迷子AGEのハンター日誌   作:Sillver

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9頭目 ハンター就任

 日々の訓練を重ねること早ひと月。私はようやくこちらの武具を余り違和感なく振るえるようになった。カムラの里の人々とも打ち解け、徐々に居場所を確立していた。同時に、どうにかして元の世界へと戻る方法を探し続けている。ハウンドの面々と交わした約束は私の生涯の夢。叶える為になんとしても戻らないと。

 

「さて、今日も今日とて帰るために情報を集めつつ、お世話になっている里の皆さんのお役にたちに行くとしますかね。……ヒノエさんにミノトさん、戸の外にいないで中へいらしたらどうですか?」

 

 受付嬢姉妹は相変わらず人を驚かせようとこっそり戸の前に立っていた。里に来た直後にも似たようなことがあった気がする。

 

「あらあら。今日も気づかれてしまったわ。ミノト」

「いや、今日『も』というか……」

「無念です。ヒノエ姉さま」

「そういう問題なの!?」

 

 無念とかそういう問題ではなく、デリカシーとかプライバシーとか。そういう問題だと思うのは私だけなんだろうか。どうするんだろう、着替え中だったり、お手洗い中だったら。少なくとも、私はそういう時は一人でゆっくりしたい。緊急の要件ならまだしも。

 

「完璧に気配を消していたはずなのに。本当に聡いですね」

「まだまだ、わたくしたちは修行不足のようです。もっと精進いたすとしましょう」

「うん、いやまあ……。もういいや。それで、ご用件は?」

 

 私が当然と言えば当然の質問をすれば、受付嬢姉妹はいつかのようにふわりと微笑むと言った。

 

「里長がお呼びですよ、シルバーさん」

「それを早く言ってくださいよ!」

 

 里長が呼んでいるイコール、割と重大な用件の事のほうが多い。軽く服装を整えて外に出る。空を見上げると、今日もよく晴れていた。遠くに、ナニカが飛んでいるような気がしたが、それが何なのか分からないうちに見えなくなった。受付嬢姉妹と共にフゲンさんがいるたたら場に行く。

 

「里長、シルバーさんをお連れしました」

「ご苦労。ヒノエ、ミノト」

「おはようございます、フゲンさん。それで、如何なさいました?」

 

 近づいたときに、フゲンさんの腕からフクズクが飛んでいくのが見えた。きっと、どこからか手紙が来たのだろう。それにしては、表情が険しい。

 

「たった今、文が届いたぞ。近々__『百竜夜行』が起こるそうだ」

「ついに 始まってしまうのですね……」

 

 百竜夜行。修行の合間にウツシさんから聞いていた。竜の異名を持つ数多のモンスターたち。これを『百竜』と呼び、その大襲来を『夜行』と呼びならわしているのだと。ヒトの生存域がモンスターによって限られている中で、百竜夜行はこの世界にとっての『厄災』だ。

 

「そのようだ。50年前に里を襲ったあの悲劇、一時たりとも忘れたことはない。近いうちに砦へ遠征することになるだろう。里を守らねばならん!!」

 

 過去の痛みを思い出しているのか。悲痛な面持ちで里を守るのだというフゲンさんに、私も何かできないかと考える。私だって、大事な居場所は守りたい。特に、異世界から来た私をカムラの里の人々は優しく受け入れてくれた。会話は何故か出来たけれど、文字の読み書きが出来ないと知ると丁寧に教えてくれた。恩返しの1つや2つしたって罰は当たらないだろう。

 

「ご心配には及びません、里長。私たちカムラの民が日々修行を重ねてきたのはまさにこの時のため!」

「姉さま、さっそく準備に取り掛かりましょう」

 

 普段の様子とはまるっきり違う真剣な表情だ。長く生きる竜人族であり、ギルドの受付嬢の2人は落ち着いた様子で一礼をするとたたら場から離れていった。皆に伝えに行くのだろう。私もこれが用件ならば、集会所にいるウツシさんに今すぐ組み手をお願いしにいこうと、2人の後を追うようにたたら場から立ち去ろうとした。

 

「待て、シルバーよ。百竜夜行の件で話が逸れてしまったが、呼び出したのはこの件ではないのだ。今しがた、ハンターズギルドから連絡があってな。『シルバーをハンターとして認める』とのことだ。長く待たせてすまなかった。これで、元の世界へと戻る手がかりが見つかればよいが」

 

 それは、私にとってはひと月待ち望んだ朗報で。ハンターにならなければ立ち入れない場所や読むことが許されない書物などがある。帰還を望む私にとって、ありとあらゆる情報に触れることが出来るハンターになることは必須だった。それが今、叶ったのだ。帰ることは私にとって最優先だ。

 

「そうですね。ありがとうございます。しかし、これから百竜夜行が起こるのでしょう?なら、私もお手伝いします。第2の故郷のようなものですから」

「ありがたい。では、里の防衛を手伝って貰えぬか。里守だけでは手が足りんだろう」

「もちろんです」

 

 けれど、私の選択は百竜夜行の防衛を手伝うことだった。私はAGEだ。その役目は、クリサンセマムを、ひいては大切な仲間を守ること。生きたいと望む力のない人を守ることでもある。百竜夜行だって毎日毎日あるわけでもないはず。なら、調べつつ里の防衛に力を貸すのは当然だ。クリサンセマムの皆だって、「シルバーらしい」って許してくれるだろう。というか、力を貸さなかったらそれはそれで怒りそうな気がする。「本当は力を貸したかったくせに」とか言って。

 

「里長。百竜夜行のこと、里の皆に伝えて参りました」

 

 やはり、皆に知らせに行っていたらしいヒノエさんが戻ってきた。そして、とても晴れやかな笑顔で私のハンター就任を言祝いでくれる。ギルドの受付嬢だし、同時に知らせを受け取っていたのだろう。

 

「念願のハンター就任、おめでとうございます。ただし、ハンターとしてクエストを受けられるのは、ギルドへの登録が終わってからになります」

 

 クリサンセマムでも、乗組員の情報が変わったり人が増えたらデータベースに書き加えるために本人の情報が必要なことがあった。しかも、生体登録がしてあったりするからエイミーが一時的にミッションの発注を止めて作業していた。それと似たようなことをこちらでも行っているのだろう。でなければ、救援要請なんかがあっても対応できない。

 

「そのためには、集会所にいるギルドマネージャー・ゴコク様のところへ行かなければなりませんよ」

「分かりました。ありがとうございます。早速、ゴコクさんの所へ行ってきます」

「お待ちくださいな。ハンター就任を皆にお知らせして挨拶をなさるとよいかと」

 

 確かに、色々今まで沢山のフォローをしてもらったのだからお礼と挨拶くらいはするべきだろう。私はヒノエさんのアドバイスに従って、里の面々に挨拶をしに行くのだった。

 まず最初に声をかけたのは、雑貨屋のカゲロウさん。顔を紙で隠しているので素顔は知らないが、商品を買うとたまにおまけをくれたりといい人だ。傷薬や私は使わないけれど、ライトボウガンやヘビィボウガンの弾なんかも扱っている。

 

「カゲロウさん」

「おや、シルバー殿。聞きましたよ。ついにハンターになられたとか」

「そうなんです。それで、ご挨拶に」

「ありがとうございます。では今後とも、どうぞごひいきに。ハンター特別価格でご奉仕しますよ」

 

 次に声をかけたのは、私のダークトーメントを保管・手入れをしてくださっているハモンさんだ。世界を超える時に神機・ヴァリアントサイズ種ラモーレチェコは太刀種・ダークトーメントに変化した。変化後、適合者以外は捕食してしまうという神機では無くなったものの、その性質を色濃く残している。例えば、私以外が触れると恐怖や激痛に襲われるといったものだ。そんな厄介なシロモノを預かってくださっている。感謝しかない。

 

「こんにちは、ハモンさん」

「……シルバーか。見ての通り、ヒノエが伝えた百竜夜行への備えで忙しい」

「すみません。ただ、私、本日付けでハンターに就任することになりまして」

「……フム。ならば、シルバーよ。祝儀代わりに伝えておこう。アレは、まだ強化が出来る。本来の世界でも、強化途中だと言っていたな」

 

 元の世界では、ミナトを作るための資金を得つつラモーレチェコの強化を楽しみにミッションに出撃していた。戦場で散って逝ったゴッドイーターやAGEの神機の破片は、生体兵器である神機に捕食させるとその強度などを増す。何でも捕食させれば強度が増したりする訳ではないので、1種の運試しでもあるのだ。

 

「ダークトーメントから強化を重ねて作る武具がある。精進することだ」

 

 新たな強化先があるというダークトーメントの行く末を楽しみに、私は一礼をするとハモンさんの所から立ち去った。米穀店のお2人、おにぎり屋の子、魚屋。皆に挨拶をし、お祝いを告げられた。里には、里守という立ち位置の人はいてもハンターは居なかったんだとか。だから、不安だったのかもしれない。元の世界へ帰ることを決めているが、せめて優しくしてくれた里の人たちを守ってくれる後任が来るまでは。そんな事を考えながら歩いていると、ヨモギちゃんに声をかけられた。

 

「あ、シルバーさんだ!聞いたよ!ギルドに認められたんだよね!ハンター就任、おっめでとぉ!て、あれれ?なんだか怖い顔してるけど、どうしたの?」

「ヨモギちゃんか。私、そんな顔してた?」

「してたよ~。目なんかこぉーんな風に鋭くなっちゃってたし。なんか、悩み事?それとも、緊張してる?」

 

 知らず知らずのうちに、茶屋の前まで来ていたらしい。形は違えど、『厄災』と聞いて気が立っていたのか。心配をさせてしまったようだ。不安な時こそ笑え。思い描く明日をその手に掴むために。それが、ハウンドだ。私は気合いを入れ直すために、両頬を叩く。べチンという音の後にじんわりとした痛み。

 

「ありがとう、ヨモギちゃん。……うん、もう大丈夫」

「ふふふ、いつも元気な茶屋の看板娘、ヨモギだからね!そろそろ、ゴコク様の所に行くんでしょう?狩猟前の腹ごしらえになるうさ団子、用意して待ってるね!」

「行ってきます」

「いってらっしゃーい!」

 

 ヨモギちゃんの元気な声に見送られて、茶屋から集会所へ。入ってすぐのところにゴコクさんはいる。いつも、テツカブラというモンスターの幼体の上に座ってちょっかいをかけたり、クエストの依頼書の絵を描いている。きっと大丈夫だろうけれど、無事に登録できるだろうか。

 

「ゴコクさん、こんにちは」

「お〜う、シルバー。来たでゲコか」

「はい。フゲンさんからギルドに認められたと聞きましたので、登録に」

「登録なら、終わっとるでゲコ」

「ゑ?」

 

 思わず、変な声が出る。なんかこう、色々と書いたりなんだり色々としないといけないと思っていたからだ。それが、もう終わっている。どういうことだろう。余程、変な顔をしていたのだろう、ゴコクさんが笑っていた。

 

「ウツシとの修行をたまに見ていたゲコ。お主の動きは戦い慣れていて、ひと月ほどでも分かるくらい人もいい。問題ないと判断してギルドから文が届いたときに、そのまま登録しておいたでゲコ」

「ありがとうございます」

「これで、元の世界へ戻る手がかりが見つかると良いでゲコね」

 

 イルダといい、アインさんといい、カムラの里の人々といい。どうしてこうもいい人たちばかりなんだろうか。私は、フゲンさんに言ったのと同じように里を守る手伝いを申し出る。

 

「ありがたいゲコ。でも、無理はしないようにの」

「はい。『私達は死なない。絶対に』がハウンドの約束でもあるので。死なない程度に頑張ります」

「頼もしいでゲコ。クエストを受ける時は、ヒノエかミノトに声をかけるでゲコ」

「わかりました」

 

 こうして、私はAGEからハンターへとなったのだった。ひとまずは、元の世界への情報を集めつつ、百竜夜行の撃退を目指そう。

 

「さてさて、まだ見ぬモンスターたちのご機嫌は如何かねぇ」




 書いていくごとにちょっとずつ文章量が増えているような気がします。大丈夫かな……。読みにくくなければいいのですが。
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