復活の神樹様   作:ほろろぎ

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第三話 桜と帰還と死の宣告

 東郷の肉体ごと神樹の存在を消し去らんと迫る星屑の群れはしかし、目的を達することなく、風船が破裂するようにはじけ飛んだ。

 星屑の行動を(はば)んだのは、行方知れずとなっていたはずの──

 

「ゆ、友奈……?」

 

 結城友奈その人であった。

 友の名を発したのは、目の前に現れた姿を見ても、なお信じられないといった様子の夏凛。

 風と樹も夏凛と同じく、前触れなく帰って来た友奈を見開いた眼で見つめていた。

 

 友奈は仲間たちを一瞥(いちべつ)すると、いまだ東郷の体に宿る神樹を滅ぼそうと狙いをつける怪物共に向かって行く。

 そこからはあっという間だった。

 数百の数を集めた星屑の群れは、友奈必殺の勇者パンチによって見る間に数を減らしていき、数秒のうちに全滅させられてしまった。

 

 戦いが終わり、友奈と勇者部の仲間は改めて対面を果たす。

 

「友奈、生きてたのね……良かった、本当に」

「心配してたんですよ、友奈さん」

 

 犬吠埼姉妹は涙を浮かべ、友達の生還を喜んだ。

 

「みんな、ただいま」

 

 友奈も笑顔で帰還を告げる。

 これで、初期の勇者部の面々がそろったのだ。

 

 そんな中で、夏凛は友奈の姿を見て疑問を浮かべる。

 

「ところで友奈、その恰好は……?」

 

 夏凛の視線の先には、十年前にまとっていた『勇者服』に身を包んだ友奈が立っている。

 そう。神樹のパワーソースが無い今の世界で、どういう理由か友奈は、勇者服をまとえているのだ。

 しかも、その衣装は従来の淡い桜色ではなく、闇のような黒と紫に染まっているではないか。

 

「まるで昔、園子が冗談で言ってた闇落ちした姿みたいね。言うなれば、『ダークネス友奈』……」

「あはは。カッコいいネーミングですね、風先輩」

 

 懐かしい思い出に顔をほころばせる風。

 気のせいか、友奈は本当に闇に落ちて敵にまわったかのような、怪しさのある笑みを浮かべた。

 

「そういえば、友奈が生きてるってことは、あんたが(かば)った女の子も無事なのよね?」

 

 夏凛の問いかけに、友奈はそっけない様子で答える。

 

「あぁ、死んだよ」

 

 たった一言で、場が凍り付いた。

 友奈は絶句する友人らのことも気に留めず、淡々と言葉を続ける。

 

「仕方ないよね。あの子の運命だったんだよ」

 

 友奈の言葉は恐ろしいほどに冷静で、なんの感情も含まれていない。

 まるで、アリを一匹踏みつぶしただけとでもいった様な、感心の無さの表れだった。

 

 結城友奈という人間がおよそ持ちえないであろう冷徹さを、目の前の同じ人物は内包している。

 樹は、そのことに恐れにも似た感情を抱いてしまった。

 

「友奈さん……一体どうしちゃったんですか……?」

「いや、彼女は結城友奈ではない」

 

 これまで一言も口を利かなかった神樹が、東郷の体を通して言った。

 

「ど、どういうことですか?」

 

 東郷の眼はまっすぐに友奈を見据(みす)える。

 彼女の体内に巣食う、真実の姿を見出すように。

 

「正体を現せ。バーテックス(・・・・・・)よ」

 

 東郷の言葉が静かに響く。

 夏凛たちは、神樹の放った言葉の意味が分からなかった。

 

「は? 友奈が、バーテックス……?」

「なに……なにを言っているの?」

 

 夏凛たちの間に動揺が走る。

 うろたえる仲間のことなど意に介さない様子で、友奈は笑い声をあげた。

 

「はははっ! 敵わないなぁ~、東郷さんには」

 

 友奈の瞳が怪しく輝く。

 そして彼女の桃色の頭髪もまた、黒い勇者服と同じように闇色に染まっていった。

 

「東郷さん……ううん。神樹の言うように、私の正体はバーテックスだよ」

 

 直後、犬吠埼姉妹と夏凛は友奈に向けて銃剣を構えた。

 至近距離で武器を向けられているというのに、友奈はひょうひょうとした雰囲気を崩さず会話を続ける。

 

「ああ。と言っても、今の私そのものがバーテックスじゃないよ。この体は結城友奈、本人のものだからね」

「そいつの言っていることは本当だ。その肉体からは、友奈の気配を感じる」

 

 東郷の腕を操り、神樹は風たちが向けていた銃剣を下ろさせた。

 友奈の顔をしたバーテックスは、笑顔を作りかつての敵に向かいあう。

 

「改めまして、自己紹介。私は正史には生まれなかった、十三番目(・・・・)の存在。君たち流に名前を名乗るなら……『オフィウクス・バーテックス』かな?」

「オフィウクス……歴史から抹消された、蛇遣い座の」

 

 東郷の捕捉に友奈──オフィウクスはうなづいた。

 

 十年前に勇者たちが戦った、神の使いである黄道十二星座の名を冠する怪物──十二体のバーテックス。

 オフィウクスはそれらに含まれない、規格外の存在。

 天の神が正規に誕生させることはなかったため、オフィウクスには本来のボディーが無いのだ。

 

 ゆえに依り代として、神の世界に近づいたことのある友奈の体はうってつけだったという。

 

「や~、私ったら天の神とは折り合いが悪くってね。ずっと封印に近い状態にあったんだ。だから君たちがアイツを追っ払ってくれたおかげで、やっと自由になれたよ」

「アンタの事なんてどうでもいい! 友奈の体から出ていけッ!!」

「おや、そんなこと言っていいのかなぁ?」

 

 激昂する夏凛に対し、オフィウクスは思わせぶりな口ぶり。

 憑りついている友奈の表情も、夏凛たちを挑発するようなニヤけ笑いを浮かべている。

 

「もったいつけることも無いから教えてあげるけど……この体の持ち主、つまり結城友奈は……もう死んじゃってるよ」

「……は?」

 

 東郷を除いて、夏凛たち三人は間の抜けたような表情でオフィウクスを──友奈の顔を見た。

 友奈の下のオフィウクスの笑みは、夏凛らが悲しむさまを楽しみに待っているような、そんなフザケたものだった。

 

「っ……バカなこと言ってんじゃないわよ! 友奈が……友奈が死ぬはずないだろッ!!」

 

 夏凛は怒りのまま、オフィウクスが憑依した友奈の胸ぐらをつかむ。

 直後、ハッとした顔のまま硬直した。

 

 (はだ)けた友奈の胸元から、勇者服の下の素肌が(あら)わになる。

 その体は大きく傷ついており、生気のない灰色の肌には友奈自身の出血によるものであろう大量の血が、赤黒くこびりついていた。

 おそらく、本来の友奈がバーテックスの攻撃から少女を庇った時に負った怪我だろう。

 

 夏凛は言葉を失い、わなわなと震える手が、つかんでいた勇者服を力なく離す。

 

「東郷……いえ、神樹様。あいつの言ってることは」

「嘘ではない。結城友奈の魂はすでに……」

 

 風のすがるような問いに、東郷は(うれ)いを帯びた表情で、しかし淡々と返した。

 

 十年前、世界を救った英雄は──たった一人の子供すら助けられず、この世を去ってしまったのだ。




ダークネス友奈ちゃんの喋りかたは赤嶺ちゃんぽい感じ
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