迷子AGEのハンター日誌   作:Sillver

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5頭目 思い出という空に浮かぶ白い雲

 昨日、自分の動きを見せるために太刀を振り回して集中していた私は時間が経つのも忘れてしまい、結局オトモを雇用することが出来なかった。今日はその雇用をするためにウツシさんと待ち合わせをしているのだが、当の待ち人が中々現れない。

 

「はて?今お借りしている水車小屋で待っててと言われたからここにいるけれども。中々来ないなぁ」

 

 ……よくよく考えれば、時間については話してなかったような気もする。太陽は南天しようかというところだろうか。困った。このままウツシさんが来られなかった場合どうしようかと思っていると何やらこちらに高速で近付いてくる気配があった。そのまま上を見ていると人影があった。逆光になってよく見えないが、恐らくウツシさんだろう。寄りかかっていた塀から離れておく。なんというか、軌道的に正面衝突しそうだったのだ。

 結果的に、正面衝突はしなかった。すごい勢いでこちらに来ていたことは来ていたのだけれど、途中で翔蟲に掴まって勢いを殺してから着地していた。

 

「やあ、待たせてすまないね。ちょっと立て込んでしまっていたんだ。早速、オトモ広場へ行こうか」

「大丈夫ですよ。昨日、時間を聞き忘れた私も悪いですから」

「そう言って貰えると助かるよ」

 

 無事に待ち人が来た私は、早速今日の本題について尋ねることにした。オトモ『雇用』。そう、雇用なのである。つまり、私はあっちの世界の貨幣であるfc(フェンリルクレジット)は持っているけれどこちらの貨幣であるz(ゼニー)は持っていない。一応、支度金があるとは聞いているけれど初期装備であろうカムラノ太刀やカムラノ装を整えたらさほど残っていないはず。

 

「あの、ウツシさん。お金、支度金があるとおっしゃってはいましたがさほど残っていないのでは?初期装備といえど、武具防具はお金がかかる物です。雇用まで出来るのですか?それに、雇うのであれば継続的に賃金の支払いが必要かと思いますが」

「ああ、そうか。その辺の事をまだ伝えてなかったか。そうだね、お金の残りについてから行こうか」

 

 そういうと、教えてくれたのが以下の通り。まず、お金の残りはオトモを雇用するのに十分に足りるということ。なんでも、初めてのオトモはハンターと共に成長するために訓練が終わりたてのアイルーとガルクになるため、そこまでかからないのだそう。賃金についても、雇うといっても寝食を共にするため賃金の支払いはなく統一した家計になるそう。

 

「アイルーにガルク、ですか。どちらか一方だけでしょうから、特徴を教えてくださいますか?」

「最初はどちらか一方ではなく、両方を雇うんだよ。特徴は……実際に見てのお楽しみだね」

 

 そう言われてはなおのこと気になるけれど、ウツシさんが歩き出したため質問を一旦やめてついていく。オトモを2人も雇うことになるとは思っていなかったからちょっと驚いた。本当に2人も雇って大丈夫か不安に思っていたけれど、それは目の前の光景に吹っ飛んだ。

 

「さあ、ここがオトモ広場だよ。訓練中のアイルーやガルク、他のハンターが雇って狩猟に連れて行っていないオトモなんかもここで過ごしているんだ」

「わあ~!!」

 

 中央にある修練場で見たからくり蛙の小さいバージョンに飛びかかっていくもの、あるいは周囲に程よく残された木々に張り渡された綱や橋を駆け回るものなど、見渡す限りのもふもふ!もふもふ!オトモたちは、旧世界に居たとされる猫や犬に近い姿をしていた。その姿はとてもとても可愛らしい。

 

「ココがこの世界の天国ですか!?!?もふもふがいっぱい……!こんなもふもふ、寝子(ねこ)くらいしか見たことない!あの子はクリサンセマムでずっと寝ていて動いている所を見たことなかったけれど。こんなに可愛らしいなんて!!」

「やー、凄い喜びようだね。君がいた世界ではこういう子達はいなかったの?」

「……アラガミは、すべてを喰らいますしその戦闘力は凄まじいものです。猫や犬といったいわゆる愛玩動物は真っ先に死に絶えていきました。人々が逃げる混乱で飼い主とはぐれたり、混乱の最中でアラガミに喰い殺されたりしたそうです。今生き残っているのはほんの僅かなんですよ」

 

 この可愛らしい光景を目にしながら、言わなかった事がひとつある。それは、人に喰われた子も居るということ。爆発的に広がり文明を食い荒らしていくオラクル細胞に対抗する準備を整えていた初期の混乱で食料が足りなくなり、そういった行為もあった。ペニーウォートでも、クリサンセマムでも。その記録は端末のローカルデータベースの片隅にひっそりと残っていた。非人道的なペニーウォートでも残っていたのは、きっと生き残るためなのだろう。

 だからこそ、別の世界と言えど今の目の前の光景を守りたいとそう思った。この子達を喰らわずに済むように。喰らわれずに済むように。

 少しだけ暗い顔をしていたのか、ウツシさんが心配そうにこちらを見てきたので頭をふって「なんでもないです」と笑う。訝しみながらも、触れないでおいてくれるようでアイルーとガルクについて説明をしてくれた。

 

「まずは、ガルクから説明しよう」

「お願いします!」

「ガルクは犬のようなオトモで、アイルーは猫が二足歩行で歩いているような姿のオトモだよ。どちらも得意なことに差があるから、詳しい説明はオトモ雇用窓口のイオリくんとオトモ広場管理人のシルべさんから教わるといい」

 

 そう言うと、入口に居たアイルーと少し広場に入ったところにある木でオトモと戯れていた青年を紹介してくれた。

 

「オトモ広場管理人のシルべだニャ。ハンターさんがいない間、狩猟に連れて行っていないオトモたちを見ているニャ。安心して出かけて欲しいニャ」

 

 シルべさんは全体が黒い毛並みで口元が白く、ピンクのハチマキと法被が特徴的。他のアイルーよりも少し小柄に見えた。

 

「初めまして、僕がオトモ雇用窓口のイオリです。皆、君と狩猟に行きたくて選ばれるのを待ってるからどんな子と狩りに出掛けたいか教えてね。きっとぴったりな子を紹介するから」

 

 イオリさんは、左側の前髪を長く伸ばした青年で穏やかな印象を受ける。けれど、その動きには武の心得があるように見えた。

 

「お2人ともありがとうございます。この度、ハンターになることになりましたシルバー・ペニーウォートです。お世話になります」

「そんな形苦しくしなくて大丈夫ニャ」

「そうだよ?里のハンターになるなら家族みたいなものだし」

「2人の言う通り。心に余裕をもって、というのはまだこちらに来たばかりで難しいかもしれないけれど」

 

 優しい言葉を3人から受けつつ、本題に戻った。アイルーとガルクの特徴は、補助と機動力に大別できそうだ。アイルーは獣人という人と獣の間という器用さと小回りでハンターを補助し、ガルクはハンターを背中に乗せて早く移動できる。なんでも、ガルクはカムラの里以外ではオトモとして見る機会がないらしく、里独自の訓練を施しているんだそう。そして、ガルクは個体によって得意なことの差があまりないのに対してアイルーは個々で得意なことに差が大きくあり複数雇うハンターが多い。なにより、アイルーは別の地域では「ニャンター」という職業でハンターと同じようにクエストを受けて生活しているものも居る。同じ「モンスター」という括りではあれど、とても大きな差があるようだ。

 

「アイルーは、個々に得意なことが違うってさっき言ったけれど5種類に得意なことを分けることが出来るんだ」

 

 そのまま、イオリさんとシルべさんは交互に5種類の得意なことについて教えてくれた。傷の手当てが得意なヒーラー、モンスターの動きを封じたりするのが得意なアシスト。ハンターと同じように戦うのが得意なファイト。色々なタイプがいるようで、本当に個性的だ。

 

「モンスターの剥ぎ取りで珍しい素材を得やすいコレクトという得意を持っているタイプもいるニャ」

「剥ぎ取り?」

「あー、まだその辺りは説明してなかったね。また今度しようか」

「お願いします」

 

 剥ぎ取りと言う聞き慣れない言葉を聞き返すと、今度教えてくれるという。素材を得るのはいつも倒した後に神機で捕食していたけれど、こちらでは素材の得方はやはり違うようだ。

 

「最後の1種は?」

「最後の1種はボマーと言ってね。狩猟の時に爆弾を使うことがあるんだけれどこれの扱いがとても上手な子達だよ。ファイトとの違いは、武器よりも爆弾を優先して使っている所かな」

「それはまた、個性的ですね」

「そうだよ。さあ、説明ばかりしていてもしょうがないから、ここにいるオトモたちと関わってみて。きっと君が気に入る子が見つかるよ」

 

 イオリさんに促されてからくり蛙の近くへと進む。皆のびのびと訓練していたり休憩していたりと見ているだけでも癒される。私はとりあえず奥の方の子達から関わってみようかとひときわ大きな木のそばへと行った。

 そこには、小さな社があって裏へ回ると近くを流れている大きな川を良く見渡せた。遠くには昨日散々太刀を振り回した修練場が見えた。いい眺めだなぁと思っていると、視界の端に何か白いものが見えた。

 

「おや、君はガルク?綺麗な白い毛並みだね」

 

 見えたものはガルクだった。真っ白な毛並みの中に、黒く大きな瞳が印象的だ。もっと近寄ってみようとすると、何故か距離を離されてしまう。しかも、何故か右目のほうを見せようとはしない。

 

「どうしたの?何もしないよ。いい天気だね」

 

 無理に距離を詰めると良くない気がして、そのまま話しかけた。天気の事、私の事。話ながら様子を見に来たらしいウツシさんの方を見ると続けてというような雰囲気でイオリ君たちのほうへと向かっていった。どうやら、この子は過去に何かあったのかもしれない。それでも、私は構わないと思った。この子の色が、フィムを思い起こさせたから。フィムは銀の髪でこの子は白なのに日に当たるときらきらして銀のようだ。

 そんな話をつらつらとしていると、いつの間にか白いガルクが私のそばにいた。ようやく見れた右目は潰れて一筋の傷跡になっていた。

 

「君、フィムっぽいなって思ったけれどどっちかっていうとアインさんみたいだね。アインさんも私の仲間でね。すごく強くて仲間思いで、君やフィムみたいな銀に見える白い髪を長く伸ばしていてね。かっこいいんだよ。……アインさんは君とは逆で、左目を失っている。だからっていうわけじゃないけれど。私と一緒に来ない?」

 

 まだ帰れないと決まったわけじゃあないしそこまで日が経ったわけでもないけれど。それでも既に仲間が懐かしく感じて。想いの縁にするのは白いガルクに失礼だと思いつつも縋ってしまった。白いガルクは何かを思ったのか、イオリさんの方へと歩いていった。私はダメだったかと思ったのに、何やら手招きされた。

 

「この子、君のオトモになりたいみたいなんだ。だから、良かったら名前をつけてあげて欲しい」

 

 白いガルクはこれを伝えるためにイオリさんの元へ行ったらしい。フィムやアインさんを思い起こさせる白。名前を考えながら、空を見ると青い空に雲が一つだけ浮かんでいた。思い出という空に浮かぶ白い雲。思いついた私は白いガルクと目線を合わせて伝えた。

 

「あなたの名前、『白雲』にしようと思うのだけど、どうかな?」

 

 白いガルクは私の目を見ると、こくりとうなづいてくれたのだった。

 

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