強欲者の目指すヒーロー? 作:強欲同盟下っ端
モニタールームにて、雄英教師陣と、1人の少女が受験生の動きを見ていた。
少女の正体は勿論八木 尤魔である。彼女は今年できたばかりのとある制度により、望み通り留年したのだ。
ちなみに、ここにいる理由は根津校長の招待。隠しポイントであるレスキューポイントの加点は許されていないが、多角的な視点がある方が望ましいのと、尤魔自身の他人を見る経験を得る……というは建前であり、実際はワンフォーオール継承者である緑谷の動きを確認する為に見ているのである。
尤魔自身はそこまで乗り気ではなかったが、入学した後に緑谷だけを見ていても不自然になるので周囲の確認もしなければならないことに気がつき、素直に招待を受け入れたのだ。
とは言っても、他の受験生の動きを見るのも必要だ。特に極端な動き方の受験生は要チェック。今回に例えると、爆発頭の金髪少年は要注意だ。仮想敵を倒す動き”は”素晴らしい。そのセンスに限って言えば尤魔でも敵わないかもしれない。
だが、それ以外の動きが粗暴すぎる。救助者を無視するだけでは留まらず、暴言を吐く始末。無駄に攻撃を他の受験生に当てないようにしているのもみみっちい。
尤魔がA組に入るのは確定しており、件の彼は間違いなく問題児扱いされて相澤先生の担任が確定する。
つまり、衝突は免れない。
(さて、緑谷はどうしてるか……)
尤魔が緑谷の映っているモニターを見てみると、そこには要所要所でワンフォーオールを使って人助けをしている緑谷の姿があった。
「彼、レスキュー中心に動いていますね……」
「目の前の仮想敵よりも、仮想敵に囲まれたりしている他の受験生を助ける事に重きを置いています。もしや、レスキューポイントの存在に気がついた?」
教師達が徐々に緑谷に注目を寄せる。
実際は唯のビビりなお人好しなのだが、ヒーローはそういった素質も大事だ。次々と受験生を助けていく緑谷に教師達は好感を持つ。
何故緑谷がこんな異質な行動をしているのかと言うと、まだワンフォーオールの運用にまだ不安があるのと、集中力の維持を考慮している為だ。
緑谷は尤魔との戦いの後、意識的にでは使いこなせているとは言えないと判断。瞬間的に使う事でワンフォーオールを通常より高い精度で扱える事にも気がついた。
だが、瞬間的とはいえ個性発動中だとまだ深く集中する必要があるので持久力に乏しいし、体力の消耗も抑えたい。何より、ケガはかなりの足枷になる。
なので、基本はケガをしにくい救助を優先的に行い、その移動中に安全に狩りやすい仮想敵のみを狙う事で、今の状態でも安定して動けているのだ。
(ま、考えてああ動いているならそれでいいか。今の状態でどれだけ動けるかを理解している証拠だしな……)
「彼、この調子だと受かりますね」
「……ただ、個性を使い慣れていない? まるで個性を使い慣れ始めたばかりの子供のようだ」
「躊躇いもありますね。自己肯定感が低いのでしょうか」
「あの金髪の子とは対照的と言えるでしょうね」
最早モニタールームの注目は金髪の少年と緑谷の2人に集められ、オールマイトも始まる前は内心ヒヤヒヤしていたが、緑谷の動きを見て今は落ち着いている。
試験もいよいよ終盤に差し掛かった時、根津校長がようやく口を開き始める。
「この入試はヴィランの総数も配置も伝えてない……」
「限られた時間と広大な敷地…そこからあぶりだされるのさ」
「状況を早く把握する、情報力」
「遅れて登場じゃ話にならない、機動力」
「どんな状況でも冷静でいられる、判断力」
「そして純然たる戦闘力…」
「市井の平和を守る為の基礎能力がP数という形でね」
「今年はなかなか豊作じゃない?」
「いやー、まだわからんよ?」
「真価が問われるのは……」
「これからさ!!」
過激なコスチュームのミッドナイト先生の言葉をやや否定気味に返しながら根津校長は一際目立っているボタンを押す。
すると、各会場に一体ずつ巨大な仮想敵、0Ptがスライドして開かれた地面から出てきて、キャタピラを動かしてスロープを上る。
「この子を見てどう対応するかで不合格者の動きをしていた子の命運が別れるのよね。今までは最後の最後で0Pt相手に立ち向かってギリギリ受かった……なんて子もいたわね」
「去年は八木が0Ptを倒したが、今年はどんな奴が0Ptを倒すのか興味があるな!」
教師達はなんだかんだ言って受験生が0Ptを倒すのを楽しみにしているのだ。
尤魔も緑谷がどう動くかをしっかりと注視していた。
緑谷がとった選択は避難誘導。実に堅実で適していた。
「あっ、あの子、0Ptに轢かれるな……リカバリーガール、試験会場Bに……おや?」
丸っこい顔の少女が0Ptのキャタピラに呑まれようとしたのを見たのだろう。
緑谷が突然足だけにワンフォーオールを明らかに100%で使い、一気に0Ptの顔面の所まで飛び立つ。
そして、今度は右腕にワンフォーオールを発動し、一撃で0Ptの顔面をひしゃげさせて、0Ptを沈黙させる。
オールマイトをはじめとした何人かの教師が歓声を上げるが、尤魔はとんでもない事に気がついた。
「八木のオッサン、あいつ、落ちるぞ」
「何言ってるんだい尤魔。彼が落ちるなんて有り得な「そうじゃなくて、物理的に落ちる! 高さ的に全身粉砕骨折のレベルだ!」……ああああああああぁぁぁ!!!」
幾らヒーローが鍛えていて強くても、目の前のモニターに映されている少年はまだまだヒヨっ子。たかだか1年鍛えた程度だと、ビルの屋上位の高さから落ちればタダで済むわけがなかった。
歓声を上げていた教師達が少し慌て、尤魔も冷や汗が頬を流れる。
リカバリーガールは既に現場に向かっている。
が、それは杞憂に終わった。0Ptの残骸に乗っていた少女が緑谷にビンタして恐らく個性を発動。落下速度を遅くした。
教師達がホッと息を吐いて、雄英高校の実技試験が無事に、そしていつも通りに終了した。