復活の神樹様   作:ほろろぎ

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第一話 神と復活と終末世界

 懐かしさを覚える声に呼ばれて、ソレ(・・)は目を覚ました。

 

(……誰だ……私を呼ぶのは)

 

 応えはない。

 だが、ソレは確かに呼ばれたのだ。

 救いを求める者の声によって。

 

(……なんだ、これは……?)

 

 目の前には、廃墟と化した街が広がっていた。

 あらゆる建築物は倒壊し、アスファルトは砕け、そこかしこで火の手が上がっている。

 その有様はまさに、世界の終わりとしか呼べない光景だった。

 

 目を疑った。

 いや、今のソレには(ひとみ)という器官は存在しない。

 両の瞳だけにとどまらず、ありとあらゆる身体的器官を、今のソレは持ちえなかった。

 その体は物質世界より高次の、アストラルとでも呼ぶべき物によって構成されているからだ。

 

 ソレは上空を漂いながら、両目を凝らすようにして地上を観察する。

 ここは四国、讃州市と呼ばれていた場所。

 ソレがまだこの土地に在った時は、確かにここには少なからぬ数の人々が生き、表向きは平穏な日々を暮らしていた。

 だが今はどうだ。

 

(私がこの地を離れてから、なにが起こったのだ……)

 

 異変は土地の荒廃だけではなかった。

 

 荒涼(こうりょう)とした大地に突如として響く爆音。上がる悲鳴。逃げ惑う人々。

 そして……天より飛来する、怪物の群れ。

 さらには、武器を持ち怪物と戦う人間たちの姿が、ソレの認識に入る。

 

(星屑……なぜ……)

 

 真っ白な袋状の姿をした怪物は、かつて敵対せし存在の先兵。

 だがそれらは、数多(あまた)の人間の中から選びだした戦士である『勇者』たちの奮戦(ふんせん)によって、本来在るべき所へ(あるじ)と共に追い返されたはず……。

 

(……訳が分からない)

 

 思考を巡らせる間もなく、危機は訪れた。

 避難者を守り、戦闘を繰り広げていた人間の一個体──よく知っている人物だ──へ向けて、多数の星屑が迫っていたのだ。

 

「東郷、逃げろー!!」

 

 別の個体──戦闘用の衣装である『戦衣』に身を包んだ犬吠埼風が叫んだ。

 十数体の星屑は、構わずに東郷美森に向け突っ込んでいく。

 

 東郷も風と同じく戦衣を着こんでいるが、これは複数体の星屑からの攻撃を、完璧に防ぎきれるほどの万能の装備ではない。

 特に、エネルギーの源となる存在が消滅した今となっては、尚更であろう。

 

 金属製の大型バスですらたやすくスクラップに出来る強固な歯が、東郷を食いつくさんと眼前まで迫る。

 耐えられない瞬間を覚悟してか、風は思わず目を閉じて顔を背けた。

 

 ……五体をバラバラに切り裂かれたのはしかし、東郷の方ではなく、彼女に襲い掛かった星屑の群れの方であった。

 

「え、な……なにが……」

 

 目を開けた風は、呆気にとられたようにつぶやく。

 あの距離では星屑の突進を防ぐことはおろか避けることも、まして攻撃に転ずる間もなかったはずだ。

 同じように動きを止め、共に戦衣をまとい怪物と戦っていた犬吠埼樹と三好夏凛も、東郷へと視線を向けている。

 

 チリと化し崩れ去る星屑の中央には、無傷の東郷が平然とたたずんでいた。

 不思議と、彼女の体が光り輝いている様に、仲間たちには見えた。

 

 続けざまに星屑が数十体、向かってくる。

 東郷はどこか(うつ)ろな表情のまま、右手を怪物に向けて差し出した。

 

 刹那。

 向ける右腕の直線状にあった星屑は、真っ白な体が頭から黒く(にご)ってゆき、(はし)から焼け落ちた木炭のようにボロボロと砕け落ちる。

 東郷は、襲来した残りの星屑たちにも手の平を向けると、同様の現象が起き全ての怪物はチリと消えていった。

 

「と、東郷? ……大丈夫なの?」

 

 危機が去ったことを確認したのち、風は東郷に近づきながら、安否を確認するように声をかける。

 変わらずぼんやりとした眼をしながらも、東郷はその顔を風と、彼女の後ろから歩み寄る樹と夏凛に向けた。

 

「……問題ない」

「あ、ちょ! 東郷!?」

 

 心配する風の声に素っ気なく答えると、樹たちの横も素通りして、すたすたと歩いていく。

 夏凛と樹も、様変わりした東郷の雰囲気に疑問符を浮かべながら、顔を見合わせていた。

 

「どこ行くのよ、東郷!」

 

 東郷は足を止め、風らの方をふり向く。

 

「案内してくれ、君たちの──勇者部のいる所へ。そして、全てを説明して欲しい」

 

 表情から話しぶりから、なにからなにまで明らかに、これまでの東郷ではない。

 わからないが、星屑に襲いかかられた時を期に、彼女の様子が普段とは一変していた。

 そのことに気づいた風たちは、警戒を強めながら、東郷の姿をしているモノへと問いかける。

 

「あんた……誰なの?」

「私は『神樹』。かつて君たち人間に、そう呼ばれたものだ」

 

 神と決別したはずの世界に、再び神は舞い降りた。

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