迷子AGEのハンター日誌   作:Sillver

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13頭目 料理とこんがり肉の相関性

 ひと月半ほどたったある日のこと。いつも通り、クエストを選んでいく。が、今日はそこまでやる気になれなかった。理由は分かっている。ウツシさんが出している闘技場クエストが上手くやれないからだ。それで、ムキになって本来の獲物以外の訓練をするようになった。どうにも、他の武器は手に馴染まない。まるで、適合率の低い神機をむりやり使っているかのようだ。ウツシさんは、無理をせずにとは言ってくれている。とは言え、早く我が手元にダークトーメントを取り戻すためには実績を積まねばならない。早い話が、また焦ってしまっているのだろう。

 

「今日はどうしようかな。ここ最近、ウルクススだのアオアシラだのなんだのとドンパチしててちょっと疲れてるんだよなぁ」

「ここ最近、ずっと訓練を続けながらクエストを消化なさっていますものね。そろそろ、ウツシ教官も声をかけようかと迷われていたんですよ」

「あー、それは休まないとダメな奴だぁ……」

「ふふ、また強制的にお休みさせられてしまいますものね」

 

 事の発端は、ひと月ほど前に遡る。本格的にこちらに馴染んで来た私は、ウツシさんに勧められて集会所クエストにも手を付け始めた。集会所クエストは、他の地域のハンターと連携してクエストを完遂することが推奨されている。そのせいか、ヒノエさんが受付嬢をしてくれている里の人がメインのクエストよりも難易度が高い。

 同じ個体でも、より強い個体を相手にする。そうなってくると、太刀よりも攻撃が通りやすい武器が存在していることもままある。体がカチカチの敵に、斬撃を放ってもあまり効果が見られない。そうなった際は、打撃などの攻撃を工夫するのがAGEもハンターも定番の行動だ。定番なのだが、上手くいっていない。元々、向こうの世界でもヴァリアントサイズ種でどんなアラガミも倒し、どうしても不利な時に銃形態のアサルト種を使っていた。一応、弾は貫通と、自身で好きなように弾の効果を弄れたので、こちらで言うところの徹甲榴弾のようなものを持っていた。故に、何とかなっていたのである。

 

「んむむ……」

「そんなシルバーさんに、おすすめのクエストがあるんです。受けてみますか?」

 

 クエストの依頼文が纏まったファイルから、顔をがばっと挙げて私は、ヒノエさんの手をとった。

 

「詳細を是非!」

 

 急な動きに驚いて目をぱちぱちとさせたヒノエさんは、ふわりと笑うと一枚の依頼書を渡してくれたのだった。そして、これが私の苦難の始まりだった。

 

「やってきました寒冷群島!……うう、寒い。凍結プラントと同じくらい寒い……」

「寒い寒いって言ってても始まらないのニャ。依頼を早く片づけるニャ」

 

 白雪のもっともな言葉に、私は思わず寒いと嘆く言葉が止まる。実際、その通りである。

 寒冷群島は、里から少し離れているが、日帰りで行ける場所だ。この場所は、温暖な里と違って雪に覆われており、とても寒い。所々に、雪の吹き溜まりがあったりして、脚を取られることもしばしばだ。表面上からは分からないのが質が悪い。

 

「木ノ葉、悪いけどポポの探索お願いね」

 

 木ノ葉は、くるると鳴くと私の腕から飛び立っていった。暫くすれば、どこに居たかを教えてくれるだろう。

 ヒノエさんが渡してくれた依頼は、ポポノタンを3つ納品すること。そして、こんがり肉を10個納品することだった。曰く、ポポノタンの方は料理人見習いのアイルー、クーリさんという方からだった。肉焼きセットで作るこんがり肉は美味しいが、火加減と焼き時間の見極めがシビアでわずかでも遅れると真っ黒に焦げてしまう。逆に、早いととんでもなく生焼けになってしまうのだとか。そんな嘆きが依頼書にはあった。

 こんがり肉の方も商店からの依頼だ。そこの商店は、各ハンターが作ったこんがり肉を売っている。一口にこんがり肉と言っても、ハンターによって味付けが異なり、日替わりランチのような感覚で一定の需要があるらしい。こんがり肉を肉焼きセットで作ったことがない私は、クーリさんの依頼書を見て少し嫌な予感がしている。

 

「分かってはいるんだけどね。寒いのは苦手なの」

「ワン!ワン、わふ」

 

 白雲は、こうしたら寒くない?というような感じで私の脚を抱えて丸くなった。もふもふとした毛が素晴らしい断熱効果を生んでくれている。とても温かい。が、このままでは依頼を達成できそうにない。白雪は、やれやれと言うように首を振ると、周囲を見に行ってくれた。

 

「白雲、気持ちは有難いし、温かいよ。けど、これじゃ動けないからいいよ。ごめんね」

「くぅ~ん」

 

 少し落ち込んだ様子を見せた白雲をわしわしと撫でる。じゃれつかれて、雪に倒れこむが、白雲はお構いなしだ。

 

「ん、っふふふふ、くすぐったいよ、白雲」

 

 暫くじゃれて満足したのだろう、白雲が離れてくれた。そこへタイミングよく白雪と木ノ葉が戻ってきた。

 

「おかえり、2人とも。どうだった?」

「ポポ、見つけられたのニャ。けど、近くにウルクススが居るニャ。どうする、旦那さん」

「んー、そうさな。クナイを使ってポポとウルクススを引き離そう。上手くポポだけ連れれば混戦になることはないだろうし。駄目だったときは、諦めてウルクススを撃退しよう。それなりに痛い思いをすれば撤退するでしょ」

 

 私はとりあえずの方針を立てると白雲に乗って、木ノ葉の案内に従って進んだ。

 そして、現在。そっと狭い通路から様子を伺ったはずなのに、クナイを投げるまでもなくウルクススに発見され追いかけられている。ポポはウルクススなどと比べると大人しい性質らしく、既に逃げてしまっている。とんでもなく、気が立っているようで何かあったのかと思うくらいだ。

 

「いやいや、なんでこんなに追いかけてくるの!?まだ何もしてないのに!」

「嘆いても仕方ないニャー!!どこか、広い場所に出て戦うのニャ!!」

「まあ、それしかないよね!木ノ葉!」

 

 木ノ葉は、私の言いたいことが分かっているらしく、目の前に来ると先導を始めてくれた。木ノ葉の先導に従って暫く走ると、開けた場所に出た。私は、走るスピードを上げてウルクススとの距離を大きくした。背負った太刀に手をかけつつ振り返ると、ウルクススは今にもベアハッグを仕掛けてこようとしていた。

 

「ちょっと待ってよ!?」

 

 内心、本当にやめてくれと思いながらも横っ飛びに回避。そのまま、回避した動きを使って太刀を抜く。一瞬の睨み合い。先に仕掛けてきたのは、ウルクススだ。

 

「GuOooooooOooooooo!!」

「本当に、何があったんだか!」

 

 威嚇の声を上げ、腕を振り回して周囲を薙ぐ。その動きは、アオアシラと酷似していた。が、その後に続く動きが違った。薙いだ後に、飛んだのだ。

 

「うぇ!?散開!!」

 

 私はひとまず、白雪と白雲をばらけさせた。そして、落下地点から離れて、背後を取るように動いた。が、ウルクススの着地の振動でバランスを崩してこけてしまった。

 

「しまっ__」

 

 しかも、そこは雪の吹き溜まりだったらしく、脚が埋もれてしまった。ウルクススはその獰猛さでこちらに襲い掛かってこようとしている。

 

「ニャニャー!!旦那さん、早く立つニャ!」

 

 白雪は、手にしていたカムラネコの太刀でウルクススの鼻筋を斬りつける。そこに、白雲が追い打ちという形で噛みつく。たまらず、白雲を振り払おうとするウルクスス。おかげで、私は体勢を立て直すことが出来た。

 

「ごめん、ありがとう!」

 

 2人に声をかけながら、私も斬りかかる。クルクルとウルクススの回りを動きながらダメージを与えていく。そうやってやりあっているうちに気が付いたことがある。獰猛でとても気が立っているが、どうにも様子がおかしい。まるで、何かに怯えているようなそぶりをし、弱っているのを隠すように暴れる。さらには、痩せている。

 

「……考えるのは後からでも出来るか」

 

 私は、桜花の構えを取るとそのまま放つ。既に錬気はやりあっているうちに溜まっていた。故に、より強く技を放つことが出来る。鉄蟲糸の位置を喉元にし、そのまま引っ張られる。ぐるりと回転して一撃目をいれ、返す刀で二の太刀。首の両サイドに致命傷を負ったウルクススは静かに倒れた。

 

「本当に、大変な目に遭った……」

 

 手を合わせて剥ぎ取る。剥ぎ取れた皮も、どうも張りがない。遺骸を検分していくと、私がつけた傷以外にも、最近ついたばかりと思しき傷があった。鋭く、鋭利なもので傷付けられたようだ。

 

「ギルドに報告かなぁ。ちっと異常よな」

「旦那さん、考えるのはいいことだけど、日が暮れてしまうニャ」

「そうだね。木ノ葉ー!!」

 

 空に退避していた木ノ葉を呼び戻して、腕に止まらせる。そして、懐からおやつを取り出して与える。食べている間に私は、もう一度ポポを探してくるように頼んだ。

 

「見つかったようだね」

 

 木ノ葉が、こちらから見える位置で旋回し始めた。あの下に、ポポがいる。白雲に乗り、そこまで駆けていく。途中、寒冷群島でしか入手できない凍寒ヒヤボックリを見つけて採取。光にすかすと、水晶のようにきらきらして綺麗だ。

 ウルクススと戦ったりと寄り道があったけれど、どうにかポポと遭遇することが出来た。少し離れたところから観察をする。どうやら、3~4頭からなる群れを作るタイプのようだ。こういうタイプは、逃げやすい。そこで、閃光玉を使って目をくらませている間に狩ることにした。

 

「君たちに恨みはないけれど、ごめんよ」

 

 ぽいっと投げると、中に入っていた光蟲が解き放たれ、強烈な光を発した。いきなりの事に、ポポたちは目がくらんで動けなくなっている。そこを、一気に叩く。群れの中で一番小さな個体が逃げ去るころには、ポポが3頭倒れていた。剥ぎ取って、ポポノタンを3つ入手。後は、こんがり肉を作ればいい。作ればいいのだが……。

 

「旦那さん、肉焼きセット使ったことないニャ?でも、旦那さんは料理が上手だから、きっと大丈夫ニャ」

「その信頼が怖い……。いい?一口に料理上手と言ってもよ?使い慣れた道具でやるのと、使い慣れない、しかもどうやって火加減するのかとかも全く分からないものを使ってやるのとでは、ご飯の出来栄えは全く違うものになるんだからね?」

 

 とはいえ、作らないことにはクエストは終わらない。私は覚悟を決めて初めて使う肉焼きセットを展開した。どうやら、どんなところでも簡単に展開し、足場の不安定なところでも安全に焼けるように脚がいくつかあるようだ。今いる所は、下が雪ではあるが、平坦なところなので、予備の脚は展開せずに置く。真ん中に固形燃料らしきものがあり、剝ぎ取りナイフなんかで殴れば火が付くようになっているようだ。固形燃料が埋まっている受け皿から左右に2本の棒が伸びており、先端はUの字状になっている。ここに、骨のついた生肉を引っ掛けるのだろう。片方には、骨や肉にさして回すための取っ手が付属していた。

 

「ひとまず、何も味付けのしないスタンダードなのを作ろうか」

 

 骨に取っ手を取りつけ、火をつける。火は、とても勢い良く燃え上がった。それはもう、驚いて消火用の水を用意しているうちに、炭になるほど。出来上がったのは、コゲ肉と呼ぶも虚しい、立派な炭だ。

 

「……肉焼きセット、火力高すぎないかな?」

「ニャ?これが普通ニャ」

「うせやん」

 

 生み出してしまった炭をどうするか悩んだ挙句、中身は無事であることを祈ってかじってみる。……強烈な苦みと焦げ臭さで、精神的にダメージを負った。何度か試し、涙目になりつつ、対策を考える。あの火力の高さから考えると、悠長にやっていると炭か悲しい物体Xが出来上がってしまう。そうならないように、全力で回して程よい焼き加減になったら速やかに火から遠ざけるしかない。

 

「このタイミングはならどうだ!」

「……くぅーん」

「ダメニャ。炭になってるニャ」

「ならば、こうだ!!」

「早すぎて、全然焼けてないニャ。お腹を壊す感じの生焼けニャ」

「どうだぁー!!」

「キューン……」

 

 何度焼いただろうか。持ってきていた生肉は消費しつくし、先程狩ったポポたちの肉も全て使い切った頃。ようやく、私は肉焼きセットでこんがり肉を作れるようになった。それまでに失敗した数は以下の通り。

 

・炭25個

・謎の物体X25個

・生焼け肉30個

 

 最終的に、成功したこんがり肉は20個だった。狩ったポポたちが大きな個体でなければ、とてもではないが、こんがり肉10個の納品は無理だった。オトモたちは、あまりに成功しない私の肉焼きに戦慄していた。

 

「……ね?これで分かったでしょう?料理が出来るからといって、こんがり肉を作るのが上手とは限らないって……」

 

 ギルドへ納品し、水車小屋への帰り路に、私の悲しい事実が染みたのだった。その後、肉焼きセットが上手く使えなかった副産物である生焼け肉は、フライパンで料理をし、ローストビーフなどの各種肉料理に加工し、里の人たちに配って消費しきったのだった。なお、割と好評を得た。




 書いてる本人も、ゲームでこんがり肉を作ろうとすると10個中4個くらいは生焼け肉だったりコゲ肉になります。最終的に、ヨモギちゃんに作ってもらうことにしました。

 さて、活動報告の方にも記載をしましたが、13頭目をもって、一時定期更新をストップさせていただきます。私の遅筆が原因なのですが、ストックがなくなってしまったためです。定期更新再開予定日は、23/04/01を予定しております。再開まで、しばらくお待ちいただけますと、幸いです。投稿再開が早まったり、遅くなるようでしたら、活動報告にてお知らせをいたします。
 それでは、次回14頭目 不穏の影にてお会いいたしましょう。ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

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