改稿
文体を40話前後の書き方に統一しました。
暗い暗い空間を抜けるとそこは・・・
身動きの取れない真っ暗な空間だった。
バイクと共に暗闇の中を落ち続け、マグマのようなものの中に突っ込んだ、と思った瞬間、気が付けばこのざまだ。
俺は今、万歳をするような状態で上半身をがっちりと固められて身動きが取れなくなっている。
腰から下はフリーなようで、ジタバタ脚を動かすと壁らしきものをガツガツとつま先が蹴るのだけれど・・・
足を重力に引かれるまま下に伸ばしても、つま先に何も触れやしない。
身体の感触からして、ヘルメットを被ってプロテクター付きのバイクウェアも身に着けているらしいが、この万歳ポーズの形でコンクリに埋められたように隙間がなく、まったく身動きが取れない。
膝を壁らしきところに立てて踏ん張ってみたり、脚を振り子のように動かしてもがいてみたりしたものの、上半身を覆う硬い何かからの脱出は叶わない。
それどころか、やたら脚を動かしたせいで急激に体温が上がったうえに、息苦しくなってきた。
もしかしてこれ、密閉空間か?!
ヘルメットと服の隙間にある空気が呼吸できる空気の全て?!
だ~れ~か~!
タスケテ~!
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「困惑ッ!
たづなよ、これはどうしたものか。」
「・・・・・」
中央トレセン学園理事長秋川やよいと、その秘書駿川たづなは目の前の光景に戸惑っていた。
忙しない朝の登校時間帯も過ぎ、学園生が教室にすべて収まった今、校内は歩くものもほとんどなく静かなものだ。
学園生が朝のHRを終えるまでのわずかな時間、見回りを兼ねて二人で校内を散歩するのが日課であり、朝のひそかな楽しみでもあったのだが・・・
中庭の三女神像前に差し掛かった時、音もなく突然それは現れた。
三女神像の台座の中ほどから、瞬きする合間に突然生えた白い尻尾のウマ娘の下半身。
ジーンズと、ごついシューズを履いたそれはやがてジタバタと暴れだし、膝を立てて身体を抜こうとし、再び暴れてはだらりとぶら下がった。
助けを求めるようなくぐもった呻き声も聞こえる。
そして、三女神像の脇の植え込みの上にめり込んで横たわる赤い大型のバイク。
こんなものはさっきまでなかったはずだ。
だいたい腰の高さほどある植え込みの上にこのバイクがどうやって載ったというのか。
学園内敷地は許可なき自動車の類の乗り入れは禁止であるし、たづなは先ほどまで校門前で朝恒例の出迎え挨拶をしていたが、バイクのエンジン音を聞いた覚えはない。
やはり忽然と現れた、としか思えなかった。
「ややっ!
私のウマ娘ちゃんセンサーにびびっと反応があったので来てみれば、壁尻ですとッ!
薄い本の中にしかないと思っていたシチュエーションが現実にッ!」
いつの間に現れたのか、ピンク髪の小柄なウマ娘がハァハァしながらスマホを台座に向けていた。
「デジタルさん、まだ朝のホームルームの時間でしょう?」
堂々のサボりにたづなが眉をしかめる。
学園生は各自所属の教室でホームルームの時間帯、彼女ら3人と台座から生えたウマ娘以外あたりに人影はない。
このアグネスデジタルという重度のウマ娘オタクな彼女は、自分がウマ娘であるにも関わらず、ウマ娘の尊みに触れるためにウマ娘の集まるここトレセン学園を目指したという妙な入学理由を持つ。
彼女には時折ウマ娘センサーに反応が!と授業等をすっぽかしてはその衝動の趣くままにウマ娘の決定的シーンに突撃する悪癖があった。
困ったことに、彼女は基本、品行方正、勉学優秀、ウマ娘レースにおいても芝、ダート問わず優秀な成績を修めてしまうという、悪癖を咎めるに咎めがたい優秀な生徒なのだった。
「はっ!そうでした!
学生の本分を忘れてはウマ娘ちゃんを堂々と追いかけるなど・・・お?」
一瞬正気に戻ったデジタルが葛藤を口にしかけるも、その視線の先の三女神像の台座から生えたウマ娘の下半身に尋常ならざる異変を目にして言葉が止まる。
ジタバタと暴れていた下半身の動きが止まり、ひきつけを起こしたようにびくびくと痙攣を始める。
そして、だらりと、尻尾も、脚も、力なく重力に引かれて垂れ下がり動かなくなった。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・たづな、あれ、まずいのではないか?」
三女神像は結構でかい。
台座も、それなりに厚みがある。
ウマ娘の上半身が埋まったとて、台座の半分の厚みにも満たない。
隙間なく穴にはまっていたとしたら・・・
たづなはダッシュで台座にかけ寄った。
「デジタルさん、そっちの脚を持って引っ張ってください!」
「はい!とりゃぁぁぁ~!」
引く方向を指示していなかった故に悲劇が起きた。
メキメキ・・・ゴキ・・・
台座から生えた脚が左右に割り裂かれる。
デジタルは右に、たづなは左に、渾身の力で引っ張る。
ムグー!と、くぐもったうめき声のようなものが聞こえる。
突然股裂きを喰らった彼女はまだかろうじて意識があったのか、立てた尻尾で抱えられた脚のあたりをパシパシとタップし始めた。
「待って待って!彼女の股が裂けちゃいます!両脚を一緒に抱えて引っこ抜きましょう!」
「了解ですっ!そりゃぁぁぁ~!」
彼女のはまった穴の周囲からパラパラと砕け始めた台座の破片が落ちる。
ビシッ・・・パキパキ・・・ミチミチミチ・・・
不穏な音が台座の方から聞こえる。
果たしてそれは、台座の石材が砕ける音なのか、引っ張られているウマ娘の身体が砕ける音なのか。
徐々に、穴の周辺に放射状のヒビが入り始めた。
引っ張られている彼女の尻尾は毛叩きのように広がって痙攣を繰り返すのみだ。
「このままではらちがあきません、タイミングを合わせて一気に引っこ抜きますよ!」
「はい!
三女神様、台座に足をかけることをお許しください。
これもウマ娘ちゃんの為なんです・・・
では、せーの!」
たづなの、タイトスカート表面に筋肉の形がくっきりと浮き上がる。
デジタルの、細く見えるふくらはぎがもりっと膨れて硬さを増し台座を蹴り締める。
ミリミリと抱えた脚にまとわれたジーンズが裂けていく。
そして、二人の力技に、台座は屈服した。
一瞬で台座の石材にヒビが広がり埋まっていたウマ娘がすっぽ抜けた。
「彼女は無事かッ!?」
「ええ、気絶はしていますが、見たところ擦り傷と、打撲と・・・内出血・・・」
たづなは少し言いよどむ。
最初は無事だったはずの彼女の下半身。
彼女を救助するためとはいえ、渾身の力でもって引いたためか、裂けてちぎれたジーンズから見える生足は、たづなとデジタルが握りしめた指の跡がくっきりと紫色に変色して腫れあがっていた。
ジーンズはほとんど腰回りを覆うだけのボロ布と化し、上半身は砂だらけのTシャツがまくれ上がり、もはや原形をとどめていないジャケットの残骸がまとわりついている。
上半身いたるところが擦り傷で血が滲み、地面に乱れ髪を敷いて白目で泡を噴いて気絶しているという無残な状況だ。
「見覚えのないウマ娘ちゃんですね。
年恰好は私と同じか少し上くらいに見えますが。
あれだけ引っ張ったんです、脱臼とかしてませんかね?」
「とりあえず保健室に運びましょう。」
「おまかせくださいっ!私が迅速かつ丁寧に彼女を保健室までお運びいたしますっ!よいしょっ!
ハァハァ・・・ズタボロウマ娘ちゃんの重み・・・尊い・・・これは捗りますぞぉ~!」
妙なセリフを吐きながら、デジタルが謎のウマ娘を背負って保健室の方へ駆け去った。
「何とかなりましたね・・・理事長?」
やよいは、三女神像の前に立ち尽くしていた。
学園のシンボルである三女神像の台座に開いてしまった巨大な穴。
一人のウマ娘を助けるため、とはいえ、その代償はあまりに大きすぎた。
「絶望ッ!
たづな!たづなよ!
明後日先代が来るのだ!
この大穴が見つかれば大目玉を喰らってしまう!
なんとか、なんとかならんか!?」
たづなはちょっと考える。
この三女神像は、像、台座ともに高名な芸術家や職人の手によって作られたもの。
開いてしまった大穴は、穴だけでなく周辺にまでヒビが入り、おまけに中にはあのウマ娘が身に着けていたと思われる衣服の切れ端が、台座の石材に同化するように埋まっている。
そこいらの左官屋に頼んでちょいちょいとコンクリで埋める、というわけにはいかないだろう。
「何ともなりません。
明後日のことは明後日考えましょう。
どうせ、なるようにしかなりませんし!」
「たづなぁ~~~・・・」
理事長に、救いはなかった。