讃州市の中心部から、キノコのような形の雲が、立ち昇った。
爆心地のど真ん中に立つのは、十二星座の怪物たちの力を取り込んだ、最強最悪の化け物。
『……おや、手加減しすぎたかな?』
讃州市を跡形もなく吹き飛ばしたゾディアック・バーテックスは、ある一点を見ながら言った。
そこには、爆発の直前でバリアーを張り、ギリギリのところでこれを防いだ神樹の姿が。
「……あ、ありがとうございます、神樹様」
「ゴホッ、ゴホッ……た、助かったの?」
神樹の背後には、樹と風、そして夏凛が座り込むようにしていた。
運よく神樹の側にいた三人は、共にゾディアックの攻撃から難を逃れることができたのだった。
『生き残ったのは、君たち四人だけ?』
周囲を見回すゾディアック。
辺りは大きくえぐれたクレーターのようになっており、東郷たちとゾディアック意外には、何者の姿も見つけられない。
爆発に巻き込まれた防人の中には、夏凛の知り合いもいた。
「そ、そんな……楠たちまで……」
『まだ
ゾディアックが避難者を気にかけるのは、あくまでも愛玩動物に対するような、支配者としての心情からである。
「貴様……よくもッ」
『おっと』
神樹は東郷の携帯している銃剣でゾディアックを狙撃するが、直撃したにもかかわらず、怪物は無傷であった。
二発目を打とうとした時、突如目の前のゾディアックの姿が消えた。
『つかまぁえた』
次の瞬間、東郷の眼前に高速移動したゾディアックは、片腕で彼女の首を締めあげ、宙づりにする。
「ぅ……がっ……!?」
「この……東郷と神樹様を離せっ!」
すかさず風たち三人は、怪物を銃剣のブレードで斬りつける。
が、狙撃した時と同様に
そのままゾディアックが起こした衝撃波で、三人は人形のように吹き飛ばされ地を転がる。
ギリギリと、東郷の首を絞める力が強まっていく。
彼女の肉体と融合している今、東郷の死はイコール神樹の、この世界との
『それじゃあね、神樹様。さようなら』
「ゃ……やめろぉーッ!!」
あと少し力をこめれば東郷の首の骨を、枯れ枝のようにへし折ることができる。
という所で、ゾディアックはピタリと動きを止めた。
それは風たちの制止の叫びを聞いたからではない。
指が開き、東郷は怪物の
『これは……まさか……ッ!?』
ゾディアックが虚を突かれたような驚きを見せる。
その間に、東郷を庇うように樹たちが集う。
「い、一体どうしちゃったんでしょう」
東郷は目を凝らし、怪物の姿を観察した。
そして出した結論は
「……結城友奈だ。彼女が、ゾディアックの体内で抵抗しているのだ」
「えっ!? でも、友奈は死んだはずじゃ……」
「彼女の魂が一時的に、肉体に戻っている」
おそらくオフィウクスが他のバーテックスたちの力を取り込んだ時に、エネルギーの流れに乗って友奈の『魂』と呼ぶべきものが、共に怪物の体内に取り込まれたのではないか。
風の言葉に、神樹はそう見当をつけた。
「この状況なら、友奈の体を奴から切り離せるかもしれない」
「それって! 友奈が生き返るってこと!?」
「死んだ者が復活するか、それは私にも分からない。だが友奈の肉体が無くなれば、ゾディアックの力は大幅に減退するだろう」
どちらにしろ我々が勝つには、友奈の体を取り戻すしかない。
神樹の言葉に夏凛たち三人の闘志が
「やるわよ、樹!」
「うん、お姉ちゃん!」
姉妹は防人システムを操作し、衣服のエネルギーをすべて銃剣に回した。
スーツの全パワーを動員した銃弾が二発、ゾディアックに向かって放たれる。
『ぐっ!?』
友奈の助力によって動きを封じられた怪物の胸部に、弾丸は直撃。大きな亀裂を生じさせた。
「夏凛!」
「夏凛さん!」
「わかってるってぇーのッ!!」
東郷から銃剣を受け取った夏凛は、かつて得意とした二刀流によるブレードの斬撃を見舞う。
『うがっ!』
姉妹の攻撃で受けた傷を、夏凛の振るった双刀はさらに押し広げ
「今よ、神樹様ッ!!」
東郷は、ゾディアックの体に広がる傷跡に、文字通り飛び込んだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
まるで宇宙のような、無数にきらめく星の光が浮かぶ空間の中に、東郷美森は
防人の装束は解かれ、なにも身に着けていない体は、ここが精神世界とでもいうべき場所であることを示している。
そして、東郷の眼の前には結城友奈が立っていた。
オフィウクスに体を乗っ取られたダークネス友奈ではない、本来の結城友奈が。
「友奈ちゃん!」
「……東郷さん」
東郷は涙を流しながら、友奈に抱きつこうとした。
しかしここは精神の世界。
互いの体は幽体であり、触れようとしてもすり抜けてしまう。
「東郷さん、全部見てたよ。ごめんね……みんなが大変な時に、私は」
「謝らないで。友奈ちゃんはなにも悪くない」
「それでも、ごめん。東郷さんを独りにしちゃった」
「……どうして……。どうして、死んじゃったの?」
「困っている人がいたら、助けるでしょ? 東郷さんだって、あの場にいたら同じことをしたはずだよ」
「でも……それでも私は! 友奈ちゃんに生きていて欲しかったッ」
「これはきっと、『
「報いだなんて……友奈ちゃんにいったい、なんの罪があるっていうの」
「私は、他の誰かが傷ついたり、ツラい思いをすることが嫌なんだ。昔からそう……。誰かがそんな思いをするくらいなら、私一人が我慢すればいい。そう思ってた」
「…………」
「でも、それはきっと、人として間違ってたんだ。神様の思うような想いを
すべての他者をいたわり
それともその慈しみの心が、自分の本心を悟られないようにわざと演じていた、
友奈の死は、その業が己自身に返って来たというのだろうか……。
「私は、私の罪を
二人の前に、大樹の姿をとった神樹の幽体が現れた。