復活の神樹様   作:ほろろぎ

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最終話 友奈と残された者と成すべきこと

 本来の意識を取り戻した友奈の前に、かつての大樹の姿で神樹が現れた。

 共に十年ぶりの再会だった。

 

「よかった……神樹様が帰って来てくれて」

 

 空間全体に響くように、神樹の声が聞こえてくる。

 

『結城友奈、私をこの世界に呼び戻した声は、お前のものだったのか』

「世界はまた、バーテックスに滅ぼされた。でも、神樹様も勇者ももういない……だからもう一度神樹様に、みんなを守って欲しいって願ったの」

 

 友奈の願いが神に届いたのは、十年前の戦いで彼女の体が、神に近い存在に置き換わっていたからである。その存在性も。

 しかし願いの代償として、友奈は自分自身の命を今一度捧げる羽目になったのだが……。

 

『早まったことを……。以前のお前は、友の助けを借りて、人として生きる道を選んだではないか』

「あの時はまだ子供だったから。でも今は、現実はそんなに甘くないって知っちゃったからね」

 

 友奈はそう言って、苦笑を浮かべる。

 

 十年前に友奈は勇者部の誓いとして、『無理せず、自分も幸せであること』という項をつくった。

 だが年を経たことで、誰もが幸せになれるというのは理想でしかなく、現実は犠牲を避けえないということを知ってしまった。

 その達観こそが、今の友奈の業なのかもしれなかった。

 

「お願い、神樹様。私の代わりにもう一度、この世界を……みんなを守ってあげて」

 

 神樹は答えない。

 表情はなくとも、沈黙によって苦悩しているのが見て取れた。

 

「……友奈ちゃん」

「東郷さん……」

 

 東郷は友奈の体に触れようとして、その手を止めた。

 友奈は申し訳なさそうな顔で、東郷に語りかける。

 

「ごめんね。最後に我がまま言っちゃって」

 

 東郷は首を横に振った。

 

「友奈ちゃんは、いつも自分のことは二の次で、我がままなんて言わなかった。それなのに……」

 

 東郷の顔は悲哀をおびたものから、覚悟を決めた表情へと変わる。

 

「それが、友奈ちゃんのしたいことなのよね。友奈ちゃんがやりたいって言うなら、それが友奈ちゃんの、本当にやりたいことなんだね」

「東郷さん……ありがとう」

 

 もはや友奈の死は(あらが)えない不可避のもの。

 それを悟った東郷は、最後に親友の願いを聞き入れることにした。

 

「神樹様、お願いします。友奈ちゃんの想いを」

「神樹様」

 

 東郷と友奈は、そろって神へ祈りをささげた。

 

 数秒ののち、大樹の姿をとった神樹が輝きはじめ、やがてその光が空間そのものを塗りつぶすまでに広がっていく。

 願いは、聞き届けられた。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 友奈と東郷、そして神樹の邂逅(かいこう)は、外の世界ではほんの一瞬の出来事だった。

 ゾディアックの傷に東郷が飛び込んだ瞬間、閃光が走り──光が晴れた後には、しっかりと大地に立つ東郷と友奈の姿が、三人の仲間の目に映った。

 

「友奈!」

「友奈さん!」

 

 夏凛たちが喜びに沸く中で、東郷は隣に立つ友奈に、静かに語りかけた。

 

「いきましょう、友奈ちゃん」

「うん、東郷さん!」

 

 二人は空に向けて視線を上げる。

 その先には、友奈の体から引きはがされ、十二星座の力も失ったオフィウクスの残滓(ざんし)が浮かんでいた。

 黒と紫のガス状のそれは、嵐とともに現れる黒雲を思い起こさせた。

 

 雲状のオフィウクスは、地上に向けて(いかづち)を放つ。

 『神鳴り』ともいうべき天の怒りを彷彿(ほうふつ)とさせる攻撃の中、友奈と東郷の体が優しい光に包まれ、二人の衣装が変化する。

 それは戦衣ではなく、十年前にまとっていた勇者服──それも、『満開』に近い白を基調(きちょう)とした服装であった。

 

 友奈と東郷はうなづきあうと、共にジャンプ。

 雷撃の中を矢のような速度で、一直線にオフィウクスに向かって行った。

 

「■■■■■■■ーッ!?」

 

 それは恐怖からか、意味の分からない言語でオフィウクスが叫ぶ。

 構わずに友奈と東郷は拳を構え、高速で突っ込む。

 

「これが最初で最後の」

「ダブル・勇者パアアアアアアンチッ!!」

 

 二人の勇者の二つの拳が、怪物の体に直撃。

 ぶつかった余波で、オフィウクスのガス状の体は、波紋のようにかき消されたのだった。

 あまりのエネルギーの高さに、断末魔の叫びさえ残されない最期だった。

 

「友奈! 東郷!」

 

 敵を倒した二人は、ゆっくりと地上に降り立つ。

 しかし、大地に足をつけた瞬間、友奈の体は力を失い、糸が切れた人形のように崩れ落ちる。

 

「友奈ちゃん!」

「友奈さん!」

 

 倒れる友奈の体を東郷が抱きとめ、樹たちの力を借りてゆっくりと地面の上に体を横たえた。

 彼女の体は土気色で、その肌は完全に生気を失っていた。

 

 友奈は自身を取り囲む友人たちを、最期の思い出にと順に視線に納めていく。

 他の誰もが、これが友奈との別れの時なのだと察知した。

 

「……風先輩、樹ちゃん、夏凛ちゃん、東郷さん……みんなと会えて、良かった」

 

 残される者たちへかける最期の言葉は、心からの感謝だった。

 みんな、一様に涙を浮かべていた。

 

「私たちも、友奈ちゃんと会えて、本当に良かった」

 

 東郷の言葉を聞いて、友奈は微笑んだ。

 

(あっ……)

 

 友奈の意識が体から離れる直前、ふいに一人の少女の姿が脳裏に浮かんだ。

 それは、オフィウクスに体を乗っ取られる前に彼女が助けた子供である。

 神樹が最期に、友奈の行いは無駄ではなかったことを教えてくれたのだ。

 

(良かった……ちゃんと助けられたんだ)

 

 友奈は、すべてに満足したような安らかな顔で、息を引き取った。

 

「……ッ」

 

 東郷は嗚咽(おえつ)するのを必死でこらえながら、開かれたままの友奈の生気のない瞳をそっと閉じる。

 結局、世界は救えたが、大切な友達のことは救うことができなかった。

 夏凛たちは大きな無力感に(さいな)まれる。

 

「みんな、立って」

 

 そんな中で、東郷は静かに言った。

 もはや悲しみはない、力強い言葉だった。

 

「私たちは友奈ちゃんに(たく)されたのよ。この世界を、神樹様と一緒にもう一度、やり直すために」

「東郷……」

「私たちは生きなければ。どんなにつらくても、悲しくても、それが私たちの……()すべきことなのだから」

 

 夜の闇につつまれていた世界に、光がさしはじめた。

 東郷、風、樹、夏凛は、昇りゆく朝日をじっと見つめる。

 

 陽の光を受けた東郷は、「友奈ちゃんらしい最期だった」という、あきらめと納得が入り混じったような、複雑なほほ笑みを浮かべた。




園子「という夢を見たんよ~」
友奈「えぇっ。私、死んじゃうのー?」

というオチを当初は考えてました。(勇者部の面子でそのっちだけ出てこないのは夢の主だったから)
結局元ネタの復コアに準拠したものになりましたが…。

自分で書いてみて、改めて復コアはとんでもないことをやっちゃったんだな、と。
ゆゆゆ十周年でこんなんお出しされたら頭おかしなるで。
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