迷子AGEのハンター日誌   作:Sillver

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12頭目 オサイズチの狩猟

 いつの間にか寝てしまっていた日から一夜過ぎ。今日も今日とてクエストを選びに行こうとすると何やら船着き場の方が騒がしい。どうしたんだろうかと思っていると、ヨモギちゃんが駆け寄ってきた。

 

「シルバーさん!大変、大変だよー!!大社跡でオサイズチが暴れてるの!うさ団子の材料を運んでくれている行商人さんも追われてるし!行商人さんはみんなで助けるからオサイズチの狩猟、お願いね!今、すぐに動ける人、あなたしかいないから!!」

 

 ヨモギちゃんは一気にそう話すと、船着き場の方へと行ってしまった。多分、色々な分担とかの話があるんだろう。それに、材料が搬入されなくては茶屋も立ち行かない。

 

「……いわゆる、緊急任務だねぇ。クエストを選んだらすぐに発とうと思ってたから準備はしてあるし。このまま行こうか。後から報告すればいいだろうし」

「それがいいニャ」

「ワン!!」

 

 少しばかり、ヨモギちゃんの勢いに圧されてしまって、惚けたのを振り払う。私は大社跡へ向かった。

 

「さて、大社跡についたのはいいけれど。標的が大社跡のどこにいるかまだ、木ノ葉から情報が来てないんだよね」

「待つニャ?」

「待ってもいいけれど、行商人さんが危ないからねぇ。だから、ちょっと頑張る」

「ニャ?」

「2人とも、少しの間、私の護衛をお願いね」

 

 白雪の質問に答えるように私は目を閉じて集中する。感応レーダーを使う時のように、気配を探る。薄く、薄く自分を波紋のように広げる。探っていることに気付かれないよう、慎重に。大型の存在が放つ気配、敵意、興奮。その大きさから目標を割り出す。まるで、凪いだ水面に小石を落とした時に出来る波紋がぶつかり合うように。

 

「これは違う。ただの通りすがり」

 

 ぶつかる波紋の1つ目は大きかった。けれど、それは安定していて興奮も何もしていなかった。そのまま、大社跡の領域から去っていった。

 もう1つの大きな反応を探る。それは、とても興奮して移動をしていた。周囲には3つほどそれと似ているが小さい気配が付き従っていた。そして、そこから少し離れたところに走るヒトの気配。

 

「……見つけた。興奮してる。近くに、ヒトの気配。当たりだ。まだ、持つ。でも、早く行かないと駄目だな」

「旦那さん?」

「大丈夫、行こう。こっちだよ」

 

 迷子が過ぎる私だが、気配を辿るのは得意だったりする。多分、決められたルートで行こうとすると間違えたりしたらどうしようとか考えるからかもしれない。目的地にさえつけばいいというような場合は特に問題なく辿り着けるのがその証左だ。探り当てた気配を辿り、白雲に乗せてもらって山門から少し離れた道へと行く。そこには、鼻息荒く、遠くに見える人を追うオサイズチがいた。

 

「目標を発見。これより、クエストを開始します」

 

 白雲から飛び降りて行商人さんを追おうとするオサイズチに頭上から一太刀を浴びせる。いきなりの強襲に叫び声を上げるオサイズチ。その隙を逃さず、桜花で群れから引き離す。自分たちの長を守ろうと周囲に付き従っていたイズチが連携し私に飛び掛かってくる。しかし、こちらにも仲間がいる。

 

「グルゥッ!!」

 

 唸り声を上げて、白雲がイズチの1体に飛び掛かって行く。そのまま噛みついてゴロゴロと転がって両者が離れる。離れたかと思うと、互いに噛みつこうとしたり、尻尾で切ろうとしたりと取っ組み合いが始まる。あちらはそのまま白雲に任せて大丈夫だろう。

 

「誰かがケガをする前に、癒しのシャボン玉を用意しておくニャ!」

 

 白雪はそういうと、回復薬とシャボン液を混ぜ合わせて大きなシャボン玉を浮かべる。この大きなシャボン玉は近付くか武器で攻撃をすると割れて癒してくれる。

 先程のイズチの残り2匹が白雪に飛び掛かっていく。モンスターでも、浮かべたシャボン玉が敵に利すると分かるらしい。だが、白雪はその攻撃を猫のしなやかさで躱す。

 

「僕はヒーラーだけど、攻撃だってそれなりなんニャ!!」

 

 躱したところで、一太刀。深追いはせず、そのまま2体目の攻撃を受け流す。上手い上手いと観戦していると、大きな尻尾が私めがけて降り下ろされる。怯んでいたオサイズチが復帰して攻撃を仕掛けてきたのだ。前転して回避。尻尾が地面に埋まったようで、オサイズチが隙を晒す。抜けてしまう前に、戻ってきていた翔蟲を飛ばしてもう一度、桜花鉄蟲気刃斬を放つ。

 かなりのダメージが入ったのだろう、上手く尻尾が壊れた。これで、尻尾の攻撃を少し弱めることが出来た。しかし、こちらも桜花を放ったことによって残心中で動けなくなってしまった。この間に尻尾が抜けたオサイズチがタックルを仕掛けてきた。当たる直前に硬直が解けたものの、モロに食らって吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐうぅっつ!!」

「ワン!」

「旦那さん!!」

 

 それぞれ、イズチと戦っていた2人に心配をかけてしまった。私は吹っ飛ばされて空中にいる間に翔蟲を飛ばして受け身をとる。向こうだと、普通にジャンプで受け身を取っていたけれど、こちらでそれをすると目立って仕方ない。故に、私がこちらに来て真っ先に覚えたのは受け身の取り方だった。

 

「大丈夫!2人はそのままイズチを抑えていて」

「ワン!!」

「分かったニャ!」

 

 鉄蟲糸に引き寄せられて、地面に叩きつけれられるのを回避する。そのまま、バク宙の要領で着地する。そして、太刀を構え直す。

 

「かっこ悪いところを見せちゃったなぁ。まあ、君を倒すことで挽回しようかな」

 

 私が止まったことで、またタックルを仕掛けてきたオサイズチを見切り斬りで躱して、気刃大回転斬りを叩き込む。先程壊した尻尾の傷口に当たり、苦悶の声をあげるオサイズチ。苦しめるのは本意ではないので、見切り斬りで赤く染まった刀身を振りかざして、こちらに向き直った所で縦に斬りつける。しかし、こちらのモンスターもアラガミのように頑丈だ。流石に、一撃では顔面を破壊するには至らない。それでも、連続で斬りつけていく。すると、オサイズチが体勢を崩して倒れこんだ。

 

「よし、チャンス!」

 

 私は尻尾の方へ位置を取り、桜花鉄蟲気刃斬を尻尾と頭に入れる。暫くして、傷口が開いて激しいオサイズチの叫び声が辺りに響く。私は少し目を細めて、残心をこなすともう一度、翔蟲を飛ばした。

 

「安らかにお眠りなさいな」

 

 最後の力をふり絞って、威嚇の声を上げてオサイズチが尻尾攻撃の構えを取る。一瞬、私とオサイズチが睨みあう。

 

「Grurororororororrrrrrrrrrrrrrrr!」

「桜花!」

 

 私とオサイズチが同時に動く。オサイズチの尻尾は私の頭を狙っている。鉄蟲糸に引っ張られながら、私は体勢を低くして尻尾を躱す。オサイズチの尻尾は、私の頭を髪一本分ほどの隙間を開けて通り過ぎていく。一瞬の交錯。

 血を吹き出して、オサイズチは力なく倒れるとそのまま動かなくなった。私の太刀は、オサイズチの太ももと喉元に当たっていた。

 

「旦那さん、お見事ニャ」

「そう?ありがとう。2人とも、イズチの相手をありがとうね。おかげで一対一でやれたよ。さあ、剥ぎ取りをしようか」

「くぅー」

 

 オサイズチの亡骸の傍で、手を合わせて祈りを捧げる。剥ぎ取り、残ったモノを脇の森へと置いておく。こうすることで、往来を邪魔することなく、森の循環に亡骸が組み込まれ分解されていく。

 

「そういえば、行商人さんは無事に助け出されたかな?」

「戻れば分かると思うニャ」

「それもそうか。じゃあ、行こうか。白雲、疲れてると思うけれど、里までお願いね」

「ワン!」

 

 白雲に乗って里へと戻り、ヒノエさんの元へと近付くと傍に誰か立っていた。よく見ると、それはたまにクリサンセマムに来ていた行商人のホープさんだった。

 

「ほ、ほほほ、ホープさん!?!?なんでここに!?貴女も飛ばされたんですか?」

「おや?何故、私の名前を知っているのかな?私は確かにちょっと面白い商品を扱うことをモットーにしているホープだけども。君とは初対面だよ?」

「シルバーさん、落ち着いてくださいな。この方はシルバーさんが来られる前からこの里に行商に来てくださっている方です。出身も、確か……」

 

 動揺する私に、ヒノエさんが落ち着くように声をかける。混乱する心を落ち着かせようと深呼吸をする。少し落ち着いたのを見て、ホープさんが自身の出身地を教えてくれる。それは、ウツシさんから名前だけ教えてもらった地名だった。

 

「バルバレっていう、地図にない町だよ。地図にないのは、多くの砂漠を行く船が集まって出来る町だからっていうのと、ダレン・モーランが移動するとそれを追いかけて移動するからってのがあるねー」

 

 ホープさんは、全体的に暗い緑色の服を着て、胸元を開けている。中は何も着ていないからか胸にサラシを巻いている。犬耳のようなものとゴーグルを付けた帽子をかぶり、その下からは明るい赤色の髪がのぞいている。ショートパンツを履いて、太ももの半ばまでの長い靴下、ひざ下までのロングブーツがよく似合っている。腰や背中には、行商の商品だろう、様々なものを入れたポーチやカバンを背負っている。未だ、この里しか知らない私だが、明らかに文化圏が違う装いだと分かる。なんなら、仕舞っているF制式士官服のほうがホープさんの服装と近いだろう。

 

「あ、取り乱してすみません。知人にそっくりだったので驚いてしまって」

「世の中、自分に似た人の1人や2人はいるっていうもんね。気にしてないよ」

「ありがとうございます」

 

 私の知るホープさんよりも少し軽い雰囲気でこちらのホープさんはニヤッと笑う。そういえば、あちらの世界でも似たような目に遭っているホープさんを助けたことがあった。あの時は、感応種アラガミ・マルドゥークが引き寄せたアラガミに囲まれてしまっていたんだっけか。

 

「なに、お礼を言うのはこちらの方さ。君なんだろう?私を追いかけていたオサイズチを狩猟してくれたのは。おかげで、傷みやすい食材を傷む前に届けることが出来た」

 

 思い出に浸りつつも、ホープさんからのお礼の言葉を受ける。なんだか、変な感じだ。そっくりなのに、別人だからだろうか。

 

「それは良かった。もう、茶屋の方には行かれたんですか?」

「ああ、君が帰ってくる前にね」

 

 ひとしきり雑談をすると、ホープさんはそろそろ行かなくてはいけないと言って出発してしまった。なんでも、明後日には別の町に頼まれていた品物を届けなくてはいけないらしい。

 

「君とはまたどこかで会うことになりそうだね。その時はよろしく」

「はい。その時はよろしくお願いします」

 

 握手を交わした手を見る。元の世界へ戻るために、私はもっともっとこの世界を識らなくては。そのまま帰ろうとしたところで、ヒノエさんに呼び止められる。

 

「お待ちくださいな。クエスト完了の手続きが出来ておりませんよ?」

「あ゛」

「ふふ、うっかりさんでしたね」

 

 にこやかに言うヒノエさん。その微笑ましいという表情が私の羞恥心をより煽る。

 

「〜〜!!……手続き、お願いします」

 

 声にならない声をあげた後に、そう絞り出すのが精一杯だった。

 

「旦那さん」

「どうした?」

 

 既に寝てしまった白雲を撫でながら、水車小屋でまったりとしていると白雪が小首を傾げながら話しかけてきた。

 

「今日の狩猟の時、どうしてオサイズチの居場所が分かったニャ?」

「ああ、それか。大したことは何もしてないよ。ただ、気配を探っただけ」

「かなりの広範囲を、正確に気配を読めることが大したことないってことは無いと思うのニャ」

 

 胡乱な目付きでこちらを見る白雪。仲間内でも一番の感応能力と気配察知力とは言われていた。しかし、他の船にも同じような役割を持っている人も居た。だから、そう大したものでもないと思うのだ。

 

「んー、クリサンセマムでは機械を使ってもっと広範囲を見ていたからなぁ」

「比べるものが違うと思うニャ」

 

 じっとりとした目つきでこちらを見てくる白雪に、そんな目をしていたら可愛い顔が台無しだぞ思いつつ、あまりやらない理由を話していく。

 

「あと、あれ弱点があってねー。集中力がめちゃめちゃいる上に、やってる間、身動きが出来なくなるんだよね。だから、そうそう多用はしたくないんだ」

「そういう問題じゃないと言っても、分かってもらえないことだけは分かったのニャ」

「うん?」

 

 はぁーといった感じでため息をついた白雪は、いつもの定位置にいくと丸くなった。どうやら、眠るようだ。外を見ると月が煌々としていた。

 

「私も寝ますかね。おやすみなさい」





 23/01/08細かいところを編集しました。
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