迷子AGEのハンター日誌   作:Sillver

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4頭目 修練場にて

 オトモ広場と呼ばれる所を通り抜けて、桟橋へ。少し船に揺られて辿り着いた場所は、湖に浮かぶ島、その洞窟の中だった。そして、狭く短い洞窟を通り抜けるとそこにはカエルのような形をしたものが中央にあり、崖に囲まれ空が見え周囲には櫓らしきものや動く的がある正しく「修練場」だった。ペニーウォートでは修練場なんて気の利いたものはなく、訓練と言いつつアラガミを相手にフォローもなく実戦で生き残らねばならないと言うものだった。そのような事を思い出しつつ、カエルの様な物を眺めているとウツシさんが手招きをしたので近寄る。

 

「ここは修練場。新米ハンターの訓練、一人前のハンターが使い慣れない武具や新調した武具なんかに慣れるための場所だよ。ここは、ハンターであれば誰でも使えるんだ」

 

 カエルのようなものはそのままからくり蛙と言って、動かない的から様々な動きをして回避やガードの練習相手になってくれる。動く的は弓やライトボウガンと言った向こうでの銃のような物をメインに扱う「ガンナー」という存在のためのもののようだ。逆に、私のように太刀や槍などをメインに扱う人は「剣士」と呼ぶ。……太刀使いと登録されているけれど、実の所私は鎌使いなんだよなぁと思ったのはここだけの話。

 

「あのからくり蛙に君の動きを見せてくれないか?ひとまず、動かないようにしておくから」

 

 ウツシさんに促され、今だけという事でダークトーメントを受け取る。構えて動かないカエルをアラガミに見立てて一通り向こうの世界での動きをやっていく。物理的に無理なダイブは諦めた。あれは、盾がないと出来ないし。仮想敵には灰域種アラガミ、バルムンクを選ぶ。

 仮想バルムンクの動きを思い出し猫パンチを避けるべくステップ。そのまま薙ぎ払い、縦斬り袈裟斬り。捕食行動は出来ないけれどいつもの流れをなぞっていく。バースト時に出来る特殊な攻撃、バーストアーツの動きを再現する。ステップをしながら横薙ぎに斬ることで具現化した三本の爪痕が敵の体力を奪うブラッディクロー。

 ダウンした仮想バルムンクに大ダメージを与えるべく、ジャンプをして一回転する。そうする事で威力を上げるディストピア。ただの横薙ぎではなく攻撃した相手の体力を奪うソウルイーター。

 離れるバルムンクにヴァリアントサイズだけしか行えない技もやっていく。本来であれば伸ばした鎌で円を描くように周囲を薙ぐラウンドファング。そのまま縦切りのバーティカルファング。最後に刃を自分へと引き寄せるクリーヴファング。もちろん、この辺りの技は神機の特殊機構が絡むため動きをなぞるだけだ。本来であれば神機が伸び縮みして色んな間合いで戦う。そういった機構がない故に起こるどうしようもない違和感以外はダークトーメントから来ない。

 機構がない違和感も、型をなぞるうちにだんだんと慣れていった。捕食ができないし必要ないというのには少し慣れるのに時間がかかりそうだけど。この捕食自体が私の攻撃行動に組み込まれていたのだから仕方の無いところではあるが。最後に、仮想バルムンクにトドメを刺して残心。

 普段の動きを見せ終えた後に思う。このダークトーメントは手に馴染む。神機とは根本が違うと言えどもだ。変化したラモーレチェコだから当然と言えばそうだが。重心すら私にあっている。渡されていたカムラノ太刀は重心の調整が必要だったのに。

 動きを見ていたウツシさんが残心の終わった私に感想を言った。なんだか、ちょっと悲しそうな顔をしている。なんでだ。あれか。型もへったくれもない喧嘩殺法でこれから先の事を思って絶望しているとか?……有り得る。

 

「なんて言うか、本当に実戦で身に付けた動きって感じだね」

「でしょうねぇ。順応プログラムとは名ばかりで生き残れなければ死あるのみでしたから」

 

 生き残れなければ、容赦なく灰域に置き去りにされアラガミに喰われて死ぬ。運良くアラガミから逃げきれても偏食因子が切れてアラガミ化して死ぬ。そうならなかったとしても灰域に呑まれて死ぬ。常に死がそこにあった。全く、クソッタレな職場だ。思わず思い出して遠い目をしていたら勘違いさせてしまったようで、ウツシさんが何やら覚悟を決めたような顔をしていた。まるで、元の世界にカチコミでもしそうな感じの。

 

「ここではそんな事は絶対しないしさせない。……何か動くときは絶対に相談してね?」

「あはは、大丈夫ですよ。今は高潔の花が私達を守ってくれてますから。それに、ここに来る前にその状況もどうにか改善したので」

 

 あの混迷しきっている状況で、人命救助を即断する。その志の清らかさに私達は救われた。だから、今も夢を追い続けている。こんな良く分からない状況下でさえも。エルヴァスティの奇跡は、イルダに出会えたからこそ起こり得たんだ。

 

「まあでも。なんだって世界規模の迷子になったのか分からないので暫くはお世話になります」

「うん、よろしくね。愛弟子よ!」

 

 ……どうやら、よく分からない琴線に触れてしまったのか愛弟子になってしまった。いやまあ、これからお世話になるのだし間違ってはいないのだけれども。この人、いい人すぎてだまされたりしないだろうかと心配になった。

 

「さあ、愛弟子よ!君が先ほど行っていた後ろに下がってから斬るというものだが__」

 

 曰く。太刀の立ち回りはカウンターやこの里独自の武技である「鉄蟲糸技」により錬気……説明を受けた感じ私達AGEやGEのバーストっぽい。これにより自己を強化しつつ戦うのだそう。その中のカウンター技に、見切り斬りというのがあった。それは、モンスターの攻撃が当たる直前に下がり回避して一撃を当て、上昇した錬気により強化された気刃大回転斬りを当てるというものだった。確かに、私がよくやるステップで回避してからの攻撃に似ている。これならちょこちょこやれそうだ。

 

「さて、ちょうど鉄蟲糸技の話を出したから説明しておこう。鉄蟲糸技とは、この里の周囲に見られる翔蟲という虫を使った特別な武技のことだよ。君の言うバースト、つまり錬気にも関係してくるんだ。というのもね__」

 

 説明や実際に動きを見せてもらい、やってみる。ウツシさんが私の動きを見てお勧めしてくれた鉄蟲糸技「桜花気刃斬」。これは相手に突進しその後複数回の斬撃が入るというもの。神機に取り付けた盾を展開してアラガミに突進するダイブみたいだ。この鉄蟲糸技のいい所は、移動を伴うため危険な時の離脱にも使えることだ。

 心配していた虫が苦手だから大丈夫かというのは問題なかった。翔蟲、普通の虫と違って淡く薄い水色に光っていて綺麗だった。それに、なんだか可愛らしく思えたし。

 

「よし、それじゃからくり蛙を動かすからやってみよう」

 

 ウツシさんにダークトーメントを一度返し、カムラノ太刀を受け取る。こちらの太刀は向こうにはなかった。大剣はロングブレードとよく似ていた。ちょっとした感想を持ちつつ、からくり蛙を見る。からくり蛙は一定の感覚で四股踏みしている。それに合わせてステップ……こちらの回避を入れ肉薄。斬りつけて斬りつけて回避。肉薄した状態をなるべく保ち攻撃を掻い潜る。錬気をあげるために鉄蟲糸技を挟む。バーストなら仲間からのリンクバースト弾を受けなければLv3まで上げられないが、錬気は見切り斬りか桜花気刃斬を3回当てれば刀身を赤く染められる。この世界には「気」という概念があるのだそう。それにより、錬気も可視化している。AGEも体内のオラクル細胞の活性化具合でバーストレベルを測っているから似たようなものだ。

 そんなことを考えながら、私は斬りつけ回避していく。カウンターよりも先に回避して一撃を当てる。どうしても染み付いた癖でカウンターするよりも掻い潜り回避してしまう。私は歯噛みしながら一度離脱した。

 

「うーん……」

「どうしたの?斬れ味落ちちゃった?」

「それもありますが、どうにもカウンターが使いづらくて」

「そっちにはカウンターがなかったんだから仕方ないよ。ゆっくり慣れていこう。もしかしたら、今までの事があるから実物相手ならやれるのかもしれないし」

 

 砥石で斬れ味を回復させ、また斬り掛かる。ウツシさんの言葉に甘えて、元の世界に戻った時の事を考え太刀使いでありながらも回避主体という独特なスタイルになるのだった。

 

「うん、今日はここまでにしようか」

 

 回避主体になったものの、ある程度こちらの動きに慣れて来た頃ストップがかかった。吹き抜けになっている空を見上げると夕暮れになりかけていた。

 

「いやぁ、まさかこの時間まで頑張ると思わなかったよ。お腹すいたでしょう?なにか食べようか」

「……っありがとうございます」

「……今日は止めなかったけれど。今後は止めるからね?」

「あはは……」

 

 心配や色々なことを紛らわせるために過度に暴れていたのは流石に伝わってしまった。優しい人達だ。気持ちを汲んで止めずにいてくれたのだから。

 

「予定してたオトモ雇用と大翔蟲の紹介はまた明日ね」

「分かりました。何時からですか?」

「呼びに行くから、水車小屋に居てくれたらいいよ」

 

 了承し、うなづいた。その後、私はウツシさんに連れられてご飯をご馳走になるのだった。美味しかった。ジークの当たりご飯並に美味しかった。


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