたのだ。奪い取ってきた右腕とは反対の左手で吹っ飛ばされる。余りの事に驚いて受け身を取るのを忘れてしまい、そのまま転がって体勢を立て直す。

 

「……飢えているのは理解してた。けど、理解の仕方が足りなかったのね。ふふ、いい度胸。私と!白雪が!楽しみにしているハチミツを奪うなんて万死に値するわ」

「旦那さん、笑顔がなんかすごく怖いのニャ」

「怖い?ふふふ、怖くないでしょうに。だって、こんなに笑顔なのよ?」

「それが怖いのニャ」

 

 白雪が怖いとかなんとか言っているけれど、無視する。私の視線はただただ、甘味を奪ったアオアシラに注がれている。中々手に出来ないハチミツ。たくさん採れたと喜んでいたのに、ビンを2本も奪われてしまった。当のアオアシラは奪った私のハチミツを夢中で舐め、2本目に取り掛かろうとしていた。今まで、切った張ったしていたのに、だ。

 私は無防備なアオアシラの背後を取り、翔蟲を飛ばす。そして、桜花鉄蟲気刃斬を叩き込む。放ってすぐの硬直を無理やり回避行動をすることで解き、もう一度連続に近い形で桜花鉄蟲気刃斬をお見舞いする。無理した反動で長めの残心をしたあとは突きを放つ。突きはアオアシラの鼻に当たる。それまでダメージを負ってもハチミツを離さなかったのに、ハチミツを放りだして痛みに悶える。悶えているのをいいことに、私はそのまま切り上げて勢いのままに太刀を振り下ろす。幾度かの交戦で浅く傷を負っていたアオアシラの額が割れ、おびただしい血が流れる。

 

「いい加減、沈みなさい!」

 

 戻ってきていた翔蟲を空中に放ち、飛び上がる。だいぶ弱り、逃げ出そうとするが私の気刃斬りが当たるほうが早かった。先程の交戦で割れていた額に刃先が突き刺さり、頭蓋骨を突き抜けていく。これが致命傷になり、アオアシラは断末魔の声を上げるとその場に倒れ伏した。

 

「安らかに……」

 

 軽く手を合わせて剥ぎ取っていく。神無き世界でも、人は誰かに、何かに縋らずにはいられなかった。故に、旧世界の十字を切ったり手を合わせたりというのが残った。私は手を合わせるのが性にあったから弔いではそうしている。そして、死んだ後こそは安息があるようにと。この個体は何らかの理由で常に飢えていた。だからこそ、次はそういったものに悩まされずにすむようにと願わずにはいられなかった。

 

「旦那さんは感情の落差が凄いのニャ?」

「そういうわけじゃないけど。確かに、ハチミツを奪われて怒ってはいたよ。けど、それとこれとは別。討伐すると決めた時から弔うことは決めてたの」

 

 生きとし生けるもの全てが『生きたい』と願っていると識ったあの日から。私は人以外にも弔いをするようになった。それが、私が狩った命に対する礼儀だった。

 

「それにしても、ここまで飢えるなんて何があったんだろう。百竜夜行が起こるかもしれないっていうのと関係してるのかな?」

 

 剥ぎ取ったアオアシラは、その毛皮に紛れて分かりづらかったが瘦せていた。私との戦闘中、とても力強かった。痩せてしまっているなどとは思えないくらいに。今にして思えば、ろうそくの炎が消える間際にひときわ強く光り輝くのと同じように、命を燃やしたのだろう。そして、特徴的な青い毛は根元の方が白くなっていた。ヒトも動物もさほど変わらないのであれば、なんらかの強いストレスが最近かかったのだろう。なんとなく、焦燥感に似たものを感じつつ、里へ帰還した。

 

「なんと、そのようなものがみられたのですね」

 

 私はアオアシラの遺体の後始末をすると、里に戻った。そして、私達の帰りを待ってくれていたヒノエさんに事の顛末を報告する。ヒノエさんは、少し俯いたかと思うと顔を上げてにこやかに笑った。

 

「なんにせよ、ご無事に戻られて何よりでした。この件は、こちらでゴコク様にご報告しておきますね。シルバーさんはゆっくりと体を休めてください」

「はい、ありがとうございます」

「わふー、ワン!」

 

 いきなり、白雲がじゃれついてきた。ヒノエさんと話が終わるまで待っていたようで、どうやらまだ遊び足りないらしい。

 

「ふふ、元気ですね」

「ちょ、ヒノエさん見てないで助け……にゃはははは!白雲、耳はやめ、、くすぐったいぃぃ!わははは!!」

 

 ひとしきり、じゃれつかれて大笑いした私は白雲が落ち着くとヒノエさんの前を辞し、寝起きしている水車小屋に戻った。そのまま、帰宅後のルーチンをこなす。

 

「旦那さん、旦那さん」

「どうしたの?白雪」

「パンケーキ食べたいニャ!!」

「今は……、おやつどきか。はちみつ見つけた時から言ってたもんね。いいよ。白雲はどうする?」

 

 時間を確認し、了承する。問いかけた白雲は、囲炉裏端の定位置で丸くなったまましっぽを2回降るとそのままあくびをした。どうやら、今日はおやつは要らないみたいだ。欲しい時は立ち上がってしっぽをブンブン振ってくれるのでわかりやすい。フライパンを火にかけ、小麦粉と牛乳などの材料を用意する。

 

「んじゃまぁ、さくさく作りますかね」

 

 用意した材料を混ぜて、熱しておいたフライパンにバターをおいて溶かす。ジュワァっといい音と共に甘い香りが広がる。私の作るパンケーキは、生地を作る段階ではちみつを練り込む。焦げやすくなってしまうが、その焦げた部分も美味しくアクセントになるから問題は無い。ハチミツは里に戻る道中、幸運なことにもう一度見つけることが出来た。行きに見つけた蜂の巣よりも大きく、奪われた分以上を手に入れることができて、プラスマイナス0以上である。

 

「白雪、お皿頼める?平たいやつ」

「ニャ!」

 

 白雪にお皿を持ってきてもらい、私は焼き上がり間近のパンケーキに目を戻す。ある程度、表面にふつふつと泡が出来てきた。火が通ったのを確認して裏返す。そして、火を止めて余熱で仕上げ。こちらの小麦粉はどうかは知らないが、火の通っていない小麦粉を食べるとお腹を壊すとはルルの談だ。昔、それで痛い目にあったらしい。かなり真剣だったルルの表情を思い出しつつ、竹串で生地がついてこないのを確認してお皿に盛り付ける。盛り付けたパンケーキに追加のはちみつとバターを載せたら完成だ。

 

「お待たせ、白雪」

「ありがとうなのニャ!……あれ?旦那さんは要らないニャ?」

 

 テーブルに座って白雪の前にパンケーキとお茶を置く。私はお茶だけだ。

 

「うん。今日はお団子も食べてるしね」

「僕、食べ過ぎニャ?」

「どうなんだろう?他のアイルー達の食生活って私知らないしなぁ」

「イオリくんに聞くニャ」

「そうだね。この後、私は修練場へ行こうと思ってるからついでに聞いておいで」

「ニャ!しかし、旦那さんは料理が上手ニャ!!僕、旦那さんのオトモになれて良かったニャ!!パンケーキ、ふわふわのうまうまなのニャ〜」

「教えてくれたルルが凄く料理上手だからねー。教えて貰った身としてはきちんと身についていたようで安心、てところかな」

 

 うまうまとパンケーキを食べている白雪をよそに、白雲のそばにいって撫でる。白雲はピクっと反応をしたけれど、気にせず昼寝を続けることにしたらしい。囲炉裏の火と日光でぬくもった毛が撫でているこちらも気持ちがいい。

 

「しらゆきー、食べ終わったらお皿洗ってしまっといてー」

 

 私は白雲を撫でていたら、いつの間にか眠っていたらしい。起きた時には、白雲と白雪に挟まれていた。

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