手持ちのカードがしょぼいのでダートのウララと、マックイーンが手ごわい~
ゴボボボボ・・・・
あ~ジャグジー気持ちいい~天国だ~・・・
たづなさんと二人向かい合って足を延ばしてまだ余る広い浴槽。
金ラメ入りの黒い樹脂の浴槽の底から大量に上がってくる気泡が、全身をマッサージしてくれる。
特に脱臼した股関節。
太もものあたりの微妙に痛いような、力の入らないような妙な感覚が解きほぐされていく・・・
お湯が温めなのもいい。
もう永遠に入っていたい。
「そろそろ上がりましょうか。」
たづなさんが、上がってしまわれた。
・・・ああ、天国の時間は終わった・・・
そして、また髪と尻尾のお手入れ地獄がやって参りました。
身体と髪を拭いて、あのコンビニで買ったアダルトな黒いのを履いて、バスタオルを肩に羽織る。
今までトランクスだったから締め付けはなかったんだけど、これは競泳のブーメランパンツとかブリーフ履いた時の感触に似てるな・・・
タオルでざっと水気を吸わせた後に、オイルミストを吹いてブラシで梳きながらドライヤーで乾燥。
ドライヤーも近づけすぎると髪が縮れちゃうからと距離指定まであるし。
尻尾は尻尾で、なんかめちゃくちゃ艶が出るとかいう別なトリートメントを吹かれた。
髪と尻尾乾かすだけで30分以上かかったよ。
でも、さすがに手間をかけただけあって、髪の毛も尻尾もさらっさらのつやつや。
髪の毛の束を手に取って光に当てると虹が髪束に浮かび上がって見えるくらい。
たづなさんは髪の毛短めなので結構さっと終わってたから、短髪いいな~髪の毛切って短くしたいって言ったら、もったいないと大反対された。
ダメですかそうですか。
汗が止んだところで、傷に軟膏と傷パッチを、あざになっている部分には鎮痛消炎剤を塗って包帯で巻いていく。
血行が良くなっているせいか、鎮痛消炎剤がスーッとしてすごくきもちい・・・いたた!
腿の内側、皮膚の薄いところに塗り過ぎた!しみる!
って、ウマ娘用のこういう薬は、解毒作用の高いウマ娘に合わせてヒト用のものより3倍くらい濃いの?!
湿ったタオルで拭きとって事なきを得たけど、ウマ娘専用品はちょっと気を付けよう。
そして、コンビニに売ってたスポーツブラなんだけど、チャックもホックもなく頭をくぐらせて着るタイプだったので髪の毛がめちゃくちゃ邪魔だった。
背中のバンドに挟んでしまった髪の毛を引っ張り出すときに、まだ湿っている肌に髪の毛張り付いてるもんだから、突っ張る突っ張る。
そんな大きくないし、なんかつけててもつけなくても一緒な気がするんだけど、と、ぼやいていたら
「・・・走ればわかりますよ。」
となんか遠い目で答えられた。
走らなければわからない何かがあるんですね・・・
若干湯冷め加減だけど、パジャマを着てカーディガンを羽織り、脱衣所を出て部屋に帰る。
カードキーをひらひらさせながら、
「あとで、予備のカードキー渡しますからなくさないでくださいね。」
と、たづなさん。
こんな億ションのカードキー預かるとかちょっとドキドキもんなんですけど。
玄関を上がるとたづなさんが湿ったタオルなんかの洗い物を、洗濯機の横のかごに放り込んでいるので俺もそれに倣う。
「冷蔵庫の中に冷たいものはいろいろ入ってますからご自由にどうぞ。」
たづなさんも、冷蔵庫から例の金虎ビールを一本取りだして早速開けている。
うん、さすがに結構長湯をしたので喉が渇いた、いただこうかな。
冷蔵庫から同じビールを取り出してプルタブを引く。
カシュッ!
「えっ?!」
ゴッゴッゴッゴッ・・・プハァ~!
「風味が濃くてうまいですねこれ。・・・あれ?」
たづなさんが目を見開いて固まっている。
「・・・お風呂上りに迷わずビール開けて飲むとは思いませんでした。
本当に中身おじさんなんですね・・・」
「?・・・あっ!」
俺、今未成年だったよ。
「・・・それ一本だけですからね?
アルコールは傷によくないんです。
明日のお風呂で地獄を見ますよ?」
ああ、うん。
擦り傷治りきらないで酒をがばがば飲むと、傷から汁がたくさん出てひどいことになるのは昔経験した。
未成年はダメ!と、飲みかけのビールを取り上げないのは、たづなさんの慈悲だろうか。
風呂上がりのビールのうまさ知ってると、それを取り上げるのは酷だってわかるからだろうなあ・・・
ありがたくビールをいただいていると、缶から漂ってくる香りがやけにアルコール臭い。
何の気なしに缶を見たら9.5%もあった。
ストロングビールか、これ。
冷蔵庫の中こればっかりだったような。
ガサゴソとたづなさんがビール飲み飲み、コンビニで買ってきたデリ弁当を温め始める。
台所で踊るようにお弁当をレンジでチンするキッチンドランカーウマ娘。
「ママ、お料理しながらお酒飲んじゃダメなんだよ!」と子供に諭されてるたづなさんが脳裏に浮かんで噴いた。
酒を飲んでみてなんだけど、全く酔いが回ってくる気配がない。
これがウマ娘の解毒能力って奴か。
胃はちょっとポカポカしてる感じはするし、傷は軽くうずいてはいるけれど、顔に血が上ったり体温が急上昇する酔いが回った時特有のあの感じが全くない。
たづなさんも顔に全く出ていないどころか、冷蔵庫を開けて2本目に突入だ。
食事どころか飲み代まで高くつく上に酔いにくいとか、ウマ娘に生まれるってのも善し悪しだな。
レンジから、デミグラスソースっぽいいい匂いがしてきた。
たづなさんはビールを、俺は冷蔵庫の中のビンに入っていたベリーのジュースをお供に夕食をいただいた。
明日は、たづなさんは普通通り勤務があるので、俺一人で病院だ。
学園から病院に連絡を入れておいてくれるそうで、整形外科に名前を告げればウマ娘専門のお医者さんが診てくれるそう。
移動は、タクシーを使えとのこと。
実際問題、ウマ娘レーンなるものがあるこの世界の交通法規や道路上での人や車の動きを俺は知らない。
知らない道を、おのぼりさんよろしくきょろきょろしながら歩き回る時間はなるべく減らした方が安全、ということだろう。
タクシーは、ここの一階のカウンターで呼んでもらってもいいし、ウマホのアプリで呼んでもいいと。
「あっそう言えばウマホ!充電切れてた!」
このウマ娘世界に来た時に、なぜだかウマホの電池は電源を入れることができないほどすっからかんになっていて、充電器もないのですっかり忘れていた。
「この型なら、私のとコネクタが同じですから充電できますよ。」
たづなさんが充電ケーブルを持ってきてくれる。
壁際のコンセントに、USB端子があるのでそこに繋ぐと、ウマホの充電ランプが赤く点灯した。
ウマ娘世界に来てから一回も電源を入れてなかったので、電源を入れてみる。
『docoma』
電源投入後、一発目に表示されたのがこれだ。
起動してみると、おおむね使い勝手は変わらないけれど、どこか違う。
アプリにウマ娘は・・・無いな。
ウマッターにウマチューブ・・・これはあれだろう、なんとなくわかる。
どこまでもウマ推しらしい。
電話帳が見事に真っ白になっていたのはちょっと悲しい。
特に実家。
もう両親ともにいないが、弟が家を継いで住んでいる。
唯一の肉親と、もう連絡がつかない。
家を飛び出して好き勝手やってはいたけれど、さすがにくるものがある。
「とりあえず、連絡先を登録しませんか?」
にゅっとたづなさんが手を差し出してきたので、充電ケーブルをつないだままの携帯を差し出して場所を変わる。
お互いの携帯にワン切りを掛け合って電話帳登録してるみたいだ。
「はい!登録しました。登録できました!」
たづなさんが嬉しそうに俺の目の前に携帯を突き出したせいで、充電ケーブルがすっぽ抜けた。
あれ?たづなさん、酔ってる?
顔色は全く変わっていないのだけれど・・・
げっ!ビールの空き缶が5つも転がってる!いつの間に!
あわあわと充電ケーブルを挿し直したかと思えば、トイレ・・・と一言残して部屋を出ていく。
足取りはしっかりしてるんだけどな。
とりあえず、タクシーアプリをインストールしていると、たづなさんが帰って来た。
新しいビールを片手に。
まだ飲むんですか、たづなさん・・・