葬送の英雄フリーレン   作:のり

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思ったより反響が大きくて嬉しいです
まさか赤バーが付くとは思っていませんでした


ヘスティアファミリア

 迷宮都市オラリオ。あらゆる種族、あらゆる情報が集まる「世界の中心」と称されるこの都市には、とある特徴がある。

 それは迷宮(ダンジョン)の存在である。

 千年以上前、この地に大きな大きな穴が空いた。その穴からは無尽蔵にモンスターが溢れ、人々はその対処に必死だった。

 現在英雄譚として語られるものの大半はこの時代の英雄達の話なのだが、とにかく人類はこの時絶滅の危機に瀕していたのは確かだった。

 そんな時、とある大英雄の手によってこの大穴付近の確保に成功、その後この世界に最初の神が降臨した。

 そう、神だ。それまで御伽噺や神話、聖典でしか語られてこなかった神がその姿を現した。

 神々は人に『神の恩恵(ファルナ)』という、迷宮(ダンジョン)から這い出る怪物(モンスター)に対抗する力を与え、己の『神の恩恵(ファルナ)』を与えた者を眷属(かぞく)と呼び、眷属を集めた神は自分達の組織をファミリアと呼んだ。

 そして時が経つにつれ、現在のオラリオのような形へ変貌した。

 シンボルとも呼べるバベルは、神々が降臨してから十数年(ほんのすこし)経ってから神とその最初の眷属達によって再建され、怪物(モンスター)の地上進出を防ぐ蓋であると共に、『神の恩恵(ファルナ)』を得た者やファミリアを管理する『ギルド』の拠点兼神々の居住区として機能している。

 

 過去において英雄譚を作られる英雄とはこのオラリオ設立に繋がるまでの物語を作った者の事であり、今現在において英雄譚になるような英雄は、正しくこのオラリオにて生まれるだろうと言われている。

 勿論、現在でも英雄と呼ぶに相応しいとされる実力を持つ者は既にオラリオに存在するが、それでもあくまで()()()()。英雄が必要となる状況でなければ生まれないのが英雄だ。

 その必要となる状況までに英雄としての実力を持ちたい者、迷宮(ダンジョン)での稼ぎに期待する者、『神の恩恵(ファルナ)』が欲しい者、その他全ての者達が集うのがオラリオだ。

 そして私の隣にいるこの少年。ベル・クラネルもまた、英雄願望を成し遂げる為にこの地にやってきた。

 

 

 

 

 ……やって来たのだが。

 

「フリーレンさん~。全然【ファミリア】が見つかりません~」

 

 あの爺が期待を寄せていた英雄候補は、そもそも受け入れてくれるファミリアが見つからないようだった。

 私自身はファミリアに入る気がないので適当に付いて回っていたのだが、どこのファミリアでも面接どころかホームの前で門前払いを受けまくっていた。街の人曰く、今最も力のあるファミリアの一つだという場所ですら門前払いだ。

 まあ確かに、ベルは見るからに若くて経験が無さそうだし、ちょっとオドオドした態度は所謂()()()()()()だ。身体つきもしっかりしてないところを見るに、成程確かに爺の言う通り「素質が無い」。

 しかし『神の恩恵(ファルナ)』という便利が過ぎるものがある現代、そこまで基礎能力は重視されないはずなのだが……門前払いをした奴の目利きがなってなかったと言うしかないだろう。

 

「そのうち見つかるんじゃない?」

 

「でも……」

 

 歩き疲れたのに加え、精神的にも参ってしまったのだろう。ベルはその場にへたり込んでしまった。

 バベルへと向かっている途中だろう冒険者をぼんやりと眺めている姿は、どことなく寂しくて死にそうな兎のようにも見える。

 私はこの子(ベル)の保護者ではあるが、爺とは違って居場所とはなり得ない。初めてベルと会った時からそれは変わらない。

 

「慌てる事はないよ。()()()いいファミリアが……いい神が見つかる」

 

「フリーレンさんの()()()って何世紀後なんですか……」

 

「失礼な。私だって長生きしてるんだから、人間基準の物差しで物事を見る技術ぐらい身に着けているさ」

 

「それを技術って呼ぶのが不安なんですけど」

 

 少し話して気が紛れたのだろう。「よっこいしょ」という掛け声と共にベルは立ち上がる。

 そうだ、それでいい。ちょっとやそっとぐらいで折れてもらっては困る。

 

「もう少しだけ、探そうと思います」

 

「分かったよ」

 

 そうして歩もうとしたのは裏通り。近道したかったんだか、別の要因かは知らないがあまり良くない行動だ。

 オラリオは今でこそこんな風に活気づいているが、数年前は目も当てられない状態だった。暗黒期なんて言葉でも表されるその時期は、正しく裏通りに入るのは暗黒期に活動していた闇派閥(イヴィルス)か、それともなければ自殺志願者かのどちらかだ。

 そんな暗黒期の名残が裏通りには多い。ギルドから闇派閥(イヴィルス)という疑いがかけられていたり、やましい取引がしょっちゅう行われている。

 だから私はベルを引き留めようと手を伸ばした。そこはやめとけと。その時だった。

 

「おーい、そこの君ぃ。路地裏は危ないからやめといたほうがいいよ」

 

 大通りの方からベルへと声が投げられた。

 声の主は黒髪ツインテールの少女……いや女神。幼い外見は子供のようにも見えるが、その独特な雰囲気は見る者が見れば神だと一発で看破できるだろう。もちろんベルのように勘違いする者もいるが。

 

「あ、ありがとう……えっと、君は? こんなところに一人なんて、迷子なのかな」

 

「君の方がよっぽど迷子のような顔をしているけど?」

 

 女神の顔が少し曇る。やはり子供扱いを受けるのは初めてではないようだ。出会い方は最悪と言えるだろう。

 しかしなかなかどうして、この女神は(ロクデナシ)の中でもいい神に見える。名はまだ分からないが、慈愛や家庭の神なのだろう。困った人間(子供)を見て手を伸ばす神は意外と少ない。

 そもそもの話、神々がこの下界にやって来たのは"娯楽"を求めてだ。この"娯楽"というのは、もちろん酒、賭け事などの人間目線から見ての娯楽も含まれるが、それ以上に神にとっては人間達が織りなすこの時代そのものが娯楽だという。

 娯楽の一つがファミリアだ。どれだけ大きく、立派なファミリアが作れるかというような経営ゲームのつもりらしい。中には国家単位にまでファミリアを広げた神だっている。

 そんなだから神はろくでなしが多い。10柱いたら9.99柱程度はろくでもない奴だ。ベルのような子兎を見つけたら、それをもって遊ぶのを楽しむような。

 ともすればこの女神は相当まともな方だと言って差し支えないだろう。

 

「へー、じゃあ君は色んなファミリアから門前払いされていたのか」

 

「は、はい……」

 

 目を向ければ、いつの間にか親身になってベルの境遇を聞いている女神。

 この流れは良い流れだ。

 

「……実は、ボクも今ファミリアの勧誘をやっていてね。丁度、冒険者の構成員が欲しいなぁーなんて思っていてね」

 

「入ります! 入らせてください!」

 

「い、いいのかい? 本当にボクのファミリアなんかで?」

 

 おかしい。

 あれだけいい流れだった筈なのに、そこはかとなく嫌な予感がしてきた。

 この予感はきっとアレだ。この女神、ファミリアの勧誘だの構成員が欲しいだの言っているが、そもそも一人も眷属がいないという奴だ。

 でも、それもいいのかもしれない。どんな勇者パーティも最初は小さな集まりだ。ヒンメルでさえ最初は二人だった。

 

「よし! そうと決まれば早速ファミリア入団の儀式をやるぞ!」

 

「はいっ! フリーレンさん! 決まりました! 僕、神様のファミリアに入ります!」

 

 ベルが私に向けて満面の笑みを向け、それに釣られて女神がこちらを向く。

 女神と目が合う。全てを見透かしたような、そんな目。あながち間違ってはないだろう。人は神の前で嘘を吐けない。

 少し意外だったのは、女神が驚いた顔をしていたことだろうか。私の事を知っていればおかしくはないのかもしれないが、オラリオに滞在したのは既に数年前。その際にこの女神を見かけた事は無いはずだ。

 だとすれば、私を知っている神が知り合いにいるということだろうか。

 

「君は……」

 

「私はフリーレン。よろしくと言いたいところだけど、私はあくまでベルの保護者だ。残念だけど貴女神(あなた)の眷属にはなるつもりはないよ」

 

「うん、()()()()()。……じゃあベル君、フリーレン君、付いてくるんだ!」

 

「え……え? 神様、フリーレンさん、一体二人共何を話しているんですか!?」

 

 

 

 

「ベル君はどうして冒険者になりたいって思ったんだい?」

 

「実は『迷宮神聖譚(ダンジョン・オラトリア)』に出てくる運命の出会いってやつに、小さい頃から憧れてて……」

 

「出会い? お相手は女の子って事かい? フリーレン君は違うのかい」

 

「フリーレンさんは祖父の友人ですから。でも、育ての祖父の『ハーレムは至高!』っていう言葉もあって……」

 

「君、絶対育ての親を間違ったよ」

 

 奥の部屋から駄々洩れの声を聞く。

 女神──ヘスティアという名らしい──に連れられてやってきたのは、古い書店。確か一番最初にオラリオにやって来た時からあったはずだ。

 古ぼけた書店だが、中の書物は新しい。これでも客はそれなりにいるらしい。

 

「ねぇ、ヘスティア様ってどんな神様なの」

 

「そうだねぇ……まあ本人に言うと怒るんだけど子供らしくて可愛らしい神様だよ」

 

 店主のおじいさんに話しかけるも、これといって目新しい話は無い。

 

「ヘスティアちゃんはとても優しい神様だよ。ここいらの皆はヘスティアちゃんのバイト先を知っているけれど、みんなヘスティアちゃんが大好きだ」

 

 みんなから好かれる神。

 ヘスティアという名は知っていた。炉と竈の炎を司る神だ。それから転じて家庭や家族を司る神でもある。良心的な神だと言える。

 しかしそれだけで内面を測る事ができないのが神というもの。全知全能なのにスケベな神もいるし、太陽や愛を司っている割にろくでもない神だっている。

 それとヘスティアを比べると……いや、比べるのもおこがましいぐらいにヘスティアは良い神だろう。

「あの神はろくでもない神だ」という話は結構聞くが、逆に「あの神は良い神だ」という声は意外とオラリオの中には少ない。

 昔からオラリオにいるような店主が言うのだ。こういう言葉は信用できる。

 

「さぁベル君。頑張っていこうぜ! ボク達のファミリアはここから始まるんだ」

 

「はい、神様!」

 

 元気な二人の声が書店に響く。

 それと同時に私は、一つの本を棚から見つける。新しい本の多い棚の隅に、埃を被った状態で置いてある古い本。

 特別な装飾なんて施されていないただの本は、しかし私には確かに光って見えた。

 本の背表紙を指でなぞり、埃を払う。そこにあった題は……

 

「おじいさん、これ……」

 

「ああ、その本かい? 儂が一番好きな勇者の物語じゃよ。今では知っている人も少ないがね」

 

「くだらない内容じゃない?」

 

「確かに他の英雄譚と比べればそういう話も多いかもしれない。でも、そのぐらいの方が真実味もあって面白いものだよ」

 

「うん、うん……私もそう思うよ」

 

『勇者ヒンメルとその仲間達』

 もう覚えている人なんていないと思っていた。どんな英雄もいずれは忘れ去られる。それを拒む為に生きていたというのに、結局私以外にヒンメル達を覚えている人なんていないと思っていた。

 でも、ここにいた。確かに残っているんだ。ヒンメル達との冒険は。

 どうか、どうか最後の英雄(ベル・クラネル)が歩む物語(みち)が、険しくもくだらなくてとても楽しい、クソみたいな思い出の残るものでありますように。

 

 

 

 これは、少年が歩み、女神が記し、一人の英雄が伝える【眷属の物語(ファミリア・ミィス)

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