復活の神樹様   作:ほろろぎ

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第五話 姉妹と夏凛と戦闘開始

 敵の襲来を監視していたレジスタンスの仲間からの報告を受け、風たちは戦場となるであろう讃州市の中心部に立っていた。

 

 一般人は遠方の山の中に避難させている。

 木々に(さえぎ)られて敵からの追跡を(はば)める可能性はあるが、怪物相手ではさして効果は期待できないという意見も否定できない。

 

 市内には勇者部のほかに、園子の呼びかけで各所から緊急招集された、正規の『防人』のメンバーも集まっていた。

 なにせ敵側が総攻撃をしかけてきたのである。人類側も全戦力を投入する必要があった。

 防人組のなかには夏凛の見知った顔もあったが、今は声をかけている余裕はなかった。

 

 友奈はバーテックス由来の神の力で黒い勇者服を、風たち四人は防人の装備をまとう。

 四人の防人装束は、正規の防人組三十二人とは別に、急造でこしらえられた代物だ。

 正規の服より性能の劣化は否めないが、勇者適性のある四人がまとえばそれらの能力低下はカバーできる範囲である、とは大赦の開発部の(げん)

 とはいえ現実は厳しく、星屑に対してでも優位に立てるほどの力は持ちえなかったのだが。

 

 夕暮れに染まる讃州市は、まるで血色のペンキをまかれたように、辺り一面が赤く染まっている。

 戦場となるこの場所が、これから戦士たちの鮮血で(いろど)られることを予言しているかのように。

 

「樹、大丈夫?」

 

 風は隣に立つ妹に声をかけた。

 中学時代に勇者として戦闘の経験を積み、成人した今また防人の装備で戦場に立つこととなった樹。

 ここぞという所では揺るがぬ精神力を発揮する彼女も、敵の総攻撃ということを知っては緊張を隠し切れないでいた。

 

「だ、大丈夫……ウソ、すごく怖いよ」

「心配しないで。アンタのことは、アタシが守るから」

「お姉ちゃんも、そんな余裕はないと思うよ?」

 

 樹は小刻みに震える手で、風の手を握った。

 触れた姉の手も、わずかにではあるが震えていた。

 

「お姉ちゃんも怖いんでしょ? 無理しないで」

「こういう時、姉は強がって見せるものなのよ」

 

 恐れを隠し、風は気丈にふるまう。

 やっぱりお姉ちゃんは頼もしいな。樹はそう思った。

 

「これで戦い、終わるといいね」

「終わらせるのよ、みんなで。それでまた、元の日常に帰るんだ」

「そうだね。私も、またお客さんの前で、歌を歌いたいな」

 

 樹は十六歳の頃、夢をかなえて歌手になった。

 だがその夢も、バーテックスの襲来で(つい)えてしまった今の世界。

 いつ来るかもわからない怪物におびえ、人々は歌を楽しむことなど無縁の生活を続けていた。

 しかし、この総攻撃さえ乗り越えることができたなら、もう一度夢に手を伸ばすことができるはず。

 

(でも……そこにはもう、友奈さんは……)

 

 十年前、天の神との決戦の時。

 樹は園子と夏凛に言ったのだ。『友奈を連れ戻し、みんなで生きて帰ろう』と。

 その思いだけは、もはや叶わぬものとなってしまったのか……。

 

「私はまだ、諦めてないわよ」

「夏凛さん?」

 

 夕日を見つめながら、夏凛は独り言のようにつぶやいた。

 

「友奈が死んだなんて、私はやっぱり信じられない。

あの娘がよく言ってたでしょ? 『なせば大抵なんとかなる』って。

だから……今回も、戦いが終わったら奇跡が起きて……

友奈がちゃっかり生き返りそうな、そんな気がするの」

 

 それはただの、(はかな)い希望かもしれない。

 だが夏凛たちは、『なるべく諦めない』の精神で、これまでも苦しい戦いを乗り越えてきたのだ。

 

「それにほら、こっちには本物の神様が味方についてるわけじゃない。奇跡の一つや二つ起きたって、罰は当たらないでしょ?」

 

 勝ち気な笑顔で東郷にウインクを送る夏凛。

 神樹も、できることなら彼女の期待に応え、また六人そろった勇者部が手を繋ぎあえる世界を、実現させてやりたかった。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 陽が落ちた。

 辺りには夜の(とばり)がおりはじめる。

 闇の中でも、特別製の防人のゴーグルは、昼間と変わらぬ景色を見せてくれた。

 オフィウクスが憑りついた友奈の瞳も、暗がりの今では猫の目のような怪しい輝きを放っている。

 

『……敵影、確認!』

 

 防人の一人の声が無線から響く。

 ゴーグルの望遠機能を使わずとも戦士たちの目には、闇黒の宇宙から舞い降りるようにして現れた十二体の異形の姿が、はっきりと映っていた。

 

『近い……接敵まであとわずかです!』

 

 東郷はおもむろに空に向けて手をかざすと、彼女の体が(あわ)い緑色の光を帯びはじめる。

 その輝きは粒子のように空に舞い上がると、風、樹、夏凛の三人の勇者と、三十二人の防人たちの体に降り注いだ。

 

「これは……温かい」

「それに、なんか力が(みなぎ)ってくるような」

 

 光を浴びた樹と夏凛がこぼす。

 少し肩で息をしながら、神樹が答える。

 

「私の力を、お前たちに分け与えた。以前の勇者服とまではいかないだろうが、通常の防人装束より力は増しただろう」

「って、神樹様は大丈夫なの? 前より力が無くなってるんでしょ?」

「……私は十年前、取り返しのつかない過ちを犯すかもしれない所だった。それを、お前たちが正してくれた。今度は私が、借りを返す番なのだ。そのためなら無理もしよう」

 

 心配そうな風に、神樹は東郷の顔でほほ笑みを作って見せた。

 東郷のものではあったが、神樹が笑って見せるなど初めてのことだったので、風たちはちょっとだけ驚いてしまう。

 

「はいはい、仲良しさんもいいけど……そろそろ来るよ」

 

 友奈の声でオフィウクスが警告を飛ばした。

 彼女の言うように、十二体の怪物はすぐ目の前まで飛来している。

 

『射撃構え! ……撃てぇーッ!!』

 

 防人部隊の隊長の号令で、友奈を除く三十六の銃剣から発射された弾丸が、十二の怪物目がけて飛んでいった。

 

 閃光、爆発。

 神樹の力で威力が増した銃撃は、バーテックスの体に着弾し大きな煙を噴き上げさせる。

 

 銃剣から雨の様に次々と弾丸が放たれ、それらは空を進む十二の巨体にぶつかり火の手を上げる。

 それでもバーテックスたちは構わず進撃を続け、高層建築などをその大きな体で押しのけていく。

 

 ここからは接近戦だ。

 防人隊隊長の指示で、各員は十二のチームに分けられそれぞれのバーテックスと対峙する。

 

「私は誰かに命令されるのは嫌いなんでね。好きにやらせてもらうよ!」

 

 オフィウクスはそう言うと、部隊から飛び出し、近くにいた怪物の一体に飛びかかった。

 誰も止めるヒマは無かった。

 

「アイツ……! って言っても、こんな状況じゃすぐ混戦になっちゃうかもね」

 

 勇者部のリーダーとして指揮経験もあった風は、この戦闘状態が長くは続かないだろうと見ていた。

 事実、星屑とは一線を(かく)す強さを誇るバーテックスを相手にしては、防人チームの足並みがそろっていたのも時間の問題。

 死者こそ出ていないが、部隊は各隊員がバラバラになり、もはや戦場はひっくり返された盤上のような混迷加減であった。

 

「勇者パーンチ! からの、勇者キーック!!」

 

 オフィウクスは自分のもののように友奈の体を(あやつ)って、必殺技を連続してくりだし二体のバーテックスを破壊した。

 

『いける……! 全員、恐れるな! 私たちは勝てる!』

 

 無線越しに隊長の(げき)が飛ぶ。

 その声を受けて精神的にも力を増した防人隊は、押せ押せの姿勢でバーテックスを攻め込み、ついには一体の撃破に成功。

 一体とはいえ、量産型の部隊が星座型をたおすなど、大金星といっていいとてつもない成果だ。

 

 敵の数は残り九体。

 このままいけば、本当に人類は勝ち残れる。

 誰もがそう思ったのもつかの間、バーテックスは……さらなる進化(・・)を始めた。

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