懐かしさを覚える声に呼ばれて、
(……誰だ……私を呼ぶのは)
応えはない。
だが、ソレは確かに呼ばれたのだ。
救いを求める者の声によって。
(……なんだ、これは……?)
目の前には、廃墟と化した街が広がっていた。
あらゆる建築物は倒壊し、アスファルトは砕け、そこかしこで火の手が上がっている。
その有様はまさに、世界の終わりとしか呼べない光景だった。
目を疑った。
いや、今のソレには
両の瞳だけにとどまらず、ありとあらゆる身体的器官を、今のソレは持ちえなかった。
その体は物質世界より高次の、アストラルとでも呼ぶべき物によって構成されているからだ。
ソレは上空を漂いながら、両目を凝らすようにして地上を観察する。
ここは四国、讃州市と呼ばれていた場所。
ソレがまだこの土地に在った時は、確かにここには少なからぬ数の人々が生き、表向きは平穏な日々を暮らしていた。
だが今はどうだ。
(私がこの地を離れてから、なにが起こったのだ……)
異変は土地の荒廃だけではなかった。
そして……天より飛来する、怪物の群れ。
さらには、武器を持ち怪物と戦う人間たちの姿が、ソレの認識に入る。
(星屑……なぜ……)
真っ白な袋状の姿をした怪物は、かつて敵対せし存在の先兵。
だがそれらは、
(……訳が分からない)
思考を巡らせる間もなく、危機は訪れた。
避難者を守り、戦闘を繰り広げていた人間の一個体──よく知っている人物だ──へ向けて、多数の星屑が迫っていたのだ。
「東郷、逃げろー!!」
別の個体──戦闘用の衣装である『戦衣』に身を包んだ犬吠埼風が叫んだ。
十数体の星屑は、構わずに東郷美森に向け突っ込んでいく。
東郷も風と同じく戦衣を着こんでいるが、これは複数体の星屑からの攻撃を、完璧に防ぎきれるほどの万能の装備ではない。
特に、エネルギーの源となる存在が消滅した今となっては、尚更であろう。
金属製の大型バスですらたやすくスクラップに出来る強固な歯が、東郷を食いつくさんと眼前まで迫る。
耐えられない瞬間を覚悟してか、風は思わず目を閉じて顔を背けた。
……五体をバラバラに切り裂かれたのはしかし、東郷の方ではなく、彼女に襲い掛かった星屑の群れの方であった。
「え、な……なにが……」
目を開けた風は、呆気にとられたようにつぶやく。
あの距離では星屑の突進を防ぐことはおろか避けることも、まして攻撃に転ずる間もなかったはずだ。
同じように動きを止め、共に戦衣をまとい怪物と戦っていた犬吠埼樹と三好夏凛も、東郷へと視線を向けている。
チリと化し崩れ去る星屑の中央には、無傷の東郷が平然とたたずんでいた。
不思議と、彼女の体が光り輝いている様に、仲間たちには見えた。
続けざまに星屑が数十体、向かってくる。
東郷はどこか
刹那。
向ける右腕の直線状にあった星屑は、真っ白な体が頭から黒く
東郷は、襲来した残りの星屑たちにも手の平を向けると、同様の現象が起き全ての怪物はチリと消えていった。
「と、東郷? ……大丈夫なの?」
危機が去ったことを確認したのち、風は東郷に近づきながら、安否を確認するように声をかける。
変わらずぼんやりとした眼をしながらも、東郷はその顔を風と、彼女の後ろから歩み寄る樹と夏凛に向けた。
「……問題ない」
「あ、ちょ! 東郷!?」
心配する風の声に素っ気なく答えると、樹たちの横も素通りして、すたすたと歩いていく。
夏凛と樹も、様変わりした東郷の雰囲気に疑問符を浮かべながら、顔を見合わせていた。
「どこ行くのよ、東郷!」
東郷は足を止め、風らの方をふり向く。
「案内してくれ、君たちの──勇者部のいる所へ。そして、全てを説明して欲しい」
表情から話しぶりから、なにからなにまで明らかに、これまでの東郷ではない。
わからないが、星屑に襲いかかられた時を期に、彼女の様子が普段とは一変していた。
そのことに気づいた風たちは、警戒を強めながら、東郷の姿をしているモノへと問いかける。
「あんた……誰なの?」
「私は『神樹』。かつて君たち人間に、そう呼ばれたものだ」
神と決別したはずの世界に、再び神は舞い降りた。