たづなさんが、何気なく落とした爆弾。
入寮の歓迎会で踊らされるという話。
マンションに帰りついてから、夕ご飯後のまったり時間でウマホいじりつつ聞いてみる。
ウマホで見てるもの?
もちろんウイニングライブの動画だよ。
ウマホの中のウマ娘アプリが消えてしまっているから、参考になるのがライブの動画くらいしかない。
「中途で入って来た自己紹介代わりに一発芸でも、って感じで始まったらしいんですけど、今は伝統みたいですね。
あんまり気負わなくていいと思いますよ、寮の食堂でちょっと踊るだけですから。」
オグリキャップが歓迎会でやった笠松音頭は結構有名らしい。
とはいえなぁ・・・
「そもそもですね、俺はダンスと縁がない人生だったもんで、ダンスと名のつくものって、運動会のフォークダンスでオクラホマミキサーとマイムマイムくらいしか踊ったことが無いんですよ・・・」
「子供の頃、ブレイクダンスごっことか、アニメのオープニングまねて踊ったりとかしなかったんですか?」
「それは、俺よりも後の世代の文化です・・・」
たづなさんとの間にジェネレーションギャップを感じる・・・
フォークダンスの名前がそのまま通じるってことはそれらはあるっぽいのかな。
ブレイクダンスごっことかか、ウマ娘の身体能力があったら確かに楽しそうな遊びだ、ぐるぐる回るし。
服とか穴だらけになって親は大変そうだけど。
「それにですね、今ウイニングライブ動画とか見直してるんですけど、この動き・・・」
まっすぐ立ってから腕を伸ばして、水平に腕を振るう。
ブン!と風がうなって、片腕を振り回しただけの遠心力でたたらを踏む。
くるっとターンでもしようものなら転びそうになる。
「全力じゃなくても、身体が持っていかれるんですよ。キレッキレのダンス踊る前に、自分の腕力に振り回されてタコ踊りするのがいいとこですかね。」
「うーん、その様子だと私の部屋で練習して怪我でもされたら困りますね・・・上のジム使わせてくれないか頼んでみましょうか。」
ジャグジーの予約よろしく、集中コンソールで予約を取ってくれる。
「土日以外の日中なら、ガラガラでいつでも大丈夫みたいなので、好きな時に行ってみてください。
ダンスを教えてくれるインストラクターもいますので。」
「たすかります~。」
その日は、久しぶりに運動音痴コンプレックスが頭を持ち上げてきて、悶々としてなかなか寝付けなかった。
翌日、たづなさんが出勤した後、マンションの上の階のジムに顔を出してみる。
廊下の受付にカードキーを出してダンス系のインストラクターをつけてもらえるようお願いする。
「はい、ダンスのインストラクターですね。
承りました。
中へどうぞ。」
ジムの入り口から、壁にぐるっと手すりの張り巡らされた小ホールに案内されると、スポーツレオタード姿の男性とウマ娘のインストラクターが歩み寄って来た。
「こんにちは。私はエアロビクスとヨガを担当しています、小杉です。」
「こんにちは。ボクササイズや格闘技系全般を担当しているリッキーゴウです。」
格闘系ウマ娘さんか。
「ラベノシルフィーです。ダンスの超初心者なんですが、手足を振り回すと勢いに身体が持っていかれてしまって、うまく踊れないんです。その辺を何とかしたいな、と。」
ちょっと考えると、小杉さんはリッキーゴウさんの肩を軽く叩いて踵を返す。
「ウマ娘の身体の問題ぽいし、お前向きだな。
任せた。」
「了解。
あなたは私が担当させてもらうね。
・・・ところでその怪我はダンスの練習してて転びでもしたの?」
顎の傷パッチか。
めんどくさいからそういうことにしてしまうか。
「ええ、まぁ。」
「ちょっと待ってね、マット敷いちゃうから。」
2畳くらいのそこそこ厚くて硬めのマットが持ってこられて、床に敷かれる。
「どういう動きがしたいのか、ちょっとやって見せてくれる?」
マットの上に立ち、くるっと回る動作で勢いがつきすぎてよろめき、腕を水平に振る動作で身体が持っていかれる。
これでも、かなり力を抑えているつもりなんだけどどうにもピタッと決められない。
ライブ曲のメイクデビューは比較的動きが小さく激しい動きもないダンスだけれど、とんでもなく手足を振り回すものも他にはある。
これが踊れないと他の曲なんてとても挑戦などできない。
「・・・根本的な問題なんだけど、ダンスやったことない?」
「ないです。」
くるっときれいに回るとか、そんな技術、子供同士の遊びですらやった覚えがない。
リッキーゴウさんが、俺をマットの中央に立たせて指導が始まる。
「まずね、ターンだけど、腕で回転のきっかけを作るのをやめてみて。
はい、腕は横腹にぴったりつけて、振らない。
片足を軽く上げて、回転の勢いは腰の捻りで作るの、ちょっと左向いて。
はい、右を振り向く感じで腰を捻る!そうそう!
今度は、腰をひねるタイミングで軸足をつま先立ちに。
はい!ほ~らできた!」
うそだろ・・・
アドバイス貰って2分も経たないうちに、1回転ターンが何度でもきれいに決まるようになった。
腰の捻り具合で、1回転どころか2回転だってできそうだ。
「すごいですね、あっという間にできるようになりました。
ありがとうございます。」
「すごいって言われるようなことじゃないけどね。
ラベノシルフィーさん、あなた小さいころから外遊びとかしなかったタイプ?」
「そうです。
運動苦手で。」
「なるほどね~。身体を動かすこと自体に慣れてない感じか~。
その割には身体出来上がってるようにも見えるけどちょっと変わったタイプね。」
「あははは・・・」
鋭い。
身体動かす専門家にはお見通しか。
「次は腕振りだけど、これはできる?」
リッキーゴウさんが、頭の脇まで振り上げた手を、斜め45度くらいでビタッと止めるチョップ動作をする。
「手を振り切らないで、筋力でピタッと止めるの。」
真似してやってみる。
普通にできる。
「じゃ、次に、腕を水平に振る動作を、振り切った時に腕を止める事を意識して振ってみて。」
腕を止める。
こうか。
水平に、腕を振るうが、真横に来たところで筋力で止める。
・・・全然ふらつかない。
ビシッと決まった。
なんだ魔法か?!
やっぱりね、という顔で、リッキーゴウさんは言った。
「あなたはね、いままで自分の筋力では足りないから、手足を振って勢いをつけて、遠心力で何とかしようって癖がついてるのね。
それが、本格化の兆しが見えてきて、急に筋力が上がってきたものだから、今までの体の動かし方だと、遠心力がつきすぎて負けちゃうのよ。」
・・・なんですと?!
本格化はともかく、ウマ娘パワーで今まで通りに動こうとして失敗しているのにそんな理由があったとは。
分析力がすごすぎる。
ウマ娘インストラクターリッキーゴウさん恐るべし。
「本格化したウマ娘の筋力で、全力で手脚を振り回すとか、自滅しかしないから。
全力で手脚を振り回す時は、動かした後のトメ、動作の終わりの形を意識しないと、振り回されて大怪我するからね。」
リッキーゴウさんが、ちょっと離れて、うなりを上げる回し蹴りを放つ。
1回転ほどしたところでバランスを崩してたたらを踏む。
元の場所に戻ると、また同じように回し蹴りを放ったが、今度はきれいに足を跳ね上げたままの姿勢でビタッと止めて見せた。
「ね。
勢い任せだと、バランスを崩すけど、この形で決める、と身体に準備させておけば、こうしてきれいに止めることもできるの。
ダンスも一緒。
どんなに速い動作があっても、決まったポーズを連続で繋げ続けていくだけ。
制御も考えない勢いだけでできることなんてそんなにないのよ。」
ふむ、となると、左右に手を振る、じゃなくて手を左のA地点から右のB地点に移動させる、そんなイメージで身体を動かしていけってことかな。
もしかしたらウイニングライブ曲も知っているんじゃないかと思って振りつけの指導を頼んでみたら、リッキーゴウさんはそもそも競走ウマ娘じゃないので詳しくないそうだ。
「実家は田舎の零細農家なんだけどね。
最近大規模農園が流行りで先がないからさ。
実家継がずに大学でボクシングだ空手だって格闘技やってたらアマチュアで結構いいところまで行って、大学の先輩のつてで派遣のインストラクターやってんの。」
実家の方は、ご両親が細々と米なんかを作っているらしいが、村の農協がなくなって、結構遠くまで足を延ばさないと農協がらみの案件を処理できないので大変らしい。
大学の方は、ウマ娘も結構いるそうなんだけど、ウマ娘のアドバンテージってどうしても肉体能力とみられがちなので、頭脳労働職より身体を使う系の仕事の方が求人多くてお給料もいいそうだ。
「あとさ、どこの企業も表向きは、ヒトとウマ娘の差別はありません、とか言ってるけど、ウマ娘って、どうしても機嫌の悪さが表に出やすいじゃない?
会議の時とかにウマ娘の威圧感に負けて逆恨みする人とかが上に上がると、どうしても採用数減るみたい。」
企業の経営陣が入れ代わったら、ウマ娘の採用がいきなりゼロになる企業がたまにあるそうだ。
ウマ娘が目の前で耳伏せて威圧感出し始めると、もうこめかみに銃突きつけられてる気分と変わらないとかウマホで見たしなぁ。
イラついた拳一つで頭吹っ飛ばしかねない存在が目の前にいて、それがディスカッション相手とか、確かにきつい。
議論そのものが威圧感でひっくり返っては困る研究職とかはウマ娘の存在は確かに排除されるかもしれない。
こういう情報源は正直天上人クラスの存在のたづなさんしかなかったので、なかなか興味深い。
午前中いっぱい、雑談をしながら身体の動かし方の注意点なんかを教えて貰って、また相談事があったらお願いします、とジムを出た。
う、うん、あとは、振り付けを覚えるだけだ・・・
がんばるぞ・・・お~