迷子AGEのハンター日誌   作:Sillver

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3頭目 こっちの世界とあっちの世界

 壁に背を預け寝ていた私は、ふと気配を感じて目を覚ました。どうやら、招かれざる客人達のようだ。そのまま、寝たフリを続けて客人達が自分の間合いに入った瞬間に一気に背後へ回り、首を抑え両腕は後ろに拘束を掛けた。

 

「……カムラの里の人達は皆親切なんだと思っていたけれど、寝込みを襲うのがこの里の流儀なの?」

 

 客人はギルドの受付嬢、ヒノエとミノトと言う姉妹だった。私が拘束したのは、タレ目なヒノエの方だ。しかし、解せない。里で何かしらの職に就く者達はそれなりに武の心得があるようだった。何故こんな真似をしたのか。軽く威圧しながら問いかける。

 

「で?朝からいきなりノックもなしにやってきて何用ですかな?」

「御無礼の段、平にご容赦を。ゴコク様からその武を確かめるよう言われて参ったのです」

「ふーむ。ま、ハンターなる者はこの世界ではかなりの尊敬を集めているようですし、確かめたくなるのは分からなくはないですね」

 

 眠りを邪魔されて少々腹が立つものの、外を見れば十分に日は昇っている。ひとまず、ヒノエを解放した。

 

「痛めないように気を使いはしたけれど、おかしな所は?」

「大丈夫ですよ。なんの問題もありません。流石、御三方に認められただけはありますね」

「姉様……。そういう問題ですか?」

「あら、ミノトだってとっても感心していたじゃない」

 

 会話を聞く限り、痛めたりなどしていないようだ。しかも、ああいう拘束劇があったばかりだというのに普通に会話をしている。というか、感心しているそぶりもなかったのにどうやってヒノエはそれを知ったのだろう?感応現象でも二人の間で起こったのだろうか。双子だって聞くし。

 

「さて、姉妹仲睦まじくて実に良い事なんだけれど、何か他に用があるんじゃないの?」

 

 そう言うと、ミノトは思い出したと言う表情で姉を促した。ヒノエはにこやかに笑うと、誇らしげに言った。

 

「里長がお呼びですよ、シルバーさん」

 

 ざっと身支度をすると外に出る。とても天気が良かった。ふと、遠くにナニカが飛んでいるような気がして目を凝らした。すると、姉妹が振り返ってこっちだと誘導してくれた。まだ全ての位置関係を把握している訳では無いから、正直誘導はありがたい。

 何やら騒がしく、薄く開いた扉から炎が見える扉の前にフゲンさんは立っていた。なんだか、御機嫌の良さそうな表情ではなくむしろ何かしらの問題が起きた顔だ。

 

「里長、シルバーさんをお連れしました」

「ご苦労。ヒノエ、ミノト」

「おはようございます。で、何かあったんですか?」

「……恐らく、お前に関わりがあるものだと思うのだがな」

 

 そう言ってフゲンさんが見せてくれたのは一振の鎌だった。禍々しい見た目、けれど私には見慣れた感覚を呼び起こす。私が使っていたラモーレチェコに似ている。あっちはとげとげが少ないけど。刃の部分とか結構似たものを感じる。

 

「この鎌がどうしたんです?」

「これは、ダークトーメントという。その残虐性からギルドが使用を禁じた禁忌の武器なのだ」

 

 曰く。その鎌で斬られた者は想像を絶する痛みとともに息絶えるのだとか。何それ怖い。鎌使いではあるけれど、そんな怖い説明のやつはあんまり……いや、ヴァリアントサイズも大概だったわ。

 

「何より、ダークトーメントに触れただけで痛みが走るなんて聞いたことがない。昨日、神機の説明を受けたがもしやと思ってな。触れてみてはくれないか」

 

 割と怖いことを話しておきながら触れという。が、私も惹かれるものがあるのは確か。適合試験の時のように覚悟を決めて触れる。

 

「行きます」

 

 触れても、特に痛みなど何も無かった。心に湧き上がるのは安心感。大切なものが手元に戻ってきたと言う歓喜。

 

「特に痛みとかないですね。なんていうか、神機を持った時の感覚に近いです」

「やはりか……。その武器はウツシが見つけてきたのだが、昨日お主が発見された場所にあったそうだ」

「おろ?私も昨日現状を把握するために周囲を調べましたけど、その時はなかったですよ??」

 

 そう、私は確かに昨日あちこちを調べたのだ。アイテムパックの中身やら神機やらがないかを兼ねて。なのに、ウツシさんが後から調べて出てきたということは……。

 

「んー、これって不味くないですか?」

 

 もし、この調子で私の世界の物がひょこひょここっちに来たとして。最悪のケースはオラクル細胞が来る事。そうなれば、この世界は無事には終わらないだろう。

 

「そう思って、ギルドを通じて新大陸や現大陸に問い合せたところ、古代竜人が有益な情報をくれたのだ」

 

 たまに世界規模で迷い込んで来る人やモノは稀にあるそう。ただし、世界の境界を超えるときに移る世界に致命的に害のあるものは無害なものへと変換されるか消失するんだとか。そうでなければ、ある程度元の性質を残し既にあるものに近いものへと変化する。

 

「どーりで、偏食因子を投与する腕輪が無くなっているし体内のオラクル細胞が減ったというか存在している感じがしないはずです。ついでに、常に持ち歩いてる回復アイテムだのなんだのも無くなってたのも境界を超えるときに無くなったんですね」

「恐らくは」

「はー……。とりあえず、オラクル細胞がこっち来ることはなさそうで安心しました。……この武器どうするんです?もし、神機の性質を残しているのならば適合する人じゃないと触っただけで痛みや恐怖、その他宜しくないものを感じるかと。本来の神機であれば適合者以外が触れると喰われてしまいますが、幸いにしてそういった凶悪性は変換されているようです」

 

 諸々の懸案事項が片付いたので、手に握ったダークトーメントを眺めながら問いかける。純粋に命を奪う為だけの鋭い刃先。誰もが想像する死神が持つ武器の形。

 ギルドが使用を禁じたといえど、特別な許可があれば使えるそれに変化した私のラモーレチェコ。

 

「どうするも何も、持ち主がいるのだから返すぞ?ギルドにはゴコク殿から連絡しておいてもらおう」

「ありがとうございます」

 

 一通り、武器に関しての話が終わって今度は私の話になった。どうやら、私は現在見習いハンターという事になっているようだ。故に、ひと月程はウツシさんについてあれこれ習うことになるようだ。

 例えば、鎌の扱い。こちらでの鎌は太刀と言う区分になるそうで、振るい方も変わってくる。何よりも、カムラの里独自の技術である翔蟲(かけりむし)や操竜を学ばなくては狩猟に出る事は許されない。……虫、苦手なんだけれど大丈夫かなぁ。現物を見て何をどうやっても無理だったら相談してどうにかしよう。

 

「とはいえ、その武器の使用許可はまだ出す訳にはいかないんだ」

「と、言いますと?」

「その武器はある程度の実力とギルドへの貢献が認められたハンターが審査を経て初めて扱えるものだからね。変化前の武具の持ち主が君だから、持つこと自体に文句を言わせたりはしないんだけれど。こちらの世界の規律の為に使用許可はまだ先になると思って欲しい。他の事情を知らないハンターから君を守る為にも」

 

 前言撤回。ひょっこり顔を出したウツシさんの説明ですぐに使えると思ったダークトーメントはしばらく使えないようだ。……まあ、向こうの世界でも自身の強さによって作れる武器は変わっていったから仕方ない。変化する前の神機が、直前まで使っていた私のラモーレチェコならば、そうなるのも仕方の無い話だ。ヴァリアントサイズの中では最高の威力を誇るものだったし。そこから更に強化を続けていたし。

 

「さて、と。シルバー、君はどのくらい動ける?」

「それなりには動けると思いますよ」

「ふーむ」

 

 これに関してはひとまず修練場という所で見てもらえることになった。そして、カムラノ太刀という初心者ハンターに渡されるモノを装備する。こちらにもスキルという概念があるらしく、武具や防具は装備しないと意味が無いそうだ。

 

「今日のところは、翔蟲と大翔蟲(だいかけりむし)、オトモアイルーとオトモガルクの紹介と雇用をしようか」

「……お金、無いですよ??いえ、あるにはありますが向こうの世界のですし」

「ハンターになると支度金が貰えるんだ。だから、大丈夫だよ」

「良かった……」

 

 そんなこんなで、私はウツシさんに連れられて修練場へ向かったのだった。

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