復活の神樹様   作:ほろろぎ

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第七話 抵抗と想いと業

 讃州市の中心部から、キノコのような形の雲が、立ち昇った。

 爆心地のど真ん中に立つのは、十二星座の怪物たちの力を取り込んだ、最強最悪の化け物。

 

『……おや、手加減しすぎたかな?』

 

 讃州市を跡形もなく吹き飛ばしたゾディアック・バーテックスは、ある一点を見ながら言った。

 そこには、爆発の直前でバリアーを張り、ギリギリのところでこれを防いだ神樹の姿が。

 

「……あ、ありがとうございます、神樹様」

「ゴホッ、ゴホッ……た、助かったの?」

 

 神樹の背後には、樹と風、そして夏凛が座り込むようにしていた。

 運よく神樹の側にいた三人は、共にゾディアックの攻撃から難を逃れることができたのだった。

 

『生き残ったのは、君たち四人だけ?』

 

 周囲を見回すゾディアック。

 辺りは大きくえぐれたクレーターのようになっており、東郷たちとゾディアック意外には、何者の姿も見つけられない。

 爆発に巻き込まれた防人の中には、夏凛の知り合いもいた。

 

「そ、そんな……楠たちまで……」

『まだ(なげ)くには早いよ。山に避難している人間たちまで殺さないよう、力は抑えていたからね。運がよければ、何人かはまだ生きてるんじゃないかな?』

 

 ゾディアックが避難者を気にかけるのは、あくまでも愛玩動物に対するような、支配者としての心情からである。

 

「貴様……よくもッ」

『おっと』

 

 神樹は東郷の携帯している銃剣でゾディアックを狙撃するが、直撃したにもかかわらず、怪物は無傷であった。

 二発目を打とうとした時、突如目の前のゾディアックの姿が消えた。

 

『つかまぁえた』

 

 次の瞬間、東郷の眼前に高速移動したゾディアックは、片腕で彼女の首を締めあげ、宙づりにする。

 

「ぅ……がっ……!?」

「この……東郷と神樹様を離せっ!」

 

 すかさず風たち三人は、怪物を銃剣のブレードで斬りつける。

 が、狙撃した時と同様に(やいば)は、硬い岩石にぶつかったような手ごたえとともに(はじ)かれてしまった。

 そのままゾディアックが起こした衝撃波で、三人は人形のように吹き飛ばされ地を転がる。

 

 ギリギリと、東郷の首を絞める力が強まっていく。

 彼女の肉体と融合している今、東郷の死はイコール神樹の、この世界との隔絶(かくぜつ)を意味するのだ。

 

『それじゃあね、神樹様。さようなら』

「ゃ……やめろぉーッ!!」

 

 あと少し力をこめれば東郷の首の骨を、枯れ枝のようにへし折ることができる。

 という所で、ゾディアックはピタリと動きを止めた。

 それは風たちの制止の叫びを聞いたからではない。

 

 指が開き、東郷は怪物の(いまし)めから解放された。

 

『これは……まさか……ッ!?』

 

 ゾディアックが虚を突かれたような驚きを見せる。

 その間に、東郷を庇うように樹たちが集う。

 

「い、一体どうしちゃったんでしょう」

 

 東郷は目を凝らし、怪物の姿を観察した。

 そして出した結論は

 

「……結城友奈だ。彼女が、ゾディアックの体内で抵抗しているのだ」

「えっ!? でも、友奈は死んだはずじゃ……」

「彼女の魂が一時的に、肉体に戻っている」

 

 おそらくオフィウクスが他のバーテックスたちの力を取り込んだ時に、エネルギーの流れに乗って友奈の『魂』と呼ぶべきものが、共に怪物の体内に取り込まれたのではないか。

 風の言葉に、神樹はそう見当をつけた。

 

「この状況なら、友奈の体を奴から切り離せるかもしれない」

「それって! 友奈が生き返るってこと!?」

「死んだ者が復活するか、それは私にも分からない。だが友奈の肉体が無くなれば、ゾディアックの力は大幅に減退するだろう」

 

 どちらにしろ我々が勝つには、友奈の体を取り戻すしかない。

 神樹の言葉に夏凛たち三人の闘志が(みなぎ)った。

 

「やるわよ、樹!」

「うん、お姉ちゃん!」

 

 姉妹は防人システムを操作し、衣服のエネルギーをすべて銃剣に回した。

 スーツの全パワーを動員した銃弾が二発、ゾディアックに向かって放たれる。

 

『ぐっ!?』

 

 友奈の助力によって動きを封じられた怪物の胸部に、弾丸は直撃。大きな亀裂を生じさせた。

 

「夏凛!」

「夏凛さん!」

「わかってるってぇーのッ!!」

 

 東郷から銃剣を受け取った夏凛は、かつて得意とした二刀流によるブレードの斬撃を見舞う。

 

『うがっ!』

 

 姉妹の攻撃で受けた傷を、夏凛の振るった双刀はさらに押し広げ

 

「今よ、神樹様ッ!!」

 

 東郷は、ゾディアックの体に広がる傷跡に、文字通り飛び込んだ。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 まるで宇宙のような、無数にきらめく星の光が浮かぶ空間の中に、東郷美森は(ただよ)っていた。

 防人の装束は解かれ、なにも身に着けていない体は、ここが精神世界とでもいうべき場所であることを示している。

 

 そして、東郷の眼の前には結城友奈が立っていた。

 オフィウクスに体を乗っ取られたダークネス友奈ではない、本来の結城友奈が。

 

「友奈ちゃん!」

「……東郷さん」

 

 東郷は涙を流しながら、友奈に抱きつこうとした。

 しかしここは精神の世界。

 互いの体は幽体であり、触れようとしてもすり抜けてしまう。

 

「東郷さん、全部見てたよ。ごめんね……みんなが大変な時に、私は」

「謝らないで。友奈ちゃんはなにも悪くない」

「それでも、ごめん。東郷さんを独りにしちゃった」

「……どうして……。どうして、死んじゃったの?」

「困っている人がいたら、助けるでしょ? 東郷さんだって、あの場にいたら同じことをしたはずだよ」

「でも……それでも私は! 友奈ちゃんに生きていて欲しかったッ」

 

 幼子(おさなご)のように泣き出す東郷に、友奈は困ったような微笑を浮かべた。

 

「これはきっと、『(むく)い』なんだよ」

「報いだなんて……友奈ちゃんにいったい、なんの罪があるっていうの」

「私は、他の誰かが傷ついたり、ツラい思いをすることが嫌なんだ。昔からそう……。誰かがそんな思いをするくらいなら、私一人が我慢すればいい。そう思ってた」

「…………」

「でも、それはきっと、人として間違ってたんだ。神様の思うような想いを(いだ)いていた私は、(ゆが)んでたんだよ」

 

 すべての他者をいたわり(いつく)しむ。身に余るほどの優しさを抱くことは、(あやま)ちだというのか。

 それともその慈しみの心が、自分の本心を悟られないようにわざと演じていた、虚飾(きょしょく)なのが間違っていたのか。

 友奈の死は、その業が己自身に返って来たというのだろうか……。

 

「私は、私の罪を(つぐな)う。だからこそ、死の(きわ)に願ったんだ……神樹様の復活(・・・・・・)を」

 

 二人の前に、大樹の姿をとった神樹の幽体が現れた。

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