強欲者の目指すヒーロー? 作:強欲同盟下っ端
「……クソ、オールマイトめ…何年も私を避けるようにパトロールしやがって!」
先割れスプーンを担いでいる山羊の少女は、公園に転がっていた空き缶を蹴りながらそう愚痴る。
この少女の持つチカラは『吸収』……物体は勿論、概念などの実体のないものまで吸収して己のチカラに変えられる、とても恐ろしく、最強のチカラだ。
およそ12年前、無垢な状態で飢えていた山羊の少女は七代目ワンフォーオール継承者、志村 奈々の死体を食べ、能力で志村 奈々の全てを吸収。その影響か性格などが彼女のもので固まった。
彼女は滅多に使わないが、『浮遊』の個性も山羊の少女は吸収しているので、自由自在に浮けるようになっている。この街に来た方法も、夜に浮遊で移動したのだ。
ただ、能力が必要ないとでも判断したのか、それとも吸収したのが残滓だからなのか、ワンフォーオールだけは継承されずに、ただの馬鹿力として彼女の身体に吸収された。
山羊の少女が大通りに出ると、個性で作り出したのか、刃物を持って女性を人質にとっているヴィランの男がいた。
「あーヤダヤダ……ま、これから食べる飯が不味くなるのは嫌だしさっさと片付け……ん?」
山羊の少女が先割れスプーンを構えて男を叩きのめそうとするが、空から誰かが飛んでくるのを視認して身構える。
「わーたーしーがー……!?」
「空から落ちてきたァ!」
「ぷげ!」
本当に空から落ちてきた男のヒップドロップでヴィランは潰れたカエルのような声を出して気絶した。
「……みーつけた。……なんでか分からないが…オールマイトとは何処かで親しい仲だった気がしてたけど、実際に見て確信したよ……やっぱり何処かで会ってる。…ていうか、それを確かめるのに何年かかったんだか……ま、長年気になってた事も解消できたし……何よりも腹減ったし飯食いに行くか……」
オールマイトがインタビューされている中、山羊の少女は、最近行きつけのラーメン屋へと向かった。
お金に関してだが、最近はヴィラン逮捕の協力により、警察の人から貰ったお金で食べているのだ。個性を使っている訳では無いので特に咎められることも無い。
「HAHAHA!……おっと、失礼! 私はこれからご飯食べに行ってくるよ!」
お腹の音が鳴ったオールマイトは照れながらインタビューを切り上げさせて跳び上がり、行きつけのラーメン屋へと向かった。
……そう、行きつけのラーメン屋である。
◇◇ラーメン屋◇◇
「わーたーしーがー……! 行きつけのラーメン屋に来たっ!」
戸に掴まって身を乗り出しながら入ってきたオールマイトの方に視線が集まる。オールマイトが1番近いカウンター席に座ろうとすると……
「ん?」
「あ」
醤油ラーメンを啜っていた、件の山羊の少女と目が合った。だが、山羊の少女はすぐに目線をラーメンに戻してラーメンを啜る。今までに無い反応でオールマイトも困惑する。
「あ、あのー?」
「……にゃに」
食事の邪魔をされたのが気に食わないのか、山羊の少女は不機嫌そうにラーメンを啜りながらオールマイトの方を向く。
「それ食べたらおじさんと話をしないかい?」
ラーメンを啜りきってスープも飲み干した山羊の少女は、顎に手を当てて熟考する。
「……やることもないし、食べた後ならいいよ。おっちゃん、替え玉ふたつと餃子一皿ね」
「あいよ!」
店主の威勢の良い掛け声と共に、予め作られていた2つの替え玉が山羊の少女の食べていた醤油ラーメンの器によそられ、オマケのスープも注がれる。餃子はもう少し時間がかかるようだ。
「オールマイト! いつものでいいんだね?」
「……いや、今日はこの少女と同じ醤油ラーメンにしようかな!」
「おっ、珍しいねぇ! いつもは味噌ラーメンばっかり頼むってのに!」
「HAHAHA! 実物をこうも近くで見てしまったら食べたくなってしまうのもしかたないさ!」
「……で、話ってなんなのさ。言っとくけど、くだらない理由なら帰るぞ。あと、ちゃんと笑ってろ。真顔になってんぞ? これから美味いもん食うんだから笑顔でいないと失礼だ」
「? まぁそうだね! ニパー!」
オールマイトが山羊の少女の指摘? により笑顔を作る。少ししたらオールマイトの頼んだ醤油ラーメンが出来上がり、山羊の少女の頼んだ餃子と共に出される。
「あいよ、餃子一皿に、醤油ラーメン一丁!」
「……いやねぇ、君からどことなく私の師匠と同じ雰囲気を感じるんだよね。……それについて知りたいんだ」
「……奇遇だな。私からはアンタが弟子に見える。……なんでなのかは分からないけどね。……私の過去でも話そうかな。もしかしたらヒントがあるかもしんないし」
山羊の少女は少しづつ話した。気がついたら無茶苦茶な荒れ地に倒れており、それまでの記憶が一切ない事、オールマイトの事が無性に気になっていた事、それで探していた事……そして、飢えを満たす為に1人の女性の死体を食べた事。
「その人は黒髪で……黄色いマントをつけていた。……あぁ、死体だったのに、すごい安らかな笑顔だったのはすごく印象に残っていたよ。……まだ話は続きがある」
オールマイトがありえないとでも言うような顔をしている中、少女は女性を食べた後の現象を話した。浮遊できるようになった事、馬鹿力を使えるようになった事……なんとなく、その女性が着ていた黄色いマントを持ち続けている事。
「……そのマント、後で見せてくれないかい?」
「……おっちゃん、勘定」
山羊の少女はお札を取り出して支払いをして、オールマイトも続くように支払いをする。
「あいよ……よし、ピッタリだ。また食いに来いよー!」
「……じゃあ、私もそろそろお暇しようかな! はい、ご勘定よろしく!」
ラーメン屋を出た後、人目のつかない路地裏でオールマイトと山羊の少女は話しており、ワンピースに着いているポケットから1枚の黄色い布を取り出した。
「……ほれ、これがそのマントだよ」
「…これは……! 忘れる訳が無い……師匠のマントだ!」
オールマイトはマントを手に取るといきなり崩れ落ち、泣き始める。
「……あいつ、アンタの師匠だったのか? ……死体、食っちまってすまねぇな。……詫びになるかは分からねぇけど、マントはアンタにやる。私には必要ないモンだからな」
「……死んだ師匠を食べたのも、君が生きるためにした事なのだろう? なら師匠も許してくれる」
オールマイトがそう言って許してくれている中、山羊の少女はがま口財布を開いて残っている残高を確認しており、しばらくするとうげ、と言って顔をしかめる。
「……そうか。……うげ、金無くなっちまった……またヴィランしばいて稼がないとな……」
「……もし、君が良ければウチの事務所に来ないかい? 私のポケットマネーから君の食費などを出そう」
オールマイトの提案に少し考えながらうーんと唸る山羊の少女。彼女の出した答えは……
「……よし、その話乗った。言っておくが、飯はタップリいただくぞ?」
そう言って山羊の少女は先割れスプーンを肩に乗せながら、証拠は取ったぞと言わんばかりにニヤニヤとした顔をオールマイトに向ける。
「……あ、そういえば君の名前を聞いていなかったね! なんて名前なんだい?」
「……そういや私に名前、無かったな。……よし、尤魔。今日から私の名前は尤魔だ!」
「尤魔……いい名前だね!」
オールマイトはサムズアップしながら肯定的に答える。この日を境に、山羊の少女は八木 俊典の養子、八木 尤魔となったのだ。
……そして、この運命的とも言える出会いから9年後、八木 尤魔は雄英高校試験会場の前に立っていた。
「さーて、私の事をそこそこ待っているオジサンの恥にならないように……軽く捻ってやりますか!」