迷子AGEのハンター日誌   作:Sillver

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7頭目 ハンターの世界

 オトモ雇用から暫く経ち。オトモの2人と上手く連携も取れるようになり、こちらの武具防具に慣れてきたころ。ウツシさんから修練場ではなく、実際のフィールドでの訓練をしようということになった。場所は、初めてウツシさんと出会った場所『大社跡』でやるのだそう。

 

「あそこは、いろんな生き物が生息していて中には獰猛な種もいるけれどタイミングを選べばこういった訓練に使えるくらい穏やかな時もあるんだよ」

「なるほど。まあ、生き物も移動したりとリズムがありますもんね」

「そういうこと。ではまずは、俺たちがいるこのキャンプの説明をしよう」

「お願いします」

 

 山々に囲まれながらもぽっかりと周囲が開けた場所や周囲を岩壁に囲まれ出入口は這って進むしかないような場所などにキャンプは置かれる。なぜなら、ハンターは夜を徹して狩猟を行ったり時には何時間も待ったりと待機も多い。その際、ずっと神経を張り詰めさせている訳にも行かないため設置されるようになったそうだ。そして、クエストの進行が厳しく戦略を練り直すために撤退した際に大型モンスターなどに襲撃をされたら目も当てられない。装備に不具合が出た際にも、ここで簡単な調整や修理をする。万が一の為に、予備の武具防具も置かれており、モンスターに合わせての調整も可能だ。そのための技術はハンターには必須なんだとか。割と本当に世界が変わってもやる事は案外似通っているらしい。

 テントの外には青い色でギルドのマークが描かれた箱があった。中を覗いてみると各種傷薬や閃光玉といったアイテムが入っていた。閃光玉は向こうの世界でいうところのスタングレネードのようだ。モンスターの目を眩ませ怯ませたり出来る。

 

「そこにあるのが支給品BOXだ。狩りに役立つアイテムが入っているよ。ギルドからハンターに支給された品だから、自由に持って行ってかまわないからね」

「なんか親切ですね。ハンターズギルドって」

 

 AGEは、というよりゴッドイーターもだけれども。ミッション中に使用する携行品は自身で用意するものだった。故に、こうして少なくとも用意をするハンターズギルドを親切に思う。慣れないうちは支給品のお世話になることもあるだろう。無駄にせず、大切に使わせてもらおう。

 

「それだけに、うっかりヘマをして気絶なんかをしてネコタクに運ばれると容赦なく報酬金は減るけれどね」

「基本的にソロなハンターと部隊ごとに出撃するAGEの差ですね」

 

 下手をやるとそのまま死ぬのは同じだが、気絶程度だとまたここでも違いが出るのが面白い。基本的にソロで動くハンターはネコタクと呼ばれるアイルー達がおり、万が一の時はクエストの報酬金3分の1と引き換えに回収され、キャンプに待避させてもらえる。かなり危険なように思えるが、むしろそのスリルが楽しいと好んでネコタクの担い手になりたがるアイルーが一定数いるのだという。基本的にスリルはさほど求めていない私からすると有難くはあれどちょっと分からない感覚だ。

 一方、AGEは基本的にソロではなく一部隊4人での行動を推奨される。それ故に、気絶した場合は仲間内でフォローし合う。ただ、何度も気絶を繰り返すと最終的に戦場での手当では間に合わなくなるためあらかじめ耐久値という形で気絶回数が決まっている。もちろん、深手をおった場合はそのままミッションを中断し帰投する。ここはハンターもAGEも変わらない。何より、報酬金が減らずとも得られるアラガミ素材や回収素材が一気にしょっぱくなるためどのみちAGEだろうがハンターだろうが気絶しないに越したことはない。ダイレクトにお財布に直撃してくるだけに死活問題になりかねない。

 

「キャンプの説明はこんなところかな。俺は先に、崖の下の河原で待っているよ!」

 

 そういって、翔蟲であっという間に飛んで行ってしまった。確か、今いるキャンプから真っ直ぐに降りていけば河原に出られたはず。

 

「そうはいっても、初めて迷い込んだ日から来ていないし。周辺情報を得ておかないと不安なんだよなぁ。回収できる物も向こうとは違って多岐に渡るわけだし」

 

 実物を目にするのと、書物で知識を得るのは違ってくる。先に行って待っているということはここで準備を整えてから来いということでもあるのだろう。

 

「白雲、白雪。気になる物を見つけたら教えてね」

「ガウ!」

「了解ニャ」

 

 とりあえず、支給品をあらかた拝借しポーチにしまう。そして、ウツシさんを追って崖の方に向かう。崖のすぐ近くに薬草が生えているのを見つけてこれも得ておく。これ以上目ぼしいものはなさそうなので崖から飛び降りる。

 

「さて、ミッションを開始しますかね」

 

 自然と向こうでの口癖が出ていた。存外、訓練と言いつつも外に出れたのは嬉しい。そのままの勢いで翔蟲を飛ばして一気にウツシさんに近付く。崖から飛び出た時に姿が見えたのだ。

 

「よく来たね。では、先程のように翔蟲を飛ばしてこの岩の上に来てごらん」

 

 ひょいっと翔蟲の力を借りて上に飛ぶ。毎回思う。これ、ダイブアタックみたいだなぁと。ダイブアタックも大型のアラガミや浮遊しているアラガミに当たるくらいに高く飛べる。これも、一回でそれくらいの高さまで行けてしまう。

 

「よしよし。それではオトモとの連携を確認しようか。ガルクに乗って俺を追っておいで」

「分かりました」

 

 ガルクはカムラの里で新しくオトモとして認定されたそうで。他の町や里では一般的ではないのだとか。それ故に、イオリくんのご両親がガルクを広めるべく各地を旅して広めて回っているのだという。

 仲間と戦うことはあっても、オトモ__旧世界風にいうのであれば犬や猫に近しい存在達と共に戦うのは初めてで戸惑うことも多かった。

 

「白雲、乗せてもらうね」

「ワン!」

 

 今では慣れたものだなと感慨を抱きつつウツシさんを追う。……あの人、翔蟲使って自力で走ってるのはいいんだけれど、どうもガルクよりも早い印象を受けるのはなんでなんだろう。私も走るのはそこそこ早いはずだし、白雲はガルク故に私よりももっと早いのに。

 追いついた先には黄色ヒトダマドリが居た。こういった生物は環境生物と呼ばれてハンターに様々な恩恵をもたらしてくれる。害ばかりをもたらしてくる喰灰とは大違いだ。あれもウィルス大といえどアインさん曰く一応は「生物」の範疇らしいし。

 

「来たね。さて、突然だけれどモンスターの気配が近い。君の実力なら余裕で狩れるから、訓練がてらやってみない?」

「どんなモンスターですか?」

「この感じだと小型だね。どうする?」

「やります」

「では、準備が出来たら狩猟開始だ。俺は近くで見守っているよ。何かあったらすぐに助けるからね」

「大丈夫です。このまま行けます」

 

 そのまま、ウツシさんが指示した方向へ進むと確かに小型モンスターが3体。イズチだ。本来はオサイズチが率いる群れで過ごしているのだが、はぐれたのだろう。放置してもいいのだろうけれど、何だか気が立っている。近頃、そういうモンスターが増えているような気がする。考えつつ、武器を構える。

 

「さてさて、君にとっての死神がまかり越したよ?」

 

 飛び掛かりを回避。すれ違いざまに一閃。いい手ごたえが相手への確かなダメージを伝えてくる。ただ、まだ立つ気力がある上に他の2体が仲間を庇わんとこちらに向かってきていた。

 

「無駄だよ」

 

 今度はこちらから打って出る。横薙ぎで2体まとめて吹き飛ばす。そして、立ち上がり飛び掛かろうとしていた1体目を巻き込んで行く。ちょうどいいからそのまままとめて倒すことにする。

 

「これでおしまいだよ」

 

 翔蟲を飛ばした勢いで引っ張られてそのまま傷をつけていく。鉄蟲糸技、桜花鉄蟲気刃斬。残心をしているうちに、つけた傷が開いたのだろう。モンスターが怯みそのまま倒れた。

 

「討伐完了だ!お疲れ様、愛弟子。みごとな狩りだったよ」

「ありがとうございます」

「もし自分で納得のいかないところがあったとしても大丈夫!君のハンター生活はこれからだからね」

「そうですね。目指せ、ダークトーメント!という目標はあるので」

「ごめんね、ずっとこっちで預かることになっちゃって」

「いえ。仕方ありませんよ。頑張ってくださったのは知っていますし」

 

 そう、結局のところ持ち主登録は出来たもののハンターランクという基準を満たせていない私は未だ本来の獲物であるラモーレチェコが変化したダークトーメントを手元に置けていない。そう、手元に置く事すらも許されなかったのだ。その為、今は加工屋のハモンさんのところにある。手入れの時ばかりは私も同席している。相変わらず、他者が触れると恐怖や激痛といった物に襲われるようで、それはハモンさんも例外ではなかった。だが、なぜか私が同席し手渡しするとそういった現象が起きないのだ。生体兵器だったが故に、持ち主が納得しているなら受け入れるのだろうか。分からないけれども、ひとまずは手入れなどは出来るようになって安心だ。

 

「さあ、そろそろキャンプに戻ろうか。かなり遠くまできてしまったからね」

「分かりました」

 

 キャンプへと戻るころにはとっぷりと日が暮れていた。日が暮れてから空を見上げると星が輝いていて綺麗だった。月の光はこちらでは乳白色だ。柔らかな色合いで美しい。

 

「さて、これで今日の訓練は終わりだよ。また同じような訓練をするから頑張ってね」

「はい!」

 

 その日の晩御飯は何にしようか迷った挙句、白雲と白雪に尋ねた。白雲は肉を、白雪は魚を希望し、仁義なき戦いに発展した。仕方なく、くじにしたら見事に魚に。キャンプ近くの川で獲れた魚にしたのだった。塩焼きはたいそう白雪が喜んでいた。敗れた白雲はしょんぼりしていた。

 

「明日はお肉にしようね」

「くぅーん」

「よしよし」


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