復活の神樹様   作:ほろろぎ

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第二話 神樹と勇者部と十年後

「東郷に神樹様が()りついてるって、ちょっと信じがたいんだけど……」

 

 疑わし気な目を向けながら、夏凛が言った。

 

 星屑の襲来をしのぎきった夏凛たちは、かつて勇者部が(せき)を置いていた讃州中学の跡地へと来ている。

 

 他の建物の例にもれず、讃州中の校舎も大部分が倒壊している惨状。

 かろうじて残っていた屋根の下が、夏凛たちレジスタンス(・・・・・・)の休息所となっていたのだ。

 

「『憑りついている』、というのは正しくない。ただ、この娘の体を借りているだけだ」

 

 東郷の顔の下で、神樹は不服そうな表情を作る。

 それはそのまま、東郷の八の字に曲がった眉間へと現れた。

 

「あ、あの。なんで東郷先輩の体を乗っ取って……使っているんですか?」

 

 おずおずと樹がたずねる。

 

「昔みたいに、あの大きな木の姿でこの世界に現れれば……」

「私はかつて、天の神との戦いで散華したことで、持てるすべての力を使い果たした。あの姿には、今はなれない」

「だから、東郷の体に憑依したってわけね。確か東郷は、勇者と巫女の二つの力を持っていたから」

 

 ──救世主。

 夏凛の言葉を続けるように、東郷の中の神樹がつぶやいた。

 

 天の神と神樹──地の神との、人類の存続をかけての最終戦争とも呼べる戦いが終わったのは、もう十年も前のことである。

 そう……風、樹、夏凛、そして東郷ら『勇者』の死闘が終わり、神樹が現世を去ってから十年もの時が流れたのだ。

 

 少女たちは大人へと成長し、真の平穏を取り戻した世界も復興が始まり、人類は閉ざされた土地から外の世界へと旅立っていった。

 少しずつ、だが確実に……神に頼らずとも人間は自分たちの力だけで、外の荒廃した世界の開拓(かいたく)を進め、その苦労もようやく軌道に乗り始めた。

 

「だというのに、一体なぜ世界は、再びこんな有様に……」

 

 神樹──東郷は哀し気にうつむいた。

 風たちは、事情を知らない神樹にこれまでのあらましを聞かせようと、口を開く。

 

「っていっても、アタシらも詳しいことなんて、なにも分からないんだけどね」

「なんの前触れもなくバーテックス──星屑が世界中に現れて、人間を襲い始めたのよ」

「園子さんが解体された大赦を組織しなおして、『防人』だった人たちと私たち勇者部のメンバーがレジスタンスを組んで戦ったんですけど……」

 

 風、夏凛、樹は沈痛な面持ちで言葉を続ける。

 

「勇者服より劣る戦衣の性能じゃ、星屑にも苦戦して」

「人類の八割が……殺されたわ」

 

 夏凛に続けて発した風の衝撃の一言は、神樹の心を激しく動揺させるのに十分過ぎるものだった。

 神である自らがその存在の全てを()して守らんとした人間が、成すすべもなくほとんど殺害されたのであれば当然だろう。

 東郷の()せた瞳から、一滴(ひとしずく)の涙がこぼれた。

 

 室内に重たい沈黙が流れる。

 ふと、神樹は一つの足りないピースがあることに気づいた。

 

「そういえば、あの娘は……結城友奈はどこにいる?」

 

 この場にいない勇者部のメンバーは友奈と園子の二人だが、園子は頭首として大赦本部で防人たちに指示を出している。

 

 夏凛が、悔しさと怒りがないまぜになった様な表情で、神樹の疑問に答える。

 

「友奈は……逃げ遅れた子供を(かば)って、星屑に襲われて……そのあとは、行方知れずよ」

「私たちも必死で探したんですけど、どこにも姿が見つからなくて」

「避難所にも帰ってこないしね……」

「生きているかどうかも、分からないということか」

 

 夏凛に続く樹と風。

 神樹も、まさか友奈までが……といった声色で、行方不明となった彼女のことが信じられない様子だった。

 

 結城友奈は十年前……天の神との最後の戦いで、神樹が残された人類を生かすため、人を自らの同属とするための儀式に選んだ少女である。

 だが、友奈はかけがえのない友らの助けと、自身の意志でこれを拒否。

 結果、人が人としてこの世界に生き続ける、もう一つの道を見つけ出せたのだった。

 

 その友奈がいなくなった事実は、どれほど仲間たちの心に暗い影を落としただろうか……。

 神樹には、残された勇者部の友人たちにかける慰めの言葉が浮かばなかった。

 

「そういえば」

 

 と、暗くなった雰囲気を変えるために、樹が声を上げる。

 

「神樹様はどうやって復活されたんですか? 十年前に力を使い切ったって言われましたけど」

「……私にも分からない。ただ、声が聞こえたのだ」

「声?」

「誰のものかは分からない。ただ、私を呼ぶ懐かしい人の声だった」

 

 会話を切り裂くように、外から悲鳴が聞こえてきた。

 一つや二つではない。もっと大勢の、助けを呼ぶ声が。

 

「バーテックス!? 皆、行くわよ!」

 

 だしぬけに現れた星屑が人々を襲う様を見た風は、樹たちを連れて迎撃に向かう。

 東郷の体を間借りしている神樹もこれに従い、戦衣と銃剣を(たずさ)え戦場に出た。

 

 敵の数は多い。

 人間の守り手はこの場には四人。

 武器の銃剣は威力が足りず、星屑相手でもなかなか数を削り切れない。

 

「仕方がない」

 

 東郷の中の神樹は、その神としての力を発動し、星屑の体を崩壊させる波動を放つ。

 が、バーテックスは進化するのだ。

 

 神樹の存在を感知した星屑はこれまでの比ではない数を呼び集め、東郷の身ただ一点を攻めにかかる。

 さしもの神といえ、大幅に弱体化した現状では数の暴力に(あらが)い続けるのは至難だ。

 徐々に、東郷を囲む星屑が増えていく。

 

「くっ、こいつら……!」

 

 風たちは神樹の援護に回ろうとするが、そちらも別の星屑によって(はば)まれ近づけない。

 東郷の(ひたい)に、焦りと疲労からくる汗が浮かんだ。

 

「危ない、うしろ!!」

 

 夏凛が叫ぶ。

 東郷の死角となっている背後から、一瞬のスキをついて突出した星屑が数体、大口を開け迫っていた。

 

 間に合わない。

 

 風が、樹が、夏凛が、東郷の名を叫ぶ。

 その時──

 

「……勇者パンチ」

 

 桜の花が舞った。

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