ウララは・・・レースで稼げる称号とポイントがしょぼいので、とるスキルをカードと継承で吟味しないと先が長そうです~
夜、たづなさんも飲み過ぎてへべれけになることもなく、一緒のベッドで寝た。
「ラベノシルフィーさんのこと、教えてくれませんか?」
と言うので、寝付くまでの間、話をしたよ。
あっちの世界でのこと。
なんでそこまで走ることを怖がるのか。
運動音痴とコンプレックス。
特に、弟がいて、その弟が学校の学年1~2を争う運動神経の持ち主だったことを話したとき、ヒトの世界でも似たような話はあるんですね、と同情された。
ウマ娘は、姉妹として生まれてきたウマ娘の姉が活躍すると、妹が過度に期待される、もしくはその逆で、妹があんなに走るのに姉は、と言った評価に、プレッシャーで押し潰されてしまう話はよくあるそうだ。
この辺は同じ親から生まれたにも拘らず、兄弟姉妹似なかったりするのと一緒と言えば一緒だな。
それに加えて、同じ血縁の一族に固まって同じ冠名のソウルネームを持つウマ娘が生まれてくる傾向があるとはいえ、全く似ても似つかない無関係と思われるソウルネームのウマ娘が生まれてくることも珍しくないらしい。
あっちの世界での俺の家庭環境は、家族の仲が悪いわけじゃなかったけれど、俺が学校のテストで100点をとっても親は頑張れとしか言ってくれなかったけれど、弟が小学校の運動会や中学校の体育祭で1位をとった時は誕生日会並にケーキなどを用意されたのを、なんで・・・と理不尽さを感じながら祝っていたのを覚えている。
学校のテストは日常、運動会なんかはイベントだから格が違う、って言われてしまえばそれまでなのだけれど。
弟が運動で活躍するたびに、『お前も身体が丈夫だったらねぇ・・・』と言われ続けたよ。
身体が丈夫だったら、弟のように運動ができたかもしれないのに、ってね。
親の言葉に悪気はないのはわかっている。
でも、それって子供心に結構刺さってたんだ・・・
変なところで、俺の境遇とウマ娘世界の姉妹比較がかぶってて、苦笑いしか出ない。
俺と同じく姉妹で比較されて悔しい思いをしているウマ娘もさぞかし多いのだろうな。
「・・・でも、弟さんは弟さん、あなたはあなたで、進む道は違ったのでしょう?
ウマ娘だって、姉妹だからって同じ道を歩むとは限りませんし。」
うん、弟は文系の大学に進んで、不動産屋に就職した。
さっさと結婚して子供もいる。
俺は、理系の大学に進んで、バイク三昧の生活を送った。
そして何の因果か、ウマ娘になってここにいる。
「あなたはあなたです。
ウマ娘の、ラベノシルフィーとして、できることをすればいいんですよ。」
そんな言葉に、安心してすっと寝つけた気がする。
朝、8時。
家主は働きに出かけているのに家主より遅く起きるとか、ちょっと申し訳ない気もするけど、たづなさんと同じ時間に起きてもやることがない。
とりあえず、軽く何かお腹に入れてから、トレセンのジャージを着て、散歩に出かけることにする。
シリアルをキッチンの開き戸から引っ張り出して、お皿を出す。
そう、俺はついにお皿を割る心配なく手に取ることができるようになった。
ことあるごとにあちこち破壊していた俺のしつけの悪い手なんだけど、昨日あたりから急激に力加減がヒトだったころの感覚に戻りつつあるんだ。
あれ?と思ったのは昨日の夕ご飯の後。
昼間も、ラーメン食べる時に箸折らなかったな、と。
あんまりにも普通に使えていたんで、自分でも気が付かなかった。
試しに、お弁当についてきていた割り箸を手に取って使ってみる。
箸を指で挟むとしっかりとした感触があり、力を指先に込めると箸がしなるのがわかる。
ウマ娘世界に来た初日に、理事長室でお昼ご飯を頂いたときは、指で触れるものすべての感覚が薄かった。
指で、ちょっとつまんだ、という感触が実はコインを折り曲げるレベルの力入ってました、そんな感じだったんだろうと思う。
それが今は、ヒトが物を手に取った時の感触そのまま感じ取れている気がする。
触覚が、50kgで押しているのを1kgしか出てないよ?と嘘をつくのをやめてくれた感じ。
その上に、ウマ娘として出そうと思えば上乗せした筋力を出せる、そんな感触。
とりあえず、ウマホでスワイプする時に、力が入りすぎていて液晶表面をスワイプした指の通った後が変色するあの気まずさを感じなくて済むんだよ。
こればっかりは変態笹針師に感謝だ。
ただ、今度はヒトの腕力の限界点以上の領域のウマ娘パワーを出したときの加減がわからない。
このぐらいの力を出したら人間は怪我をしますよ、って言う、ウマ娘が子供の頃遊びで身に着けるはずの力加減がわからないんだ。
今の俺がゴルシキックの真似をしたら人死にが出るかもしれない。
全力を試すのは時と場所を選ばないとな・・・
まあこれで日常生活がまともに送れそうなのはありがたい。
・・・そして、軽く、お腹に入れただけで、昨日と今日の2日で1kg袋のシリアルが空になった。
で、なんでトレセンのジャージを着て外出しようとしているかと言えば、昨日たづなさんに言われたからだ。
「歩けるなら少しでも身体を動かしておかないと、太りますよ?」
「・・・」
ウマ娘の身体になったからと言って、その能力をこれっぽっちも使うことなく、怪我をして食っちゃ寝。
しかもヒトの3倍くらい食べ続けている。
中身がおじさんで、女性として美しさを極めようなんて気がないにしろ、太っていると言われるのは性別年齢問わず気になるもの。
だけど、昼間から出歩いて、昨日のような補導未遂は避けたい。
「トレセンのジャージがあるから着て行けばいいじゃありませんか。
このあたりならそのジャージ姿のウマ娘を不審者扱いする人はいませんよ?」
仮にもトレセン学園の職員が部外者にそのジャージ着用を勧めるとは思ってもみなかったのだが・・・
「もう部外者じゃなくなるんですから。」
その一言で、それもそうかと納得してしまった。
それに、トレセン学園の学園生は午前中は座学で校外に出てくることはまずないため、出くわして根掘り葉掘り、というのも心配ないらしい。
マンションを出たらまっすぐ下って、河川敷に出たら河川敷のサイクリング兼ウマ娘ロードを適当に散歩して帰って来るのがお勧めとのこと。
行けるなら、府中駅前まで歩きで行って、雑用を済ませるのもいいかもしれない。
例え途中でもう無理ぃ~状態になっても、ウマホがあれば、どこでもタクシーが呼べる。
いざとなればそれで帰ればいい。
トレセンジャージに似合わない、あのごついライディングシューズを履いて俺はマンションを出た。
昨日買ったウェストポーチは買って正解だった。
ウマホと財布をジャージのポケットに入れるとかさばるので邪魔でしょうがない。
財布が小銭で重くなっているので、ズボンが重さで下がってくるのも鬱陶しい。
それがウェストポーチに入れてしまえば全部解決する。
マンションに面した通りは、結構広くて、普通にウマ娘専用レーンが敷かれていた。
その外側の歩道を歩いて、坂道を下っていく。
歩いていても痛みはないが、こう、内腿のあたりに力がイマイチ入らないのが辛い。
踏ん張りがきかないのだ。
下り坂で、変に足に負荷がかかるせいなのか、すぐにだるさを感じ始める。
・・・ウマ娘ってヒトの10倍近く筋力があるはずなのに、怪我をしているというだけで自分の体重さえまともに支えられなくなるのはいったいなぜなんだろうか。
足をしっかり踏み締めて踏ん張るのがだるいので、膝を伸ばしてひょこひょこと足を前に出して歩く。
こんな歩き方をするのは家族の登山に付き合わされて疲れ切って下山した時以来だ。
そんな歩き方で20分ほど下っただろうか、前方に大きめの駐車場とワンコイン自販機が立ち並ぶ休憩所みたいなものが見えてくる。
助かった。
グダグダになった脚を動かして、自販機の前のベンチに座り込むと、そこには先客がいた。