敵の襲来を監視していたレジスタンスの仲間からの報告を受け、風たちは戦場となるであろう讃州市の中心部に立っていた。
一般人は遠方の山の中に避難させている。
木々に
市内には勇者部のほかに、園子の呼びかけで各所から緊急招集された、正規の『防人』のメンバーも集まっていた。
なにせ敵側が総攻撃をしかけてきたのである。人類側も全戦力を投入する必要があった。
防人組のなかには夏凛の見知った顔もあったが、今は声をかけている余裕はなかった。
友奈はバーテックス由来の神の力で黒い勇者服を、風たち四人は防人の装備をまとう。
四人の防人装束は、正規の防人組三十二人とは別に、急造でこしらえられた代物だ。
正規の服より性能の劣化は否めないが、勇者適性のある四人がまとえばそれらの能力低下はカバーできる範囲である、とは大赦の開発部の
とはいえ現実は厳しく、星屑に対してでも優位に立てるほどの力は持ちえなかったのだが。
夕暮れに染まる讃州市は、まるで血色のペンキをまかれたように、辺り一面が赤く染まっている。
戦場となるこの場所が、これから戦士たちの鮮血で
「樹、大丈夫?」
風は隣に立つ妹に声をかけた。
中学時代に勇者として戦闘の経験を積み、成人した今また防人の装備で戦場に立つこととなった樹。
ここぞという所では揺るがぬ精神力を発揮する彼女も、敵の総攻撃ということを知っては緊張を隠し切れないでいた。
「だ、大丈夫……ウソ、すごく怖いよ」
「心配しないで。アンタのことは、アタシが守るから」
「お姉ちゃんも、そんな余裕はないと思うよ?」
樹は小刻みに震える手で、風の手を握った。
触れた姉の手も、わずかにではあるが震えていた。
「お姉ちゃんも怖いんでしょ? 無理しないで」
「こういう時、姉は強がって見せるものなのよ」
恐れを隠し、風は気丈にふるまう。
やっぱりお姉ちゃんは頼もしいな。樹はそう思った。
「これで戦い、終わるといいね」
「終わらせるのよ、みんなで。それでまた、元の日常に帰るんだ」
「そうだね。私も、またお客さんの前で、歌を歌いたいな」
樹は十六歳の頃、夢をかなえて歌手になった。
だがその夢も、バーテックスの襲来で
いつ来るかもわからない怪物におびえ、人々は歌を楽しむことなど無縁の生活を続けていた。
しかし、この総攻撃さえ乗り越えることができたなら、もう一度夢に手を伸ばすことができるはず。
(でも……そこにはもう、友奈さんは……)
十年前、天の神との決戦の時。
樹は園子と夏凛に言ったのだ。『友奈を連れ戻し、みんなで生きて帰ろう』と。
その思いだけは、もはや叶わぬものとなってしまったのか……。
「私はまだ、諦めてないわよ」
「夏凛さん?」
夕日を見つめながら、夏凛は独り言のようにつぶやいた。
「友奈が死んだなんて、私はやっぱり信じられない。
あの娘がよく言ってたでしょ? 『なせば大抵なんとかなる』って。
だから……今回も、戦いが終わったら奇跡が起きて……
友奈がちゃっかり生き返りそうな、そんな気がするの」
それはただの、
だが夏凛たちは、『なるべく諦めない』の精神で、これまでも苦しい戦いを乗り越えてきたのだ。
「それにほら、こっちには本物の神様が味方についてるわけじゃない。奇跡の一つや二つ起きたって、罰は当たらないでしょ?」
勝ち気な笑顔で東郷にウインクを送る夏凛。
神樹も、できることなら彼女の期待に応え、また六人そろった勇者部が手を繋ぎあえる世界を、実現させてやりたかった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
陽が落ちた。
辺りには夜の
闇の中でも、特別製の防人のゴーグルは、昼間と変わらぬ景色を見せてくれた。
オフィウクスが憑りついた友奈の瞳も、暗がりの今では猫の目のような怪しい輝きを放っている。
『……敵影、確認!』
防人の一人の声が無線から響く。
ゴーグルの望遠機能を使わずとも戦士たちの目には、闇黒の宇宙から舞い降りるようにして現れた十二体の異形の姿が、はっきりと映っていた。
『近い……接敵まであとわずかです!』
東郷はおもむろに空に向けて手をかざすと、彼女の体が
その輝きは粒子のように空に舞い上がると、風、樹、夏凛の三人の勇者と、三十二人の防人たちの体に降り注いだ。
「これは……温かい」
「それに、なんか力が
光を浴びた樹と夏凛がこぼす。
少し肩で息をしながら、神樹が答える。
「私の力を、お前たちに分け与えた。以前の勇者服とまではいかないだろうが、通常の防人装束より力は増しただろう」
「って、神樹様は大丈夫なの? 前より力が無くなってるんでしょ?」
「……私は十年前、取り返しのつかない過ちを犯すかもしれない所だった。それを、お前たちが正してくれた。今度は私が、借りを返す番なのだ。そのためなら無理もしよう」
心配そうな風に、神樹は東郷の顔でほほ笑みを作って見せた。
東郷のものではあったが、神樹が笑って見せるなど初めてのことだったので、風たちはちょっとだけ驚いてしまう。
「はいはい、仲良しさんもいいけど……そろそろ来るよ」
友奈の声でオフィウクスが警告を飛ばした。
彼女の言うように、十二体の怪物はすぐ目の前まで飛来している。
『射撃構え! ……撃てぇーッ!!』
防人部隊の隊長の号令で、友奈を除く三十六の銃剣から発射された弾丸が、十二の怪物目がけて飛んでいった。
閃光、爆発。
神樹の力で威力が増した銃撃は、バーテックスの体に着弾し大きな煙を噴き上げさせる。
銃剣から雨の様に次々と弾丸が放たれ、それらは空を進む十二の巨体にぶつかり火の手を上げる。
それでもバーテックスたちは構わず進撃を続け、高層建築などをその大きな体で押しのけていく。
ここからは接近戦だ。
防人隊隊長の指示で、各員は十二のチームに分けられそれぞれのバーテックスと対峙する。
「私は誰かに命令されるのは嫌いなんでね。好きにやらせてもらうよ!」
オフィウクスはそう言うと、部隊から飛び出し、近くにいた怪物の一体に飛びかかった。
誰も止めるヒマは無かった。
「アイツ……! って言っても、こんな状況じゃすぐ混戦になっちゃうかもね」
勇者部のリーダーとして指揮経験もあった風は、この戦闘状態が長くは続かないだろうと見ていた。
事実、星屑とは一線を
死者こそ出ていないが、部隊は各隊員がバラバラになり、もはや戦場はひっくり返された盤上のような混迷加減であった。
「勇者パーンチ! からの、勇者キーック!!」
オフィウクスは自分のもののように友奈の体を
『いける……! 全員、恐れるな! 私たちは勝てる!』
無線越しに隊長の
その声を受けて精神的にも力を増した防人隊は、押せ押せの姿勢でバーテックスを攻め込み、ついには一体の撃破に成功。
一体とはいえ、量産型の部隊が星座型をたおすなど、大金星といっていいとてつもない成果だ。
敵の数は残り九体。
このままいけば、本当に人類は勝ち残れる。
誰もがそう思ったのもつかの間、バーテックスは……さらなる