私の高校生時代はお小遣い月2000円とかだったので、マックにちょっと寄ったらお小遣いなくなっちゃう生活でしたよ~
今日は、かねてからたづなさんと約束していた洋服買い出しの日だ。
まだお店が開くには大分早い時間にマンションを出たので、お店開いてるのかなといぶかしんでいたのだけれど、行くと思っていた府中の駅前ショッピングモールをスルーして、改札をくぐって電車を乗り継ぐこと何回か。
そして今俺たちは横浜。
横浜駅前のポルカというショッピングモールの喫茶店でお茶をすすっている。
「服を買いに横浜まで来るとは思いませんでしたよ。」
「今日は私がお休みの日ですからね。
職員がお休みって言うことは、トレセン生が街に繰り出してきます。
あんまり目につきたくないでしょう?」
たづなさんもトレセンじゃ正体曖昧なままらしいしな~。
ただでさえ目立ちそうなのに、これ以上目立つネタを増やすのは確かによろしくない。
「まずは、ランジェリーショップでかわいい下着を10着くらい買いましょう。」
「ええ?!
下着はもう間に合ってますよ!」
正直下着はもうお腹いっぱいなんだけど。
コンビニで買った黒い下着はともかく、追加で買ったもので十分着回しできる数は確保した。
何より、かわいい下着とか、見せる相手もいないのに誰得なのか。
俺の心の中の不満を知ってか知らずか、たづなさんはまじめな顔をして言う。
「どうせ、下着なんて着られればいいとか思ってるんじゃないですか?
ダメですよ?
これからあなたが入るのは、女の子だけの学び舎なんです。
女の子社会のルールを知っておかないと、ひどい目に遭いますよ?」
・・・なんだか不穏な話になってきたような。
「トレセン学園は、制服着用が義務付けられています。
お金持ちも、そうじゃない人も皆一緒の格好です。
着ている服の良し悪しで見下されることはない、というのが建前です。
でも、着替えの時はどうですか?」
「・・・いったん制服脱ぎますね。」
「そうです。
更衣室で、着替える時に下着を見られます。
たとえ毎日ちゃんと替えていたとしても、同じデザインの下着ばかり着続けたりすると、ものすごく悪目立ちしますよ?」
うわマジか。
今持ってる奴、デザイン的に2種類しかないぞ。
・・・そういえば、似たようなこと、あっちの世界でもあったわ。
同じ服着続けたり、制服の下のシャツが黄ばんでいたりすると臭いとか陰口叩かれるの。
それが、女性だと着回しローテとか下着の良し悪しでマウント合戦になるのか。
「トレセン学園の生徒は、レースに出る限り必ず勝ち負けで順位付けが発生しますよね?
スポーツですから勝ち負けはあっても恨みっこ無し、が建前なんですけどね、人の心って言うのはそう簡単に割り切れるものじゃありません。
負けたらその悔しさが、歪んだ形で噴出してしまうこともあるんです。
幼稚なやり方ではありますけど、『あいつはいつも同じ下着を着ている貧乏人』と言われていい気分はしないでしょう?
あなたは目立つことを気にされてるようですから、付け入られる隙は減らしておきたいのではないですか?」
「・・・おっしゃる通りで。」
ため息しか出ない。
ああ・・・これはダメだ、男思考で考えていたらダメな話だった。
ウマ娘は当然女性であるから、美しくあれと子供の頃から教育されて育ってきている。
女性としての評価基準の一部であるそこにほころびがあれば敵対した者はそこを突いてくる。
そしてそこを突かれると、効いてしまうんだ、立場的にも、精神的にも。
もしまかり間違って、俺がそういう悪意を抱かれたら、あいつはクマさんプリントのパンツを履いているなんて話で、面倒な対処を迫られる可能性は確かにある。
向けられる悪意こそ幼稚なものだが、馬鹿にはできない。
幼稚な悪意って言うのはシンプルで単純であるだけに、無視するとエスカレートして手が付けられなくなるのは足の遅さでさんざん経験してきたことだ。
噂を流された時点で余計な労力を使わされて負け。
噂を流されない方が絶対にいい。
「・・・下着でこれって言うことは、服も?」
「そうですね。
そのうち同期の友達とどこかへ出かけることもあるでしょう。
そういったお付き合いの中で、カースト、とまではいきませんが、服装のせいで下に見られることがないとは言えません。
自分の無頓着さのせいで、仲のいい友達に服のこと指摘させるのも酷ですよ?
小さなほころびは積み重なると後々大きな影響として効いてくることがありますからね。
あなたは、中身は大人なんですから、お金の使いどころはわかりますよね?」
「・・・」
たづなさんも痛いところを突いてくる。
実にくだらないことだけど、男も見栄とハッタリで背広だ靴だ腕時計だとマウント合戦があったんだ、女性に無いわけがない。
亡くなった母親も、呆れるほど服を持っていたが、そういうことか。
最低限で計算しても、外行き用の服を、1週間に1回の休日に服を着たとして、1か月4回でローテーション。
それをシーズンごとに用意しなきゃいけないから春秋、夏、冬で12セット必要になる。
その他に、ちょっとかしこまった場に出るための一張羅を1~2着か。
・・・俺たぶんまだ成長期だから、身体も大きくなったら買い替えも考えないと・・・
とりあえず春秋物だけ買うとして、服周りだけでどれだけの出費になるんだこれ・・・
「靴や小物もありますね。
いつまでもそのいかついシューズを履いているのもなんですし、男物の札入れもなんだか容姿に似合わず悪ぶってるみたいで、なんて言いますか、厨二病的な?」
「・・・え?俺ってそんなに痛い子に見えてました?」
「中学生くらいのウマ娘が、服装に似合わない、いかついシューズを履いて、男物の札入れを取り出す姿は、そうですね、ウマ自出身のウマ娘が、なめられたくなくてめいっぱい背伸びをしてるような・・・」
もしかして、あの警察官や銀行の人たちが生暖かい目で見てたのって、ウマ自の件だけじゃなくてそういう・・・
・・・だあぁぁぁ~~~!そういうことは早く言ってくださいよぉ~!
「すぐ行きましょう、靴と財布を買いに!
もう下着だろうが服だろうが何でも買いますよッ!」
「じゃ、行きましょうか。」
やけっぱち気味になった俺はその日、20万円近くを散財して、でかい段ボール2箱もの女性に必要なあれこれを購入する羽目になった。
さすがに持って帰れないので、ミケネコヤマトの窓口に運んでもらって送ってもらうことにしたよ。
服は、女性としての所作が身についていないからスカート系はダメだろうとパンツ系ばっかり選んだんだけど、たづなさんに着せ替え人形させられた挙句、すらっとした感じの藍色の半袖ワンピースと網サンダルをプレゼントしてもらったよ。
ちょっとしたフォーマルな場にも着て行けますよ?ってことなので、便利使いできる服のようだ。
お礼を言ったら、お礼よりもこのまま着て帰りましょう、って、試着室から出てきたまま、値札をちょん切られてそのまま着て帰る羽目になった。
白い髪と尻尾が映えるように暗色系の服、なんだろうけど、今は顎や手足から覗く包帯と傷パッチがちょっと目立ちすぎちゃってるかなーって感じ。
・・・スカート、よく初めて着ると足元がスースーするとか言ってるけど全然そんな感じしないぞ?
冬になると違うのかな。
網サンダルは、男物の革靴よりヒールが高いからちょっと違和感がある。
転ばないといいけど。
財布は、某有名国内デザイナーの白い革の財布。
ポケットに入れるようなサイズじゃないから、合わせて買ったオレンジ色のショルダーポーチに入れて持ち歩くことになりそう。
これだけでも出歩くスタイルがだいぶ変わる。
メイク用の化粧品類は、もう言われたところでさっぱりわからないのでたづなさんに丸投げした。
トレセンにいる間は、日焼け止めメインで、何かイベントがある時だけ半練りのファンデーションとシャドウ使うくらいでいいでしょう、というので、コンパクトタイプの携帯用のセットを選んでもらった。
白毛のウマ娘だと日焼けすると肌が真っ赤になってひどいことになりやすいので、長時間外に出る時の日焼け止めは必須だそうな。
若いっていいですね・・・というつぶやきは、聞かなかったことにする。
たづなさんも、毎日ビール飲んで寝る前に何かしてるわけでもないのに肌きれいなんだから若さをうらやむ方じゃなくうらやましく思われる方だと思うんだけどな。
横浜中華街でちょっと遅めの昼食を食べてから帰ったんだけど、その帰りの電車の中でたづなさんから爆弾発言が飛び出してきた。
「そうそう、時期的に中途入学になりますから、入寮したら歓迎会で、何か一曲踊らされますよ?」
明日から、たづなさんが出勤したら暇だな、何して過ごそうなんて考えてたの、全部吹っ飛んだよ。
1週間くらいで、ウィニングライブで踊るような曲一つ憶えて踊れるようにしないといけないとか、無理ィ~!