大人が嫌いな少年兵   作:グレゴリオ

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嫌悪~おとなたち

 『大人』は嫌いだ。

 

 アイツらはどうしようもなく身勝手な存在だ。苦しそうな顔を浮かべて、さも自分達だって心を痛めているんだって表情を向けて、本当はこんなことしたくないんだって声色で言葉を発する。それでも結果はいつも同じ、俺達のような『子供』を戦場に送り込む。戦いの先兵として、自分達の安寧と平和を守る防人として、子供達は『敵』と戦わせられた。

 俺はそれを気に入らない、気に食わない、認めない、信じない。結局のところ、俺達は敵と戦わせるためだけに『この島』で生きていたのだ。平和な生活と日常は全て大人達が作った幻想で、その幻想を1日、1時間、1分、1秒でも長く保たせるために、俺達は『敵』と戦わせられる。俺はそれを『あの計画』が実行されたことと、その結末を以て、その現実を思い知らされた。

 

 だからせめて、俺以外の子供達はそれを知らないでいてほしい。嫌いな大人達が作ったこの仮初の、それでもこの平和な島での生活を、『俺の同期達』が残してくれた平和を、このまま何事も無く過ごしてほしい。それが俺がこの島にいる理由なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の名前は『常守(つねもり) 恭介(きょうすけ)』、

 2130年5月2日生まれ、

 牡牛座、

 血液型はA、

 身長は170㎝弱、

 好きな物は乳製品、特にチーズが好み、

 

 

 

 

 

 此処『竜宮島』の最終兵器『ファフナー』のパイロットの1人。

 かつて『L計画』と呼ばれた計画に参加し損ねた(・・・・)、中途半端なパイロットである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『慶樹島』

 

 竜宮島の本島からそれなりに離れた場所にあるこの島にはとある秘密が存在する。島の子供達の殆ど(・・)は知らされていない、逆に島の大人達は全員が知っている秘密。

 

「ニーベルング接続。シナジェティック・コード形成、入力確認。対数スパイラル形成」

 

 俺の静かな声と共にシステムが立ち上がっていく。ここまではいつも順調、この『新型』の機体を起動させるだけであれば何の障害も無い。問題はこの後だ(・・・・・・・)

 

「ジークフリード・システムとの接続を省略。対『フェストゥム』機構起…っ」

 

 この機体との接続を第2段階へと上げた瞬間、一気に身体に不調が起こる。俺が別の俺へと変化する精神的な変調――『変性意識』は問題ない。だが俺がこの機体となり、機体が俺となる身体的な変調――『機体との一体化』の感覚に文字通り身体が追い付かない。

 

 ―――身体が巨大になっていく。金属の装甲が俺の皮膚となり、ケージ内の空調が効いた空気の肌触りに悪寒を感じる。大きくなった身体を重く感じ、その巨躯を支えんと全身に力を入れる為、自ずと呼吸が荒くなって息苦しさを感じる。

 

「お…俺は、おま、お前だ……お、まえ…は…お」

『『マーク・アイン』、起動中止。コクピットブロックを強制排出』

 

 通信越しの言葉と同時に身体の感覚が一瞬にして巨体から切り離され、同時に俺の身体へ復帰する。視界が暗くなり、俺が乗っているコクピットが排出され、搭乗エレベータへ搬出される振動を感じる。ということはつまり、今回も駄目だった(・・・・・・・・)ことを意味していた。

 

「……これで10回目の失敗か」

 

 薄暗いコクピットの中で俺は呟く。程なくしてハッチが解放され、ここ慶樹島の統括責任者の1人――『ファフナー』開発の責任者である『羽佐間 容子』がいかにも不安気な顔で俺のことを見つめていた。毎回起動試験に失敗する度にこんな顔をするのだ、正直勘弁してほしい。

 

「すぐにメディカルルームに。動けないなら」

「結構です。1人で歩けますので」

 

 差し出される手を振り払って、俺はコクピットブロックから身体を出す。気遣いはいらない、それも大人からの気遣いともあれば猶更だ。寧ろ俺みたいな『中途半端なパイロット』に気を使わないでほしい。

 

 俺はすぐ眼前の機体、つい先ほどまで俺が乗り込んでいた機体――『ファフナー:マーク・アイン』を見上げる。シルバーグレーのこの機体を今回を含めて10回起動させようとしたが、結局1度としてまともに起動させることが出来なかった。僚と裕未の2人、そしてその仲間達が稼いだ半年という時間によって漸く完成したこの機体を俺はまともに乗ることすら出来ないという事実が叩きつけられた。

 

「恭介君、やっぱり貴方にファフナーは」

「…ええ、どうやらその通りです」

 

 同時に今回の件で俺も漸く諦めがついた。俺にこのマーク・アイン――正確には『ノートゥング・モデル』のファフナーに乗ることは出来ないということを。『前世代の機体』よりも精錬され、よりファフナーと一体化することが可能になったこの機体に、俺の身体はどうにも追い付かないようだ。

 

 やはり、俺が乗れるファフナーは『前世代の機体』ということなのだろう。

 

「羽佐間主任。例の機体(・・・・)の再整備を実戦配備の準備を」

「そんな!その話は皆城司令が却下を」

 

 メディカルルームへ行く前、以前からの話を再び容子さんへ話す。が、容子さんもあの糞司令こと『皆城 公蔵』の立場側らしく、俺の要望に今回も応じてくれる様子ではないようだ。

 

「あの男の指示は関係ありません。貴女もその側だというのならもう良いです、俺が直接整備をしますので」

 

 そう告げてハンガーを後にする。容子主任が後ろでまだ何かを話しているが知ったことか。ノートゥング・モデルに乗れないのであれば、俺は『俺が乗れる機体』で俺は戦うだけだ。あの計画で散っていった同胞達が残したこの平和を、同期達が守りたかった後輩の子供達を守る為に俺は戦う。中途半端だとしても、それでも俺はファフナーのパイロットであり続ける。

 

 ――それが俺がこの島に今も居続ける、ただ唯一の理由なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「精密検査に問題は無し。染色体の変化も…まあ、いつも通り規定値の範囲内、それもごく小規模で収まっているわ」

「そうですか。では俺はこれで失礼します」

「ちょっと待って!」

 

 メディカルルームでの検査後、担当医で此処の医療班の責任者である『遠海 千鶴』先生に呼び止められる。別に前回までは止められても良いのだが今回は違う。整備班が俺の要望を拒ん為、一刻も早く俺の機体の整備と調整に行きたかったのだが。

 

「今回で10回もファフナーに…いえ、それ以前の起動(・・・・・・・)も含めれば貴方はもうかなりファフナーに乗っているわ。これ以上のファフナーへの搭乗は危険よ」

「…それは総司令の判断ですか?」

 

 ああ、とうとうこの人までもがそう言い始めた。ちょっとした失望の感情を浮かべつつ、俺は呼び止めたくせに顔を伏せた遠海先生を見る。

 

「いいえ、私個人としての判断です。これ以上ファフナーに乗れば貴方はやがて」

「いやだなぁ先生?何を今更言ってるんですか?(・・・・・・・・・・・・・)

「っ!?」

 

 ファフナー乗る。それが何を意味するのかは既に知っているし、その『なれの果てと結末』がどういうものなのかも俺は知っている。けれども、俺が言った通り今更なのだ。

 

「ファフナーに乗る以上避けられない。けどファフナーが無ければこの島は守れない」

「そ、それは…」

「だからこうして俺達がファフナーに乗って戦う。俺達子供はその為にこの島にいる」

「……」

「ファフナーで戦う為に此処にいる……なれの果てと結末が訪れるまで」

「違う!私はそれを抑える為に!貴方達を守る為に研究を!」

「その研究も精々が時間稼ぎが限度……僚達みたいに、でしょ?」

 

 俺がそう言うと遠海先生は言葉を失う。本当に今更だ、何をそんなショックを受けたような態度をしているんだこの人は。それを知っていて、分かった上で、俺達子供をファフナーに乗せ、僚や裕未達を送り出したくせに。

 

「大丈夫です。俺はその時が来るまで、この島と島の子供達を守りますから」

「違う…違うのよ恭介君、私達はそんなつもりで」

「先生の努力は理解はしてますから。それじゃあ、俺はこれで失礼しますね」

 

 とうとう顔すら上げられなくなった遠海先生を半ば放置してメディカルルームを去ろうとする。扉を出ようとした時、最後と言わんばかりに遠海先生が俺に問いかけてきた。

 

「貴方はノートゥング・モデルに乗れないと結論付けられたわ。より完成されたファフナーと一体化のシステムに身体が追い付いていない、そう報告があったらしいわね」

「それが何か?」

「…そんな貴方が、一体どうやってこの島を守るっていうの?」

「そりゃあ勿論、俺が乗れるファフナーで」

「だったら猶更駄目よ!あの機体は!」

「話はそれだけですか?それじゃあ今度こそ失礼しますね」

 

 この人もまだ後ろで声を上げているがそれを無視してメディカルルームを後にする。今日だけで2回も大人に呼び止められるとは、今日は本当に最悪だ。

 

 

 

 

 

「えっ!常森先輩!?」

「ん?」

 

 メディカルルームを出た直後、1人の少女――じゃなく、1人の後輩とすれ違いざまに声を掛けられた。私服ではなく竜宮島の本来の姿『Alvis(アルヴィス)』の制服を身に纏った眼鏡を掛けた後輩の少女、『蔵前 果林』が俺が出てきたことに驚いた様子だった。

 

「なんで先輩がメディカルルームに?」

「それはこっちの台詞だ。蔵前こそ今日は特に用事は無い筈だったと思ったが?」

 

 蔵前は俺と同じこの島の正規ファフナーパイロットの1人、現在完成しているノートゥング・モデルの2番機『ファフナー:マークツヴァイ』のパイロットだ。既に接続試験も成功させ、俺とは違い対フェストゥム機構を含めた全システムの起動も問題なく成功させたパイロットだ。喜ばしいことなのだろうが、その事実を俺は喜ぶことが出来ない。当たり前だ、起動させただけでも身体が『それ』に蝕まれていくような機体を動かせ、そのパイロットであることを一体誰が好き好んで喜ぶものか。

 

「私は遠見先生に用事があって。その…視力がまた、少し落ちたみたいで」

「っ…それは」

 

 掛けている眼鏡を外し、『赤くなった瞳』を俺に見せながら蔵前は笑みを浮かべる。これ(・・)だ。これがファフナーに乗る者達の宿命にして、やがて訪れる末路への初期症状。

 

 

 

 『同化現象』

 

 

 

 俺達が戦うフェストゥムが行ってくるだけではなく、ファフナーに乗れば乗るほど、自身の染色体が変化していき、やがては『なれの果てと結末』へと至るその現象。目が赤く染まり、視力が低下するのはその初期症状だ。気丈にも笑みを浮かべている蔵前だが、その心情は恐怖と不安で一杯なのだろう。眼鏡を持つ手が微かに震えている。

 

「先輩は凄いですよね!もう何十回もファフナーを起動させてるのに不調の1つも起こさないなんて!」

「……正確には機体を立ち上げるだけ、戦うレベルの起動は1回も成功してないよ」

 

 蔵前が褒めてくれるそれは俺がファフナーパイロットである要因の1つ、というより唯一の理由である。彼女が言う通り俺はかれこれ10回を超える起動試験、それも実機を使用したテストを行っている。しかし染色体の変化が彼女のそれよりも遥かに遅く、極々小規模の変化で抑えられている。遠海先生の話では「類を見ないほど同化に対しての耐性がある」とのことらしい。これを誇っていいものか、それとも悲しむべきなのか。

 

「それでも凄いですよ…私なんか、3回の起動試験だけで、こうなっちゃったんですから」

 

 そう言って蔵前は眼鏡を掛け直す。普段の日常生活で同年代の子たちにこの変化がバレない様、偽装処理が施されたそれを掛けることによって、彼女の瞳が本来の色に戻る。

 

「先輩はこの後は何処へ?」

「埃まみれの第8ハンガー。今日のテストで俺はノートゥング・モデルに乗れないって踏ん切りが付いたからね。機体の確認と整備に行かないと」

「えっ…ええっ!!ちょ、ちょっと!待ってください!?」

 

 去ろうとする俺を蔵前が呼び止める。今日は本当に呼び止められる、勘弁してほしい。これから実質1人で作業なんだから大真面目に時間が惜しいのだが。

 

「本気ですか先輩!?本気であの機体で戦うつもりなんですか!?」

「ああそうだよ。乗れないって分かった以上、俺が使える機体で俺は戦うだけだ」

「けど!あの機体はノートゥング・モデルの比じゃないくらいに負荷が!」

 

 そんなことは知っている。なにせ今のノートゥング・モデルが作られる理由になるくらいにあの機体はパイロットへの負荷が高い。もし仮に今の蔵前が乗ろうものなら一瞬にして同化現象にその身が蝕まれ、あっという間に『末期症状』へと陥るだろう。けど、それでも俺はそれを選ぶ。

 

「僚達はあの機体で戦った」

「っ!」

「あんな馬鹿みたいな機体を押し付けられて、そのパイロットにされて、たった40人の孤立無援の状態に放り出されて、それで戦ったんだ。この島と俺達を守る為の犠牲になったんだ」

 

 どれだけ言い繕うが結果は変わらない。僚達は、あの計画――『L計画』に参加した者達はこの島の平和を守る為の犠牲、俺からすれば大人達がこの仮初の平和を維持する為だけに捨てられた生贄とされたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本来なら、僚達と共に俺も行くはずだった。けど俺は行かなかった――いや、行けなかった(・・・・・・)

 

 『計画参加への適性に問題あり』

 

 僚と裕未の2人と一緒にファフナーのパイロットへ志願したが、パイロット適性に問題、具体的にはシナジェティック・コードの形成数値が基準値に満たずに脱落、早々にパイロット候補生から早々に除外された。

 ならば別の分野でとメカニック、医療班、オペレーター等、他種の任務に志願したが何故か(・・・)全てにおいて何かしらの不適正があり脱落。

 

 『駄目だ、貴様をこの計画に参加させるわけにはいかない』

 

 最後の手段として、あの糞司令である皆城 公蔵にも直訴したが結果は変わらず、俺はL計画に参加することが出来ず、中途半端にファフナーに関わったこともあって、俺は『中途半端なパイロット』となってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 L計画の顛末、そして俺が計画に参加させられなかった理由(・・・・・・・・・・・・・・・・・)を知った時には、

既にもう何もかもが手遅れで、俺はいなくなった同期の皆に懺悔した。

 そしてそれが切っ掛けで、俺は大人が嫌い(・・・・・)になったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此処にいましたか、常森先輩」

 

 背後から声が掛かる。今日は本当に声を掛けられて手や行動が止められる日だなと思いながら振り返る。そこにいたのは蔵前と同じく後輩の1人、アルヴィスの制服を着こなした『皆城 総士』が何処か思いつめた表情で立っていた。

 

「どうした?俺は見ての通り忙しいんだけど」

「その件で此処に来ました。羽佐間主任が止めてくれと言っていたので」

 

 あの女、自分が止められないと分かれば後輩を使うのか。これだから大人は嫌いだ。後輩で且つ現場指揮官担当予定――『ジークフリード・システム』担当予定者の総士なら俺を止めてくれるとでも思ったのだろう、狡い奴と嫌悪感を抱く。

 

「てことはお前も反対か総士?」

「いえ、寧ろ僕は先輩の提案に賛成です」

「ほう?」

 

 ちょっと意外だった。総士は後輩ながら俺どころかCDCの大人達よりも頭が良い面もある。とはいえ彼はどちらかと言えば総司令、自らの父である皆城 公蔵の指示に従順で大人達側の立場である印象を抱いていたので、てっきり俺を止める側かと思っていただけに彼の賛同の言葉に思わず驚いた。

 

「現在の島の防衛戦力はマークツヴァイ1機と蔵前 果林の正規パイロット1名のみ。しかし彼女の身体は既に同化現象の初期症状が現れ、仮に敵が襲来した場合、恐らく彼女1人では2あるいは3回の戦闘で身体が限界を迎えることが予想されます」

「だが、正規パイロット2人目の俺はノートゥング・モデルに乗ることが出来ない」

「ええ。もし彼女が戦闘不能に陥った場合、次点の最有力候補生…『真壁 一騎』が現在完成中の『ファフナー:マーク・エルフ』のパイロットへ繰り上げると総司令は予定しています」

「メモリージングの覚醒も無い状態の素人をファフナーに乗せる?馬鹿かよあの糞司令」

 

 総士の言葉を聞いて溜息を零しながら思わず頭を抱える。俺という2人目の正規ファフナーパイロットが居ながら仮に蔵前が脱落した場合は後輩からいきなり徴用して実戦に送り出すと言うのだ。確かに俺はノートゥング・モデルに乗れない出来損ないの中途半端なパイロットだが、それでも目の前にある『この機体』があれば俺でも戦えるというのに。

 

「…僕も指令の意見には概ね賛同しています。一騎は天才症候群によって発現した自らの高い身体能力を十全に理解し、恐らくは何の事前知識の無い状態でもファフナーに乗れると判断します」

「おい総士、お前も」

「ですが!」

 

 と言って総士は一呼吸置いてから俺を見据え直す。同時に俺の後ろにある機体にも目を向けている。ノートゥング・モデルよりも巨体で、通常の整備ハンガーには置かれていない、ワインレッドのこの機体を見据えて。

 

「ですが、その場合になったとしてもパイロットが1人の状態から変わることがありません。パイロット1人では負担も大きく、島の防衛戦力が不足となることが否めない以上、先輩にもファフナーに乗って前線に出て頂く必要があります。たとえそれがこのような手段であっても」

 

 拳を強く握りしめ、苦虫を嚙み潰したように総士は俺に告げる。そんな表情をするなよ後輩、まるで俺が悪人みたいじゃないか。確かに現行の機体を動かせないという意味では島の悪人と言われてもしょうがないのだが。

 

「総司令はそれを却下した、と聞いたけど?」

「僕の方で改めて話を付けておきます。先輩はそれまでにこの機体の整備とシミュレーション及び実地での戦闘訓練の再開をお願いします。必要な人員や設備は僕の方で手配します」

「…分かった。助かるよ、総士」

「必要だと僕が判断しただけです。話は以上です、僕はこれで失礼します」

 

 総士は背を向けて去っていく。俺はそれを見送って再び作業に戻る。

 

「先輩が戦うのは、『贖罪』の為ですか?」

「…今日は本当に呼び止められるのが多い日だね」

 

 ハンガーデッキから去る直前に総士が背を向けたまま訪ねてくる。流石に振り返るのも面倒なので作業を続けながら俺は答える。総士が言う『贖罪』とは俺がL計画に参加することが出来ず、結果として俺だけが同期の中で生き残ってしまったこと、についてなのだろう。

 

「贖罪か…そうだね。それもないことはないけど、どっちかと言えばお前達の為だよ、総士」

「僕達?」

「そう。お前達みたいな島で暮らす後輩と、そんな後輩達が過ごしているこの平和な日常を守る為。それが俺が戦う理由さ」

 

 半分は嘘である。これは願いではなく、僚や裕未達の為が本心だ。あの計画でいなくなった者達が、あんな計画を遂行してまでも守ろうとした島を守る為。けれどもあんな計画の実行を許可した大人達を認めることが出来ず、それでも島を守る為と苦し紛れに付けたような理由。

 けれども半分は本当。もし敵と戦うのなら俺1人が全てと戦うつもりでいる。もうこれ以上、島の子供達を駆り立ててまで戦わせないようにするために戦う。戦えば誰かが居なくなる、そんなことに後輩達を巻き込む訳にはいかない。その為に俺はこの機体を使ってまでも戦うのだ。

 

「話は終わりか?ならとっとと帰った帰った!俺は見ての通り忙しいんだから!」

「…失礼します」

 

 今度こそ総士はハンガーを後にした。あの様子だと色々と抱え込む――いや、この間の僚が乗っていた機体のレコーダーを聞いてから総士は何かを抱え込むつもりの様子だった。恐らくジークフリート・システムの搭乗を志願したのも、僚達の影響があるのだろう。

 

「…俺も背負うからな。大人の都合で子供がその重荷を背負うだなんて、あってたまるか」

 

 覚悟を決めながらコンソールを操作し、眼前の機体の状態を確認する。各部装甲に問題無し、各関節部は損耗しているパーツもある為交換が必要、機体内のシステム、ニーベルング及び対数スパイラル形成接続機構に問題無し、ジークフリート・システムの起動も可能。

 

 40mを超える巨体、初めはのうちはどちらかというと恐怖、忌避の対象であった機体を見上げる。コイツが今の俺が唯一動かすことが出来るファフナー。本来であれば僚や裕未達が持って行っていくはずだった『5機目のTSXナンバー』を持つ機体。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ファフナー:ティターン・モデル』、機体ナンバー『TSX-005』」

 

 自らの命を同化という形で蝕み、それでも無ければ敵であるフェストゥムと戦えない存在である機体、『ファフナー』という存在を見上げて、俺は静かにその機体コード名を呟いた。

 

「俺も戦うよ僚、裕未。お前達と同じ機体で、お前達が守ったこの島と子供達を守る為に」

 




常森 恭介

 将陵 僚と生駒 祐未の2人の同級生で当時の生徒会の会計役。原作主人公の1学年上のクラスの生徒で、父親の病死、そして母の事故死が切っ掛けにメモリージングが覚醒し、僚と同じく島の真実を知りながら学園生活を送っていた。僚と裕未の2人が『L計画』に参加を志願したことで同じく計画へ志願したものの、『何故か』あらゆる理由を付けられて計画に参加することが出来ずに島に残される。最初は僚や裕未と同じくファフナーパイロットに志願していた為、結果的ではあるがL計画に関わったファフナーパイロットの中で唯一生き残った存在となってしまうこととなった。
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