今日の夕食はたづなさんが買ってきた、好きなお惣菜を詰め込んでグラム売りしてくれるお店のお弁当。
和洋中いろいろ混じったお惣菜を二人でつまみながらの夕食。
「ウマ自は、ウマ娘の孤児や訳ありの子供の自立を支援する機関でもあるんですよ。」
はい?
ウマ娘自警隊。
戦後、日本軍の代わりに発足した陸上自警隊の一部で、後方支援任務を主に担当する。
ウマ娘の超人的な体力を生かし、自動車やヘリの入れない山地などの任務や、補給、支援などで迅速な作戦行動に貢献する。
小学校卒業の資格があれば、入隊試験は受験可能。
ここまでは、ウマホで調べられた。
けどあっちの世界の自衛隊って、鉄砲撃ちたくて、戦車に乗りたくてみたいな邪な理由で入隊するか、ちゃんとした人は防衛大学に入ってエリート目指す例は知ってるけど、子供の自立支援なんて話は聞いたことがない。
ウマ娘世界の自警隊というのはちょっと違うようだ。
「ウマ娘って、よく食べるでしょう?
そのうえ、子供でもヒトの大人顔負けの力がありますから・・・
親の経済力の問題で、ウマ娘が単純に育てられない例はもちろんあります。
ただ、それ以上に多いのが、ヒトとヒトの間にウマ娘が生まれてきてしまうと、親がその・・・育児中に大怪我してしまったりで、結構ウマ娘の孤児って多いんです。」
ああ・・・なるほど。
ヒトの子一人が経済力の限界の家庭にウマ娘が生まれちゃったり、母親がウマ娘じゃない家庭にウマ娘が生まれちゃうと手に負えなくなってしまうのか。
「児童養護施設なんかもあるんですけれど、家庭に問題があって育った子はひねくれてしまう子も多くて。
小学校を卒業する頃のウマ娘なんて、暴れられたらヒトじゃもうどうにもなりませんからね。」
「そこで、文武に秀でたウマ娘だらけのウマ自に入れて、しつけしてスキルを身につけさせて、自立できるようにしよう、ってわけか。」
「はい。
ウマ自も無制限に孤児を受け入れられるわけではないですし、いくら能力があっても子供を余りに危険な任務に送ると世間からの突き上げが来ますからね。
ある程度スキルを身に着けて、民間で就職先を見つけると卒業ってことになります。」
「それでなんか警察官の態度が生暖かいものになったのか・・・」
「たぶん、中学生くらいなのに一人で社会に出て頑張るえらい子、って感じで見られていたんでしょうね。」
ふふっと微笑まれる。
ウマ自に所属する子供、あっちの世界だと、新聞奨学生あたりが近いかなあ・・・
新聞奨学生は不登校の子供とかがやってるのを聞いたけど、このウマ娘世界でウマ自のお世話になるような孤児は、たぶん数が段違いに多い。
意外とウマ娘世界もキッツいとこあるなあ。
「大きいウマ娘の警察官ですけど、ウマ娘にもいろいろいるんですよ?
トレセン学園に入るようなウマ娘って、もう走るために生まれてきたようなすらっとした子が多いんですけど、そうじゃないウマ娘もいるんです。
走るのは私たちほど速くないんですけど、手足が太く頑丈で故障知らず、ウマ娘の中でも特に耐久性と力に特化したようなウマ娘ですね。
彼女たちはだいたい身体が大きいです。
彼女らと組み合ったら絶対勝てませんよ。」
「そんなに違うの?」
「はい。
パワーだけだと最低でも私たちレースをするようなウマ娘の1.3倍くらいあります。
すごいウマ娘だと握力がトンを超えますよ?」
うわ~、アイアンクローされたら頭蓋骨割られそうだ。
「ウマ自の卒業生は、それはもう厳しくしつけられているので、ウマ自出身、ていうだけでそこそこの信用はあります。
少なくとも、まじめに働く常識をわきまえた子、という感じで。
でも、こういった国の支援制度からあぶれてしまう子もいます。
悪さする子、って言うのも、万引きやひったくりをする子たちのことでしょうね。
主にヒトを狙って、ウマ娘の脚で逃げ切るんです。」
「最初は、俺もそうみられていた、と?」
「平日の昼間なのに繁華街なんかうろついて、まっすぐ帰ってこないからですよ?」
怒られた。
今日買ってきた大荷物を見て、たづなさん、あ~あ、って顔してたもんな~。
ヘアケア製品は、まあこれなら、って合格点を貰ったけど。
「たとえウマ娘でも、人通りがあまりないところで、金目のものをひけらかしていると襲われますからね?
万が一、こういった強盗のウマ娘に会った時は、人目のある方に迷わず逃げてください。
絶対に、立ち止まって戦おうとしないでください。
ウマ娘の強盗は、相手がウマ娘だと冗談抜きで殺しに来ますから。」
うわ~お。
ウマ娘世界の日本て、場所によってはアメリカのダウンタウン並の治安だったのか。
何でも、ウマ娘の凶悪犯とみなされると、警察官には警告の後の射殺が許可されているとかで、あっちの世界の警察官みたいに威嚇射撃して散々ためらったのちに脚に向かって発砲とか、そんな優しくはないらしい。
おっかない。
ちなみに、ウマ娘同士で殴り合いの『けんか』になった場合は、もう無理ぃ~!ってところで降参の様子を見せたら、大抵そこで終わるそうだ。
変なところで動物の本能に忠実なんだな。
しかし、孤児にストリートチルドレンか。
あっちの世界じゃ戦後30年もしたらほとんど見かけなくなったと言われてたけど、ウマ娘世界だとウマ娘という存在自体が引き起こしてるずっと続いている問題なのか。
夕飯を食べ終わって、まったりモードの時に、ちょっとかしこまってたづなさんに当面の生活費を手渡した。
「いきなりでぶしつけかもしれませんが、この世界で右も左もわからない俺の面倒を引き受けてくれてお礼のしようもないです。
当面の生活費の足しくらいにしかなりませんがお納めください。」
金額にして10万円。
たぶん、たづなさんの収入からすれば、お小遣い程度の額。
数週間、たづなさんにご飯を食べさせてもらうだけで消えるくらいの額。
でも、あっちの世界でおっさんでした、と宣言しておいて、三女神に託宣されたからってそれに甘えてたづなさんのヒモ生活を楽しむほど俺は落ちぶれてはいないつもりだ。
元社会人としての最低限の矜持、けじめって奴かな。
・・・それに、酔っぱらっていたとはいえ、たづなさんが自ら『おかあさん』を名乗ったんだ。
孤独だったかもしれないウマ娘世界で、『帰って来てもいい場所』ができた。
あの自称女神のおかげもあって、って言うのがちょっと癪だが。
決心はついた。
「俺は、2週間して怪我が治ったら、トレセン学園で走ってみます。
たづなさんのご期待に沿えるかわかりませんが。」
一瞬、困ったような顔をしたけれど、たづなさんはお金を受け取ってくれた。
「私がこれを受け取って、あなたが気持ちよく走ることができるなら、受け取ります。
頑張ってくださいね。」
『がんばってくださいね』、かつてアプリで、何度も何度も聞いた言葉だ。
それが直接俺に向けられる日が来るとはね。
「・・・ただ、トレセン中央に集まるウマ娘は勝つことに貪欲です。
それ以上に、いい加減な気持ちでレースに臨まれるのを嫌います。
勝っても負けても、レースに全力で挑むことだけは忘れないでください。」
俺は黙って頷く。
いい加減な気持ちで臨めば噛み殺されるぞ、とたづなさんの目が語っていた。
・・・はずなのだけど・・・
なんで徐々にジト目に変わっていくんですかね?
「ところで・・・受けとったのはいいんですけど、このお金は、やましいお金じゃありませんよね?」
あ、あれ?
俺なんか疑われてる?
「ま・さ・か、とは思いますが、警察の方に目を付けられたのって・・・」
「い、いや!ちゃんと前の世界の稼ぎですよ!?
三女神様が気を利かせて貯金をこっちに持ってきてくれたんです!」
「ホントですね?
信じますからね?」
まさかの怪しいお金扱い。
この流れでそりゃないよ、たづなさん。