改稿
パソコンルームを逃げ出すように出た俺は、広い校内を散策して回っていた。
校舎のエントランスとか、無駄に広い吹き抜けがあったり、その周辺からウィング状に各施設が広がっていたり、校舎の作りは日本の公立の中学高校と全く違う。
どちらかというと、欧米や日本の比較的新しい私立大学、身近なところだと巨大ショッピングモールなんかの作りに近い。
1Fが主に食堂や図書室、トレーニングルーム等の公共施設、2Fより上が特別教室などをはさんで、両脇のウィング状に延びる部分に中等部高等部の教室が連なっている。
学生にはエレベーターなど不要、と言わんばかりにエレベーターもエスカレーターもないのが困ったところだ。
2Fに上がる時は良かったのだが、階段を降りるときは上る時以上に脚に負荷がかかるらしい。
降り初めの一歩目でかくりと思った以上に脚の力が入らずにバランスを崩し、無意識に踏ん張ったつま先の力で逆噴射して勢いよく尻餅をつきそうになり、手すりに掴まって事なきを得るという一人オモシロ踊りを踊る羽目になった。
・・・丈夫な手すりでありがとう。
喉が渇いたのでお茶でもいただこうかと、食堂を目指して歩いていた時だ。
「あら~あなた、裾から包帯ひきずってるわよ~ん。」
妙な口調で、後ろから声をかけられた。
・・・なるほど、足元を見ると右足のジャージの裾から解けた包帯が伸びて床をなめている。
動き回っていたので、一番動きの激しい脚の包帯止めが外れてしまったのだろう。
このままずるずる引きずると、自分で包帯を踏んで転びかねない。
転びかけた瞬間に思わず力んだりしたら、場合によっては転ぶよりひどいことになるかもしれない。
とりあえず包帯を結んで邪魔にならないようにするかとしゃがもうとすると、
「その動き・・・私の出番のようね!
私に任せればあんし~ん!」
と、いきなり目隠しをされてあっという間に手足を拘束され、肩に担ぎあげられてどこぞへと運ばれてしまった。
そっと、柔らかいところに下ろされ、目を覆っていたマジックテープをバリバリと剥がされてようやく視界が回復する。
俺がいるのは一番最初にウマ娘世界で目にした場所、保健室のベッドの上。
拘束されたままの俺の目の前で仁王立ちしていたのは、白衣を着たテカッテカの真っ赤なボディコン服に金髪の怪しい仮面女、全く安心できない笹針師の安心沢刺々美だ。
・・・どこの夜のお店から抜け出してきたんだと言いたくなるその姿は、まさに変態だ。
アプリで出てきたときは、なんか昔の映像でこんなの着てディスコで踊り狂っていた時代があったらしいとか、リメイクの古いアニメでこんな格好のヒロインいたなぁ位にしか思っていなかったが、目の前にすると不審者を通り越してどこをどう解釈しても、変態にしか見えない。
こんなのが学園内を闊歩しているとか、トレセン学園のセキュリティはいったいどうなっているんだ・・・
笹針師だから一応医療関係者なのだとは思うけれど、腿に装着したレッグバンドにオモチャのようなハートの柄を付けた笹針を何本も挿していて、衛生的にそれはどうなの!と百回問いただしたい。
「放してくだ・・・」
「ちっちっちっち!
あなた、このままじゃ大怪我するわよ~ん。」
俺の文句を遮って、人差し指立てて制された。
「あなた、動きがおかしいの。
歩いてる姿でも、普通1の力で済むところを10の力を使ってる。
動き始めだけ、居合の達人みたいにとんでもない瞬発力を発揮してるわ。」
あれ?この人ってイチかバチかのポンコツ鍼師もどきじゃなかったっけ?
なんだかまともなこと言ってるように聞こえる。
「心と身体が乖離した症状が極端になるとあなたみたいになるの!
だ~いじょうぶ!
私にまかせて!
バッチリ治してあげるわ!
この私の針でね!」
目にもとまらぬ速さで太ももから笹針を取り出し、両手に構える。
ギラリ!と銀光が閃く。
やられる!と思いきや、変態笹針師は笹針を置いた。
ただのパフォーマンスかよ!
ごそごそと彼女はどこからかアタッシュケースを取り出して開け、縛られて動けない俺の指に何かを押し付けた。
「じゃじゃーん!
はい、同意書いただきました~!
じゃぁ治療に入るわね~ん。」
目の前に俺の拇印の押された治療同意書を見せつけられる。
ヤベェ!退路を断たれた!
しかも、この変態笹針師、ちゃんと免許持ってるらしい。
施術者のとこに免許番号書いてあるし!
「は~い、おとなしくしましょうね~。」
アタッシュケースから取り出された笹針じゃない、普通の針治療に使われる針が、あっという間に俺の首筋に打ち込まれる。
途端に、息はできてもまともに声を出すことも動くこともできなくなった。
「う~!う~!」
「肩を失礼しまちゅね~♪」
ジィィィ・・・とチャックが下ろされてジャージを剥かれる。
「あら、あちこち傷だらけじゃな~い。
賦活の針もいるかしらん。」
今俺の身体は包帯と傷パッチだらけだ。
変態笹針師は、10cmはありそうな髪の毛のような細い針を、ポンポンと肩を指先で叩いたかと思うと迷うことなく根元まで打ち込んでいく。
怪しいマスクの下の目は細く絞られ、緩い頭の悪そうな口調で喋っていた人物とは思えないほど真剣だ。
針はあんなに長いのに痛みどころか打ち込まれている感覚さえない。
クリクリクリクリ・・・
うわぁ・・・なんか針をクリクリ回してる・・・あんな長い針どこに入ってるんだいったい・・・
「ちょ~っとごめんなさいね~。
・・・あら、あなたブラしてないじゃな~い。」
シャツをたくし上げられた。
胸丸出しである。
てか、自分の胸生で見るのは初めてだったわ。
・・・あんまでかくねえな。
ポンポンポンポン・・・
変態笹針師の指が胸の中央を叩く。
え、ちょっと、そこは心臓の真上・・・
プスリ。
ぎゃぁぁぁ!
どう考えても心臓を貫いてるとしか思えない位置と深さに、針が潜り込んでいく。
クリクリクリ・・・
心臓の鼓動に合わせて、打たれた針がビックンビックン揺れてるんですけど!
大丈夫なの?本当にコレ大丈夫なの?!
そして、針は、お腹にも、ジャージもパンツも下ろされて腿の付け根にも、膝や手脚の指先まで。
全身に細い針を打たれ、プルンプルンと心臓の拍動に合わせて針の頭が揺れ動くハリネズミ状態。
こんなにも針だらけになってるのに全く痛みがないのが不思議だ。
「はい、お灸しましょうね~♪」
お灸?!
変態笹針師が、打った何カ所かの針の頭に、ピンポン玉くらいのもぐさを盛っていく。
「あ、火災報知器止めなきゃ。
えい!」
バスッ!
投げられた笹針が、天井の火災検知機を貫いて破壊する。
なんで世の中の無免許天才外科医とか変態笹針師はこんなにナイフ投げがうまいんだ・・・
「も~えろよもえろ~よ~ほのおよも~え~ろ~♪」
変態笹針師が取り出したチャッカ〇ンで、鼻歌交じりにもぐさに火をつけていく。
赤く赤熱した火の玉になっていくもぐさたち。
うぁぁぁ・・・・
ポトリ。
熱っつ!落ちた!燃えてるもぐさ落ちたって!
焦げてる!どことは言わないけど毛が焦げてるってば!
「あら、ごめんなさい。やり直すわね~♪」
変態笹針師はパッと無造作に燃えているもぐさの塊を手で払って床に落とすと、新しいもぐさを丸め始める。
もぐさを盛るな!
火をつけるな!
バカ~!
怒鳴って文句を言ってやりたいのに、首に打たれた針のせいでう~う~と言ううなり声しか出ない。
「さて、仕上げるわよ~ん!」
変態笹針師が枕の方に回ると、俺の脳天の髪をかき分け始めた。
まさか・・・
チャキン!
それなりの質量を持った金属の奏でる音がこだまする。
「そ~れブスッと回復、あんし~ん!」
ザクッ!
はうわ!
脳天に!笹針がっ!
ザクって言った!ザクって言った!
「・・・ん~違ったかしら。
手ごたえがいまいちね~。」
おい!
違ったじゃねえよ!
ア〇バかてめえは!
「ホントはこっち!てへ!」
ザクッ!
ピュッピュッピュ~・・・・
ああああ・・・なんか噴いてる・・・なんかが大量に脳天から抜けてく・・・
「がんばれ♪がんばれ♪悪い血いっぱい出せてえらいね~♪」
・・・もう突っ込む気も起きねえ・・・
「は~い、成功よ~ん!
これで2~3日もすれば、身体の異常な力みは取れていくわ~ん。
おだいじにね~アデュ~♪」
全身に刺さった針を一瞬で回収すると、変態笹針師は風のように姿を消した。
・・・針抜かれてもまだ身体が動かんのだが。
服ひん剥かれたままなんだが。
せめて服を戻すか布団くらい被せてけよ!
おい!
・・・身体が動くようになったのは30分くらい経ってからだった。
その間誰も来なかったのが不幸中の幸いだ。
そして、あのですね、枕もとが猟奇的に血だらけなんですけど。
脳天から噴いたらしい血が、ベッドから床まで一直線に真っ赤な跡を付けていた。
なんで俺がこんな後始末を、と思いながら床とベッドを大量のティッシュで拭き取ってきれいにする。
途中、乾きかけて落ちない染みがあったので保健室の水道でティッシュを濡らしに行ったのだけれど・・・
触れた感覚が希薄でとんでもない力が出ていた今までと違って、水道のハンドルを掴んだ時に、何かを掴んでいる、という感触がある。
ベッドの手すりを握ってみても、今迄みたいにミシっとかギシっとかきしむ音も減ったような?
変態笹針師、一応は『成功』とか言ってたから、もしかして触れたものすべてを破壊するような事態からは逃れられたのか?
まだ完全にはその成果を信用はできないものの、少し希望が見えた。
枕とシーツは・・・血だらけでもうダメだろう。
シーツと枕カバー外して畳んでおくしかない。
保健の先生ごめんなさい。
頭の血はよほど勢いよく噴いたのか、鏡で見た感じ髪の毛とかをひどく汚してるわけじゃなかった。
脳天に小さな傷があるだけだ。
保健室の中にあった蒸し器の中のタオルを拝借して頭をわしわしと拭く。
ひどくは汚れていない、とはいえ、拭いたらタオルが茶色く染まった。
このタオルももう再利用できないだろう。
フタのついた金属製の廃棄物入れに汚れたティッシュなんかと一緒に突っ込む。
なんか、学園の備品ダメにしまくってるな俺・・・
引用した歌詞、著作権消滅の有名曲ですがカバーもあるんですよね。
一応消滅の方の楽曲コード入れましたが。